Five Night at Michelle 作:ふらちごん
<ドミノ・ミッシェルハット>
花音「あれ?...誰もいない...?」
12時開始のため30分ほど早く着くが他のバイトも、あの適当な面接官すらも、人一人すらもいなかった。
今日から5日間働くはずの職場で不安に覆われる。
面接の時に連れられた警備員室へ進む。
入り口からまっすぐ進み客席を抜けると3つの道があり左手から西廊下、東廊下、キッチンへ繋がっており、西廊下及び東廊下を突き当たりまで進むと警備員室がある。
普段よく道に迷う彼女だがまっすぐ続きなので迷わず警備員室へと着く。
不思議なことに警備員室に外から施錠できる扉はなく、なぜか内側からスイッチで扉を閉める作りになっている。
また、切れかけているのかチカチカと瞬く部屋の蛍光灯、埃を被った扇風機、これまたスイッチ式の廊下の電灯、机の上に置かれたアナログ時計、壁にミッシェルとボニーとチカが並んでいるポスターと子供が描いたようなミッシェル達の絵が掛けられている。
警備員室で誰か来るのかと待ち続け、時計の短針と長針が重なった瞬間据え置きの電話が昔ながらの"プルルル"と突然音を立てだした。
薄暗く気味の悪い部屋のせいか唐突な電話音のせいか小さな悲鳴を漏らし、恐る恐る電話に出る。
「...もしもし...」
『あーあー。君が初日を過ごすのに役立ててもらうためのメッセージを録音したかったんだ。あー私は君の前任者だ。というか今週で最後なんだけどね。』
『たぶん緊張してるだろうが、心配することはない。あー君なら大丈夫だ。だから、とりあえず最初の1日を乗り切ろう。いいかな?』
「えぇ...ええっと...」
録音故に一方的にさっさと捲し立てられ戸惑う。
『ええとだな。まず読まなくちゃいけない"歓迎のご挨拶"があるんだ。そういう決まりなんでね...』
『"ドミノ・ミッシェルハット"へようこそ!
ここは子供も大人も夢見て楽しい笑顔の国。
当社はあらゆる損害に対して一切の責任を負いません。万一、事故などが発覚した場合、90日いないあるいはあらゆる証拠物件は速やかに"始末"されたあとに"失踪"届けが出されます。』
不穏な注意書きに表情が曇る。
『今、ひどい話だと思ったろうね、わかるよ、でも本当に何も心配することはないからね。』
(もしかして強盗とか...さすがに来ない...よね?)
どうしてもマイナスな思考がよぎる。
『あー、ここの着ぐるみ人形のキャラクターたちは夜間少しおかしな行動に出る。まあそういうわけで気をつけてほしいんだが、少し彷徨い歩く傾向がある。えー、自動徘徊モードとかいうのが備わっていてね。あー...あんまり長いこと動かさないでいると自動制御機構...あー大事な部品が固まってしまうんだ。
あー、昔は昼間も歩かせていたらしいんだが、なにちょっと"事件"があってね。いやあ...人間の体は前頭葉が欠けても生きていられるなんてすごいよなぁ?』
(...え?)
全身に悪寒が走り一瞬電話の声の主が何を言っているのか理解できなかった。
『まあいい。君の安全について話すとしよう。夜間警備員であれ何であれ、君にとって本当に危険なのは、実は彼女らキャラクターだろう。あー、閉店後のキャラクターたちは君を見かけても、きっと君を人間とは認識しないだろう。』
(キャラクターって...ミッシェルとか...?)
次々と予想外のことを言われ思考が追いつかない。
『彼女らは君をスーツを脱がされた内骨格と勘違いすると思う。キャラクターが内骨格を晒すのは当店のルール違反だから、きっと君をウチの着ぐるみの中に無理やり押し込めようとするだろう。
...ただの着ぐるみだったらたいしたことじゃないんだが、中には骨組みの梁やらワイヤーやら動作用機器が詰まっててな。
だから...その.........死ぬ。』
たかだかアルバイトで信じられないことを告げられる。
『あ、いや、こんな話、契約書にサインする時には聞いてなかっただろうな。まあ、初日は何事も無くやり過ごせるだろう。また明日話そう。あー、監視カメラをチェックし、絶対に必要な場合だけドアを閉じることを忘れないように。電力を節約しなければならないからな。それじゃあ頑張ってくれ。いい夜を。』
「ま、待ってくださ...」
その声が届くことはなく、糸が切れたようにぐったりと椅子に座り込み、深く深く気が沈む。
(...あ、このまま帰っちゃえば...)
一筋の考えが思いつくや否や電話機から再び声がする。
『あー、そうそうもう彼女らは動き出してるかもしれない。それと今この部屋を出るのは危険だ、もしかしたらこの扉の先に彼女らがいるかもしれないからね。それじゃあ今度こそ、いい夜を。』
今度こそ電話機が静まる。