キノの旅 ―the Infinite World―   作:ウレリックス

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第13話 わがままな話③

『……ハハ』

 

キノが使った爆弾の威力は、紛れもなく伝説級<UBM>の装甲を吹き飛ばしたものと同等だった。

 

『ハハハ』

 

キノが放った銃弾をものともしなかったエリクシア本体はともかく、【ガルカノン】のスキルを用いるまでもなく倒せた眷属なら確実に一掃できた爆発。

 

『ハハハハハハハハハハ!』

 

しかし……エリクシアどころか、眷属までもが健在であった。

浮遊するエリクシアは余裕の笑みを浮かべ高笑いしている。

この結果にはさすがのキノでも驚きを隠せない。

エリクシアまで倒せるとまでは期待していなかったが、それでも光線を放ってくる眷属は倒せると思っていたからだ。

 

だが結果は、よりにもよって無傷。

 

『妾に攻撃が効かぬからと眷属を全滅させるつもりだったか? だが無駄だ! 妾の第二の結界は、眷属を含め守り、貴様の戦い方を強制する! ただ巻き込むだけの、妾をはっきり狙いもしない攻撃など、妾は決して許さぬ!』

 

古代伝説級<UBM>としての特性……それは、エリクシアが纏う三重結界。

第一の結界は依り代の顔と姿を記憶していなければエリクシア本体や眷属の姿を認識できず、攻撃することもできない《忘却結界》。

このスキルによって多くの<マスター>やティアンは返り討ちにあっている。攻撃ができないだけでなく認識すらできないのだから。

 

そして爆発を防いだのが第二の結界、《忘憂結界》。

この結界はエリクシアとの戦いにおいてあらゆる面からエリクシアが憂う攻撃を防ぐ結界だ。

狙いを気にせぬ広範囲攻撃を無効化し。

数の暴力で攻める多重攻撃を無効化し。

距離をとり放つ遠距離攻撃を無力化する。

 

『範囲攻撃は許さぬ。数に頼った軍勢の攻撃も許さぬ。遠距離からの攻撃も許しはせぬ!』

 

つまり。エリクシアに攻撃しようと思うなら、一定範囲内からの単発攻撃を個人で重ねていくしかないということだ。

 

《忘憂結界》により、エリクシアは広範囲攻撃を行う広域殲滅型や、軍勢を操る広域制圧型に対して圧倒的有利を誇る。

そして……

 

「くっ……」

『近くからの銃撃に切り替えたか。だが先ほどの攻撃といい、妾には傷ひとつ付いておらぬぞ?』

 

眷族にはないがエリクシア本体にのみ展開されている、第三の結界。

これにより、キノはエリクシアに対して1ダメージも入れられていなかった。

広域殲滅型でもなく広域制圧型でもない個人戦闘型の者は……この最後の結界を越えられなければ、攻撃などできはしない。

 

『貴様に勝機などないわ侵入者ァ!』

 

眷属が光線を放ち、そしてさらに本体から一回り大きい光線がキノへと放たれる。

現在超音速機動で駆け回るからこそ回避できてはいるが、長くは持たない。

そうしてスキルの効果が切れてしまえば、光線に対処できず敗北してしまうだろう。

 

しかし、キノとてただ追いやられているわけではなかった。

エリクシア本体に銃が効かない理由を考えながら戦っていた。その行動の一つとして、エリクシアに《看破》をかけ続ける。

キノのアクセサリー枠のうち、一つは限定的ではあるものの、特定のステータスに対し看破を補強するものだ。今回キノが装備しているのはENDの看破成功率を引き上げるもの。

だからこそ、わかったことがある。

 

(間違いなく、エリクシアを守っているのは……この、莫大なE()N()D()

 

キノが看破したENDがこれだ。

 

END:12650(+1265000)

 

元の値はともかく、スキルで増加しているのであろう数値が尋常ではない。

百万を超えるこの防御力は、例え物理ステータスが他に類を見ないほどだという"物理最強"ですら手こずるであろう数値。

ガルカノンを使おうにも、ただでさえMPがどんどん減っているというのに百万以上のMPを装填できるわけがなかった。

 

「こ、のぉ!」

 

自分を狙う眷属に銃を向け、二体の眷属を撃って撃破する。

これまでに倒した眷属はその都度エリクシアが補充しており、今も18と数が減ったようには感じられない。今倒した眷属だって、数秒もたたず元の数に……

 

「……今の」

 

その時、キノが気づいた。

 

END:12650(+1138500)

 

増加した値が変動している。

先の数値から……ちょうど126500、元のENDの十倍の数字が減っていた。

そのきっかけとなったのは何か?

答えは一つ……銃で撃ち抜いた、二体の眷属。

 

「まさか、眷属の数に応じたEND増加!?」

『気づいたか侵入者! だが、気づいたところで何とする!』

 

最後の結界の名は《忘我結界》。

健在で飛んでいる眷属一体につき、元の値の5倍の数字がENDに追加されるスキル。

眷属が最大20体、つまり最大で百倍の値が追加されるということになる。

これによって、ただでさえ倒す障害の多いエリクシアに対し相応の莫大な攻撃力でもなければ攻撃を届かせることはできなくなってしまう。

 

しかし、何より厄介なのは……眷属に対しては《忘憂結界》が適用されているということだ。

広域殲滅技で眷属を一掃することはできない。それはキノが先ほど【レッド爆弾】を使って失敗したとおり。

かといって、数に頼ることもできない。

したがって一体ずつ倒していくしかないが、眷属が減ればすぐにエリクシアが眷属を再召喚してしまう。

 

『ならばもう分かったであろう、貴様の足掻きなど無駄なのだと! 妾の結界を破れはせぬ』

 

エリクシアは笑う。自分の勝利を確信して。

そして……キノは。

 

(これは……もしかしたら!)

 

彼女もまた、口元に笑みを浮かべていた。

一筋の光明が差す。もしかしたら、と。

最後の結界が、ただの固定数値増加だったらどうしようもなかったかもしれない。

しかし……眷属の数に応じて、増加率が変動。

そして……何よりも大事なのは。

 

増加する数値は……()()()()()計算されている?

 

最後の大勝負だと、キノは光線を避けながらエリクシアへと駆け寄る。

その右手には【ガルカノン】を持ち、エリクシアへと狙いを定めて。

 

『また銃撃か! 学習しない愚か者め!』

装填(セット)、"12650"!」

 

しかし、愚か者は果たしてどちらだったのか。

一発の銃声の後、叫び声が森に響き渡った。

 

『があああああああああああああああああああ!!?』

 

エリクシアの左腕が吹き飛ばされている。

 

『なぜだ、何故!?』

「……思った、通りだ……!」

 

エリクシアの《忘我結界》は、元のENDの値を基準にして、眷属の数に応じて倍加した数値をENDに追加する。

ならば。

 

元の値が、0()()()()()どうなるのか?

 

0は5倍しようが、100倍しようが……0のまま。

そしてキノの特典武具、【ガルカノン】の固有スキル《一砕貫通》は……MPを装填し、注いだMPの分だけ相手の元のENDを減算した攻撃を放つスキル。

固定数値の追加分は、元のENDをマイナスになるまで減算して、追加分と相殺することになる。つまり、相殺するための追加分のMPも注ぎ込む必要がある。

だがもし、追加分が元の数値を基準にして変動するのなら話は違うのだ。

 

すなわち。

元のENDを0まで減算して計算するのなら、着弾時における追加分のENDもまた……"0"なのだ。

 

例えば【鎧巨人】のスキル《アストロガード》も、《一砕貫通》が元のENDを0にするほどのMPを注ぎ込まれていれば倍加効果は事実上発生しない。

 

そして、防御力が事実上消滅したエリクシアに対し、キノの攻撃は必殺スキルの影響で強化されている。

 

キノのメインジョブは、騎兵系統派生上級職【竜騎兵(ドラグナー)】。

レジェンダリアで就ける【竜騎士(ドラゴンナイト)】が竜に乗る騎乗職であるのに対し、【竜騎兵】は同じ要素をもつ反面、中世ヨーロッパの"竜騎兵"と同様の面を持つ。

すなわち……竜の咆哮のごとき、銃火器を用いる騎兵である。

【竜騎兵】とは、銃火器の使用に特化した騎兵系統派生上級職と言える。

 

騎乗して戦う前提である【竜騎兵】のパッシブスキルには……騎乗物の速度に応じた速度補正が、騎乗状態限定で銃火器にも適用されるものがある。

そして、ヘルメスの必殺スキルは速度を爆発的に上昇させた上で、騎乗状態を保っている。

 

防御力のない相手の腕を吹き飛ばすことなど、当然の結果なのだ。

さらにキノが一撃を放つが、それは外れる。

 

『ああ、ああああああああああ!!?』

 

ここに来てエリクシアは恐怖した。

第一の《忘却結界》は紫苑を覚えているキノには効果がない。

第二の《忘憂結界》は範囲内の単発銃撃には意味がない。

第三の《忘我結界》は今まさに貫かれた。

 

もはや、エリクシアを守るものは……何も無い。

 

『眷属達よ! ヤツを、ヤツを足止めしろぉぉ!』

 

眷属をキノへと向かわせ、自らは空へと上昇する。

 

空に上がってしまえば攻撃は届かない。仮に届いたとしても、離れた遠距離からの攻撃は《忘憂結界》で防ぐことができる。

そして自らは光線による遠距離攻撃が可能。

そう思っての退避だった。なのに……

 

『馬鹿な……ここは空中であるぞ! 何故()()()!?』

 

キノは、エリクシアを追いかけ……空中を走っていた。

何も無い空気をまるで足場のようにして、エリクシアの元へと駆け上がる。

 

これはヘルメスの固有スキル、《行路適応》を用いているだけ。

つまり、必殺スキル状態のキノは……水面だろうが空中だろうが、どこだろうと駆けることができる。

《世界を駆ける旅人》というスキル名は、伊達ではない。

文字通り、どんな場所をも駆けるスキルなのだ。

 

眷属が足止めしているものの、眷属は《一砕貫通》がなくとも倒せる。エリクシアを倒すためのMPを削るには至らない。

 

「逃がしたりなんか、しない……!」

『何故だ……何故、そうまでして妾にこだわる! 妾は守護神であるぞ! 依り代とて妾の身を保つには必要なこと!』

 

エリクシアは守護神だ。それは事実。

遠い昔、かつては守護神として人々に寄り添い、村を、そして町を守ってきた。

だが……時が経つにすれ、少しずつ異変が起こってきた。

 

『時と共に、人は妾のことを忘れていった! 信奉することをやめて忘却の彼方に妾を追いやっていった! この苦しみがわかるか!? 守ってきたはずの人々から、忘れられていくこの虚しさがわかるか!?』

 

だから、彼女は考えを歪めてしまった。

ならば、二度と忘れぬようにしてやろうと。

忘れてしまう恐怖を思い知らせた上で、自らのことを恐怖と共に記憶に刻みつけようと。

 

『それの何が悪い!? 変わらず土地は守り続けた、妾が見えぬ侵入者だって蹴散らしてきた! なのに、忘れられたくない苦しみが貴様には』

「うるさい」

 

そんなもの、お前が依り代にした子供たちだって苦しんだだろうに。

そんな苦しみを他の人にも押しつけたのはお前だろうに。

そんな気持ちもあったが、それ以上に。

 

「これは、わがままだ」

 

手紙にはエリクシアを倒してくれなんて書いてなかった。

そんなクエストだって発生はしていない。

これは、ただの、わがまま。

 

「ボクはただ……お前が存在しているのが我慢できないだけなんだ」

 

眷属を蹴散らし、一気にエリクシアへと駆け上がる。

 

『わ、忘れろ! 記憶よ消えろ!』

 

最後のあがきと、キノに対して記憶の消去を試みる。

キノが依り代となった紫苑のことを忘れてしまえば、《忘却結界》により攻撃は不可能となり、認識もできなくなる。

 

だが、キノは止まらない。

 

『あああああああ!! 消えろ、消えろ!』

「装填、12650」

 

エリクシアは知らない。

<マスター>にはプレイヤー保護機能と呼ばれるものが存在していることを。

管理AIによって保護され、記憶を奪うなどといった精神操作は効かないということを。

 

駆けるキノはブーツの逸話級特典武具、【走爪狼脚 モロク】の装備スキルを発動させる。

その名は《刹那》。

10秒という短い効果時間ではあるが……発動時のAGIに応じた倍率で攻撃力を倍加させるというものだ。効果時間が短い分その倍率はただでさえ高く、必殺スキル状態のキノならなおさらだ。

 

『消えろ、消えろ、消えろっ、消えろ、消えろぉ、消えろ!消えろ、消えろっ、消えろ、消えろぉ、消えろ!消えろっ、消えろ!消えろ、消えろぉ、消えろっ、消えろっ!消えろ、消えろ、消えろっ、消えろぉ、消えろ!消えろっ、消えろ!消えろ、消えろぉ、消えろっ、消えろっ!』

 

凄まじい形相のエリクシアに、冷たい目と共に銃口をキノは向ける。

《一砕貫通》と併用して放つのは、【竜騎兵】の奥義。

 

 

 

「お前が、消えろ。――《竜の砲哮(ドラゴノス・ファイア)》」

 

 

 

それはまさに、竜が咆哮したかのような大火力による砲撃。

《刹那》によって強化された上に凄まじい熱量と速度を持ったこの攻撃を、全ての防御を失ったエリクシアが耐えきれるはずもなかった。

 

 

 

 

 

【<UBM>【徴霊忘界 エリクシア】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【キノ】がMVPに選出されました】

【【キノ】にMVP特典【紫苑界套 エリクシア】を贈与します】

 

キノは地上に降りると必殺スキルをはじめとした諸々のスキルを解除する。

《行路適応》によって空中歩行までしたのもあり、MPはほとんどなくなってしまっていた。

疲れてはいたが、キノは特典武具の名前を見て焦るように手に入れた特典武具を取り出していた。

 

【エリクシア】は、キノがこの戦いで失った初心者用装備のコートにどこか似ているコートだった。

しかしところどころで違う点は多い。まるで、誰かがうろ覚えだったものを再現したかのように。

そしてもう一つ、以前と大きく違うのは……左の二の腕部分に、紫苑の花の紋様が描かれていたこと。

 

「…………」

 

そのままウインドウで説明を読もうとして……泣きそうになった。

 

【紫苑界套 エリクシア】

<古代伝説級武具>

 

遠距離攻撃を防ぎ、数や範囲の利を滅する守護神の概念を具現化した至宝。

最後の依り代となった少女は、貴方の旅を見守り続ける。

※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限なし

 

・装備補正

なし

 

・装備スキル

《適温保持》

《忘憂結界》

 

キノは新たなコートをぎゅっと抱きしめる。

今となっては、もう言葉を交わすことはできはしない。

それでも……それでも、彼女が最期に残したものは、ずっとキノ共にあり続けるのだ。

 

『ねえキノ。エリクシアを倒したこと、紫苑のお母さん達には』

「言わないよ。倒してくれと頼まれたわけでもないし、紫苑のことを話すこともできない。ボクがまた行く必要性もないさ」

 

もう依り代を求められることもない。だから、これでいい。

キノは手紙に書かれていた、最後の文面を思い出す。

 

『私たちに、紫苑のことを思い出させようとはしないでください。記憶は消え、戻ることはありません。今頃私は、自分の娘がいることさえ忘れてしまっているのでしょう。そこに娘のことを伝えられても、私は紫苑が生まれた時の喜びも、共に過ごした思い出も、何一つ思い出すことはできないのです。思い出せないという苦しみと悲しみに、私は耐えられる自信がありません。

 

だから、どうか。

貴方だけでも、紫苑のことを覚えていてください。』

 

「忘れないさ、絶対に」

 

キノは紫苑の花が描かれたコートを羽織ると、バイクに戻ったヘルメスに跨がる。

 

「ヘルメス、紫苑の花言葉を知ってるかい?」

『知らない。どんな意味なの?』

「ふふっ、それはね……」

 

バイクがエンジン音と共に、祭壇から離れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"貴方を忘れない"」




これで、わがままな話は終わりです。
初めて中編を書きましたが、なかなか長くなってしまって……。
情報開示もそれなりにあったからとは思いますが。

あ、念のために書いておきますが「竜の砲哮」は誤字じゃなく仕様です。

次回からはまた短編です。
そしてそろそろ、あの人が……?

次回予定「愚痴りあう話」
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