食戟の錬金術士   作:ソウカ♂

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 アニメ一話で小説一話分。大体こんなペースです。


ソーマとソフィー、極星寮に入寮します。

 夕焼け。それは、太陽が沈む前に起こり、一日で一番外の景色が変化する瞬間のことだ。

 辺り一面は気づけばオレンジ色に染まり、落ちる夕日を見ていればいつの間にか辺りは真っ暗闇に染まる。

 

 そんな夕焼けを背景に、ゆっくりと地面を踏みしめて、長い道のりを歩く男女二人の影がポツリと浮かび上がる。

 どうやらその二人は、共通の目的地があって進んでいるらしい。

 

 男の方――ソーマは、片手に荷物、もう片方の手に七輪を持ちスルメをかじる、という傍から見れば完全な変態にしか見えない見た目である。しかし、その変態的な見た目とは裏腹に、遠すぎる目的地と広すぎる学校の敷地に、つい、何なんだよこの学校!アホほど広いじゃねぇか!と叫んでしまう。

 哀れソーマ。体力つけろ。

 

 そして、女の方――ソフィーは、愛用の茶色いリュックと自分の体より大きい鞄を背負いながら、腕にカゴをかけて、道端に落ちている葉っぱや木の実、枯れ木や折れた枝は勿論、地面の土や危険な色合いのキノコに、虫やゴミの一つ一つを全てカゴの中に入れていく。

 ただの体力と筋力お化けである。

 しかし、そのカゴは普通のカゴではない。

 ソフィーが怪しまれないようにと作ったものの一つである、完全隠密カゴなのだ。

 このカゴは決して他人の眼では見ることが出来ず、また、機械やセンサーも素通りする。さらにそのカゴは自宅の“コンテナ”という、ソフィーが作り出した異次元の世界に繋がっており、このカゴを通していつでも物の出し入れが可能になっている。

 まさに、某四次元ポケットのようなアイテムである。

 

 ソーマはソフィーを、歩き回り土をいじり木の実を拾って葉っぱを拾う…までの姿しか確認できないので、よくあんなにはしゃぎ回れるな…くらいに考えながら、それにしても…とぼやく。

 

「極星寮…まだ着かねぇのか?」

 

 そう、彼らが目指しているのは、極星寮という名前がついている学生寮。

 二人とも自宅から通えるような距離ではないので、学生寮への入寮を希望していたのだ。

 …いや、正確には、ソフィーに関して言えば距離などあってないようなものではあるが…。

 

「ええっと…この地図によると、半分くらいまで来たみたい。折り返し地点だよ」

「はあ…まじか。腹が減り過ぎてもうスルメだけじゃもたねぇんだが…」

「というか、そのスルメと七輪はどこから?」

 

 ソーマは、腹の虫を抑えようとせず辺りを見渡して、つーかさー、とソフィーに話しかける。

 

「そこかしこに仰々しい建物がめっちゃあるよな~。こんなにあって、全部使ってんのかな?」

 

 そんなソーマの疑問は最もである。

 正確な広さは分からないが、この遠月學園の敷地には色々なものがある。

 中等部、高等部の校舎はもちろんのこと、よく分からない最新式の研究施設が乱立し、動物の飼育場所や植物の育成場所が広くとられている。そしてそれらでは飽き足らず、周辺には広大な自然である山や川、滝があり、それら全てが遠月學園の所有物だという。

 はっきり言って、これを作った人はアタマオカシイとしか思えねぇわ。

 そう考えたソーマは、ならば、と思う。

 

――ということは寮も結構豪華な感じなんじゃね?こりゃ期待していいんじゃなかろうか……!

 

 ◇◇◇

 

 そして、その期待は一瞬にして砕かれる。

 

 ソーマはつい、マジか…と言う。

 ソフィーは、面白そうだねーと言う。

 ソーマはそれを聞いて、それはオカシイと反論する。

 

 彼らの目の前に広がるのは、期待していた超高級な学生寮でも、きらびやかな建物でも何でもない。

 一言で表すのなら、幽霊屋敷、だろう。

 建設された当時なら、綺麗に光り輝いていたであろう石の壁や透明な窓、そして、地面の石畳や屋敷の前の小さな門が、さて、今となってはどうだろうか。

 何処からか絡まってくる謎の植物の蔓。壁際についている苔。地面は荒れに荒れて、本来は人の出入りを妨げる筈の門は、もはやその意味を成さないほどに劣化し、錆びついている。

 さらには日も沈みきり、月明かりで淡く不気味に照らされているのもあり、正に幽霊屋敷としては満点の評価を得られるような様子を呈している。

 

 ああ、確かにソーマにとっては、幽霊屋敷だろう。しかし、ソフィーにとってはどうやら違うらしく、両手を上げて、わーい、やったー!などと喜べる場所のようだった。

 それも当たり前の反応だろう。

 私生活よりも錬金術を優先する人物なのだ。彼女にしてみれば、この場所は…

 ――ここは錬金術の素材の宝庫!間違って釜を爆発させても、掃除のしやすい石材で作られた建物!そして、多少は大きい音を出しても良さそうな、本校舎から離れた自然に囲まれた立地!そして何よりも、ここでなら堂々と錬金術をやってても不思議に思われなさそうだ!

 ああ、ここはヘヴンか!ここまで自分にとって都合の良い場所があるなんて!!

 …と、いうことである。

 

 そして、そのチグハグな二人の片方は意を決して。もう片方はワクワクして、極星寮の扉を叩くのだった。

 

 ◇◇◇

 

 極星寮エントランス

 

 ◇◇◇

 

 

「フンッ、入寮希望の編入生、幸平創真とソフィー・ノイエンミュラーだね?」

 

 心の温度差がある彼らを待ち受けていたのは、ハリネズミのババ…優しい優しい、聖母マリアのような包容力のあるおばあさんだった。

 

「私がここの寮母、大御堂ふみ緒だ。極星のマリア、ふみ緒さんと呼びな」

 

――やべぇ、おかしなとこに来ちまった!

 ソーマは心の中で盛大に突っ込む。

 ただでさえ建物の外観が荒れに荒れまくってるのに、髪まで荒れまくってるババァが寮母だと?ハッ、笑わせてくれるぜ!

 

 心の中で白熱するするソーマだったが、次に紡がれる言葉に冷水を浴びせられた。

 

「それで、あんたらは食材は何を用意したんだい?」

「食材ってなんの?」

「ソーマ君、知らなかったの!?極星寮の入寮腕試しだよ!」

 

 ババ…ふみ緒はため息をはくと、入寮案内と一緒に入寮腕試しについてのプリントも出しただろう?と言って、そのプリントに書いてあることを読み上げる。

 

 一つ!入寮希望者は一食分の料理を作りその味を認められた者のみ入寮が許される。

 一つ!審査は寮長による。

 一つ!食材の持ち込みは自由とする。

 

 って、おい!

 ソーマは堪らず声を荒らげる。

 

「聞いてねぇよ!食材なんて用意してねぇし」

「じゃあ不戦敗だね。腕を見ずには極星の敷居は跨がせないよ」

「ざけんな!4月の夜の冷え込みなめんなよ!」

「諦めな。厨房には余り物の半端な食材しか残ってないしね」

 

 …ん?今何つった?食材が余ってる?

 ソーマはその言葉を聞いて、ニヤリと口角をあげる。

 

「今日は日が悪かったと…」

「やるよ腕試し」

 

 ソーマは口の中に広がるスルメを転がしながら言った。

 

 ◇◇◇

 

 ふみ緒が厨房に二人を案内した後、白い目を向けながらソーマに向かって言う。

 

「私が急ごしらえの料理なんかに及第点を出すと思うのかい?」

「少々お待ちを!」

「じゃあ、私も作る!ソーマ君頑張って!」

 

 こうして、二人はそれぞれ調理台に向かい、ソーマは残り物を、ソフィーは、リュックからあたかも予め買っておいたと言わんばかりの自然さで、材料をリュックの中に入れておいたカゴから取り出していく。

 ソーマはそれを見て、お前、いつの間に…などと宣いながら、裏切られた表情でソフィーを見つめる。しかし、それは気付かなかったソーマの自業自得である。

 

 

 

 さて。

 

 ソフィーの調理台の上には、そんなに多くの材料が乗っているわけでもない。

 いくつかの種類の調味料と野菜、そして、自前の一リットルペットボトルに入れた蒸留水(品質999)だ。

 このペットボトルの内容量はコンテナに入れると自動で増えるようにされているので、使いたい放題である。

 そうそう、錬金術とは、化学や物理、量子力学などといった、常識を考える学問に真っ向から喧嘩を売る学問なので、細かいことは気にしたら負けなのである。できると言ったらできる。そこには結果しか残らないものなのだ。

 ソフィーが最後に鞄から取り出したのは、鞄の中で大きくしておいた錬金釜だ。流石に大きくなる所が見られるのはまずいという訳だ。

 これをコンロに設置すると、ソフィーは、あっ、そうだ。折角だから、と呟き、ふみ緒さんふみ緒さん!とババ…ふみ緒を呼ぶ。

 

「どうしたんだい?」

「いえ、少しの間、この鍋を見ていて下さい」

 

 ソフィーは錬金釜を鍋と言って誤魔化しながら指を指すと、調理台の上に置いてあった蒸留水を取りにいく。

 

 よし、これから実験だ。

 ソフィーは心の中でそう呟くと、蒸留水を錬金釜に満たし、その上に手をかざした。

 

 ……が、何も変化は見られなかった。

 

 しかし、ソフィーはこの結果に満足したのか、よしっと言うと、野菜を全て錬金釜に入れて、火を入れた。火力は強火でガンガン温める腹づもりのようである。

 ソフィーはふみ緒に、もういいですよ、と一声かけると、鼻歌を歌いながら釜の中のものをくーるくーる混ぜていく。

 調味料も適宜ふりかけながら混ぜていくと、だんだんと赤みがかった、いい匂いを放つスープが出来てくる。

 

 ソフィーは、最後に余していた赤い調味料を入れると、釜の中を一度だけ大きく混ぜて、全体的に調味料の味が広がるようにすると、蓋を閉めて火を弱くし、ゆっくりと煮込む。どうやら、スープを作ろうとしているようだ。

 

 さて、とソフィーは思う。

 材料も全部入れて、必要な分の混ぜ込みもしたし、後はゆっくりと出来上がるのを待つだけかな。

 

 このソフィー、実は錬金術ではなく普通に料理をしていたらしい。

 しかし、それは当たり前に出来て当然なのかもしれない。

 錬金術というのは、どことなく料理に似ているものだ。

 錬金術は、魔力とともに必要な素材を“そのまま”入れて、こうなってほしい、という想いを込めながらぐるぐる釜をかき混ぜるのだ。だから、出来た物の効果は、たとえ違う錬金術士同士が同じ材料を使っても、完成品の姿も効果も違うことが多々存在するし、同じ錬金術師が二回同じ物を作っても、完全に同じ物にするのはとても時間のかかる作業が必要だ。

 それに対し、料理は、必要な材料を必要な工程を経て加工したものを、最終的に全て合わせて一品の料理にする。いや、もしかしたらニ品や三品、そして飲み物を含めて、さらに食べるときの場の匂いや雰囲気などなどを加味した上で、一つの料理である、という人もいるかもしれないが、まあ、概ねそのようなものだろう。

 

 並べると、似ているようで似ていないように見えるが、細かな共通部分は多い。むしろ、多種多様の材料を扱い、そのモノがどうなってほしいのかを願いながら、実験を繰り返す錬金術のほうが高度だと言えよう。

 したがって、錬金術を極めたソフィーが、料理が出来ない筈もない訳だ。

 しかし、その過程で錬金術に使う用の材料を入れて、尚且つ長年培ってきた材料を加工するときの加減、そして、想いを込めるという作業が入るのは、大人げない所ではあるのだが。

 

 ◇◇◇

 

「ひき肉は牛も豚も1gすらなかったはずだ。どんな手品だい?この肉厚ハンバーグは!」

「これは鯖の缶詰を使った“鯖バーグ”だ!」

 

 え、さBBAグ?

 ソフィーは白熱する外野をよそに、聞かれたらヤラレチャウような頓珍漢さを心の中で発揮しながら、そろそろかな、と思いながら、錬金釜の蓋を開ける。

 

 ――その瞬間、厨房に、最早兵器と言っても差し支えがない程の香りが広がる。

 

 外野が何やら盛り上がっているようだが、ソフィーは気にせずもう一度ゆっくりとかき混ぜると、再び蓋を閉じて、ひとりごちる。うーん、たまにはこうして料理するのもいいかも……まあ、さっきの実験で、普通の人には魔力が見えないことを確認したし…

 

『お願い(はあと)』

『放せばばあ~!!』

 

 …ん、ソーマ君も丁度終わったみたいだし、今度は私の番かな。

 

 ◇◇◇

 

「ごほん!では、続いてソフィー。お前にも、ここに入って良いかの試験を開始する。作ったものをはよ寄越せい」

 

 ん?あれ、なんかふみ緒さんキャラ変わった?

 ソフィーは一瞬戸惑うが、まあ、いいかと一度隅に置いておき、錬金釜の蓋を開ける。

 そして、近くに置いてあった皿を持ち、二皿分盛り付ける。ソーマが、お腹を空かせていたことを思い出したらしい。

 

 作るときにいい素材を使ったからなのか、それとも工程が良かったからなのか。

 ソーマとふみ緒の二人には、ソフィーが盛り付けている料理が、正しく天上の料理に見えた。

 跳ねる液体の一滴一滴が、ソーマ達の目を釘付けにする。

 香る匂いが、自分たちの食欲を限りなくそそる。

 漂うオーラが、自分たちに人間という矮小さを感じさせる。

 

――こ、これはまさしく、一つの芸術!!

 

 ふみ緒は大きく目を見開きらき、今か今かと料理が運ばれるのを待ち遠しにする一方で、ソーマはとんでもない量の冷や汗をかく。

 

――編入試験のときも、実技授業のときも見てたが、まさかここまでとは…認めたくねぇけど、親父の料理を見た目と香りとオーラで既に越している!

 

「はい、どうぞ!料理名は、情熱のコンソメです!」

 

 ぼうっとしながら皿とスプーンを受け取る二人。

 二人はこの料理に惹かれるように、憑かれたようにスプーンでスープを一口分をすくい、野菜と一緒に口に含む。

 

 その瞬間、彼らに襲うのは旨さの奔流。

 自分の舌を、喉を、胃をピリリと刺激しながら下にいったその味は、ああ、なんと表現すれば良いのだろうか。

 

 ふみ緒は、自分にこの味を表現するための知識がないことを悔やみ、ソーマは、自分の完全敗北を、悟った。

 そして彼らは口を揃えて言う。

 ――美味すぎる…

 と。

 

 そして、気づけば皿からスープが無くなっていた。

 夢のようなうつつの時は終わったのだ。

 

 ふみ緒は、さっぱりした味の余韻を楽しみながら、まだ余っているかい?とソフィーに聞く。

 

「ええ、まあ、余ってますけど」

「じゃあ、タッパー貸してやるから、詰めときな」

「はあ、分かりました…」

 

 ソフィーが、余った情熱コンソメをタッパーに入れ終わり、錬金釜をさっと洗い終わると同時に、ふみ緒は二人に言い渡す。

 

「よろしい。入寮を認める!」

 

 ◇◇◇

 

 入浴所

 

 ◇◇◇

 

 ふんふふんふふふーん♪

 

 何処から湧き出してくるのか。

 大量の湯気に隠れながらも、惜しみもなく自分の体をさらけ出し、鼻歌を歌いながら入浴する影が一人――田所恵だ。

 

「はぁ~。何回も新作料理の味見をさせられてもうリアクションでヘトヘトだよ」

 

 恵は思い出す。あんなに美味しい料理を作ってからあんな仕打ちをするなんて。スルメとか。特にスルメとか。ついでにスルメとか。

 もしも、ソフィーちゃんのぷにゼリーがなければ、今頃は舌がスルメになっていたに違いない。

 あ、いや、あのぷにゼリーも、なんか声が聞こえてきそうな感じで、なかなか食べられなくって…。

 いざ食べたら、なんか叫び声が聞こえたような気がしないでも……ああ、思い出すのはやめよう。精神衛生上良くない!

 

「ソフィーちゃん、創真君のバカ!私のことおもちゃみたいに扱って……ねえアヒルさん、困っちゃうよねぇ?

 はぁ~。中等部の頃から心休まる場所はここだけだよ。」

 

『ソーマ君、ちょっと待ってー!』

『な、何だよソフィー、今から俺は風呂に入るんだ。止めるんじゃねえ!』

 

「ふみ緒さんはちょっと怖いけど厳しい先生も創真君もいないし……!!!」

 

 勢い良く扉が開いたその時。

 世界が死んだ。

 

 

 

「え、創真、君?」

「え、田所?」

「あ、やらかしちゃった…」

 

 

 

 

 恵は、自分の顔が青いのか赤いのか分からないが、だんだんこみ上げてくるものを感じた。

 

『うわあああぁぁ~ん!!』

 

 そのときの恵の絶叫は、寮中に響いたのだった…。

 

 ◇◇◇

 

 ソフィーはお風呂に入った後、与えられた部屋に行って荷物を広げた。

 

 衣類は勿論、生活道具や勉強道具を優先的に広げ、元々備え付けで置いてあった棚に本を収納していく。

 植物辞典や動物辞典、鉱石辞典に昆虫辞典など、錬金術士において欠かせない辞典類の数が多い。他にも、星座辞典やら宗教・信仰辞典、他には、占い書や伝説など、全くもって統一感の無さそうな、しかし、魔法関連だと思えば全て繋がる本もある。

 

 そんな本たちをあらかた並べ終えた所で、ドアの外から聞き覚えのある声…恵の声が聞こえる。

 『歓迎会をするから205号室に来て』ということらしい。

 

 ソフィーは、うん、わかったー、と返事をすると、急いで部屋から出て恵を捕まえる。

 

「恵ちゃん……」

「な、なに…?」

「205号室って、どこ…?」

 

 至極当然の質問である。

 

 ◇◇◇

 

「だから~!」

 

 205号室の主である、丸メガネをかけた、なよっとした男――丸井善二が叫ぶ。

 

「なぜいつも僕の部屋でやるんだ君たちは!」

 

 オレンジ色の髪をした小悪魔っぽい女の子――吉野悠姫は、ふかふかのベッドに座りこみながら、何を言っているんだい、丸井くん。と言いたげな顔で答える。

「しかたないじゃ~ん。丸井の部屋がいちばん広いんだも~ん」

「勝手にベッドに座るな!」

 

 それに付け加えるように、ワインレッドの髪のお姉さん――榊涼子は、肩を竦めて言う。

「いつ来てもきれいにしてるしね」

「今やっと片づけたんだよ!」

 

 確かに、と言って、金髪のチャラ男――佐藤昭二と黒髪の筋肉男――青木大吾は丸井に同調するように言う。

「さっきまで本が散らばってたしな」

「つぅかもっと椅子用意しとけや」

「するかぁ!」

 

 そして、このテンポのよい謎のコントに参加せず、口でコップを咥え続けている謎の男――伊武崎峻は、何を考えているのか、それとも何も考えていないのか分からない、目すらも髪で隠れてるその表情で、丸井を見つめる。

「・・・・・・。」

「お前もちっとはしゃべろよ!怖えよ!」

 

 騒ぎまくる寮生達をよそに、恵はソーマとソフィーに話しかける。

「創真君もソフィーちゃんも、入寮腕試しを1回で合格したの?すごいよ。一発クリアした人ほとんどいないはずなのに」

 

 しかし、この質問はブーメランとなって恵に返ってくる。

 

「お前はどうだったんだ?」

「え~っと…まあまあかな」

(言えない…入寮まで3か月かかったなんて言えない!)

 

 ソーマは頭に?マークを浮かべながら、まあいいかと思い直し、つーかよ、と近くにいた涼子に聞く。

 

「こんな夜中にこんな騒いで大丈夫なの?」

「大丈夫よ。寮の周りは森だもの」

 

 確かにそうだ。中央校舎まで歩いて20分、學園正門まで一時間。そんな辺境にあるこの学生寮の周りは、当然ながら緑溢れる自然の森だ。どんなに騒いだところで、夜の闇に消えるだろう。

 しかし、ソーマが気にするところは別の所だった。

 

「でもほら寮母のばあさんが…」

<こら!あんたたち!ブリ大根があるから誰か取りにおいで!>

「うぉっ!あの金色っぽいラッパからババアの声が!」

「ああ、あれね。あれは、あのババアが皆に連絡出来るように掘ってある穴でね。アソコに声を流すと、その先の穴まで声が届くっていう寸法さ」

 

 おお、マジか。と、ソーマは思う。おいババア、歓迎会にノリノリじゃねぇかと。 

 俺の心配を返しやがれ、と。

 

 佐藤と青木はババアの言葉に、両手を上げて喜ぶ。

「やった~!」「ばばあ愛してる!」

 そのまま駆け出す二人に、悠姫は声をかける。

「ふみ緒さんの十傑自慢が始まる前に帰って来んのよ~」

 

 ソーマはそれを聞いて、はて、と首を傾げる。

「十傑って何なんだ?」

 

 つい漏れたその言葉に目ざとく反応した涼子と悠姫は説明を丸井に押し付ける。

「君、本当に何も知らずに遠月に入ったんだねぇ」

「丸井、説明してあげて」

「なんで僕なんだよ!」

 

 それは、メガネキャラの宿命である。

 それはそれとして、丸井はしょうがないなぁ、とぼやいて、メガネに人差し指を添えて説明する。

 どことなく、メガネがキラリと光ったように感じる。

 

「遠月十傑評議会、それは 学内評価上位10名の生徒たちによって構成される委員会だ。

 遠月では多くの事柄が生徒の自治に委ねられており、あらゆる議題が十傑メンバーの合議によって決定される、まさに学園の最高意思決定機関。

 学園の組織図的には総帥の直下にあり、講師陣ですら十傑の総意には従わざるをえないんだ。」

 

 しかし、丸井の渾身の説明も虚しく空振り、ソフィー以外聞く素振りを見せなかった。なんで!

 

「何十年も昔寮の部屋が常に満室だった頃、極星から十傑が出まくってたんだってさ」

「十傑の席全部極星勢が占めた年もあったようね」

 

 悠姫と涼子の話を聞いて、ソーマは緋沙子の言葉を思い出す。

 そういやアイツ、薙切のことを十傑とか言ってたっけ。ということは、薙切えりなは今の十傑の一人ってことか。

 

 そんな思考をよそに、ソーマとソフィーの目の前に、突然爽やかなイケメンが現れる。

 満面の笑みを浮かべ、心から楽しそうな雰囲気を出しているその男――一色慧は、二人に握手を求めながら言う。

 

「やあ幸平創真君、ソフィー・ノイエンミュラー君。ようこそ極星寮へ。 歓迎するよ!」

 

 二人と握手した一色は、両手を広げて幸せさを表現する。

 

「僕はうれしいよ。青春のひとときを分かち合う仲間が、なんと二人も増えたんだからね」

 

 ソフィーは、なんかキラキラした先輩だなーと思う。本当に目から星が出てくるのではなかろうかというほどにキラキラしとる、と。

 

「こんなに嬉しいことはない!いいかいみんな!

 一つ屋根の下で暮らす若者たちが同じ釜の飯を食う。これぞ青春!これぞ学生!僕はそれに憧れて寮に入ったんだ。

 さあ!これからも輝ける寮生活を一緒に謳歌しよう!」

 

 最後に一色は高笑いをあげると、ソーマはつい本音を漏らす。

 

「変人ばっかりか?この寮は」

「すぐなじめるよ。創真君なら」

 

 恵はソーマをジトっと見ながら、そう言った。

 

 一色が、では!と言うと、皆を集める。

 

「幸平君とソフィー君の前途に!そして極星寮の栄光に…乾杯!」

 

『乾杯!!』

 

 

 

 

 このあと滅茶苦茶遊びまくった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 最後に、タッパーに詰めたソフィーの料理を皆で食べ、美味すぎる!と叫びながら殆どの人が気絶するように倒れふして眠って終わった歓迎会。

 

 その余韻が残る中、未だに二つの影が、月明かりに照らされて伸びていた。

 

「改めて歓迎するよ創真君。ソフィー君はもう寝てしまったようだし、明日にでも改めて歓迎の言葉を送ろう」

「こちらこそ」

 

 裸エプロンをしている一色と、ラフな格好をしたソーマだ。

 

 一色は、暗闇に包まれた部屋を見渡して、もう料理が尽きたね。鰆の切り身があるんだ。僕が何か作ろう、と言う。

 

 おお、一色先輩の手料理っすか。

 ソーマはそう言うとともに、一色先輩の格好を見て、その格好で調理するんすか…と裸エプロンを指差してつっこむ。

 勿論さ、と言うと、一色は立ち上がり、厨房に向かった。

 

 ソーマは体感で数分程経ったかな、と思ったとき、一色が戻ってきた。

「さあ、召し上がれ。“鰆の山椒焼きピューレ添え”だ」

 

 ソーマは、早速箸を手に取り、いただきま〜すと一口。

 そして、一言。

「美味すぎる!」

 

――春の食材を生かしきった料理。こんな繊細な皿をあんな短時間でまとめ上げたってのか!?

 他の寮生とはレベルが段違いだ。いくら2年生っていったって、それだけでここまでの品が作れるってのか?

 これは親父やソフィーのと同じだ。この、有無を言わさずに美味いと言わせる料理。間違いなくこの先輩、俺より数段強え…!

 

「ところで創真君さ…始業式でなかなか面白いこと言ったらしいじゃないか」

 

 ソーマは顔に冷や汗が流れるのを隠せないで、一色の言葉に飲み込まれる。

 

「ソフィー君の料理は、十傑の第一席を軽くとれるレベルにまで達している。正直、僕では彼女の料理には傷一つ残せないとさえ感じている。しかし、ね。遠月の頂点目指すってことは、君にとっては、思ってるほど甘くないかもしれないよ…。

 

 さて。改めて自己紹介させてもらおう。

 遠月十傑第七席、二年の一色慧だ。

 さあ、お次はスルメじゃなくて、創真君の料理を食べてみたいな。

 

――見せてごらん。君が皿の上に語る物語を」

 

 

 




 錬金術師「え、目的地が遠方?なら、ワープできるアイテムを作ればいいじゃない。」

・情熱のコンソメ
 ロロナ、トトリのアトリエで登場。ただし、メルルでは見かけなかった食べ物アイテム。
 概ね香辛料と野菜と水で出来る。ただ、作品によってその分量は違うので、注意が必要。こういうアイテムは前まで載せてたアイテムでもあるので、思い込んで失敗すると酷い目に。
 「もっとアツクナレヨ。」

・ランク・品質・効果・特性について。
 今更感があるものの、忘れそうなので簡単に纏めました。
 ランク…料理から感じるオーラに相当する。ただし、このランクは効果・特性と主に連動するので、オーラが感じられる=品質が良いという訳ではありません。Sランクが最高ですが、この作品ではその壁をやすやすと粉砕します。
 品質…料理の見た目や味、香りや食感など、料理の中枢を担うところに相当。原作では品質999が最高ですが、この作品では、そんな数値の壁など粉々に砕いて突破します。
 効果・特性…料理の性質に相当します。例えば、“生きている”なら幻聴が聞え、“おいしく回復”だったらおいしく疲労回復が出来ます。
 どちらも大体三つくらいしか入れられませんが、やはりそんな制限の壁は消し飛ばします。
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