キノの旅 ―the Infinite World―   作:ウレリックス

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祝・デンドロアニメ化!
ギリギリだけど25日中に投稿したぞぉ! 有言実行だぁ!

追記
ご指摘を受け、後書きを若干変更しています。
不快に感じた方がいれば申し訳ありませんでした。


第30話 愉悦の話②

混戦が始まる中、まず最初に奥から襲い掛かって来たのは硬い甲殻を纏った<マスター>だった。

ガードナー系列でよくある代表的なスキルの一つが合体スキル。ガードナーと<マスター>が合体することでガードナーの特性を<マスター>が得るスキル。

場合によっては、【獣戦士】系列のスキル、《獣心憑依》によりステータスが向上されたうえでさらに合体スキルの恩恵を得ていることも考えられる。

 

「なるほど、まずは硬いやつが先に出てくるってわけね」

 

他にも奥からは光線などの遠距離攻撃などが行われているが、真っ先に出てきた人物は一人のみだ。よほど防御力に自信があるのだろう。

それを見越してか、サリィの近くにいた一人の<マスター>が彼女に声をかけて、一番前に出る。

 

「では、私が参りますわお姉様。いつものようにお願いいたします」

「えぇ、行きなさいなヴィラ」

 

その<マスター>……ヴィラ・マリーは銀色の鎧を装備した金髪の女性。

彼女のジョブは【聖騎士】であり、元々はアルター王国にいた人物だ。

彼女のステータスやジョブを《看破》した甲殻の<マスター>は、この辺りではあまり見ないジョブに若干驚くも、自分と比べれば大した防御力は持たないと判断した。

(フン、俺の方が硬さでは圧倒的に上。回復能力があるから盾対決に名乗り出たのかもしれんが……大した敵じゃないな)

 

自分が防いでいる間にも後ろからの援護が来るだろう。防御力に自信のあった彼は何の警戒もなくヴィラのもとへと突進していった。

対するヴィラは冷静に彼に攻撃を受け止め――

 

「ぐふっ」

 

なかった。彼が突き出した拳をそのまま受けるヴィラ。

しかし、攻撃が成立すると、彼女の<エンブリオ>……鎖でつながれた巨大な手錠が片方は甲殻の<マスター>、片方はヴィラ自身の腕に取り付けられる。

互いの腕についた輪が鎖でつながっている以上、二人は互いを拘束し合っていることになる。

だが……このエンブリオの真価はここからであった。

 

「なに!?」

「さぁいくわよ、《ニー・レイピア》!」

 

ヴィラの後ろから高いAGIにより高速移動してきたサリィは、名前通りレイピアの突きのような鋭い膝蹴りを……()()()()向けて放った。

威力よりはスピードに重きを置いたスキルとはいえ、超級職の手加減なしの攻撃を背中に受けたヴィラはのけぞる

ように悲鳴をあげる。

 

「んあああああああっ! さ、さすがお姉様、激しいですっ……!」

 

だが。

 

「ぐおおおおおお!?」

 

悲鳴をあげたのはヴィラだけではなく、鎖でつながれた相手の<マスター>もであった。

自分の防御力をいともたやすく貫かれたかのようなダメージ。しかし、何が起こったのかを理解するのには、笑顔のサリィによる二発目の蹴りが振るわれてからであった。

 

「んふっ」

「ぐうっ」

 

ヴィラを痛めつけることによって結果的に自分もダメージを受けている。

二人が手錠でつながれていることを鑑みると、答えは一つしかないことに彼は、そして後ろから見ていたキノは気づいた。

 

「そうか、あのエンブリオの能力は、()()()()()()()……!」

 

キノが気づいた通り、ヴィラのエンブリオのスキル、《二人の痛み》は互いが受けたダメージを共有するスキル。このスキルには防御力など関係なく、一方がダメージを受ければもう一方も同じダメージを受けることになる。

これはつまり、ヴィラもまた相手に攻撃すれば自らもダメージを負うという諸刃の剣ではあるが…‥

 

「そろそろですかね……《フォースヒール》」

「あっ! てめぇ、きたねぇぞ!」

 

【聖騎士】であり、【司祭】のジョブも持っているヴィラは自分で自分を回復させることが可能。

相手が回復手段を持たない限り……HPの残量にはどんどん差ができていく。ダメージを共有されても、回復は共有されない。

そうなると当然、相手はエンブリオの破壊を試みるのだが……

「ぐああああ!」

「あらあら。言ってませんでしたね? この鎖を断ち切ろうとすると、ダメージが跳ね返ってきますよ?」

 

必殺スキル、《誰も二人を引き裂けない》。エンブリオに対する全ての攻撃を反射するスキル。

これによって事実上エンブリオの破壊は不可能となる。発動には、あらかじめ一定量のダメージを受ける必要があり、ダメージの総量によって発動時間は変わるのだが……

このダメージはストックが可能。そしてそのストックはスキル発動の際に一気に消費するのではなく、発動を保つためにストックから発動時間に応じてどんどん減っていく方式になっている。つまり……

 

「くそっ、くそっ、離せぇ!」

「さぁ……同じ痛みを感じましょう……? あはっ、アハハハハハハハハハハッ!!」

 

相手が自分を攻撃してもダメージを受ける。自分が相手を攻撃してもダメージを受ける。

必殺スキル発動中でも、受けたダメージは再びストックされる。これではきりがない。

したがってヴィラに勝つには、彼女の回復を止めるなどして、自らが死ぬより先にヴィラを殺さなくてはならない。あるいは逆に必殺スキルの維持ができなくなるまで時間を引き延ばしてからエンブリオを破壊するか。どちらかが必要になってくる。

しかしいずれの手段も、甲殻の<マスター>は持っていなかった。

 

「か、数だ、数で押し切れ!」

 

甲殻の<マスター>は集まった徒党の中では上位の実力者。その人物が事実上封殺されたのだから残った面々としてはたまったものではない。

それぞれが散開しつつ自らのガードナーを解放し、人によっては武装させたり強化したりしてキノ達へと向かわせる。

しかし、それはどちらかと言えば悪手であった。

……TYPE:ワールドであるサリィの<エンブリオ>の範囲に、足を踏み入れてしまったのだから。

 

「わらわらと集まって来たわね…‥《私に傅け》」

 

サリィが発動させたのは《私に跪け》に続く第二のスキル、《私に傅け》。

効果は……範囲内における生物への【魅了】付与。精神系状態異常に対するレジスト装備をしている<マスター>の中には【魅了】を防いだものもいるが……その<エンブリオ>であるガードナーたちはというとそうはいかない。

 

「み、【魅了】だと……!?」

「さぁ! 私に傅きなさい! 味方同士で争い合って、生き残ったら蹴り飛ばしてあげる!」

 

数の有利が、一転して数の不利となる。

TYPE:レギオンの<エンブリオ>を操っていた<マスター>などは特に悲惨だ。数が多いとその分リソースが分散され、一体あたりの力は落ちる傾向にある。したがってその分抵抗力も弱い。サリィのスキルの本質は【魅了】ではないため、それに特化した<マスター>や<エンブリオ>と比べるとレジストされる可能性は高いが……それでも今サリィが対峙している集団相手なら十分であった。

 

【魅了】にかかった者たちは同士討ちを続け、残った者はサリィの宣言通り彼女自身や彼女が連れてきた<マスター>によって次々に倒されて行く。

 

そんな中…‥キノは、ガードナー相手には銃を向けて戦うことができていたものの、未だ人……<マスター>に向かって発砲することをためらっていた。今彼女は事前の指示通り前線には立たず、後方からの射撃に徹している。

相手が<マスター>なら死ぬことはない、そんなこと頭ではわかっている。なのにどうしても、その引き金が引けなかった。

 

(撃てる、相手は<マスター>、なら撃てる……!)

 

なのに手は震えて動かない。

予想以上に、自分がティアンを撃ち殺した……あの時の感触がぬぐえていないらしい。

あの時引き金を引いたことは正しいと今でも思っている。必要なことだったと自分に言い聞かせている。

なのに――

 

 

 

 

 

 

 

「う、動くな! これ以上暴れるなら、このティアンのガキを殺す!」

 

 

 

 

 

 

 

 

突如響いた声。

全員がそっちをむくと、そこにはサリィ達の快進撃に怯える<マスター>の男性と、その<エンブリオ>らしき木の怪物(トレント)。そして怪物に拘束されている子供の姿だった。

 

「……人質だなんて、つまんない真似するじゃないの」

「う、うるさいうるさいっ! 本来なら、このガキは集落を落とすときに使うつもりだったのに……! みんなやられちまってるじゃねぇかよ!」

 

騒ぎ立てる男を倒すことはたやすい。倒すだけなら、だが。

何が問題かと言われれば、やはり人質の存在だ。彼はサリィ達から300メートルほど離れたところにいる。ギリギリまで隠れていたらしいが、ただ逃げようとしても逃げ切れないのではと恐怖した結果人質を使っての逃走を考えたようだ。

事前の情報にはなかったことから、子供が彼らに捕らえられたのはごく最近のことなのだろう。しかし聞いてなかったからといって見殺しにするわけにもいかない。

 

「へ、へへ、そうだ。全部悪いのはこいつらなんだよ、こいつらが悪いんだ。俺が【獣王】にさえなれていたら、こんなことする必要なんてなかったんだから……」

 

さすがに、男も人質一人がいるだけでこの場にいる全員を倒そうだなんてことは思わなかったらしく、おとなしく逃げることを画策しているようだった。

サリィが受けたクエストから考えれば、徒党を壊滅状態に追い込んでいる以上、一人くらい逃してもいいのかもしれないが…‥‥

 

キノは考える。

もし彼を見逃した場合、人質にされている子供はどうなるのか? と。

どう考えても、ろくなことになるかわかったものではない。ならば……

 

「い、いいか! お前たち5人が何かしようとすれば! 俺が死ぬより先に俺の<エンブリオ>にガキを殺させるからな!」

 

……5人。

サリィ、ヴィラ、他3人……前線に立っていたメンバーは確かに5人だ。

だが、明らかに一人足りない。

 

そう……後方で隠れて銃撃に徹していた、キノが数に入っていない。

 

(ブラフ? いや、相手にそんな余裕はない。だったら……!)

 

キノは気づかれていない。

ならば一瞬、ほんの一瞬でいい、時間を稼げれば。サリィがスキルを使うその隙さえ作れれば……!

 

「フゥ…………」

 

静かに、手を動かして弾丸を装填する。今まで使っていた狙撃銃は消音器が付いている。だから男はキノの存在に気付かなかったのだろう。キノは前線に出ずに隠れて狙撃を行っていた。【狙撃手】のジョブを持っていることをサリィが知っていたからこその采配だ。

 

ゆっくりと男に照準を向ける。

不思議と、先ほどまでの手の震えは消えていた。今狙っているのは人間だというのに。

先ほどの後悔は? 恐怖は? いったいどこへ行ったというのだ。

 

(……あ)

 

その刹那、キノは気づいた。何ということではない。

思い出せ。どうしてあの日。ティアンに向かって引き金を引いたのか。

 

「それが、必要なことだったからだ」

 

キノは、引き金を引いた。彼女が憧れた少女のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁ!?」

 

遠くから放たれた銃弾が男の胸を貫く。即死はしなかったようだが、それでもエンブリオの指示を出すまでには至らない一瞬の隙ができた。

そして、その隙を見逃すほどサリィは甘くない。未だ男はエンブリオの範囲内から逃れられてはおらず……彼女は何も考えずに、必殺スキルを宣言した。

 

「《この領域では私が絶対(ディストピア)》ァ!」

「クソッ! ガキを殺せぇ! 撃ちやがったっ、ちくしょぉ!」

 

サリィのエンブリオの名は【絶対領域 ディストピア】。その特性は……”支配”。

《私に跪け》による重力と拘束も、《私に傅け》による魅了も、全て相手の体を支配するもの。

そして必殺スキルでは……体だけではなく、その力を支配する。

 

「お、おい! 何で言うことをきかねぇ! 何で動かねぇ!?」

 

範囲内の存在に対する【拘束】付与だけではなく……さらに一切のスキルを発動することができなくなる。

動けず、力も使えず、そして副次効果として従属キャパシティ内への命令権をも失う。

体も力も、配下すらも支配するスキル。それがサリィの必殺スキル。格上相手にはたやすくレジストされるという欠点があるのだが、超級職【蹴姫】であるサリィと超級職に至れなかった敗残者の男。どちらが格上かは言うまでもない。

 

「……あっ」

「よくやったわキノ! ……それじゃ、あなたにはさよならってことで」

 

男が何かを言うよりも早く、サリィのジョブスキルによる回し蹴りが男の頭を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

「いい狙撃だったじゃないの。これであなたも人をまた撃てるようになったのかしら?」

「えぇ。今はもう…‥大丈夫だと思います」

「あっそ。それじゃ、報酬は渡したわよ。じゃぁね」

 

ヒラヒラと手を振ると、サリィは踵を返しゆっくりと歩いていった。その後ろを、ヴィラがついていく。

キノの方を一度ちらりと見た後、頭を下げて微笑んでからサリィの後を追いかけていった。

二人の背中を見送るキノに、男性の<マスター>が声をかけた。

 

「まったく。姐さんも相変わらずだ……。キノさんも振り回されて大変だったでしょう」

「まぁ、否定はしませんが……それは一緒にいるあなた方の方がよほど」

「でも楽しいからいいんですよ。楽しいから一緒にいるんです」

 

……興味本位で、キノは尋ねてみた。

 

「ちなみに、何が一番楽しいんですか?」

 

その質問に対し、男性は笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「美しい女性が進んで私を踏んでくれるなんて場所、ここしかありません。男冥利に尽きるというものです」




今回登場の<マスター>

名前(アバター):サリィ・S・ディエス
名前(リアル):早乙女 紗理奈
年齢:17
メインジョブ:【蹴姫】(蹴士系統超級職)
エンブリオ:【絶対領域 ディストピア】
キャラ紹介:
レジェンダリア変態枠その3(?)生粋のドS。もちろんデンドロ内で存分に解放しているが、リアルでは一応隠している。隠しきれているかは別として。
実家は大企業の経営者であり、実は高校生でありながら一部の業務に関してはすでに関与している。特に「人を見る目」がかなりあるようで、両親からも相談を受けるほど。
そのため人付き合いもよくカリスマもあるのだが、溢れる支配欲により見下されるのが大嫌い。彼女を見た目や年齢で侮った人物はたいていひどい目にあっている。

<余談>
しばらく記憶喪失と聞いていた友人が回復したと聞き、喜んでお見舞いに行ったのだが…‥そこで彼女がデンドロをプレイしていることを知った。それだけならよかったのだが、自分と違っておとなしいお嬢様、と思っていた彼女がまさかの「監獄」にいると聞き仰天した。友人曰く「そんなびっくりした顔初めて見た」とのこと。


次回予定 「追いかける話」

最近、デンドロ二次小説で特に高評価の小説でも【修羅】が出ておられるそうで。
乗るしかない、この流れに!

ということで次回は、雫回
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