キノの旅 ―the Infinite World―   作:ウレリックス

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明けましておめでとうございます。
今年も拙作をよろしくお願いします。

新年一回目ということで、今年登場予定のオリジナル<マスター>についての情報をいくつか出しています。

次回予定の「愚痴りあう話」からタイトルを変更しています。




第14話 愚痴をこぼす話 ―Tit for Tat―

カチャカチャと、部屋に金属がぶつかり合う音が響く。

部屋の中には二人の人間がおり、寡黙なまま手を動かしていた。

二人は台を挟むようにして立っており、それぞれ作業に従事していた。

 

「クッソ、デンドロの中なのに」

「ハァ、ボクはたまたま近くにいただけなのに」

「「どうしてこんなことしてるんだか……」」

 

二人ともそれはそれは、うんざりした顔で。

 

「確かにクエスト受けたのは俺だけどよ? リアルと変わらないことしてるのはな……。お前はどうなんだ?」

「そもそも、ボクは受けたくて受けたわけではないんですよ」

 

キノの言葉に、ブルースクリーンは手を止めた。

 

「ん? どういうことだ?」

「もともとはカルチェラタン伯爵夫人に挨拶に来たんですが、その後【女教皇】に会いまして……このクエストを押しつけられました」

「……災難だったな」

 

【女教皇】扶桑月夜とキノが出会ったのはこれが最初ではない。

かつて王国を訪れた時に、キノが"キノ"のRPをしていると知った彼女は、【森の狩人】という銃を報酬としてちらつかせる代わりにクエストを押しつけてきたのだ。

 

『あ、そういえば最近、ウチんとこの信者がピッタリな装備手に入れてたんやけどなー。ほら、名前とかピッタリやあらへんかなー(チラッチラッ』

『…………』

 

性能も悪くない上に、RP的にもいい。

おまけに月夜に煽られたものだからキノとしては仕方なく、それはもう仕方なくクエストを引き受けた。

 

そして、今回、また出会ってしまったのである。

キノがこの国にいるという情報を事前に掴んでいたようで、カルチェラタンの近くにいた扶桑月夜はキノを狙ったのだ。逃げようとしたものの彼女のエンブリオで速度を6分の1にされては彼女の秘書である【暗殺王】月影からは逃げられず。

 

キノとしても抵抗はしたのだが、様々な妨害をちらつかされた結果キノはクエストを受けざるを得なかった。

どうやら月夜は、遺跡の出現に伴い募集された【整備士】などの王国に少ないジョブを持った人を紹介することで、国に恩を売ったり仲介料を得たらしい。

 

「で、その結果ボクはここにいます。一応こちらも交渉した末に、『扶桑月夜はキノが求める武具の入手を手伝う』との報酬を契約書で確保しました」

「ほー。それじゃあまだ」

「……でも、補則で『時間的拘束は12時間のみ』『一定額以上の代金を扶桑月夜は支払わない』というものが……」

 

抜け目のない契約書の内容にブルースクリーンは閉口した。

さすが扶桑月夜えげつない。

 

「あーもう、やめだやめ。こんな気分で続けても集中できないし休憩しようぜ」

「賛成です」

 

ただでさえブルースクリーン自身もリアル同様機械作業で気が滅入っていたのだからと、彼らは作業を一時中断する。

そして、せっかくならとブルースクリーンはキノに旅の話をしてもらうことにした。

 

「これまで全部の国を回ったんだろ? ずいぶんとまぁ旅をしたもんだよな」

「えぇ、いろんな経験ができました」

 

頷いたキノに対して、ブルースクリーンは尋ねる。

 

「だったらよ、その分色んな<マスター>とかエンブリオとか見てるんだろ? 何かこう、スゲー印象に残ったものとかねーか?」

 

活動範囲が狭いと、どうしても実際に見たり聞いたりできる<マスター>は限られてくる。

 

たいていのマスターは国家所属のため、どうしても活動範囲が狭まってしまうことが多い。

国によっては並大抵の力量では行き来できないだろうし、移動手段とて必要となる。

キノの場合は旅に特化したエンブリオ(ヘルメス)のおかげでMP消費のない移動、空中や水面まで走行できるスキルなどと他のものよりはるかに移動についてはハードルが低い。

 

だからブルースクリーンは、キノの話に面白いものがないか聞きたがった。

有名どころであればネットなどで情報も得られるが、それ以外にも何かあるかもしれない。

トップランカーとか<超級>以外で頼むぜ、と注文をつけるブルースクリーンにキノは考えこむ。

 

「そうですね……まずエンブリオ」

「おう」

「グランバロアにいたときの話ですが、モンスターが回遊する海のど真ん中に大きな灯台がありまして」

 

灯台……海に?

ブルースクリーンは首をかしげる。

通常、灯台は海岸の陸地にある。それが海のど真ん中に?

しかもエンブリオの話である以上、モンスターがいる中にその<マスター>はいたのだ。

 

「てことはなんだ、その灯台は」

「ええ、エンブリオです。<マスター>は灯台のてっぺんに座って釣りをしていました」

「何してんだオイ……」

 

思わずあきれた声が出る。

とは言え、デンドロは自由だ。海のど真ん中でのんびり釣りをするのもまた自由。

とりあえず、ブルースクリーンは続きを促すことにした。

 

「もう一つエンブリオの話をするのなら、酒瓶のエンブリオ持ちと会ったことがありますよ」

「なんだそりゃ?」

「酒専用のアイテムボックス、と言えばいいのでしょうか。量の増加と、その瓶から飲んだ酒で自らを強化する能力がありました」

 

なんかうらやましいな、とブルースクリーンはこぼす。

世の中に酒好きは大勢いる。個人のパーソナリティーから生まれるエンブリオとしては確かにあっておかしくないだろう。

 

「続いて<マスター>となると……まず思いつくのはやはり【蹴姫】さんですね」

「準<超級>じゃねえか……」

「あの人は印象的でしたね……性格も、エンブリオも」

 

超級職を持つ<マスター>は準<超級>と呼ばれ、超級エンブリオを持つ<超級>に準じた実力を持つとされる。

もっとも、超級職を得ていなくとも準<超級>と呼ばれる実力者は存在する。キノもまたその一人である。

 

「他には、貴方もご存じと思いますが……」

「?」

「現在カルチェラタンで働きまくっているホワイトキャップさんです……」

「……あー。ありゃ確かに印象的だわ」

 

リアルの関係でログイン時間は多くないようだが、ログインしている間はひたすらカルチェラタン中を駆け回っては人々のために活動している女性の姿が二人の脳裏に浮かぶ。

かつては<月世の会>に所属しながらも、クランオーナーであり<超級>の扶桑月夜と大口論の末脱退したという逸話を持つ<マスター>だ。

 

キノは他にも、レジェンダリアの爆発狂やドライフのパパラッチの話をする。

最も、印象に大きく残っていたが語らなかった者も当然多い。

その中には、<超級>になったと聞いた、かつて天地で殺しあった少女も含まれている。

彼女の語る様々な人物に、ブルースクリーンは様々な想像を膨らませていった。

 

「まぁ色々といたもんだな……」

 

しかし、と彼は思う。

確かに皆印象的ではあったが、それら全てはまともと言えばまとも。つまり、ブルースクリーンのような指名手配をくらうほどの何かをしでかした人物の話ではなかった。

 

だからつい、好奇心から聞いてしまった。

 

「しかし、指名手配されるようなやつの話はなんかねぇのか? <IF(イリーガル・フロンティア)>くらいなら会ってそうだけどよ」

「…………確かに<IF>の方と会ったことはあります。しかし、他にもあると言えばあるんですよ……」

 

あまり気乗りしないようだったが、キノは語り始める。

 

「ボクが他の人と協力して倒したヤツがいます。確かにアイツは<超級>でもランカーでもなかったようですが」

「おっ? なんだ、やっぱりいるんじゃねぇか」

「カルディナでペンタゴン・キャラバンというクランが全滅した事件、覚えてますか?」

 

ああ、とブルースクリーンは頷いた。

カルディナにおけるクランランキング2位であるそのクランがたった一人の<マスター>によって全滅した事件は有名だ。

その犯人もまた<超級>であり、【殺人姫】である彼女はあまりにも有名である。

 

「その事件がどうしたんだよ」

「どうも、その事件を裏で()()()()のがヤツ……ノーフェイスなんです」

「は、あ……?」

 

ノーフェイスはとにかく、物事をかき乱すことを好んだ。

ジョブ構成やエンブリオだって、戦うためよりも、事件を起こすことに傾いた構成。

それがノーフェイス。

人を誘導し、事件の種火を撒き、そして最後にはキノ達によってデスペナルティとなった。

 

そう。

戦いには向いてないように見えるジョブ構成で、()()()()()()()()()()を相手にした。

人の予想を超え、自分の土俵に相手を引きずりこむ。そんな末恐ろしさのある人物だった。

 

そしてキノは口にしなかったが……ノーフェイスの死に際も不気味なものだった。

キノに殺される直前のその()を、彼女は今でも忘れてはいない。

 

休憩を終え、二人はまた作業に戻る。

 

「《電気羊の夢(グレムリン)》。相変わらず周回プログラム多いな」

「便利ですね。ドライフにとっては鬼門でしょうに」

「だから指名手配くらってここにいるんじゃねぇか。あーもう、そのくせなんで整備士系統とか技師系統とかとっちまったんだか」

 

愚痴をこぼし続けるブルースクリーンに、キノは苦笑した。

 

「言われてみれば確かに。なんで普段うんざりしている系統を、とは思いますね。それでも、慣れてる分使いやすかったんじゃないですか?」

「そりゃあ、自分が培って持ってるもんだから使えると言えば使えるからな……。エンブリオは逆に周りを巻き込んで問題起こせるもんだったからな、鬱憤晴らすには良かったんだよな……おい、どうしたそんな顔して」

 

ブルースクリーンの言葉に、ポカンとした顔を見せるキノ。

やがて考えを纏めると、すみませんと言って作業に戻る。

 

「ああ、少し考え事というか、思い出したというか」

「なんだよそれ……いいことでも思いついた、ってか?」

「いいえ、思いついたのは」

 

キノの口元が、ニヤリと笑う。

自分が培って持っているもの。そして、周りを巻き込んで問題を起こすもの。

 

「悪いことですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「月夜様、失礼します」

「んー? 影やんどないしたん?」

「先ほど、このようなものが」

「『請求書』……って何やのこの額!? しかも、え、<叡智の三角>から!? 何で!?」

「同封された手紙によると……キノ様との契約に基づいて製作した銃器の代金を請求、ということのようですが?」

「高すぎやん。一定額以上は払わなくてええから無視しとこ」

「……いえ。この請求書、無視しては些かまずいかと」

「何でなん?」

「まず、この請求書そのものがまずいです。戦争前にこの額をドライフのクランに支払うと言うことは、資金流出と問題視されかねません」

「……せやね」

「その場合。無視されたからと表沙汰にされると……まず間違いなく王国にとっては裏切り行為と見なされるでしょう。払っていなくとも、『資金流出をする手段・<叡智の三角>とのパイプを持っている』と見られます。加えて契約書の内容も公開されますと月夜様が引き起こした問題と分かってしまいます。こちらの意図したものでなくとも、何らかのペナルティは避けられないかと」

「…………」

「そしてもう一つ。この請求先は月夜様個人ではなくクラン<月世の会>です。月夜様個人は契約によって払う必要はありません。が、クランへの請求を月夜様がオーナーとして拒否した場合……それは月夜様が"協力を拒否"したことになるのでは?」

「…………」

「此からも良いかしら? ねぇ月夜、貴方、キノさんに対して『王国の敵と勘違いされてもウチは知らんえ?』なんて言って怒らせたから、逆に国の敵にされかねないようなことをされたんじゃないの?」

「…………」

「月夜様。さっさと支払った上で、この件を内密にしていただく旨、対価を用意した上でキノ様と契約書で約束したほうが良いかと」

「月夜、人を巻き込んで利益を得ようなんて欲張るから逆に損するのよ?」

 

「知らん。 ウチは知ーらーんー」




次回予定「待ち焦がれた話」
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