世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第八十八話

現れた翼人。前に見たものとは違い多くの飾りを身に付けた彼は、其れだけで高貴な身分の者で在ると分かる。そんな彼はギルド・フロンティアとミズガルズの調査隊に、こう告げた。

 

此処より先、進みたければ証を示せと。

 

彼の言った言葉をそのままと言う訳では無いが。概ねその様な意味の事を口にしていた。証、確か彼はいにしえの飾りと言っていた物。そんな物、レフィーヤは持ってなどいないし処か存在すら知らない。さて如何したものかと思ったのだが。

 

まぁ、レフィーヤが持っていなくてもローウェンは持っていたのだが。

 

「何て言うか…あんた達準備万端だな」

「いや、そっちの方が準備不足だっただけだろ」

「ぐッ! いやでも流石に」

「流石にも何も、ハイ・ラガートの伝承とかきっちり調べとけば分かる事だからな? 確かに、王家や貴族だとかしか知らないものとかは在ったが、第四階層を攻略したいからって言ったら教えてくれたからな?」

「そ、それは」

「あちゃー。其れを言われたらこっちの落ち度だと認めるしかないね、ほんと」

 

そう言って、降参だとでも言いたげに両腕を上げるパラディンの男性。他の人と違って随分潔いものだと視線を向ける。

 

「ん? 何だ」

「いえ、随分あっさりだなと思っただけです」

「だってねぇ? 実際、それを怠った訳だし? と言うか、結果的にあんたらが進めたから俺達も進めた訳だしな」

 

とやかく言わずに認めるが吉だ。そう言って彼は笑みを浮かべた。なんでだろうか、見た目以上に、達観していると言うか、老成していると言うか。年不相応な貫禄がある人だなとレフィーヤは思う。

 

「…若しかして、そう言う事なのか?」

 

ポツリと、言葉を零す褐色の少年。何がそう言う事なのかと視線を向ける・・・と言う事はしないが意識を少しだけ彼に傾けはする。

 

「そう言う事って、何がだよ」

「翼人達が争ったっていう、その理由」

「それって、確かあの時のあれか?」

「嗚呼」

「それの何がそう言う事なんだよ?」

「多分だが、あの人達が関係しているんじゃないのか?」

「え、そうなのか!?」

「なんの話だよ」

 

彼の言葉に、驚いた様子で問い掛けてくるフラヴィオ。其れに対して更に問いを返すローウェン。まぁ、本当に何の話なのか分からないのだから仕方が無い事だ。と言うか、此れまで現れなかったのって何かと争ってたからなのか。

 

「それで如何いう事なんだ?」

「十八階で翼人に出会ったんだ」

「へぇ」

「で、其の時出てきた奴らが何故かボロボロだったんだよ」

「何故に?」

「其れがな。なんでも正しさが如何たらと言ってたんだよ。分からないだろう?」

「いや、正しさが如何たらって言われても。流石にそれだけじゃ……あぁ、若しかして」

「分かったのか?!」

「正しいか分からんな。一つ訊くが、其の十八階で…えぇ、合言葉でも言えみたいな事言われたか?」

「え、よく分かったな。言われたよそれ」

「なら間違いないなぁー…え、そんな理由で争ったのかよあいつ等」

 

えぇ…っと呆れた様子のローウェン。一体どういうことなのか、レフィーヤは問い掛けると。大した事では無いと彼は答えた。

 

「最初に第四階層に来た時、俺が伝承を言っただろう?」

「あぁ、あの微妙に間違ってた」

「そうそれだ。其れで、その微妙に間違ってたていうのが争いの原因」

「…は?」

「要するに、あまりに微妙な間違いすぎて翼人の中であってるのかあってないのかあ。そう言う感じで意見が分かれたんだろう」

「え、それで争いになったと?」

「多分でしかないけどな」

「え、でも…えぇ?」

 

もしもそうだとしたら、其れで良いのか翼人。そう思わずにはいられないレフィーヤ。確かに、其れに思い至ったらな呆れもするだろう。実に下らない理由なのだから。まぁ、彼等からすれば重要な事なのだろうが。伝承が微妙に間違っている、或は変わっているかも知れない等。其れこそ困惑する他無いだろうし。

 

「でも、其れだけだと流石にボロボロになるまで争う事は無いんじゃないですか?」

「そうだな、其れだけなら言い争って終わるだろう。が、其れをきっかけとして不満だとかが吹きだせば大乱闘に直ぐ発展するぞ」

「あぁ、確かに」

 

其れならボロボロと言うのも納得だ。そうなると尚の事在り得ない事ではに無いなと思えてくる。同時に、其れで良いのかとも。

 

 

と、不意にローウェンが立ち止まる。

 

如何したのかと、問い掛ける。其の前にレフィーヤも又気が付く。如何やらハインリヒとコバックも又気が付いて居る様だ。

 

「…如何したんだ?」

 

如何やらミズガルズの調査隊の面々は気が付いて居ない・・・いや、一人だけ。パラディンの男性は辺りを警戒している。何処から、と言うのは分からない様だが、気が付いてはいる様だ。

 

「…恐らく、あいつが。カナーンが言っていた奴だよな」

 

そう言葉にするローウェンに頷いてみせながら。あの翼人、カナーンと名乗った彼の言っていた事を思い出す。空の城へと至る道に、それが居るのだと。

 

「でしょうね」

「感じから云って…其れが妥当だろうね」

「ていう事は、またあたし役立たずね」

「だな、役立たず」

「きっといいことありますって役立たず」

「元気だしなよ役立たず」

「棘が凄い刺さってるわよ?! 言葉の棘が!!」

 

「いやだからどうしたんだよ?!」

 

声を張り上げるフラヴィオ。それに、仕方ないと言いたげにおふざけを止めて視線を彼に、では無く、別の方向へと向けた。

 

「いや、唯…来るぞ」

「は? 何が――――」

 

言葉が途切れる。それは突風が彼等を襲ったからだ。思わずと言った様子で顔を守り、踏ん張るミズガルズの調査隊。その様子が何か懐かしいなと思いながら、突風対策を施して於いたギルド・フロンティアの一行は。突風へと、いやそれを巻き起こした存在へと視線を向けた。

 

「あれが…天空の女王か」

 

二十階の中心。そこで羽ばたき、滞空する一体の強大な魔物。それは彼等の事に気が付いて居るのか視線を向け、しかし何もせずにただ笑う。地を歩むさまが無様であると。そう思っているかの様に。其れをみたレフィーヤは、ポツリと呟いた。

 

「余裕ですね」

「だな」

「はぁ?! 何言ってんだよ! と言うか何が余裕なんだよ?!」

 

魔物の強大さに当てられていた様子のフラヴィオは、しかし二人の言葉に驚きを露にし乍ら叫ぶ。その叫びに、言葉では無く行動で返す。

 

よいしょと、掛け声を出しながら鞄からを取り出した石を天空の女王へと向かって投げる。尤も、当てる積りは無いが。だから、投げた石は女王の滞空する真下辺りに落ちて、軽く転がる。

 

「位置的には…問題ないですね」

「こっちも良いぞ」

「なら、これで」

 

終わりですねと、パンと手を叩き印術を発動する。投げ込んだ石に刻まれた其れを。

 

発生するのは氷槍。しかしそれは攻撃目的の物では無い。唯、真上に向かってそこそこの大きくて頑丈な氷を生み出すだけのもの。よく壁がわりに使う其れを、拘束具として利用する。

 

突然、氷で足を地面に繋ぎ止められた女王は驚いた様に羽ばたき、視線を下へと向けて。翼を銃弾で貫かれた。的確に、弾丸が通り。また羽ばたきを阻害できる場所を貫いたのはローウェン。彼は、地面に堕ちる女王を見ながら。

 

「まぁ、奇襲をして来ないからそうなるんだよ」

 

そう口にした。

 

しかし、女王はまだ死んでいない。地面に叩き付けられて。其処で初めて彼等に向かって敵意を向ける。余りにも、遅すぎるのだが。

 

「早速使う事に成るとは思ってませんでしたよ、いや本当に」

「実験だと思えば良いだろう」

「ですかね」

 

そんな女王尚、既に眼中で無いと言わんばかりに会話する二人。そして、レフィーヤは徐に鞄に手を入れて一枚の布を取り出した。

 

「まぁ、巻き込みようが無いですからね」

 

布に刻まれし印。それは、吹雪を巻き起こす大印術…を、改良したもの。生み出される物は吹雪では無く、其れすら遮るだろう強大な氷塊。

 

女王の真上に生み出された氷塊は、一切の遮りも無い故に当然の様に。

 

 

女王を押し潰した。

 

 

「ほら」

 

終わったかどうかを確認する為に、床代わりの氷を張りながら視線を唖然としてるフラヴィオ、いやミズガルズの調査隊へと向けて言葉にする。

 

「余裕だったでしょう?」

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