世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第九十七話

「――――――――――――…がッ?!」

 

強い衝撃に、声が零れる。吐き出されてしまった空気を求め息を吸えば、熱が喉を焼く。頭の片隅でまたかと思いつつ、熱への対処をしてから立ち上がりつつ鞄に手を突っ込み薬を取り出して、一気に飲み干す。

 

痛みが引き、一息ついた処で素早く視線を走らせる。コバックとハインリヒが確認する様に立ち上がっている姿がみえる、ではローウェンはと探せば、一人でオーバーロードを相手にしていた。と言ってもローウェンの攻撃は大した痛手にはならない、だから攻撃を躱しつつ意識を自分に向けさせる為に行っているのだろう。

 

と言うかどうやってあの光の奔流を凌いだのだろうか。相変わらず不思議だ。

 

なんて、如何でも良い事を考えながら調査隊を見る。一応立ってはいるが傷が深そうだ。さて、此処からどの様に動こうかと思考を巡らせながらローウェンへと視線を向けようとして、オーバーロードへと駆けていく影を見る。

 

「はぁああああ!!」

 

褐色の少年。そう言えば名前を知らない彼は剣を振るい、オーバーロードへと叩き込む。甲高い音を立てながら、しかし浅いけれど確かに傷を残した。

 

「お、やるねぇ」

「そう言うのはいい。一つ確認したい」

「なんだ?」

 

オーバーロードの攻撃を避けつつ、問い掛ける。

 

「さっきみたいに、俺をオーバーロードの頭部まで連れて行けるか?」

「そうだな、問題があるにはある」

「それは?」

「お前が出来るかどうか」

「出来なければ言わない!」

「なら問題なし!! きっちりあいつの頭蓋に叩き込む為の道を整備してやる!」

 

銃弾を放ち、振るわれた光の剣を軌道を変え、僅かに出来た隙間に体をねじ込むんで避けてから。そう、堂々と宣言した。その言葉に、少年は静かに頷いて。

 

「行くぞ!!」

 

言葉と共に力を解き放つ。

 

「ちょ、えぇ?!」

 

少年の姿が変わる、人から異形へと。刃を思わせる鋭利なその姿にレフィーヤは思わずと言った様子で声を出す。

 

「変身、変身しましたよ今?! まさかあの人が神々の言う変身ヒーローなのですか?!」

「何言ってるんだ君は?」

 

興奮した様子のレフィーヤに向かって、近づいてきたハインリヒが呆れた様子で言葉にする。冷静になったレフィーヤは、如何したのかと見ると。はいこれ、と言って薬を差し出した。そう言えば幾つか薬が割れていたのだったと思い出して、礼を言いながら受け取りながら改めて見る。

 

変身した少年、あの姿こそオーバーロードの言っていたファフニールの力と言うものなのかと。オーバーロードを相手に一歩も引かぬ戦いぶりに納得して。

 

ローウェンが視線を向けてきている事に気が付く。それはまるで問い掛けてきている様で。しかし、彼の浮かべた笑みが如何しようも無い位煽っている見えた。

 

其れを見たレフィーヤは、其れが如何いう意味が込められた視線で在るのかを察し。

 

「……はぁ」

 

溜息を零し、同じく察したハインリヒが離れるのを確認してから行動を以て応える。

 

杖を振るい、印を刻み術とする。生み出されたのは氷槍。三つほど生み出された其れは、高速でオーバーロードへと向かって行く。

 

『ぬぅ』

 

F.O.Eだろうと貫くだろう氷槍は、しかしあっさりと弾かれて砕ける。そしてレフィーヤは効かない事を知っている。故に先程の攻撃は、意識を自分に向ける為の物。先程まで戦っていた二人に一息つく事が出来るようにと。

 

当然、オーバーロードがレフィーヤしか狙わない等と言う事をする訳も無く。光の剣を二人に向かって振るいながら翼腕をレフィーヤに向かって薙ぎ払う様に振るう。

 

其れを氷を生み出し滑らせる逸らす…様に出来ればよかったのだが、容易く砕かれてしまう。しかしそれでも僅かに勢いを殺す事が出来た為に、避ける事にそう苦労はしなかった。氷の欠片が飛んできてぶつかって地味に痛いが。オーバーロードの攻撃が直撃するよりはましだ。

 

さてと、改めてオーバーロードを見ながら、此れで攻撃が二人に集中しているよ言う状況から脱する事が出来たなと思う。ローウェンは兎も角、少年は何処まで耐えられるか分からなかったし、神々曰く変身ヒーローは時間制限ありなのが多いらしいから。さらに、例外の様に言ったローウェンでさえも弾数という制限があるからずっと戦える訳では無い。

 

さてと距離を取りつつ、コバックがオーバーロードへと駆けていくのが見える。が、同時に見たのは再び天高く手を掲げるオーバーロードの姿。

 

『降り注げ』

 

氷の雨が降り注ぐ。レフィーヤの放つそれよりも尚重く鋭いそれは、一人残らず押し潰し貫かんと彼等を襲う。

 

如何するべきか、一瞬の思考。氷の壁を生み出しても駄目だ貫かれるだけ。ならば如何するか、如何防ぐのか、躱すのか。いいや、そうだ。レフィーヤの思い至り、即行動する。

 

走りながら布を取り出す、其れは氷を生み出す為のもの。其れを使って如何するのか。決まっている、氷塊を生み出し。

 

降り注ぐ氷に向かって放つのだ。防げず、躱せないと言うならば砕けばいいのだと。その巨大な氷塊は、降り注ぐ氷の雨を砕きながらオーバーロードに向かって突き進む。

 

『ふんっ!!』

 

両腕と翼腕を使い、氷塊を受け止めるオーバーロード。多くのモンスターを押し潰し砕いてきたそれを難なく受け止めて見せた。が、しかし。その様に動くだろう思い、既に次の行動を行っている。

 

鞄からさらに一枚、布を取り出し記された術を行使する。それは天雷の大印術。本来、何処に、何に落ちるのかを術者本人であるレフィーヤにも分からないもの。故に、今まで他の大印術以上に使われていないかった一撃は、オーバーロードに、彼の持つ氷塊に向かって落ちる。

 

『なに?!』

 

砕ける氷塊、吹き飛ぶ欠片は受け止めていたオーバーロードへと降り注ぐ。と言っても所詮は欠片、確かに一つ一つが大きくは在るがオーバーロードを傷つける程の物では無い。が、時間稼ぎで在り、無駄な行動を取らせるための物であれば十分効果的だ。

 

驚きの声を零すオーバーロードへと向かって疾走するはファフニールの騎士。

 

『させるか!!』

「それ俺も言おうとしてた」

 

接近されては危険だとオーバーロードは氷の欠片を利用する様に吹き飛ばしファフニールの騎士に向かって落とす。しかしそんな事は予測済み。ファフニールの騎士に向かう欠片を一つたりとも残さずローウェンが射ち落す。最早、欠片その物に意思があり、銃弾に向かっているのではと錯覚するほどに精密射撃は、騎士の眼前に道を示す。

 

 

騎士は更に加速し迫る。オーバーロードの思考は加速し、一瞬手を掲げんとし思いとどまる。対策が施されていると理解した故に、だからこそやる事は一つ。叩き潰すのみ。

 

振るうのは、光の剣。翼腕は利用されかねない故に刃を振り下ろす。直撃すれば一溜りも無いその一撃を前に、しかし騎士は更に強く地を蹴り加速する。避けようとなどしない、防ごうともしない。何故ならば、彼にも仲間が居るからだ。

 

「やぁぁあああああああああああ!!」

 

叫び、力強く跳んで手に持つ剣を叩き込むクロエ。それは決して傷を負わせられる様な強力な一撃では無いけれど、僅かに軌道を変える位は出来る一撃だった。

 

光の剣が騎士の直ぐ横の床を切り裂く。それに一瞥もくれず更に騎士は駆ける。

 

もはや、騎士を阻む事は出来ないとオーバーロードは理解し、最善の行動を取る。其れ即ち、回避。自信を脅かす一撃が来るならば、其れの届かぬ場所に行けばよいと、翼腕を羽ばたかせて空へと舞う。

 

それも、予測済みだ。

 

「コバック!!」

「準備万端よ!」

 

ローウェンの言葉に、騎士の眼前にコバックが立つ。其れはまるで阻む様に。彼は、其の儘疾走する騎士を見て、盾を構える。

 

 

 

真上に向かって。

 

 

静かに、頷く騎士。力強く地を蹴り飛んだ彼は其の儘コバックの盾の上へと昇り。

 

「せ――――ので!!」

 

全力で盾を押し、騎士は蹴る。

 

『まさか、此処まで来るか!!』

 

驚きの声を上げつつ、翼腕を振るうオーバーロード。まるで飛翔しているかの様に空を突き進む騎士に迫る。

 

だが、此処まで来て何もしない者などいない。叩き落とさんと振るわれた翼腕に殺到する弾丸、矢、そして氷槍。叩き込まれた其れらは、振るわれた翼腕の勢いを殺し。騎士の進む道とする。

 

『ぉ』

 

一撃が迫る。オーバーロードの命へと至る一撃が。

 

『おぉぉおお』

 

翼腕を駆け上がり、蹴り飛び上がる。腕に備わる刃を振り上げ。

 

『おぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――――――ッ!!』

 

オーバーロードに向かって、振り下ろす!!!

 

 

 

 

 

 

その直前に、力が霧散し、姿が戻る。

 

『言っただろう。対策したと』

 

唖然とする少年を、オーバーロードは更に上へと向かって吹き飛ばしながら言葉を告げる。

 

『まさか、己だけは例外だと思ったか? 否!! 例え情報が不足している故に変わる事を防げずとも、戻す事は出来る!!』

 

両手を天高く掲げ、光が襲う。辛うじて防ぎ、先程と違い引き飛ばされる事は無かったが、少年だけは更に天高く引き飛ばされる。

 

止めを刺さんと翼腕は振るわれる。吹き飛ばされ、今の状態すらつかめていない少年は。しかし、それでも諦めず落ちながらも体を捻り躱し、翼腕を蹴りオーバーロードへと向かう。

 

そして、例え無駄だとしても。其れでもその一撃を。

 

「はぁぁぁああああああああああ――――――ッ!!」

『な…にぃいいいいいい?!』

 

頭部に叩き込んだ。驚愕の声を響かせるオーバーロード。しかし、浅い。突き刺さってはいるが其れだけだ。其れでも確かな傷を残し、更に深くへと突き刺そうと力を籠め。オーバーロードによってその体を掴まれる。

 

『舐めるなぁァァ嗚呼あああああああああ!!』

「ぐッ?!」

 

少年を強引に引きはがし、叩きつけるように落とす。凄まじい勢いで床に叩き付けられた彼は血を吐き、しかしそれでも立ち上がろうと、足掻く。もう、無意味だとしても。

 

そう、最早立とうと意味が無いのだ。まだ戦えると言う意志も。

 

何故ならば、そう何故ならば必要無いからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は確かに言ったよな、オーバーロード」

 

その行動、その光景。酷くゆっくりと動いて見える其れは単純な動作。唯、銃に弾を込めるのみ。しかし、その込められたのは一発の弾丸は唯の弾丸に非ず。それは、そう正しく。

 

「最後の一撃。止めを差すのは……俺だ」

 

 

――――――至高の魔弾なり。

 

 

撃ち放たれた銃弾は、狂いなくオーバーロードの眉間に突き刺さる剣を…撃ち抜いた。

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