世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第九十二話

彼等が突き進むは天の支配者たるオーバーロードが居城。其処を一言で言い表すなら。

 

「殺意高!!」

 

余りに常識はずれな目の前の光景、この場所の難易度。思わずと言った様子でローウェンは声を上げた。

 

「同意する他無いですねていうか何ですか本当にこれ?!」

「モンスターが連携して僕たちに襲い掛かって来るとは。今までのとは違った意味でモンスターとして可笑しい!!」

「普通別モンスターの特攻を補助したりとかしないものねぇえええええええええ?! 危ないわねほんとに!!」

 

あらゆるモンスターが、あらゆる仕掛けが。彼等に襲い掛かる。今までの迷宮は唯の娯楽でしか無かったのだと言わんばかりに四方八方より殺意が降りかかる。

 

だが、しかし。

 

「まぁ、だから如何したって話だけどな」

 

モンスターの咆哮を掻き消す様に銃声を響かせる。

 

「殺意が高いのは認める。モンスターが連携して襲い掛かって来るとかまじで予想外だったし」

「そこは認めるのね」

「偽ってもしょうがない事だからな」

 

だがまぁ、そう言葉を零す。襲い来るモンスター達へと睨む様に視線を向け乍ら。

 

「此処ほど戦いやすい場所はぶっちゃけ初めてだ」

「まぁ、そうですね。暑くも無ければ寒くも無いですからね」

「雪とか溶岩とか無いものね。お陰で思う様に動けるわ」

「更には床は在るし壁まで在る。落ちないって最高!!」

 

立ち止まる事無く、走り続けながらも彼等は言葉にする。そう、思い返せばその通りだ。確かに殺意の高さ、難易度の高さはすさまじいだろう。だが、其れでも言葉にするのだ。だから如何したと。

 

雪に足を取られることが無い。

一歩踏み外せば底の底まで堕ちるなんてことも無い。

突然地面から溶岩が噴き出すなんてことも無い。

寒さに悴み、暑さに焼かれる事も無い。

 

「お陰でモンスターとトラップにだけ気を付ければ良いとか……楽で良いね!!」

「その二つの対処は楽では無いですけどね。まぁ否定はしませんけど」

 

実際、その通りだとレフィーヤも思っているから。モンスターにしろトラップにしろ。来る方向は大体決まっているし。そもそも、全てを一人で対応している訳では無いのだから楽と言えば楽なのだ。まぁ、モンスターとか凄く強いし、トラップも即死しかねないものばかりだけど。

 

「油断や慢心でもしてなければ如何とでも為る親切設計!! 割と真面目に住み心地よさそうだよな此処」

「私、モンスターだらけのトラップだらけな場所に住みたくないんですけど」

「それは俺も思う」

「でも此処って天の支配者の自宅なのよね」

「じ、自宅?」

 

思わず視線を向けそうになるのを堪えるレフィーヤ。またコバックが合っているが何かが違う事を言っているぞと思いながら。ローウェンがコバックに言葉を向けるのを訊く。

 

「いや、コバック。自宅は無いだろう自宅は」

「え、此処って自宅じゃないの?」

「そう言う意味じゃ無くてな。もうちょっと言葉を選べよ」

「?此処って自宅じゃないとか?」

「いや、まぁ……間違ってはいない、な。うん」

「なら良いじゃない。それにしても」

「今度は何だ」

「こんなモンスターやトラップがいっぱいな場所に良く住んでいるわよね天の支配者。素直に凄いと思うわ」

 

その言葉に、レフィーヤは堪え切れず噴出した。本当に、予想外な事をコバックが口にしたからだ。

 

「おま、え。お前、それ…それは、それは流石に無いわッ!!」

「いや、確かに凄いと言えば凄いですけど…それはッ!!」

「ハッハハハハハ!! まさか天の支配者であるオーバーロードも、こんな所に住んでるなんてすごいですね!! なんて言われるとは思ってなかっただろうね!!」

「なんで笑うのよ?!」

 

それは貴方が言った事が面白かったからだと、そう言いたいレフィーヤだったが敢えて言わない事にした。別に指摘しても何かが変わる訳でもないしと。

 

何にせよ面白いことに変わりは無いと笑い、しかし止まる事無く駆け抜ける。

 

非緋色の剣兵を打ち砕き。

漆黒の魔騎士を押し潰し。

雪崩れ込むモンスターを吹き飛ばし。

 

尚も前へ、前へと。先へ、先へと駆けていく。彼等が止まる事はもはや。

 

「ストップ。何か居る」

 

強大な敵を前にした時のみだ。

 

「……みたいですね」

 

同意する様に頷くレフィーヤ。二十三階に足を踏み入れるのと同時に感じた存在感。尋常ならざる敵が此処には居るのだと嫌でも理解出来た。

 

「まぁ、だとしても行くんですけどね」

「流石に、ちょっと休憩いれるけどな」

「走りっぱなしの後で戦うのはちょっと勘弁してほしい威圧を放ってるわね」

「と言う訳で、はい水」

 

ありがとうございますと、軽く調子を整えながら差し出された水を飲む。ちょっと前まではこんな風に走ってたら疲れ果ててたのに、随分と慣れたものだなと思うレフィーヤ。

 

「……はぁ、行くか」

「はーい」

「分かったわ」

「いいよー」

 

さっと、取り出していた物しまって再び歩きだすギルド・フロンティア一行。先程までと違って、ゆっくりとした足取りで。

 

二十三階。其処は不自然な程モンスターの影が見られなかった。居るのは、と言うか在るのは自爆する為に彼等に突撃するトラップの様な物だけだ。しかし、其れだけと言う事は決して良い事では無い。モンスターが居ないのは元よりこの階に配置されて居ないからかも知れないからだ。単純に、多くのモンスターよりも尚強力な何かが居るから。

 

そして、其れは正しかったと証明された。

 

「これまた、凄いのが居るな」

 

それは猛牛を思わせるモンスター。巨大なその角は武器として振るわれ、直撃すれば致命傷は避けられ無いと理解するには十分すぎるものだった。

 

「しかし、あいつも何もして来ないんだな」

「みたいですね」

 

そんな事を自爆兵器を射ち落しながら言うローウェンにレフィーヤは同意する。まるで、此方から仕掛けてくるのを待っているかのように。

 

「……で、如何するのかな?」

「さっきから向かって来てる自爆兵器でも集めてからぶつけますか?」

「あぁ、其れでも良いんだが……ふむ」

「如何かしたの?」

 

何か考えるような仕草をするローウェン。何時もなら速攻で先ほど挙げた事を行っているだろうに。

 

「レフィーヤ。俺達全部超えていくって言ったよな?」

「え、まぁ大体そんな様な事言いましたね」

「いや、別にあるもんを利用するのは悪い事じゃ無いし当然の事だ。事なんだが」

「だからなんですか?」

 

「これ見よがしに利用して倒して見せろって感じに用意されてるの使うのって……ムカつかないか?」

「……は?」

 

何を言ってるんだこの人外はと思ったレフィーヤは悪くない。自分で在る物を利用するのは悪くないと言ってるのにムカつくと、そう言ってるのか?まさかそんな理由で利用しないなんて事を言おうとしているのではないだろうかと。流石に其れはと思いつつ、同じ様に考えて……考えて。

 

イラっとしたレフィーヤ。

 

「あ、確かに。これ駄目なやつですね」

「普通にやっても倒せないだろうからって用意してやった……って感じだね。なめてんのかオーバーロード」

「そう考えるとそうねぇー。と言うか掌の上って感じでいやねこれ」

「だろう?」

「でもまぁ、其れは其れとしても使えるモノを使わないのは馬鹿のする事じゃ無いかな?」

 

と、当然の事を言葉にするハインリヒ。しかし彼の表情を見るに、思っている事と言っている事が違う様に見える。何かきっかけが在れば、その馬鹿のする事を行いそうな、そんな表情を浮かべている。詰り笑っているのだ。と、その切っ掛けと成る言葉をローウェン口にする。

 

「お前何言ってんだ」

「と言うと?」

 

「冒険者なんて馬鹿しか居ないだろ」

 

あ、確かに。と思わず頷いてしまったレフィーヤ。他の二人も同じような感じで。

 

「成程、馬鹿が馬鹿な事をするのはなんら可笑しな事では無いね」

「だろう」

「じゃあ、行く?」

「あぁ……で、良いよな?」

「えぇ、勿論」

「同じく」

「良し、それなら」

 

呟く様に、声を零しながら片手で銃をクルリと回し、構える。

 

「踏み潰していくぞ」





物ともせず…か。いや、其れでこそ。

さぁ、冒険者よ。我へと至らんとする者の最大の障壁。如何に超えるのか。

…見せてもらおう。
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