世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第九十八話

光が弾け、大地へ向かって降り注ぐ。

 

『ふ…は、はっはっはっはっはっは……―――――――』

 

声、笑い声が響く。オーバーロードの笑う声が。頭部を貫かれた彼は、しかし未だに宙に在る。先程の一撃が、命に到るものであったのか、否か。それは分からないが、しかし既に彼から戦意が感じられない。

 

『そうか、いやそうだったな……あぁ、忘れていた』

 

先程まで吹き荒んでいた風は消え、音の失せた空に呟きが響く。なにかを、思い出したのだろう。きっと、とても大切な事を。

 

視線が、空から彼等へと向かう。

 

『見事だ冒険者よ。汝らの力は、願いは、意思は確かに…我を超えた』

 

敗北を認める言葉。それは同時に彼等の勝利を意味する言葉で在り、しかし誰一人としてその実感は無い・・・・あ、いや一人だけ違う様だが。

 

「言った通り俺が止めだったな」

『そうだな。汝を一番、警戒していたというのに…いや、それでも足りなかったというだけの事か』

 

ギシリと、歪み軋む音を響かせ。オーバーロードは視線をローウェンから、治療の為に少年の元に集まっている調査隊へと向ける。

 

『彼女の研究成果…その集大成。ファフニールの騎士よ。汝は力を得る権利を手にした…故に、問う。力を受け入れるか否かを』

「…それは、如何いう事だ?」

『汝ならば我が英知の結晶たる諸王の聖杯。その力を引き出し、正しく扱えよう』

 

しかしと、オーバーロードは口にする。

 

『それは人を超え、人を捨てると言う事…汝に、人でなくなる覚悟は在るか?』

 

その言葉に、少年は少しだけ迷う様に視線を彷徨わせて、アリアンナを見る。そして、少年は覚悟を決め、頷いてみせた。

 

『…そうか。それでも尚、為したいという意志が在るか。ならば、受け取るが良い』

 

光がオーバーロードから零れ落ち、少年へと流れ込んでいく。その光こそが諸王の聖杯の力であると理解する事は容易かった。やがて光の流れが止まり、其処に居たのは・・・・一見なにも変わらぬ少年。しかし、先程までとは明らかに違うだろう。何せ傷の一切が消えていたのだから。

 

『これで、汝は人を超える力を得た。正しく使えば、禍も…フォレストセルとて滅ぼせよう。正しく使えば、な』

 

少年は、確かめる様に手を握り締める。確かに其処に在るのだと確信したのか彼は頷いてみせた。

 

『……冒険者よ』

 

ハッと、その言葉に少年から視線を外し、オーバーロードを見る。彼は、彼等を見つめていた。

 

『不敵にも我を超えると言った汝らは、確かに成し遂げた。正しく我は汝らの道の半ばに立ち塞がる者でしか無かったのだろう』

「それにしてはめっちゃ強かったけどな……今までで一番だぞ?」

『ふっはっはっは。そうか、そうか。我が尤も強大な敵であったか。其れはいい事を聞いた』

 

嬉しそうに言葉にするオーバーロード。確かにローウェンの言う通りだ。はっきり言って調査隊の面々が居なければ勝てなかっただろうと思う程に、彼は強く、また賢かった。

 

「ま、これから先の先まであんたが一番かは分からんがな」

『然り。先の言葉通り、我は所詮道半ばの障壁でしかない…我を超えるものなど、幾らでも居る』

 

はっきりと宣言するオーバーロード。出来れば考えたくない事だが、当然の事であり。彼が存在すると断言するのだ。居るのだろう、世界の何処かに。天の支配者たるオーバーロードを超える化物が。

 

『あぁ、しかし。天の支配者等と名乗っておきながらこのざまか』

 

自重する様に、彼は笑う。笑う。笑い、そして言葉を響かせる。

 

『だが、悪くない。求めていたものが…確かに其処に在ったのだ。悪い筈が無い』

「求めていた…もの?」

 

其れは一体なんなのか。分からないレフィーヤは言葉を繰り返す。それに、彼は応えた。

 

『然り。我の悲願、それは全人類の救済。終わりと言う悲劇無き、新たな存在へと昇華する事…だった』

 

ゆっくりと、自らの体を軋ませながら天へとその手を伸ばす。

 

『人はまだ、天を目指していた。人はまだ遥か最果てを目指し歩んでいた。人はまだ意思を紡いでいた』

 

雲が失せていき、光は差しこみ。ゆっくりと灰色は、鮮やかな青へと変わっていく。

 

『古き時代を超え、人類が未だ歩んでいるのだ……救済など無くとも、進めるのだと証明されたのだ。我が内には、歓喜が満ちている』

 

力強くその手を握りしめたオーバーロードは、静かに言葉を紡ぐ。

 

『冒険者よ。人々が己の足で歩めるのだと証明せし者よ。何も残せぬ我はしかし、汝らに道を示そう』

「道?」

 

『アルカディアへ向かえ』

 

彼の発した言葉。それはハインリヒの故郷で在る地の名。何故、其処に向かえと言うのか。彼の言葉は続く。

 

『そこに聳えし世界樹を踏破せよ。始まりの闇を超え……回廊へと、至れ。その先にこそ、求めるものは在るだろう』

 

言葉が軋む音と重なる。其処に在り続けたオーバーロードの体が揺らぐ。限界は近いのだろう。其れでも尚、言葉は紡がれる。

 

『ふ、っはははっは。汝らに…道を示すなど、本来は不要な事で…あろうがな』

「いいや、そんな事は無いぞ?」

 

オーバーロードの言葉を否定する様に。ローウェンの言葉は響く。

 

「何せ、どんなに頑張っても迷う時は迷うからな。道を教えて貰えるならそれに越した事は無い」

『そう…か、そうだったか。汝、らに何かを与える事が出来たか。示し、証明して……くれた汝ら、に』

「あぁ、だからさっさと終わってもいいぞ?」

『辛辣よ、な。しかし、まだ終われぬ。我は…ま、だ―――――――』

 

口惜し気にさらに高く、高くへとオーバーロードは手を伸ばす。届かぬ何かを求めるように、手を。雲一つ無い空に向かって。

 

そして、彼の手は空を切り。

 

 

 

 

天の支配者は、地へと落ちていった。











そうだ、まだ終われぬ。

まだ我には……為すべき事が、在る。
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