キノの旅 ―the Infinite World―   作:ウレリックス

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第2話 歓迎する話 ―What to Do―

アルター王国の首都・アルテアに入ったキノはヘルメスを手で押して中世風な街並みを眺めながら、街の中を歩いていた。

以前来た時よりもどこかしら商店が減っているようにも見受けられ、やはり人の流出があるのは間違いないらしい。

 

そして、そんな状態ではあっても、人々は笑顔で生活している。

彼らの顔に、国が亡ぶかもしれないと言う悲愴な様子は全く見られない。

 

「思った以上に人はいるね。掲示板とかじゃもう王国は終わり、みたいなことが多く書かれていたから亡国寸前なのかとも思ったけど」

『国の人だってまた戦争があるかもしれないっていうのはわかっているだろうね。けれど、彼らは笑って生きている。紛れもなく、今をしっかり生きているんだよ』

「……そうだね」

 

旅をしていく中で、キノは様々な人間に出会っている。

人によって異なるリアルを抱えた<マスター>にも、このデンドロの中での人間であるティアンにも。

マスターとティアン、異なる存在ではあるが両方と交流し続けたキノは、ティアンのことをただのNPCであるとは考えていない。紛れもなく一つの生命であると考えており、いわゆる《世界派》の考えを持っている。

 

だからこそ、戦争が起こるかもしれないこの状況でもティアンたちが前を向いて生きている姿を目にして、キノは改めて思わずにはいられない。彼らは確かに、人として、生命として、ここで生きているのだと。

 

『前を向いて生きるって言うのは、人しかできないことであるし、人だからこそできるんだよ』

「だから彼らは……そして、ボクたちは前を向いて生きていかないといけない。何があっても」

 

キノが現実で〇〇 〇として生きていく中で……そしてこの世界で「キノ」として生きていく中で。

何もかも楽しいことだけ、だなんてことはなかった。

悲しいことも、辛いことも。どうしようもないとわかっていてもやりきれないことだってあった。

それでも、キノは今ここにいる。ここで前を向いて生きている。

 

 

 

 

 

 

「違う! 私がもっと強ければよかったのだ!!」

 

 

 

 

 

 

思いにふけっていたキノの耳に突然叫び声が届く。

辺りを見回してみると、声の主はセーブポイントにもなっている中央広場の噴水にいた。

黒く長い髪をした少女が、金髪の青年の前で悔しそうな顔を浮かべている。

 

「お主がプレイヤーでなければ私は……自分の命もお主も失っていたのだ……。私は……それが恐ろしくてたまらぬ……」

 

ぽろぽろと涙をこぼす少女。

その光景を見て、ヘルメスはキノに小声で伝える。

 

『あの子マスターじゃなくてエンブリオみたいだね』

「ヘルメスのご同類? ガードナーかな」

『そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。さすがにわかんないよ』

 

その後、少女と青年は決意を新たに、二人で前を向いて進んでいこうと誓う。

当然、彼らの熱い思いは周りにいた皆が聞いていたので、全員が拍手した。キノも拍手した。

二人は恥ずかしくなったらしく、「森で狩りができなくなったがこれからどうするのだ?」「考えがある」などの言葉を交わしつつ、さっさと人の多いところが商業区の方へと走っていった。

すれ違いざまに、キノは少女の<マスター>であろう青年に向かって《看破》を使う。

 

「……”レイ・スターリング”、か。合計レベルが低いし、ルーキーだろうね」

『スターリング?』

 

覚えのある名字を持つ青年が走っていく姿を、キノをしばらく見つめていた。

彼らもまた、前を向いて生きている。

自分がチュートリアルを終え、どこか人を突き放したような話し方をする管理AIに見送られながらこの世界へと歓迎されたことを思い出す。

 

「ようこそ。ボクたちは、君を歓迎する」

 

柄でもないし、誰も聞いていないけれど。

キノは遠ざかる背を見ながら、この世界に加わったルーキーへとはなむけの言葉を送った。

 

 

 

 

 

キノが広場から離れてすぐ。

 

『おや、ずいぶんと珍しい顔クマー』

『あれ、その声はもしかして?』

「お久しぶりです」

 

せっかくアルテアへ来たのだからおいしいものを食べようと足を運んだ料理店で、キノは偶然にも心当たりのあった”スターリング”と再会を果たす。

大きなクマの着ぐるみを着た男の名はシュウ・スターリング。

着ぐるみであるにもかかわらずむしゃむしゃと食事を口に運ぶ彼は一緒にいたチャイナドレスの女性に断りを入れて、キノを手招きで自分たちの席へと誘う。

 

『アルテアにはいつ来たクマー?』

「つい先ほどです。初心者エリアにもかかわらずイースター平原でPKに巻き込まれて大変でした」

『PKは迷惑クマー』

 

クマの顔がうんうんと頷く横で、北欧系の顔をしたチャイナドレスの女性はにこやかに自らの隣の席に座ったキノへとコップを手渡した。

 

「えーっと……」

「あ、私はレイレイダヨー」

「ボクはキノと言います。このバイクがボクのエンブリオ、ヘルメスです」

『よろしく!』

「よろしくネー。ささ、これをどーぞ」

 

レイレイが差し出したコップを、キノはにこやかに左手で受け取る。

そして、右手は

 

「……えーっ、と。お姉さん、そういうの良くないと思うナー」

「そうですね。ボクも、こういうのは良くないと思います」

 

《瞬間装備》で即座に装備した拳銃を持ち、その銃口をレイレイの腹へとつきつけていた。

左手を出して相手の視線を集めたその一瞬に、流れるように今の状況を作り出したキノにレイレイは冷や汗を流しながらも笑顔を作る。

こんな状況でも笑顔を作れるのは、彼女が芸能人であるからこそだろうか。

 

「出会ったばかりの人に銃を突きつけるのは」

「繰り返します。ボクも、出会ったばかりの人に何か混入した飲み物を差し出すのは良くないと思います」

 

そこまで言われると、レイレイは降参とばかりに両手を上げる。

事実、彼女は差し出した飲み物に、飲んだ者が軽い《酩酊》状態になるよう仕込んでいたからだ。

ちなみに、レイレイが出会った新顔に状態異常を仕込んだ飲み物を飲ませようとする、いたずら好きな側面を知っていたシュウは、何も言わずに内心ニヤニヤしながら二人の様子を見ていた。

状態異常を仕込むというのも、彼女なりの歓迎ではあるのだが。

 

「……はー。なんでわかったのかナー……《危険察知》くらいじゃわからないと思うんだけど」

「その、なんで、と言われると説明しづらいのですが……」

『キノの《危険察知》はずば抜けてるからねー。あれはセンススキルの一つだし、天地でお師匠さんに散々鍛えられたから』

 

数あるスキルの中でも、《料理》や《危険察知》をはじめとしたセンススキルと言われる部類がある。これらは主に”現実から持参した技術やセンス”で代用できるスキルの通称であり、つまりはスキルに頼らずとも似た結果を出すことができるものである。

キノの場合、リアルの事情も多少は関係していたがそれ以上に天地での修行の結果が大きかった。

事実、天地に来る前と後では危険察知の度合いが天と地ほどの差もあった。

 

『あれって鍛えればつくものクマ?』

「シュウさんがそれを言うのは納得できませんが……その、これくらい察知できないととてもあそこで生活することは……」

『気が付いたらデスペナルティになってるのが日常茶飯事だったよね、9割9分油断してたところを師匠に撃たれて』

 

どんだけ修羅の国なんだよあそこ、とシュウはぼやきながら飲み物(もちろん安全なもの)を口にする。

 

『何の話だったか……ああ、PKか。ウェズ海道では結構暴れてたらしいなー、さっきもティアンの交易商人が襲われて荷物根こそぎ持っていかれたって話を聞いたクマ』

「エ?」

 

シュウの言葉に凍り付くレイレイ。

実はこの日、レイレイが前々から楽しみにしていた海の珍味が交易商人によって運ばれてくる、はずだった。

しかし荷物を奪われたということは、その中にレイレイが楽しみにしていたものも……。

 

「……ちょっと、やることができたから行ってくるネー」

『お、おう。行ってらっしゃいクマ』

 

フンスと鼻息を荒くしたレイレイが去っていき、シュウはあーあと天井を見上げる。

レイレイは王国にいる4人の<超級>の一人。おまけにシュウを含め他の3人の超級全員が「相手にしたくない」と思うほどの人物なのだ。

 

『全く……初心者狩りにティアン襲撃か。まず《ゴブリンストリート》だろうな」

「でも、イースター平原にいたのは《K&R》でしたよ?」

 

《ゴブリンストリート》も《K&R》同様、王国では有名なPKクランだ。

ただ、こちらはハンティングクランというよりは野盗クランといったほうが正しい。

 

『ってことは複数のクランが動いているってことクマ? 初心者狩りのために?』

『初心者って言えば、さっきデスペナから復帰した様子の”レイ・スターリング”っていう初心者のマスターがいたみたいなんだけど』

『その話、詳しく』

 

ヘルメスは彼らが新たなスタート地点として立ち上がったあの熱く華々しい話をしようと思ったのだが、デスペナから復帰したということにシュウは敏感に反応した。

やはり知り合いであったらしい。

 

「確かあのマスターとエンブリオが今度こそ、みたいなことも言ってましたから、まずPKされたのかと」

『あいつらが襲われた場所、わかるか?』

『森で狩りができなくなった……とか言ってたよね』

『森……ノズ森林か。ちょっとやるべきことができたからこのへんでお暇するクマ』

 

レイレイに続き、シュウもまた店から出ていった。

一人残されたキノは、ゆっくりと自分の分の食事を楽しみ、その余韻を楽しんでゆっくりしてからようやく店を出る。

ヘルメスは『これからどこにいく?』と声をかけたが、キノは微笑んで北を指さした。

これが自分のやるべきことだと言わんばかりに。

 

「とりあえず、ボク達がきっかけを作っちゃったノズ森林がどうなったか見に行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああ! き、キノさん! 助けてください! ヘルメスくんに乗せてここから逃げさせてぇぇ!!」

「………………えぇー………………」

『ニャロウどこいったクマ、出てきやがれええええ!!』

「は、薄情ものぉ! <UBM>狩りの手伝いとか貸しが一個はあるじゃないですか! その借りを返して! あとようこそ王国へ!」

 

砲撃による爆音が響く中、かつての天地での知り合いが隠形を解除して助けを求めてきたのを見て……キノはやれやれとため息をついた。




次は少し時系列を戻して……キノがこの世界に来た時の話をしようかと。

次回予定「夢見る者達の話」
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