世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第九十六話

『行くぞ』

 

声が響くが先か、彼が動くが先か。その翼を腕の如く自在に操り叩きつけるオーバーロード。そして遅れる様に衝撃が彼等を吹き飛ばし、床は撓み城が揺らぐ。

 

「ちょ?! 城が凄い揺れてる!! 自分の城なのにそんな事して良いんですか?!」

『是である。何せ、終りには必要無くなっている故な』

「詰り壊れる事とか気にせず暴れるって事かよ!」

『然り!!』

 

翼が、翼腕で薙ぎ、同時に両の手に持つ炎の如く揺らめく光の剣を振るう。それはオーバーロードの言葉の通り、一切城の事を気にしていない攻撃。瞬く間に、壊れていく。崩れていく。

 

「不味いね、これ。その内城が落ちるんじゃないのこれ?」

「在り得るわね」

 

ハインリヒの呟きに、飛び交う瓦礫を盾で受け流しながら肯定する。言葉にしてはいないがレフィーヤもまた同じ。だってすでに下の階層が所々見えてしまっている様な状態だし。猛牛の時と同じで、できる限り早く終わらせなければいけない戦い。なのだが、しかし。

 

甲高い音が響く、それは攻撃が弾かれた音。しかも、ローウェンの銃弾だ。

 

「硬すぎ! 下手な処に当てると跳ね返るってどんな硬さだよ全く。ふざけんなまじで」

 

なんて文句を言いつつも的確に銃弾が通る場所を撃ち抜いて行く辺り流石である、のだが。それでもやはり、効いている様子は無い。今も、銃弾がポロリと落ちていくのが見える。

 

『如何した冒険者よ。その程度か?』

「そんな訳無いだろボケが! 良し決めた今決めた。お前に止めさすの俺だから。だから他の奴は気を付けろよ。撃ち抜かれたくなかったなら。特に調査隊!!」

「俺達?!」

 

驚きの声を上げてばかりのフラヴィオ。叫びを上げつつも懸命に矢を放っている。虚しい位、軽い音を響かせながら弾かれて落ちていく。

 

「くっそ! 弓矢じゃ駄目なのか?!」

「いや、あれは狙った場所が悪い。もっと比較的柔らかい場所を狙って放てば少しはダメージが通るぞ? ほら、当てろ」

「こんな状況で的確に当てられるかそんな場所に!!」

「脆弱な」

「何で罵られたの俺?!」

 

仕方ない事だ。弱点を的確に狙えなければ遠距離からの攻撃はあまり意味を為さないのだから。まぁ、だとしても罵るのはどうかと思うレフィーヤは。

 

「よいしょ!」

 

火球を放つ。それは真っ直ぐにオーバーロードへと向かって行き、振るわれた光の剣によって両断される。

 

「……やっぱり唯放つだけじゃ駄目みたいです、ねっ!! と」

 

叩き付けられる翼腕を躱し、飛んでくる破片を氷で避けつつ当然の事を再認識する。そして当然の事だからこそ対処は容易い。即ち、避けにくく防ぎにくいものを、避けれず防げない状態にしてから放てばいい。

 

「と言う事でよろしくお願いします!!」

「また無茶言ってくれたけど了解!!」

 

やってやろうじゃ無いかと気合を入れ直すローウェン。其れを見てから準備に取り掛かりつつ、視線を調査隊の方へと向ける。

 

彼等は手堅く戦っている。パラディンが防ぎ、レンジャーが逸らし、プリンセスの号令に合わせて、ソードマンとドクトルマグスが攻め込む。

 

極々標準的な冒険者の戦い方で……少しだけ、辛そうに見えた。

 

「んぐぅッ?!」

 

光の剣を防いだベルトランから呻き声が零れる。強力な攻撃を受けて防いでいるのだ、当然だろう。寧ろ、呻き声だけで済んでいるのだから、彼は相当腕がいい。そうで無ければ一瞬で両断されているのだから。

 

「ベルトラン様?!」

「大丈夫だ! 俺の事より前に集中しろ前に!!」

「は、はい!!」

 

言葉を聞いて直ぐに切り替える事が出来ている。間違いなく、此処まで来るだけの実力は備わっている。備わっているのだが。それでも足りない。

 

『ぬぅんッ!!』

 

全員を薙ぎ払わんと翼腕は振るわれる。其れを、コバックは流す様に逸らして防ぎ、ベルトランは敢えて吹き飛ばされることによって衝撃を逃がす。

 

「準備はぁ?!」

 

オーバーロードの猛撃を避け、流し、受けては耐えるコバックが叫ぶ。

 

「大丈夫です!」

「同じくー!」

「なら行くわよぉ!!」

 

言葉を聞き、気合を込める様に叫びながら光の剣を流して。

 

「よい――――しょぉ!!」

 

腕に向かってシールドバッシュを叩き込む。が、しかしそれはふわりと浮かぶ事によって容易く回避するオーバーロード。

 

其の儘、宙に浮かびつつ翼腕を叩き付けて。

 

「想定通りの予定通りだね」

『なんと?!』

 

その上をハインリヒが駆け上がる。驚きの声を上げつつも、振り落とさんと翼腕を動かす。その行動を阻む様に銃声が響き、関節に叩き込む事によって動きを阻害する。

 

『ふははははははッ!!』

 

笑い声を響かせながら。ならばともう片翼を叩き込む様に振るう。迫る翼腕、其れを目にしながらもハインリヒは進み続ける。

 

此処に居るのはギルド・フロンティアだけではないのだから。

 

 

―――――トンッ、と軽い音が響く。

 

 

見事に関節に突き刺さったそれは僅かに動きを鈍らせ。オーバーロードは驚きの声を上げ視線を彼へと、フラヴィオへと向けた。見られている事を理解しながらも、彼は叫ぶ。

 

「当ててやったぞおらぁ!!」

「お見事ってねぇ!!」

 

それは本当に僅かな間の阻害。直ぐに、矢はへし折れ翼腕は動き出す。ローウェンと違って常に関節に打ち込み続けている訳では無いからだ。しかし、その一瞬こそ求めていた物。

 

「ハァ!!」

 

ハインリヒは飛ぶ、翼腕からオーバーロードの頭部に向かって。防ぐ様に両腕を動かすも、遅い。既に槌は振るわれているのだから。

 

その酷く重い一撃はオーバーロードの巨体を揺らす。そしてハインリヒはよいしょと軽い声を零しながらオーバーロードを蹴り、その勢いを利用して距離を、と言うか落ちていく。

 

其れを見て。いや見る前に既に放っている。それは劫火の大印術。あらゆるものを燃やし尽くす炎は揺らぐオーバーロードへと向かう。

 

『ぬぅ?!』

 

視線を劫火へと向け、避ける様に翼腕を羽ばたかせるオーバーロードは、しかし放たれる銃弾と矢によって阻まれ。劫火が直撃した。

 

軋む音とオーバーロードの叫び声が響き……そして。

 

 

『はぁぁぁぁああああああああああああああああああああ――――――――!!』

 

 

劫火は、握り潰された。

 

「はぁ?!」

 

レフィーヤから言葉が零れる。確かに、あの一撃で終るとは欠片も思っていなかった、居なかったのだが。見る、レフィーヤは見る。オーバーロードを、彼の歪み一つすらないその体を。確かに直撃したのに。なのに。

 

「っち、そう言う事か」

 

何かを理解したローウェンは舌打ちをする。一体、何故無傷などという事に成ったのか、教えてくれと視線を向けて。彼は答えた。

 

「俺達とやってる事は変わらん。単純に」

『然り。ただ、対策をした……其れだけの事。尤も、差は在るがな』

「あぁ、考えておくべきだった!!」

『はっはっはっは』

 

苛立ちを表す様に頭を掻き毟るローウェンと、その様を見ながら愉快だとオーバーロードは笑う。

 

その様子を見ながら、レフィーヤの思考が空回りする。対策されている。と言う事は印術は通用しないと言う事なのかと、ならば如何すれば良いのかと考え、考え、考えて。

 

『しかし、其れでも砕かねば我とて無事では済まなかっただろう。それ程の一撃であった』

 

と、賞賛の言葉がオーバーロードから響く。驚いた様に宙に佇む彼へと視線を向けて。手を天へと向ける姿を目にした。

 

『故に、我も又見せよう。我が英知の炎を。美しき陽光を!!』

 

輝くは揺らめく光の輪。反射的に氷の壁を生み出したレフィーヤは。

 

 

光に吹き飛ばされた。

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