キノの旅 ―the Infinite World―   作:ウレリックス

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第20話 かき乱す話②

エルウェスがデスペナルティとなって姿を消したことにより、多くの者がパニックに陥っていた。

 

「なんだよ、どうなってんだよぉ!?」

「くそっ、お前か? お前か!?」

「……ダメだ、みんな混乱してしまってる」

 

エルウェスがデスペナルティになった。これが意味するものは大きい。

彼女はソロでもモンスターくらいは対処できる、何よりモンスターが襲ってきたのなら他の者に危機を伝えたはずだ。

彼女のエンブリオ、ロバノミミは喋ることができる、いざというときは警報として機能したはずだった。

 

だからこそ彼女が見張りに名乗りでたとき、誰も反対はしなかった。

なのに、その彼女が誰に気づかれることもなく死んでしまった。

 

ロバノミミの欠点を一つ挙げるなら…‥‥それは、エルウェスが「正常にロバノミミの言葉を聞ける状態」でなければ機能しないということ。

例えば【睡眠】や【気絶】といった状態異常にかかった場合。

 

そしてもう一つ、エルウェスが死んだことがもたらした混乱がある。

それは……

 

「ノーフェイスはこの中にいないはずだったろ!? どういうことだよ!」

 

カマルが死んだあと、念のためエルウェスのロバノミミやエルホーの《真偽判定》を使って、全員に「お前はノーフェイスか?」という質問をして確認した。

結果は、全員が「自分はノーフェイスではない」と否定し、反応はなし。だからこそ残った7人の中にノーフェイスはいないと誰もが安心しきっていた。

それなのにエルウェスがデスペナルティになるというのは、異常事態でしかない。

 

「くっそ! 誰も信用できねぇ……」

 

もともと短気なANZは全員を疑い、すでに武器を抜いて疑いの目を向けながら周りを威嚇している。

ティアンたちは戦闘能力など皆無なので、鬼気迫る表情のANZからは距離をとっていた。

特にヒィエは臆病らしくあわあわとうろたえ、あろうことか<マスター>であるめしうまの後ろに隠れるようにして縮こまっている。

 

壁にされためしうまも若干迷惑そうにしてはいるが、それよりは今の状況への混乱が勝っているらしい。

 

「どうすればいいのだ……。これでは先へと進もうにも進めんではないか……」

 

商人らしくマックスフォンドは行程が遅れそうなこと、そしてこれ以上足踏みが進まないことは何の意味もないと頭を抱えている。

これについてはキノも同感だった。先に進むこともできず、かといって互いを信用できない状態でこのままとどまっていられるとも思わなかった。

 

「キノさん」

 

そこへ、話しかけてきたのはエルホーだった。

彼女はこの中でも比較的冷静な方で、考えた末にキノと話すことを選んだ。

 

「なんでしょう?」

「このままでは我々は全滅を待つだけです。しかし、かといって私の《真偽判定》ではどうにもなりません。何かしら対策をうたれてしまっているようですから」

 

それはその通りだ、とキノは頷く。

しかし、だからこそこの状況を打開する手段が思いつかない。

 

「《真偽判定》は通用しません。でも、どうしてエルウェスさんが襲われたのでしょう?」

「それは……昨日見張りで一人だったからでは……?」

「そういうことではありません。なぜ襲われた、正確には……”なぜ事件が起こったのか”です」

 

エルホーの言う意味がよくわからず、キノは首をかしげる。

そんなキノにわかりやすいよう、エルホーは噛み砕いて説明を始めた。

 

「最初の、セイカが殺された事件。あれは正確にはノーフェイスがセイカのふりをしており、生きていたように見せていただけです。つまり最初の事件はここで起きたのではない。4日前に起きた事件をここで明らかにしただけなんです」

 

では、次のエルウェスは?

彼女はエンブリオから見てもまず本物だったのだろう。ログにきちんとエルウェスの名とデスペナルティになったという事実があることからもそれはわかる。

セイカのようにもともと死んでいた人物をノーフェイスが演じていたわけではない。それはおそらくノーフェイスが彼女をこの場で殺害したことを意味する。

つまりエルホーが言いたいのは、問題はエルウェスが殺害の相手として選ばれた理由ではないということ。

 

なぜ、<マスター>がデスペナルティになるという事態を引き起こしたのか。

ノーフェイスが()()()()()()()()()()()という、その一点に尽きる。

 

「……あぁ、なるほど。わかりました」

 

得心がいったキノは頷くと、全員に向かって大きな声をあげた。

その声に驚いたのか近くに止まっていた鳥が飛んでいったが、キノは構わずに続ける。

紋章から自信のエンブリオであるヘルメスを出すと、全員に向かって提案する。

 

「ボクから提案があります! ボクのこのエンブリオで、今から援軍を呼んできます。人が増えればノーフェイスも何かすることはできないでしょう」

 

キノのその提案に

 

「ふざけるな、お前がノーフェイスで逃げるつもりじゃないのか!?」

「俺はもう……解決するならどうでもいい……」

 

ANZとめしうまが答え。

 

「……頼んだほうが、いいのかもしれんな」

「そんな!? 戦力である<マスター>が減るのは困ります!」

「私は、異論ありません」

 

マックスフォンド、ヒィエ、エルホーが答え。

 

「……なるほど。よくわかりました」

 

キノはゆっくりと銃を抜き、

 

 

 

 

 

「あなたに聞きたいことがあります。ヒィエさん」

 

 

 

 

 

 

ヒィエへとその銃口を向けた。

 

「な、な」

「あなたが子供のころに親しかった友人の名前を、三人あげてください。そして、その人の出身の国も」

 

答えようとしたヒィエの口が、固まる。

ヒィエが本物ならば、答えることに何の支障もない。

友人の名前だけなら、()()()()()()()()()を答えれば《真偽判定》をすり抜けられる。

だが……その場合、リアルの国の名前をティアンが答えなくてはならなくなる。

 

答えられないヒィエを前に、キノは静かに目を細め、

 

「あなたがノーフェイスだ」

 

【ガルカノン】の引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まいったなー。どうしてわかったの?」

 

非戦闘系ティアンとは思えない動きでかわしたヒィエは、どこからともなく仮面を取り出した。

三日月状の目と口があざ笑っているかのようなデザインの仮面。

取り出した仮面を手で持ちながら、その人物はキノへと問いかける。

 

「あなたが何をしたいのか考えたんです。セイカさんの事件でカマルさんから自分の名前と存在をみんなに伝えた。そしてエルウェスさんを襲うことで、現在確かにノーフェイスがこの中に紛れ込んでいるのだということをアピールした。その結果どうなるか? ……先ほどのような、疑心暗鬼状態が生まれ……最後の一押しさえあれば、()()()()に発展する」

 

だからキノはあえて離脱を提案した。殺し合いをさせることが目的なら、ここで<マスター>が減ることはノーフェイスにとって望まないことだと考えて。

その結果、キノの離脱に反対したのはANZとヒィエの二人。

 

「あとはかまをかけて炙りだすつもりでいました」

「なるほどねー。なるほどなるほど。”ペンタゴン・キャラバン”の時は【殺人姫】をたきつけるだけでうまくいったんだけどね。全部が全部あの時ほどうまくはいかないか」

 

大正解だ、とその人物は笑って仮面をつける。

姿や服装はヒィエのままに、顔だけが嗤う仮面となったその人物は両手を広げて宣言した。

 

「いかにも。僕が、ノーフェイスだ」

 

ノーフェイスが指を鳴らす。

次の瞬間、ANZが叫び声をあげて剣を振り上げる。

めしうまは詠唱を始めて攻撃呪文を放とうとする。

キノは銃をノーフェイスへ向け……咄嗟に、左へと向けた。

 

自分へと剣を振り下ろしてきた、ANZへと。

 

「な、ぁ」

「え、ちょ、なんでANZがキノを狙う!?」

 

キノに肩を撃たれるANZ。めしうまは何が起こったのかわからずそのまま呪文をノーフェイスへ撃とうしたのだが…‥その呪文は、ANZへと命中した。

近場で大きなダメージを受け、ANZのHPは一気に危険値まで減少する。

 

「あーははははは! 僕がただ静観してるだけだと思った? 勝負ってのはよーいドンで始めるものじゃないんだよ?」

 

キノが《看破》を使って二人の状態を確認する。二人には状態異常【魅了】がかかっていることがすぐにわかった。

この状態異常は対象の価値観を狂わせ、術者を最上位に置く。もっとわかりやすくいうなら敵を守り、味方を攻撃するようになってしまう状態異常だ。

 

「【高位催眠術師(ハイ・ヒプノシスト)】のスキルで、2日前から【魅了】を効果とした《範囲催眠術》をかけておいた。エルウェスも【強制睡眠】効果のある《催眠術》をかけたところを襲ったんだよ。時間をかければ、《催眠術》で効果や成功率は上がるからね!」

 

【催眠術師】というジョブは精神系状態異常に特化したジョブ。しかし催眠術師系統のジョブスキルは「使いにくい」というのが定石だった。

なぜかというと、固有のスキル《催眠術》の内容だ。

《催眠術》はスキルレベルに応じて様々な精神系状態異常をかけられるのだが、スキルの効果や成功率をスキル使用から任意発動までの時間に比例して決定するという性質を持っていた。。

つまり、【催眠術師】のジョブスキルはスキルを使用してすぐにはほとんど効果が見込めないのである。

 

敵を目の前にして効果がすぐに出ないというのは多くのプレイヤーにとっては不満の元だった。

時間をかけて戦うほど強い相手だと、そもそも状態異常への抵抗が強くレジストされることもある。

結論として、【催眠術師】は不人気なジョブとなった。

 

だが、ノーフェイスにとっては当てはまらない。

ノーフェイスは時間をかけて仕込んだ上で、戦闘になってはじめてその罠が牙をむく、そのような戦い方を得意としていた。そもそも引っ掻き回すまでに時間をかけるのだから、その時に《催眠術》を開始しておけばいいのだ。

 

「さぁ、みんなで存分に殺しあって」

 

パァン!

 

一発の銃声が、ノーフェイスの胸を貫いた。

今までの余裕が消え、仮面の下で驚きをあらわにしたノーフェイスの視線の先にはキノがいた。

【魅了】の効果など見られず、まっすぐにノーフェイスへと銃口を向けていたキノが。

 

「なん、で……?」

「全体にむけて《催眠術》を使ったそうですね。範囲技は……ボクには効かないんですよ」

 

キノが着るコートは古代伝説級特典武具、【紫苑界套 エリクシア】。

その装備スキルである《忘憂結界》は効果範囲や術者との距離によって受ける攻撃の効果を大幅にレジストする。

範囲型で、しかも使用してすぐには大した効果の出ない《範囲催眠術》は最初から《忘憂結界》によってはじかれてしまっていたのだ。

 

「くっ…‥!」

「当たりませんよ。ここであなたは退場してください」

「ちっ、くしょぉぉぉぉ……」

 

風属性の攻撃魔法をキノへと放つが、キノはたやすくかわすと再び銃を構え、ノーフェイスの頭部を撃ち抜いた。

ノーフェイスの体は光の塵となり、大きく息を吐いたキノの前で消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まぁ、死んでないんだけどねぇぇぇぇぇっ!!)

 

「殺したはずなのに監獄に行っていない」。

ノーフェイスにまつわる逸話の一つにこのようなものがある。

しかし、その真実に関しては実にシンプルなものである。

 

”ノーフェイスは、死んでいなかった”。ただそれだけの話。

 

(やっぱり便利だよねぇ……僕の必殺スキル、《僕は君で君は僕(ドッペルゲンガー)》!!)




はい、まだ終わりません!

ノーフェイスのエンブリオ、【■■■■ ドッペルゲンガー】については次回詳しく書きます。
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