世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

95 / 241
第九十五話

「な、なんだこれ……?!」

 

驚いた様に声を上げるフラヴィオ。視線の先、映る其れは卵型のなにか。余りに不可思議なそれに、唯ただ困惑するしかないミズガルズの調査隊。しかし、ギルド・フロンティアは、少しだけ見覚えが在った。いや、と言っても唯形が似通っているよ言うだけなのだが、しかしそれでも思い出すには十分だった。

 

「……なんか、ムスペルに似てますね」

「確かにちょっと似てるかもな。現れて直ぐの翼で身を隠してた時の状態のにはだけど」

 

何か関係あるのだろうかと、眼前の不可思議な物体を。いいや、彼等は既に理解している。目の前に佇むそれこそ、天の支配者たるオーバーロードであるのだと。

 

そして彼は、静かに声を響かせた。

 

『幾百、幾千の時が流れたか』

 

響き渡る声に、驚いた様に視線を彷徨わせる調査隊。そして漸く、目の前に佇む物こそがそうであるのだと気が付いたのか、しかしそれでも信じられないと言った様子を隠そうともせずに、視線を向ける。

 

『待った、待ち続けたのだ……この瞬間を。汝らが訪れる今、この時を!!』

 

圧倒的な存在感に、気を抜けば押し潰されると錯覚するほど。今まで相対してきたモノは、明らかに違う。誰かが、息を呑む音が聞えた。

 

「貴方が…貴方様が、オーバーロード様なのですね」

『如何にも、我こそが天の支配者たるオーバーロードなり』

 

絞り出す様にアリアンナが響かせた言葉に、オーバーロードは答えた。己こそがそうなのだと。

 

「……話すなら早く話してくれないかね?」

「いや、そう言われてもって何か食ってる?! この状況で?!」

「コバァアアアアアック!!」

「あたしじゃないわよ!」

「すみません私です」

「レフィーヤかよ?! 何で食ってんだよ」

「小腹が空いたので」

「なら仕方ない」

「納得するのかよ?!」

 

と驚きの声を上げるフラヴィオ。なんだか驚いてばかりだな彼はと思いながら、休憩中に食べようと思っててしかし食べ損ねた饅頭なるお菓子を口に放り込む。甘くておいしい、辛味とは違った良さがある…まぁ、当然の事だが。

 

緊張がゆるんでしまったが、しかし。オーバーロードの笑い声が響く。愉快で堪らないと言った様に。

 

『怯まず、臆さずか。いいや、そうで無ければ我を打倒する等。我を超える等と言う不敵は口にせぬか』

「レフィーヤに関しては気が抜けすぎな気がするがな」

「申し訳ないです」

 

悪いと分かっているから謝るレフィーヤ。尤も、気にしている様子は無いが。調査隊以外は。と、緊張が緩んだからか、それとも少しばかりとはいえ、時間が在ったからか。アリアンナが覚悟を決めた様子で口を開く。

 

「オーバーロード様、聞いて下さい!!」

 

そして言葉と成ったのは世界の危機。遥か地の底。ギンヌンガの奥にて封じられし禍。其れが解き放たれようとしている事。禍を如何にかする為にはオーバーロードの、彼の持つ力が必要である事。

 

「そんな事に成ってたのか…流石に知らなかったな」

「と言うかまたですか? また世界規模の危機なんですか?」

 

いや、アスラーガでのあれは世界規模であるかは微妙な処だったが…まぁ、あのあたり周辺は間違いなく地獄の如くなっていただろうが。

 

『ふむ……成程』

 

少しだけ、思案する様に言葉を零すオーバーロード。彼は、続けて言葉にする。

 

『確かに、我が英知。諸王の聖杯の力が在れば、禍を退ける事は出来よう』

「では!!」

 

『だが、しかし』

 

オーバーロードの言葉が、重く彼等へと届く。

 

『それは、汝らがすべき事であるかは…別である』

「そ、それはどういう」

『我が、為してやろうと言っている』

 

驚く事をオーバーロードは口にした。まさか、禍を退ける事を自ら行おうと、そう言葉にしたのだ。これに驚かずにはいられない。調査隊も、ギルド・フロンティアも。しかし、後に浮かぶ表情は、別。

 

言葉を理解し明るい表情を浮かべる者達と、険しい表情を浮かべる者とで、分かれた。それは、オーバーロードから発せられるそれに気が付いたか否かの違いで在り。

 

『故に、彼女の研究成果を。ファフニールの騎士を、我の贄とせよ』

 

続く言葉が、本当の意味での理解を齎した。え?っと言葉にしたのは誰か。分からないし、如何でも良い事だ。

 

『ファフニールの力は、彼女の意思は我と共に永劫と成る。其れを以て、我は超越へと至り…全ての救済をしよう』

 

調査隊の面々の表情が変わる。それは酷く険しいものであったり、青ざめたものであったり。しかし、其の内の意思は、皆同じだ。

 

「駄目です!!」

 

否定の言葉が響く。仲間を犠牲にする等、する訳が無いとアリアンナは少年の腕をつかみながら宣言する。少し戸惑った様に見えた彼も又、頷いてみせた。

 

此処で終って成る物かと。

 

「ま、あいつ自身は少し迷ったみたいだけどな」

 

呟きながら、前へと歩み出るローウェン。そんな彼に続くレフィーヤ達。視線が、彼等に集まり。オーバーロードは、嬉し気にその身を揺らした。

 

『漸くか』

「そうだな。で、対話は交渉決裂で終った……と言う事で良いのかなオーバーロード?」

『然り』

「しかし、断られたにしては随分と嬉しそうだなお前」

 

『それもまた然り。正しく歓喜している故に!!』

 

オーバーロードに光が走る。

 

『対話の終わり。しかしそれは幕引きに非ず。今からこそ、開幕である』

「戦いの…な」

『然り!!』

 

威圧が膨れ上がる。

 

『そして、拒絶され様とも止まらぬ。眼前に救済への道が在るのだから!!』

 

調査隊が武器を構え、視線を向ける。自分達も戦うと宣言する様に。

 

『故にこそ、拒むなら示せ! 言葉を否としないならば挑め!!』

 

ゆっくりと、オーバーロードは空へと向かって行き…天井は廃された。

 

『汝らの結末。世界に刻まれたる結果は二つ』

 

風が吹き荒ぶ天空。其処に佇む様に静止したオーバーロードは、真の姿を晒す。

 

『それは我に屈し、我が救済の礎となるか』

 

殻は破られた、露になった姿は威風堂々。圧倒的な支配者である事を知らしめる。

 

『我を超え、汝ら自身の道を刻むか』

 

彼はゆっくりと両の手を天へと掲げ、振り下ろした。

 

『さぁ、冒険者達よ。汝らの力が、汝らの願いが、汝らの意思が。我が英知、我が悲願、我が救済を超えるのだと……示して見せよ!!』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。