キノの旅 ―the Infinite World― 作:ウレリックス
カルディナの都市から都市へと移動する道中。
彼らは、それを様々な表情を浮かべて見つめていた。
彼らの視線の先にあるもの……それは、一人の男性の死体。
「だ、誰がこんなことを……」
よく晴れた青い空に、鳥が1羽飛んでいる。
まるで呆然とする彼らとは関係ないと言わんばかりに悠々と飛び続ける下で、彼らは言葉を失っていた。
死体となっている人物は、この場にいる誰もが知っていた。
死んだ男性も彼らと共に移動していた人物の一人。
夜になったのでそれぞれが自分たちの、あるいはクエストの依頼主から貸与された砂漠でも使えるテントを用意して中で休み、見張りだった一人だけが外にいた。
しかし、朝になって男性一人だけがいつまでもテントから出てこなかった。
不思議に思ったので確認してみたところ、死体となって見つかったというわけだ。
モンスターに襲われた、ということはありえない。
それは彼の胸に突き立てられたナイフが言葉以上にその事実を語っている。
彼は殺された。この中の、誰かに。
「誰だ、誰がセイカを殺した!?」
叫んだのは商会で重役に就いている商人、マックスフォンド。クエストを発注し<マスター>を雇った依頼人でもある。
取り乱す彼を支えるようにしている少々地味に見える眼鏡の女性がエルホー。気が休まらないようで目を泳がせている男性がカマル。そして腰が抜けてあわあわと震えている男性がヒィエ。全員マックスフォンドの部下である。
この四人、そして殺されたマックスフォンドの補佐、セイカがティアンだ。
彼らとは別に、この場にはマックスフォンドに雇われた<マスター>が四人いる。
「おい、見張りはお前だったろ! お前まさか…‥」
「違う、俺じゃないっ!」
【剛剣士】ANZと【翠風術師】めしうま。共に男性の<マスター>であり、ANZは昨晩唯一見張りとしてテントの外にいためしうまを疑っていた。
それに対し、めしうまはかたくなに違うと言っている。
その顔は必死さが見えるが無理もない。<マスター>同士で相手をデスペナにしても何も問題はないのだが、ティアンを殺害した場合基本的には罪に問われ、場合によっては「指名手配」されてもおかしくはない。
「指名手配」されると、その国でのセーブポイントが使用不可能となる。セーブポイントが使えなければ<マスター>は死亡すると”監獄”と呼ばれる別空間へと送られる。
もしめしうまが無実であるなら、冤罪で指名手配されることになる。たまったものではないだろう。
「…………」
【竜騎兵】キノ。旅人であり、現在はカルディナに滞在している<マスター>。
彼女は何も言わず、考え込むようにして他の者たちを見渡していた。
パン、と手を叩く音がして全員がそちらを見る。
そこにいるのは4人目の<マスター>、【大狩人】エルウェス。
キノ同様女性の<マスター>であり、キャラメイキングの段階で耳をエルフをイメージした尖った耳にしている。
ちなみに、レジェンダリア出身ではあるが数少ない常識人枠と認識されていた。
「収拾がつきませんね……私のエンブリオで解決します」
彼女の紋章が光ると、彼女の肩に現れたのは人の少年の姿をしているものの、耳だけが異様に大きな、そう、ロバのような耳をした人形。
それがエルウェスのエンブリオ、【告口人形 ロバノミミ】。
この能力は……
「私のロバノミミは、看破と鑑定に特化したエンブリオ。《真偽判定》も当然持っています。この意味が分かりますね?」
その言葉を聞いて、全員が理解する。
このデンドロ世界において、証言は証拠と同等の証明力を持つ。なぜなら《真偽判定》という、嘘かどうかを判定するスキルが存在しているからだ。
つまり、この場において、「お前が殺したのか?」と問えば。嘘をついても必ずわかる。
「まずは<マスター>に聞きましょう。あなたが殺したの?」
「違う、俺じゃない!」
「俺でもないぞ! 見張りをしていたが何も気づかなかったのも本当だ!」
ロバノミミはへらへらとした顔をしているものの、何もしゃべらない。
嘘をついていれば主人であるエルウェスに密告するので、これでANZとめしうまは無実だと証明された。
ちなみに、ロバノミミの密告能力は音声として全員に聞こえるものとエルウェスだけに聞こえるようにできるものと変更が可能であるが、今回は全員にそのこと伝えたうえで全員がわかるようにしていた。
つづいて、エルウェスはキノへと指を向ける。
「あなたが殺したの?」
「いいえ。ボクではありません」
反応はない。キノもまた無実。
そしてエルウェスは「私はセイカを殺していない」と宣言。ロバノミミは何も言わない。
さらに《真偽判定》を自前で持っているというエルホーが彼女は嘘をついていないと確認。
これで、<マスター>全員が無実だと証明された。
つまり、犯人はティアンにいるということになる。
「わ、私ではないぞ!」「僕は殺していませんよぉぉ!」「私も違います」
ティアンのうち三人が、自分ではないと宣言した。
そして、最後の一人……顔を真っ青にして冷汗を流す、カマルだけが残った。
全員が、カマルへと視線を向けている。疑惑を込めて。
「さあ、最後はあなたです。あなたが殺したのですか?」
「………‥ち、ちが、違う…………」
絞るように小さな声だった。
そしてカマルが答えたとたん、それまで何も言わなかったロバノミミがケタケタと笑いながらエルウェスへと顔を向けた。
『この人はウソをついている! この人はウソをついているんだ! 間違いないよ!』
それが何よりの証拠だった。
マックスフォンドの目がつりあがり、怒りと共に怒鳴り声をあげた。
「貴様か、カマル! お前は野心が強い男だったな、セイカを妬んで私の補佐という地位を奪うために殺したのか!」
「う、うぅぅぅぅ……」
言い逃れができるわけがない。
それほどまでに、《真偽判定》の信用度は高い。特にティアンの間では長く使われてきただけになおさらだ。
頭を抱えるようにして唸り声をあげる。カマル。
しかし一方で、エルウェスは不思議そうな顔をしていた。
「しかし気になることがあります。先ほど、めしうまさんの言葉に対しロバノミミは嘘と判断しませんでした。つまり、彼はめしうまさんの見張りをかいくぐってセイカさんを殺したことになりますが……彼にそんなことが可能なのですか?」
「き、聞いてくれ! 俺は嵌められたんだ!」
エルウェスの疑問に答えるように、カマルは叫び声をあげた。
ロバノミミが何も言わないことから、この事件はただの同僚を妬んだ殺人というだけでは終わらない裏があることがその場の全員理解できた。
「た、確かに殺したのは俺だ。けど、けど……」
「けど?」
「お、俺があいつを殺したのは4日前なんだ! 本当はここに死体なんてあるわけないんだよぉ!」
「ふざけるな!」
マックスフォンドが叫ぶ。
彼にはカマルの言葉を一蹴するだけの根拠があった。
「おとといも昨日も、セイカは私と共に働いていた! 昨日に至ってはここにいる全員がその姿を見ているはずだ! 違うか!」
「それはヤツがアリバイを作ってくれるって言ったから、てっきりその関係だと思ったんだよ……。ここで死体を出して俺が犯人だってわかる状況を作る予定じゃなかったんだ! 俺はヤツに嵌められたんだよ!」
彼が殺人を犯したのは紛れもない事実。故に彼が嵌められたと喚こうが彼が許されるわけもない。
マックスフォンドは言い逃れしようとでたらめを言うな、と怒る。
だが、怒りに燃えるマックスフォンドは、二つのことを見逃していた。
「ちょっといいですか」
それに気がついていたのが、キノだ。
キノはエルウェスの方を指さすと、静かに言った。
「ロバノミミが黙ったままです。つまり、彼は嘘をついていません」
あ、と漏れた声は誰のものだったか。
指摘を受けマックスフォンドの頭も冷える。
そしてもう一つ、キノが気づいたのは……
「そして。それはつまり、何者かがセイカさんのふりをしてボク達の中に潜り込んでいた、ということです」
全員がお互いを見渡す。
この中にもしかしたらまだ侵入者がいるのかもしれない。
ANZがカマルの首元を掴むと、揺さぶって怒鳴りつけた。
「誰だ、お前に協力したふりをしてお前をはめたってのは何者なんだ!」
「あいつは、あいつは……<マスター>で、名前は――」
下手人の名を告げた直後。
カマルの体が震え出す。目は焦点が合わなくなり、何やら恐ろしいものを見たかのように暴れ出した。
咄嗟に看破をしたキノには、カマルが【混乱】状態になっていたことがわかった。
「ひゃあああああ! ひいあああぁぁ」
「おい馬鹿、そっちは…!」
テントをはっていた安全な地帯から、カマルは狂乱したまま砂漠の中でもモンスターの徘徊地域に走って行く。
次の瞬間、彼は砂の中から飛び出したモンスターに襲われ、死んだ。
「………………」
全員何も言わない。
彼らはこれからの不安と、最後にカマルが言い残した名前を頭に浮かべていた。
指名手配された悪名高い<マスター>の一人。
「殺したはずなのに監獄に行っていない」と噂になっており、エンブリオについても不明。
罪状は……数多の殺人"教唆"、及び共犯。
自分では手を下さず、ティアンや<マスター>を騙し、誘導し、欺く人物。
その名は……
(うん、まずは上々。【混乱】かけたら自分から死んだのは予定外だったけどまぁ問題ないね!)
その人物は、顔には出さずに内心で笑顔を浮かべていた。
(ティアンに関しては直接手は出さない。目的の人物も今回集まったメンバーの中にはいるし。うん、悪くない!)
次はどうしようかなと、頭の中で悪辣な計画を組み立てていく。
(それじゃあ続きを進めよう。僕はただかき乱すだけだから、皆頑張ってね!)
翌日、ログを確認した結果見張りをしていたはずのエルウェスがデスペナルティになったことが判明し、残された7人は疑心暗鬼にとらわれていく。
いや、訂正しよう。
(<マスター>だから、まあたまには手を下しても罪じゃないよね-! より謎が深まるよう真偽判定もちを減らしてあげたんだから、僕って優しいよねぇ……)
疑心暗鬼にとらわれていく
6人のうち誰かを演じるその人物の名は、ノーフェイス。
今回は以前名前を出したノーフェイスのお話です!
ノーフェイスは誰に扮しているのか。
本格ミステリーではないので、勘で推理してくださいませ。