元々筆を持った理由は、個人的に好きなソーマとアトリエの二次創作がもっと見たいと思い至ってのものなので、この思いが僅かながらにみなさまに伝わり、執筆活動をする人が増えてくれると幸いです。
◇◇◇
早朝・ソフィーの部屋(301号室)
◇◇◇
ふんふふんふふーん♪
お日様が上り、部屋の中を明るく照らす早朝の五時。
ソフィーは鞄から錬金釜を取り出して、調合を行っていた。
その錬金釜はソフィーのアトリエにあった巨大釜と同じ大きさで、慣れているとはいえ、自分と同じくらいの大きさの釜を混ぜるのは、やはり、少しだけ……いや、かなり身長的に辛いものがある。
ソフィーはそれを補うために、自分よりも長いかき混ぜ棒を使って、今日も今日とて、ぐーるぐーる釜の中身を混ぜているのだ。
彼女からは軽快な鼻歌が聞こえて、寮の外からも中からも聞こえてくる動物の鳴き声と一緒に、美しいハーモニーを作り出す。
ああ…いい朝だ…。
ソフィーはそう思いながら、日課の調合をこなしていると、下の階にドタバタ行く音が聞こえてきた。
ありゃ、誰か下に行った?
ソフィーの部屋は三階にあり、恵の隣の、少し広い部屋に位置する。
こんな時間から下に行く用事なんて、中々無いと思うんだけどなぁ。いや、朝4時半時から調合している私が言っても、あまり説得力無さそうだけど。
でもまあ、朝早起きするのはいい事だと思うよ?うん。
さて、この材料を入れて…あ、アレを入れてもいいかも。
◇◇◇
ソフィーは時計を見ると、もうじき6時になろうとしていたところだった。
………さて。もうそろそろいい具合かな。
仕上げに入ろう。
ソフィーは最後に釜の中をぐるっと1回転させると、釜の中がだんだんと光り輝いていく。この光の輝きは調合が成功する兆しを知らせるもので、ソフィーはこれを、要らなくなって蒸発した魔力だと考えている。因みにこの光の輝きが黒ずんでいる時は大抵失敗しており、入れた材料によっては暴発し、大爆発を起こすときもある。
ソフィーは最後まで気を抜かずに、丁寧にぐーるぐーる釜をかき混ぜていく。釜から光が溢れ出るようになるまで光が出てくると、ソフィーは混ぜるのを止めて、作ったものを入れる為の容器を取りにいく。
容器といっても、ソフィーが持ってきたのは、100円ショップで売っているような小さなお菓子袋だ。
ソフィーが取りに行っている間にいつの間にか出来ていた調合品――クッキーを、一つ一つ袋の中に入れていく。
そして、3個入りの袋が9個出来ると、ソフィーは、よしっ、出来た!と声を出す。
…そう、声を出した。
すると、途端に響くのはこちらに近づく足音。
つい、昔からの癖が仇になったと思いつつ、よくよく考えてみれば、あれ、ここまで騒ぐことでもないのでは?と考え、一旦落ち着く。
この大きい釜とヘラはインテリアだと言えば片付く問題だし、クッキーはここで作ってたの、と言えば済む問題だ。もしかしたら寮母には怒られるかもしれないと思うと、と少しだけ気落ちはするが。
コンッコンッ
扉を叩く音だ。ソフィーは思う。二回ノックはやめてほしい、と。
『失礼するよ』
その言葉とともに現れたのは、爽やかイケメンと定評のある、一色慧だ。
一色は今のソフィーの姿と、そばに置いてある9つの袋を見て、う~ん、青春だね、と呟く。まあ、そんなことは置いといて。と前置きをしてから、一色は話す。
「もうそろそろ食堂の時間だから、起きた方がいいよ、と声をかけるつもりだったけど、そんな早起きだったら大丈夫だね。大体この時間に、皆が食堂に集まるから覚えておくといい。」
「あ、分かりました!」
一色は、それに、と付け足す。
「改めて。ソフィー・ノイエンミュラー君、極星寮へ、ようこそ!」
朝から朝から爽やかに挨拶をするクール系イケメンに、ソフィーも笑顔で対応する。
「おはようございます!そして、よろしくお願いします!」
ソフィーはいつも着ている厚手の青いコートの中に9袋分のクッキーをしまい、一色についていった。
◇◇◇
極星寮・食堂
◇◇◇
ソフィーと一色は、食堂に行く途中の団体様――ソーマと丸井、伊武崎以外の人達が全員いる集団の中に紛れ込み、食堂に着く。
佐藤・青木ペアが適当に、うぃ~っす、ちぃ~っす、と挨拶しているのを横目に、早起きをして食堂の椅子に逆向きで堂々と座っていたソーマは、これまた堂々と宣言する。
「さあ十傑の第七席をかけて勝負だ一色先輩!」
一色は、何を言われているのか理解できず、笑顔で首を傾げるのみ。
ついにはソーマまでもが、笑顔のまま首を傾げることになる。
「あれ?」
一色は、ああ、と一人納得し、ごめんよ、説明が足りなかった。と一言謝る。まあその話は取り敢えず、朝ごはんを食べてからゆっくりとしようじゃないか。
そんな一幕をよそに、ソフィー達はそれぞれ席に座り、空腹具合をいちいち声に出してアピールしながら朝ごはんを待ち遠しにしていた。
「飯飯~」「おなかすいた~」「ふみ緒さんまだ~?」「ごっはん~ごっはん~」
ふみ緒が厨房から顔を出して、グダグダうるさいよ!おとなしく座ってな!と叫ぶくらいには。
◇◇◇
朝ごはんも食べ終わり、ソフィーが朝一で作っていたクッキーを渡せる分だけ渡して、渡せなかった分をふみ緒をに全部預けた所を見届けた一色は、じゃあ、ソーマ君の疑問に答えようか。と前置きをしてから語り始める。
「もともとこの学園では、学生のもめ事解決のために制定された制度がある。そしてその制度を利用することで、どちらの主張を聞きいれるかを決めるんだ」
悠姫は、正に世は弱肉強食ッ!と突然立ち上がりながら叫ぶ。
実に分かりやすい表現だ。一色はそう言うと、それに、と続ける。
「創真君が僕の第七席を欲して勝負を挑むなら、それに見合う対価を君も差し出さなければいけない」
「対価?」
「七席に釣り合う条件となると、君の退学をかけても足りないな」
「マジ!?」
一色は肩を竦めながら、ソーマを諭すように言う。
「もし僕が了承すれば対戦は可能だが、もちろん僕は君が学園を去ることなんて望まない。結論勝負は成り立たないというわけさ」
「マジか~。今朝5時起きして気合い入れたのに」
ああ、5時くらいの物音はソーマ君のだったのね、と納得したソフィーは、中々に気合を入れたね、なんて言う。
涼子や恵、悠姫は、まあ、無理でしょ、などと言うが、一色の実力を知っているのだから、この反応も当然なのだろう。
まあまあ、と言って、一色はそれに、と言って指を三本立てる。
「勝負に必要なものは三つある。一つは、正式な勝負であることを証明する認定員」
一色は指を一本倒し、続ける。
「一つ、奇数名の判定員」
指を更に倒し、あと一つは、と続ける。
「対戦者両名の勝負条件に関する合意。以上により初めて成立するんだ」
ソフィーは、変な指の折り方だなぁ、と思いながら、ほぇ~っと聞く。
ソーマは、ヤバイ、一色先輩が服着てるの違和感ある、と思いながら話半分に聞く。
と、いうことはだ。一色はそう前置きをすると、目を細めて、もったいぶって言う。
「逆に言えばその三つさえ揃えばこの学園の全てが勝負の対象になりうる。
遠月伝統料理勝負一騎打ち。その名も…
『食戟』―――」
◇◇◇
極星寮・ベランダ
◇◇◇
『食戟かぁ。あぁ~あ、薙切にも勝負吹っかけたかったのに』
『勝てっこないよそんなの』
『いや、何事にも挑戦あるのみだよ!』
一色は、これから学校に行くソーマ、ソフィー、恵の三人の背中をベランダから見送りながら、ふふっ。今後が楽しみだ、と呟く。
「創真君はきっと良い戦績を収めるだろうね。なんせ僕と引き分けたんだから…。なあ、峻君」
一色は、そこにいる彼――伊武崎峻に同調を求める。が、伊武崎は呆れたような物言いで、おいおい、と。よく言うぜ。ちっとも本気出してなかったくせに。と、ソーマ達が見たら喋った!?と事件になるレベルの長文で続ける。
「スペシャリテ(必殺料理)も出さねぇでよ。あんときの品あんたにとっては無難にも程がある料理じゃねぇか」
一色はそう言われても、笑みを浮かべてとぼける。
「なんのことかな?僕は全力で調理に取り組んだだけだが」
――創真君、君の料理を食べたとき予感がしたんだ。君というルーキーを引き金にして、この学園に食戟の華が咲き乱れる予感が……!
―――――――
(導入編・終)
―――――――
◇◇◇
遠月學園・廊下
◇◇◇
《審査は決した!この食戟薙切えりなの勝利とする!》
その宣言とともに、煩いほどに盛り上がる会場を後にするえりな。
緋沙子はえりなに近寄って、褒め称える。
「見事なお手並みでしたえりな様」
「あれが相手では自慢にもならないわ。完璧でないものなどこの遠月には必要ない」
それよりも、とえりなは言って、緋沙子に指示を出す。
「次のターゲットのリストを…「えりな様。次は私にやらせていただけませんか?」おや?」
えりなの言葉を遮ったのは、やたらと肉々しい肌の焼けた女性だ。
その女性は、続けて言う。
「雑魚相手にえりな様が自ら手を下す必要はありません。ぜひその役目を私に」
えりなは彼女を見て、確認するように問う。
「やるからには分かっていますね?」
その女性は、ニヤリと口角を上げると、勿論です。と答える。
「ミートマスターと呼ばれるこの私が、その名に恥じぬ完璧な勝利を必ずや収めてみせます」
えりなは、そう、それでいいのよ、と言葉を残した…。
◇◇◇
遠月學園・食戟会場観客席
◇◇◇
「ああ!えりな様!!」
観客席に座る者の中で、一際目立つ影が一人。
非常に長い黒髪で、顔の半分以上が隠れている彼女は、自分の体を抱きしめながら危険なことを大声で叫ぶ。
「ああ……神の舌で罵倒されたい!あのきつい目で睨まれたい!ああ、あの足で、私を嬲ってほしい!!」
はぁ、ハァ、はァ…!
「でも、その為には…緋沙子!!お前が邪魔だ!!!ヒヒッ…もうお前を秘書という立場から降ろす算段はついてるんだ…首を洗って待ってろよ!!」
ハーッハッハァ!!
この場に、彼女の嘲笑と狂笑が響く。
果たして、この笑いはどこへ向かうか、その道を知る者はいない。
◇◇◇
遠月學園・廊下
◇◇◇
大きな巨体と分厚い唇。そして、特徴的なドレッドロックスの髪型をした大男は、目の前で泣き崩れながら睨みを聞かせてくる学生を、興味が無さそうに一瞥すると、肩を竦め、さっさと失せろと言う。
言われた相手は激高した。
「巫山戯んな!!その包丁は、俺のこれまでの料理人生を共にしてきた相棒だ!それが何で…何でお前に奪われなきゃならねぇんだよ!!」
その大男は、ハァ…と溜め息をつくと、そんなの、決まっているだろう?と言う。
「お前の料理が俺より劣っていた。それだけだろう?」
◇◇◇
遠月學園・総帥室
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「フム、今年もまた、この時期がやってきたようだ」
鍛え抜かれた体を着物で包み込む老練の爺は、手に持っている筆を持って、目の前にある紙に宿泊研修という文字を書く。
「どのようなイラストにするか…」
どうやら、彼はこれからイラストを描こうとしているようだ。
彼の見た目からして全く繋がらないが、真面目に考えているらしい。
「今年は粒揃いな奴らが揃いも揃っている。その分、イベント行事は白熱するというもの……か」
独り言を漏らし続ける彼は、よし、今年のイラストはこうしよう、と独りごちると、紙の上に絵の具を走らせる。
今年は楽しみだ――
その言葉を残して。
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◇◇◇
様々な思いがそれぞれ交錯する中、それでもソフィー達は生き続ける。
何があっても、どんなことがあっても。
知り合いという人脈を使い、築き上げた友人関係を頼りにして。
極星寮という強固な地盤を持って、数々の困難に立ち向かっていくのだ。
たかが料理。されど料理。
料理に命をかける者たちが紡ぐ物語は、まだ、始まったばかりである。
ソフィーはドラ○もんを見て思ったそうな。あれ、これ作れるんじゃね?と。
・クッキー
ソールの美味しいクッキーを錬金術で再現したもの。錬金術というものを一度挟んでいるせいか、元々美味しかったそれは、最早神々ですら再現不能なレベルにまで達している。
なお、ロッククッキーとは別物である。
叡山「あれ、俺の出番は?」