ここは、どこだろう。
四方八方から無機質な光が、反射・屈折を経て網膜に焼き付く光景。
真っ白な、ただただ白く。
南国の海中のように、透き通った白。
北国の雪原のように、眩い白。
それは純白と言うに相応しい綺麗な白。
なるほど。神々しい。神様はここにいたのか。
辺と辺の境界すら認識し難いほど純白で大きな立方体の中に、どうやら私は今、閉じ込められているようだ。
日本人は周囲に溶け込む性質があるように、私の心は今、純白に染め上げられていた。
虚無を味わっている。
箱の中は快適な温度なのに、ひんやりと冷たい。
色による錯覚だろう。
壁の中央に波紋が生まれた。
壁から指が生えてくる。
手のひらが見えた。
手首が、前腕が、上腕が。
私のエリアを侵しに来る。
これは、腕だ。ごつごつした腕だ。
「あなたは誰。」
「ぼくはへび。そしてさそりさ。」
「でも、この腕は人間でしょう。」
「そう、人間だよ。身体はね。でも僕はもう人間ではなくなってしまった。」
「どうして。あなたは人間の身体を持っているのに。」
「どうしてかって?なぜだろうね。誰も好き好んでこうなったわけじゃないさ。僕はもともと人間だった。
身体も心も。君にだって、透き通った優しい心があるじゃないか。」
「私は人間じゃないもの。優しい気持ちがあったって、それは無いのと同じ。」
「誰がそんなことを決めたんだい。僕が君の心を認めているんだ。無いのと同じなんて言わないで。」
「ごめん。でも、もう何も信じられないの。」
「僕も同じさ。信じられないのは。僕も同じ。さあ、この手を取って。」
そして私はヒトの手を取った。人間の温もりだ。温かい。とても。温かい。
さっきまで冷たかった、はずなのに。
ヒトの手は徐に私を引き寄せた。
壁に吸い込まれていく。とても心地よいひと時だった。
純白の心は真っ黒な心。表裏一体。
白に黒を混ぜると、どうなると思う?
「「透明になるんだ」」
蛇蝎の如く嫌われた者は、女神の如く崇め奉られた者に手を差し伸べた。
かくして二つは色を失い。境界を無くした。
認識すらされず。存在すら証明できず。それは、無いのと同じであるように。
ヒトは概念を、存在という概念を生み出した。
だが、二つは今、無くなったのだ。
ここにはいない。たしかにあるのに。
ヒトに認識されなくなった。それだけで、無くなったことになるのだ。
極悪非道な罪を犯しても、知られなければ、勤勉な一般人と同じであるように。
嘉言善行を尽くしても、知られなければ怠惰な凡人であるように。
認識の外にあるというだけで、無くなったことになるのだ。
「悲しい。一体どこに行けばいいのかな。」
「僕はうれしいよ。痛みはもう無いんだから。」
終