キノの旅 ―the Infinite World―   作:ウレリックス

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第23話 知らなかった話 ―Judgement―

キノが乗ったヘルメスは最後に大きくエンジン音を鳴らして止まった。

キノが訪れたのはアルター王国にある大きな教会。

今回、キノが受けたクエストの依頼人がこの教会に勤めているとのことで待ち合わせ場所がここに指定されたのだ。

 

キノが教会に来て、一番に思ったことは・・・・・・

 

「なんか、思ったよりも・・・・・・」

『騒がしい? それとも賑やか?』

「どっちだろう。どっちもかな」

 

教会と聞くと厳かで静かなイメージがあったのだが・・・・・・いざ着いてみると、子供たちの声が聞こえてくる。それも、一人二人の声ではない。

どうやら裏手の方から聞こえてくるようだとひとまずキノは声が聞こえてくる裏へと足を運んだ。

 

「あ、だれか来たー!」

「うーん、このひとおとこ? おんな?」

「うわぁ・・・・・・」

 

そこにいたのはたくさんの子供たち。

遊具などがあったりと遊ぶためにそれなりの広さのスペースが作られている。

彼らは見知らぬキノの姿を見つけたとたん、幼さ所以の好奇心により一気に集まってきたのだから子供になれていないキノとしては大勢が自分へと向かってくるその光景に硬直してしまう。

 

「ねーねー! なまえなんていうのー?」

「あそびにきたの?」

「うわーじゅう持ってる! かっけー!」

「あわわわわ」

 

マシンガンのごとくキノへと向けられる言葉に、仕方ないことではあるがキノは対応しきれずに目を回すばかり。

これが子供ではない普通の<マスター>やモンスターなら銃を抜いて散らすという選択肢もあるのだが、さすがに子供相手にそれはどうかとキノは何もできない。

 

「こら! お客さんが困ってるでしょ。みんな一旦離れなさい」

「「「「はーい」」」」

 

そこへ現れたキノにとっての救世主。

一人の女性の言葉で子供たちはキノから離れ、再びそれぞれの遊びに戻っていく。

散っていった子供たちを前に、キノはふーっと大きな息を吐いて女性へと礼を述べた。

 

「ありがとうございました。その、子供には慣れていないもので……」

「たくさん来ると慣れてない人にはきついでしょうね。こちらこそ、子供たちが失礼しました」

 

頭を下げた女性は20代後半くらいで、シスター服を着た女性。

優しげな笑顔を浮かべた彼女こそ、今回依頼人としてクエストを発行した張本人だ。

エルザと名乗った彼女は、皆ここで遊んでいてねと声をかけるとキノを建物の中へと案内した。

 

「詳しい話は中でしますね。どうぞキノさん」

「では、失礼します」

 

案内されたのは応接室のように整えられた、だが応接室と呼ぶにはいささか狭い小さな部屋。

窓からは子供たちが遊ぶスペースがよく見える。

そんな部屋の中でキノとエルザは向かい合って座る。

 

「では、早速詳しい話を聞かせてくれますか」

「えぇ・・・・・・」

 

エルザが先ほどとはまるで違う、暗い表情で話を始める。

 

今回のエルザの依頼を、一言で言うならば「調査」。

つい最近、この教会の子供たちが二人、姿を消すという事件があった。

彼女もはじめ、官憲の力も借りて捜索を行ったものの、ついぞ二人は見つからなかった。

 

もちろん、キノは人捜しに向いたエンブリオを持ったわけでもなく、官憲以上の捜査能力を持つわけでもない。

キノが今回依頼されたのは、盗賊団や人さらいといった、犯罪組織が関わってないかの調査。ティアンである彼女には、多少官憲にツテはあっても、それ以上のことが調べられない。また、<マスター>ならではの情報網、キノの旅人としての情報網で何か手がかりを得られないか、ということだった。

 

「わかりました。できる限り調べてみますが、それでも・・・・・・」

「はい。空振りになってしまうことも覚悟の上です。しかし、それでも・・・・・・諦めきれないのです」

 

わらをもつかむ心持ちなのだろう。

面倒を見ていた子供が姿を消したというのは、それだけ彼女にとっては重荷なのだろう。

そこへ、一人の男が入ってきた。

 

「エルザさん、頼まれていたものを持ってきたよ」

「あぁ、リオルさん、すみません」

 

入ってきた男は司祭服を着た若い男で、おとなしそうな容貌をしていた。

彼が入ってきたのを見ると、エルザは腰を浮かせ彼をキノに紹介する。

 

「彼はリオルさん。私がここで働き始めてすぐの頃に新しく来られた【司祭】の方で、様々な雑務を手伝ってくださりとても助かっています」

「いやいや、僕はエルザさんの役に立ちたいだけだから」

「彼は、前の仕事からこの仕事に移って不慣れだった私に……いつも気を使ってくれているの」

 

そして、今度はリオルのほうへキノのことが紹介され、彼女は軽く頭を下げた。

キノが子供が消えた件での依頼で来たということを聞き、リオルは難しそうな顔を浮かべて口を開く。

 

「なるほど。官憲の方が捜査してくれた後ではありますが…‥<マスター>の方ならまた違った捜査ができるかもしれません。どうかエルザさんの力になってください」

「えぇ。できる限りのことはします」

 

 

 

 

 

 

 

依頼を受けてから三日。

難しい顔をして建物から出てきたキノを、のんきな声でヘルメスが迎える。

その気になればエンブリオである以上ヘルメスを紋章に入れることもできるが、割とキノは外に停めておくだけにすることも多い。

 

「むぅ……」

『どうだった?』

「一応、犯罪関係でも情報がいくつかでてきた。あまりいい情報でもなかったけど」

 

直接的な子供たちの失踪についての情報は集まっていない。

もちろん、キノとしても<DIN>……Dendrogram・Information・Network、デンドロにおける国境なき情報屋集団の支部に出入りして拉致や誘拐についての情報を優先して探してみた。

 

ただ、さすが情報屋。犯罪者や山賊などの情報も集まってはおり、その中には拉致や誘拐を主にしていた犯罪者もいる。

例えば、カルディナに連なる奴隷商人などだ。

そして、そんな情報の中でも、特に際立っていたのが……

 

「……”改造人源(エラー・ソース)”か」

 

”改造人源”の異名を持つ有名な犯罪者のマスターであり<超級>、【魂売】ラ・クリマ。

姿もはっきりしておらず、自らの奴隷を通して商売を行っているこの人物だが、その仲介人とされている奴隷が目撃されているらしい。

 

しかし、その人物はあくまで仲介人。

ラ・クリマには誘拐の罪状もあるが、それにはやはり拉致に適した奴隷を使うと聞く。ラ・クリマは奴隷を改造する力があるのだから。

だが仲介人は拉致を行うわけでもなく、あくまで商売を行うはずだ。

もちろん、実はその仲介人にも改造が施されている可能性はある。

 

「でも、子供二人を狙うのは不自然だな……」

 

ラ・クリマは戦闘奴隷をメインに販売している。

上級職どころかジョブにすらついていないような子供をわざわざ攫うだろうか?

むしろ、拉致ではなくまるで売買を行ったと考える方が自然では……

 

「だめだ、犯罪者プレイヤーの思考なんて完全にはわからない」

 

自分たちとは大きく思考が違うであろうラ・クリマの行動を思考から追うのはよほどの推理力でもない限りまず不可能だ。

それよりも、とキノは手に持っていた紙の束をめくる。

紙に書かれた文面を眺める目が、僅かに細くなる。

 

「こっちの情報の方が……ボクにとってはとても気になるんだ」

『え、なになに?』

 

念のため、ということでDIN所属の調査員に調べてもらった内容。

それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? エルザさんは?」

「エルザさんは用事があって外出するとのことです。すぐに戻るから待っててほしい、と聞いています」

「そうかい……それじゃ、待たせてもらおうかな」

 

教会の部屋に入ったリオルを迎えたのは、旅人のキノ。

最近知り合ったばかりの者に留守を任せていることに僅かに眉を寄せるも、それでも誰も残さないほうが不安だっただけなのだろうなと納得してそのまま椅子に腰かける。

 

「それで、調査の方はどうですか?」

「あいにくと…‥これといった情報は出てきません。依頼された身で申し訳ないのですが」

「いえ、仕方ないでしょう。官憲が調べた後なんだから」

 

申し訳なさそうなキノの声に対し、リオルはゆっくりと首を振る。

仕方ないとリオルは言うが、一方でキノはエルザの名前を出す。彼女にとってはやはりつらいだろうと。

 

「エルザさんにとって、子供のことはとても心配のはずです。彼女はあなたのように、仕方ないと割り切るのは難しいでしょう。だからこそ、ボクに依頼を出したのでしょうし」

「……そう、だね。僕としては、正直これ以上エルザさんには心労を重ねてほしくはない。あの人は優しすぎる、これ以上ここで子供の世話をしていても彼女の心が疲れるだけだ……」

 

リオルは顔を暗くする。

 

「その手助けができるなら僕は何だってやる。彼女を養うことも、できないわけじゃない」

「しかし、子供たちを世話している彼女は、きっと責任を感じています。そう簡単に投げ出すとも思えませんよ? それこそ、例の拉致事件も含め」 

「そうだね。でも、僕はその件については何もできない。何も知らない以上、できることもない」

 

ガチャリ。

そこへ、ドアが開く音と共にエルザが入って来た。

手にはポットとコップが乗せられたお盆を持っており、穏やかな笑みを浮かべて二人のもとへと歩いてきた。

 

「ごめんなさいね。二人とも待たせてしまって」

「いえいえ、エルザさんが気にすることはないですよ」

 

キノは黙って頭をさげ、リオルは若干照れた顔で手を振る。

エルザはニコリとだけ微笑んで答え、コップにお茶を注いでリオルの前に置く。

同様にキノの前にもコップを置いて、お茶を注ぐ。そのままエルザはゆっくりと座った。

 

「それで……キノさん。調査はどうでしたか?」

「えぇ……結論から言うと、子供たちに直接つながるような情報はありませんでした」

 

そうですか、とエルザが顔を伏せる。

そんな彼女の横顔を見ながら、キノはただ……と静かに続けた。

 

「失礼ながら、皆さんについても一応調査させてもらいました。その結果……」

 

ゆっくりと取り出した紙の束。

そこには……キノの前で顔を青くする、リオルについての調査報告が書かれていた。

彼の変化に気づきながらも、キノはゆっくりとエルザに調べて得た情報を伝えた。

 

「リオルさん……つい最近。そう、子供たちの失踪があった頃に、昔の借金の返済をされたそうですね。金回りが急によくなっている、と。宝石のついた指輪を購入したところも目撃されていますよ」

「な、な、な……」

「あなたが事件当日、子供たちと歩いているのを目撃した者もいますよ」

 

ガタン! と音をたて椅子を弾き飛ばすように立ち上がったリオル。

その目には戸惑いと焦りが浮かんでいた。

 

「いい加減な嘘をつくな! 僕は子供たちとその日歩いていない!」

「ではなぜ、この目撃証言が?」

「そんなのただの偽物の話じゃないか! どうせ間違いか作り話、いや、君がでっちあげてるんじゃないのか!?」

「ではあなたは、子供たちの失踪には無関係なんですね?」

「ああ、そうだ!」

 

震える声で、彼は叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘つき」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな。

小さな、声で、彼女はそう呟いた。

それはキノではない。もちろん、リオルでもない。

 

「……知らなかったんです。私は、あなたが私と同じように子供たちのことを大事にしてくれてると思ってた。私が子供たちの面倒を見ることに異論があるなんて思って、なかったんです……」

「なに、を」

 

突然喋り出したエルザに、リオルは動揺した顔を向ける。

彼女は聞いていたのだ。この部屋に入る前に、彼がキノに話していた全てを。

リオルはエルザに対し、キノが言うことは全て間違いだ、自分は無実だと訴え続ける。

それが、何をもたらすのかも知らずに。

 

「エルザさんについても調べさせてもらいました。この教会の仕事につくまでは……官憲(・・)の仕事をされていたそうですね」

「……え?」

 

呆然とした顔をするリオルとは対照的に、エルザは静かに頷いた。

彼女はかつて官憲として働いていた。だから、官憲にツテがあった。

 

「知らなかったでしょう? あなたがこの教会に来たのは、エルザさんが教会で働き始めた後のことだった。だから、知らなかった」

「……あ…‥あ……」

「そして、官憲の仕事上……大抵の人が、あるスキルを持っている。取り調べのための、()()()()()》を」

「…………!」

 

リオルがこれまで以上に焦った顔でエルザを見る。彼を見るエルザの目はとても静かで……様々な感情が渦巻いているかのようだった。

それはまるで、怒りと悲しみがないまぜになったかのような。

 

無理もない。

信じていた彼の言葉は……自分が無実だという反論は、全て”嘘”だったのだから。

 

「確かに子供たちと歩いていた、という目撃証言は嘘です。しかしあなたが嘘をついたことは、この場の全員が理解しています。さしずめ、情報だけを流して、あるいは子供たちを言葉で誘導して拉致させたのでしょう。そして見返りを得たのでしょう?」

 

反論ができない。

 

「さて、エルザさん。依頼された内容とは少し違いますが……これで拉致事件についての依頼は完了、ということでよろしいですか? 彼を官憲のところへ連れて行って……」

「……えぇ。でも、官憲のところに連れて行く必要はありません」

「えっ?」

 

その時。

 

「あ……あ…‥!」

 

リオルが突然苦しみだした。

何が起こったかわからないキノに対し、エルザは静かに答えを告げた。

 

「キノさんは知らなかったでしょうが……彼のコップには毒を入れていました。飲んでから数分後に【猛毒】が発生する強力な毒を」

「ひっ……!」

 

扉ごしに聞いた、彼の「何も知らない」という言葉。

それが嘘だとわかったとき、薄々リオルを疑っていた彼女はコップに毒を入れることを決意していた。

その結果が……今の、この光景。

 

「下級職の【司祭】であるあなたでは、この毒の解毒は不可能です。子供たちの無念、その身で思い知ってください」

「嫌だ……嫌だ…‥!」

 

【猛毒】に苦しむリオルは床をのたうちまわりながらエルザへと手を伸ばす。

涙を流しながら、いやだいやだと子供のように呟きながら。

 

「僕は……エルザさんのことが、ずっと、好きで……! だから、子供たちのことに気をかけてばかりで、結婚も恋愛もする気がないみたいで、だから……」

「私は、今まで一度もあなたの気持ちを口にしてもらっていません。そんなこと、私は知りませんよ。ただあなたが、そう思っていただけです」

「……ぁ」

 

ばたり、とリオルの手が落ちる。

それを見届けてから、エルザはキノへと振り返った。

 

「さぁ、キノさん。最後の依頼です。この殺人犯を、官憲に通報してくれませんか?」

 

できれば、子供たちにはわからないように。

 

それが、子供たちを置いてここを去ることになるエルザが、最後にできる気づかいだった。




遅くなってすみませんでした。
原作も進み、新たなキャラ等がでてきたことでまたキノの物語もボリュームが増えそうです。
しかし一方で、オリジナルの<マスター>やエンブリオもたくさん出したい。
そんなジレンマにも悩まされている今日この頃。

次回はそんなオリジナル<マスター>の、何人かいる変態枠の一人のお話。


次回予定「堂々とした話」
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