モブの設定なんかは結構適当に決めてます
「・・・ようやく打ち止めか。随分と粘ったものだ」
疲弊し倒れ込んでいる、人生で初めての弟子を見下ろす。ついさっきまで必死に食らいついてきていた苛烈さは鳴りをひそめ、息も絶え絶えの状態でただ空を仰いでいる。
「・・・はあ、はあ。なぜそこまで、強いんだ」
「気付けばこの域まで達していた、それだけの事だ。そもそもの話年季が違う。お前はまだ小娘だ、伸び代などいくらでもあるだろう。時間をかければお前も自然と強くなるだろうよ、アッティラ」
「違う」
「なに?」
「“アルテラ”、だ。アッティラ呼びは可愛くないから・・・嫌いだ」
「・・・」
またこれだ。言葉がはっきりと扱える様になってから、時折こうして自身の名に異議を唱える。それにしても、“可愛い”ときたか。
あの巨神とほぼ同一の存在というのに、その様な感性があるとは驚きだ。
(人としての営みの中で自然と芽生えたものか、それとも部族の者に吹き込まれたか・・・)
恐らくは前者、なのだろう。俺も人のことを言えたわけではないが、アッティラは感情表現が豊かではない。ただ機械的に破壊を齎すのみだった巨神の残滓ゆえなのだろうが、彼女に巨神としての記憶はない様子。
そして、赤子の頃より人間として育てられ、そして多くの人間と関わってきたことで人間らしい感性が生まれたとしても、なんらおかしなことではない・・・はず。
「レイジ」
「なんだ」
「ずっと思っていたことがあった。お前と私は、
前言撤回。ひどく曖昧ではあるが、僅かに巨神の記憶を継承しているらしい。
自身でも奇妙に感じているらしく、怪訝な顔で此方に問いかけてきている。
「・・・俺はお前が赤子の頃から側にいたとも。お前もそう記憶しているはずだが?」
「違う、そういう訳じゃない。遠い、遠い昔にお前と会ったことがある様な・・・そんな気がする」
「俺は赤子の頃からのお前しか知らんし、この部族に迎えられたのもその頃だ」
実際アッティラとしての彼女は赤子の頃からしか知らんし、嘘は言っていない。しかし、ここはさっさと話をはぐらかすべきだろう。下手に記憶を呼び覚まして厄介ごとになれば目も当てられん。
「昼だ。昼食をとってさっさと寝むれ。寝不足もいいところだろう」
「昼食をとったらすぐにでも稽古だ」
なぜこうも稽古に執着するのか。人として生きる上で必要な知識は粗方教えたはずだが、そんなもの必要ないと言わんばかりに稽古、稽古だと言う。部族の者達は彼女を戦士として育てる事を望んでいる故、都合がいいと言えばそうなのだろうが・・・。
「たわけ。身体を休めるのも稽古のうちだ。いくらお前が頑丈とはいえ疲労は溜まる。有事の際に疲れで動けなかったなど失笑ものだぞ」
「むっ・・・」
アッティラの握っていた剣を取り上げる。抗議の念を孕んだ視線を向けられたが相手にせず、足早に稽古場を後にする。
途中女中と会い、昼食の時間と告げられた。
はじめの頃こそ多くの見物人がいたが、今では俺たちの稽古を見に来る物好きはいない。アッティラが成長し、稽古がより苛烈になったことが最たる要因だろう。
誰かが来ることがあるとなれば、今の様に世話係の女中が食事の時間を知らせに来るくらいだろう。
・・・いや、今日は別の客人もいる様だ。
「お前も娘も、相変わらず人外じみているな」
「ムンズクか。お前がここに来るとは珍しい」
「なに、たまには父として娘の稽古くらい見守ってやろうと思ったのだが・・・。どうも遅過ぎたとみえる」
親しみの篭った笑みを浮かべ声をかけてきたのは、アッティラの養父であるムンズクだった。
彼はアッティラを見つけた一団の頭目であり、フン族の王ルーアの弟だ。赤子だったアッティラを養子として引き取っており、血の気の多いフン族の者達の中では幾分冷静な男だ。思い返せばこの男がいたからこそ、俺は部族に入ることが出来た。
因みに普段は実の息子であるブレダを側に控えさせているのだが、今はひとりらしい。
「ブレダはどうした。先に食事をとっているのか?」
「まあな、アッティラを呼びに行くから先に食べていろと伝えておいたのだ。お前も一緒にどうだ?アッティラもブレダも喜ぶだろうよ」
「いや、悪いが俺は小屋に戻る。日が昇る前から稽古に付き合わされたのでな。一眠りさせてもらうとしよう」
若干空腹を覚えてはいるが、まずは睡眠をとりたい。常識外の肉体を持っている自覚はあるが、こう連日夜明け前からの稽古が続いては流石に疲れも溜まって来る。
アッティラにはもう少しきつく自重するよう言っておくべきだろうか。
「なに、夕食は共にさせてもらうとも。なにか話があるならばその時に、な」
「ふむ・・・、承知した。ではまたな、レイジ」
ムンズクと別れ、数分で小屋に戻ってきた。フン族は遊牧民族ゆえ、特定の場に長期間居座ることはない。その影響で小屋の中には必要最低限のものしか置いておらず、極めて質素なものだ。まあ、俺自身豪華絢爛なものよりこういった風情の方が好ましいため文句はない。
若干固めの寝床に横になり、さっさと意識を沈めていった。
・・・・・・
「手も足も出なかったようだな、アッティ・・・いや、アルテラ呼びの方が良かったのだったな」
体についた土汚れを払っていると、珍しい客人がいた。
「珍しいな、父よ。どういう風の吹き回しだ?」
「フッ、先程レイジにも似たような反応をされたよ。稽古を見守りにきたつもりだったが、単に昼を伝えに来るだけになってしまった」
私とレイジの稽古を見てなにが面白いのかはわからないが、父も暇なのだろうか。普段父がなにをしているのかも知らないし興味もないが、一応ルーア王の弟だとは知っている。
「それならさっき女中が教えてくれた。・・・ブレダはどうした、何時もなら側にいるだろう」
「先に食事をとっている。お前も来い。聞けば朝からなにも食っていないのだろう?女とはいえ育ち盛りなのだからしっかり食べねば身体は育たんぞ」
「身体は他の者達よりも成熟しているつもりだ。レイジの稽古があるからな」
私は昔から身体が頑丈だった。病を患ったことはないし、稽古のものを除けば大きな傷を負ったこともない。今まで稽古でレイジに喰らいつけていたのはこの身体の頑丈さゆえだ。
幼い頃はブレダも一緒に稽古をしていた記憶があるが、気付けば参加しなくなっていた。
やはり私の身体は頑丈なのだろう、うん。
「そういうわけではないのだがなぁ・・・。まあいい、早く行くぞ。美味い飯も冷めては味が落ちてしまうからな」
「わかった。・・・そういえば女中に聞いた話だが、レイジが部族に入ってから生活の質が上がったそうだな」
私がまだ物心つく前の話なので詳しくはわからないが、レイジが来る前のフン族の暮らしはあまり褒められたものではなかったらしい。女中が言うにはレイジが部族に入ってすぐ是正したと聞いたが・・・。
「・・・あぁ、その通りだ。レイジはなんとも不思議な男でな。我々の知らぬ知識を豊富に持っておるし、何しろ凄まじく強い。以前は飯は生で食うのが当たり前、女子供は家畜のような扱いだったが・・・、奴が来てからは本当に変わったよ。食料の調理法から保存法を教え、家畜同然だった女子供を男と対等の立場にするよう諭して来た。
無論、初めは多くの者が反発した。長年常識として考えていた事を否定されたのだからな。中にはレイジを殺してしまおうと襲いかかった者達もいたが・・・」
「返り討ち、か」
「その通りだ。それからは兄上も含め、誰も奴には逆らわなくなった。渋々といったものではあったが、時間が経つにつれて皆考えを改めるようになったよ。奴の言うことは全て正しかったとな。部族の血の気が多いのは変わらんが、生活の水準は大きく上がった。
飯は美味くなったし、家畜のように扱っていた頃より女子供はよく働くし、部族の皆がよく笑うようにもなった。殺伐としていたあの頃よりこちらの方がずっと快適な暮らしだ。何故今まで気付かなかったのか不思議なくらいだよ」
「そうか・・・」
レイジらしい、というのが率直な感想だ。だからあんなに女子供に人気があるのだろうか?
私も人のことを言えた訳ではないが、レイジは感情表現に乏しい男だ。何時も仏頂面で、笑った顔も悲しげな顔も見たことがない。というか、眼が鋭いからいつも怒っているようにさえ見える。
だが、レイジは悪人ではないと思う。困っている者があれば手を差し伸べるし、間違った事をしている者には叱りつけ、正しい事をした者は褒める。そこにあの強さが混ざる事で、一種の安心感といったものを生み出しているのだろうか?
「アルテラ、お前はもう少しレイジの事を考えてやれ。教育係として、ずっとお前の世話をして来た相手だからと我儘ばかり言っていては、いつかきつくお灸を据えられるぞ?」
「・・・善処する」
とは言ったものの、本当にそうできるだろうか。レイジを前にすると、どうしても奔放になってしまう。構って欲しい・・・というのも間違いではないのかもしれない。かといって側にいたいという訳でもない気がする。言うなれば・・・“近付きたい”、のだろうか。
私は昔から強くなろうと考えている。理由はわからないが、そうする必要があると感じるのだ。だから、誰よりも強いレイジを一つの目標として捉えているのだと思う。
「父よ」
「うん?どうした」
「どうすれば、強くなれる?」
「・・・?お前は既に強いだろう。我々はお前を強き戦士として育てようとしているが、今でも十分な程の強さを持っている」
「だがレイジには及ばない。わかっていると思うが、今日もやられっぱなしだった。どうすればレイジの様な強さになれる?アイツに聞いても、答えになりそうな返答はなかった」
「正直私にもわからんさ。しかしまあ、以前レイジが言っていた。お前はまだ伸び代があるとな。今後も稽古を続けていれば、自然と強くなっていくだろう。なんせ、お前は“軍神の継嗣”なのだからな」
「・・・・・・」
さっきレイジの言っていたことと同じだ。
結局、時間なのだろうか。いや、これ以上考えても答えは出ないだろう。
それにしても“軍神”、か。そういえばそうだった。私は部族から“軍神マルスの継嗣”とされている。理由はわからないが、昔長老達がそう決めたらしい。もし私が本当に軍神の子ならと考えると、いつか私の剣がレイジに届くことがある気がして気分が良くなる。なんだって神の血が流れているのだから。
・・・・・・
———“アラヤ”はいつ決断を下すのか。
———“アレ”は地上を壊滅させた敵、その継嗣。
———我が“尖兵”よ。
———いつか刻は来る。
(・・・ッ!)
頭に響くのは2つの意思の片割れ。俺がこの世で目をさましてからずっと、そして現在も干渉してくるものだ。
(お前は何者で俺の何を知っている、尖兵とはなんだ。一万と数千年、もう待ち飽きた。いい加減答えてもらおうか?)
もう何度これを繰り返したか。何度やっても返事は返って来ず、一方的に言葉をかけられるだけだ。
———我が尖兵よ。
———汝は不完全である。
———汝は不安定である。
———故、汝は我が尖兵である。
(またそれか・・・。その意味を教えろというのだ)
———・・・。
(・・・チッ!)
相手が何者なのかもわからず、そもそも実体すらわからない。だが、今回は気になる言葉が1つだけ、初めて聞く言葉があった。
(“アラヤ”、と言ったか?もう1つの意思の持ち主、その名か?)
もう1つの意思は15年前、つまりアッティラが発見された際に干渉してきて以降、一度も声をかけて来ない。刻が来る、と言っていた以上、その刻とやらが訪れた時、再び干渉して来るのだろうか。
・・・・・・
「・・・仮眠のつもりが随分と長くなったな」
見れば外は暗くなり始め、月が顔をのぞかせ始めていた。
件の意思の干渉で目を覚ましたが、気分が悪い。相手は俺を何かの駒としか考えていないのだろう。そうに違いない。
「全く、不完全不安定とはよく言ってくれる。・・・む、そういえばムンズクとの約束があったな。考えるのは後にするべきか」
寝床から降り、外に出る。鼻をくすぐる香りがするあたり、既に夕食の支度が始まっているか、若しくは支度が整っているのだろう。
足早にムンズクの家へ向かう。約束した以上遅れては申し訳が立たん。
・・・それにしても、今夜は月が良く見える。いつものことだが、満月になると不思議とその存在に引き寄せられるのは何故だろうか。
アルテラからヒロインの気配が・・・?いやそんなつもりは・・・