キノの旅 ―the Infinite World―   作:ウレリックス

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第33話 信じている話 ―Prayer for Future―

見る限りの草原地帯。

たくさんの草が風になびいて揺れている中、一台のバイクが走っていた。

 

『ずっと草原ばかりー。ほんとにこの先にあるの?』

「あぁ。なにせルニングスは”草原都市”って呼ばれてるらしいからね。これだけの草原が広がっていても、何の問題もないさ」

 

皇国を出てまだ間もないキノは、アルター王国北西にあるルニングス公爵領へと訪れていた。

比較的温暖なこの地域は王国内でも有数の穀倉地帯であり、見渡す限り植物が目の前に広がっている。しばらく進んでいくと、青々とした草原の中心に都市が見えてきた。

 

「見えてきたよ」

 

 

 

 

 

 

草原都市ルニングスは、自然と街が一体になったかのような、違和感を感じさせない街であった。

自然があふれるだけで田舎というような印象は一切ないし、逆に建物だらけで都市周囲の草原から浮いているというようなこともない。

まさに、「草原都市」という名がふさわしい場所だった。

 

「綺麗な場所だね、ヘルメス」

『そうだね、いい場所なんじゃない?』

 

バイクの<エンブリオ>に乗ることなく、ゆっくりと手で押して街を回る。

のどかな日差しがさすなかで、人々の声も聞こえてくる。

一通り街を見て回ろうかとも思ったが……少し懐が寂しくなっていたことを思い出した。

 

「……しまった、お金がない」

『あーあー。調子に乗って前の街で買いあさるから』

「控えればよかったって? ヘルメスの整備用アイテムもなかった方がよかったかな?」

『それは仕方ない。買い物は大切なことだよね』

 

そんな言葉を交わしながら、一人と一台は冒険者ギルドの建物を目指して移動していった。

冒険者ギルドは思ったよりは混んでいなかったが、それでも依頼を受けようとする<マスター>やティアンが大勢いた。

すでに複数回冒険者ギルドを利用したことがあるキノは、今回もいい依頼がないものかと魔法のカタログをペラペラとめくっていく。

 

キノは王国に来たばかりで、皇国にいたころにカンストまで上げたジョブといえば【操縦士】や【整備士】くらいだ。今は【銃士】も少しずつ上げてはいるが、【騎兵】は最近とったばかりのため全然レベルが上がっていない。したがってキノの合計レベルは200もない。おまけにほとんどDEX寄りのためろくにAGIが上がっていなかった。幸い、<エンブリオ>であるヘルメスの《走行》スキルは《操縦》などがなくても使用できるため、今まで速度が必要な相手はヘルメスに乗りながら銃で撃っていた。

 

「うーん……」

 

そのため、難易度が高いクエストは対象外となる。賞金首となっている<UBM>なぞもってのほか。

これからこの町を出るのであれば配達系のクエストでもいいかもしれないが……来たばかりなのだからできれば避けたい。

したがって、このあたりのモンスターを一定数討伐したり、素材を集めるといった難易度1,2程度のクエストを見て考えることにする。

 

「よし、これにしよう」

 

考えた末に、手ごろそうなモンスターの討伐、ならびにそのモンスターの素材を納品するクエストを選ぶ。

カタログのページを開いたまま、カウンターへと持っていき受注しようと受付の人へと声をかけた。

そのまま希望するクエストを告げ、受注しようとしたのだが。

 

「ち、ちょっと待ってください、そこのコートの人!」

 

後ろから声をかけられ、振り返ると女性が自分でも戸惑ったような顔でキノに手を伸ばしていた。

聖職者のような服装になぜかエプロンをつけていた彼女は、自分の状態に気付くと顔を赤くしてわたわたと手を振った。

 

「あ、その、すみません。聞こえたのですが、あなたが受けようとしていたクエスト……よろしければ、ご一緒させていただけませんか」

「え?」

 

申し出た女性の<マスター>によると。

キノが受けようとしていたモンスターは群れるため数が多いのが難点だが比較的狩りやすく、その報酬からして彼女も狙っていた。しかし一人で数を狩るというのは正直時間がかかる。そこへ同じ依頼を受けようとしていたキノの言葉が聞こえてきたので、パーティを組めないかと思ったのだそうだ。

特に素材に関しては納品数に応じた歩合制の報酬だったため、一緒に狩りができればその分報酬も稼げるのでは、と女性はキノに申し出た。

 

キノは少し考えた後、まぁ時間も短縮できて稼ぎも増えるなら、と女性の申し出を了承した。

そのままキノは二人でクエストを受ける手続きを済ませ、冒険者ギルドを出た。

街を歩きながら、女性はキノへと握手を求め手を出す。

 

「それでは、改めまして。【魔術師】のエリーゼです」

「【銃士】キノです。よろしくお願いします」

 

これが、エリーゼとの出会いである。

 

 

 

 

 

街を出ると、エリーゼは装備を変更していかにも魔法使いと思えるローブ姿になった。

 

「一気に【魔術師】らしくなりましたけど……どうしてエプロンとかしてたんです?」

「あぁ。私は普段、教会で子供たちの世話をしているもので……」

「なるほど。それであの恰好」

 

聞けば今回お金が必要なのも、子供たちのご飯を作るためなのだとか。

もちろん教会の話なのだからそこで食費はあるのだろうが、エリーゼは少しでも子供たちの力になりたいのだそうだ。

彼女だけではなく、ホワイトキャップ、チャイルドビューといった<マスター>も手伝いをすることがあるらしい。ホワイトキャップに関しては王国中を飛び回っているためあまり来れないそうだが。

 

話も終わり、街の外で目当てのモンスターを見つけるとそこからの行動は早かった。

キノはヘルメスに乗って銃で撃ちぬいていく。そしてエリーゼは、《詠唱》を使って範囲を広げつつ、モンスターを魔法で狩っていった。

キノが何度か銃弾を入れ替えた頃、二人ということもあってか思っていた以上に早く群れを一掃することができ、二人は帰路についていた。

 

「さすがに早かったですね。正直、ボクよりもエリーゼさんの魔法がすごかった気がします」

「そう言ってもらえると嬉しいです。でも、私だって数を相手にするのは大変です。キノさんにフォローしてもらったおかげで《詠唱》する隙が作れましたから」

 

エリーゼが言うには、彼女の<エンブリオ>は《詠唱》を強化するものだという。【魔術師】にとっては垂涎ものの<エンブリオ>だが、本人としては「どちらかというと、魔法というよりは言葉を”口にすること”だから私の<エンブリオ>として出たんじゃないでしょうか」とのこと。

思い返してみれば、エリーゼの《詠唱》は祈りの言葉が多かったように感じる。普段リアルで祈りを口にすることが多いのだろうとキノは思った。

 

その後、冒険者ギルドについて報告を済ませ、報酬を受け取る。

当初一人で受ける予定だったが、それ以上の報酬が得られ自然とキノの頬は緩む。

そのまま、エリーゼとは別れるかと思ったが……エリーゼにせっかくだからと教会へと誘われた。子供たちに旅の話をしてほしいし、よければ食事も一緒にどうかと。

キノとしては特に断る理由もなかったため、エリーゼの言葉に甘えることにした。

 

 

 

 

 

サブジョブで【料理人】もとっているというエリーゼの料理は十分おいしかった。子供たちもまた、彼女の料理をおいしそうに食べていた。

子供にじゃれつかれるのは慣れないが……それはもともと子供慣れしていないキノにとっては仕方のないことだった。

そんな明るい子供たちの様子を見て、エリーゼは穏やかに微笑む。

この教会は養護施設としての側面がある。親を失くしたりした子供が身を寄せている場所だ。ティアンは<マスター>と違って死んだらそこで終わり。だからこそそういった子供たちも出てくる。

 

「ありがとうね、キノさん。子供たちと一緒に笑ってくれて」

「え……?」

「子供たちにとっては楽しい思い出ができる。それってとっても大切なことなのよ?」

 

エリーゼはリアルで子供がいるわけではない。しかし、このデンドロ世界において面倒を見てきた子供たちは、まるで自分の子供たちのようであった。

だからこそ、彼女はここにいる子供たち全てに幸あれと願う。

 

「この世界のティアンにも人生がある。それは私たち<マスター>と同じ。彼らが成長していくうえで、思い出っていうのはとっても大事」

「…………」

「だからこそ、私は彼らの未来が輝かしいものになっていると信じている」

 

彼女は信じている。

子供たちの笑顔は、きっといつまでも――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢、か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球・某所で、うたた寝していた女性はゆっくりと目を開けた。

 

それは、懐かしい日々。

我が子のように思っていた子供たちの未来が、輝かしい未来があると信じていたあの頃の記憶。

 

今はもう戻れない、大切な記憶。

 

「……行かなくちゃ。皆のために。私のために」

 

死んだような目で、彼女は幸せな思い出と、そして残酷な現実がつまった世界へとつながる機械を手に取る。

彼女は再び、<Infinite Dndrogram>の世界へと舞い降りる。

彼女を待つ者が、もう誰もいないとしても。

 

 

 

 

 

昼から夕方へと太陽が動き始めた時間帯。

女性は、ログインしてくるとゆっくりと周りを見渡した。

昔とは変わり果てた光景。目を閉じれば思い出せるあの光景も、目を開けてみれば誰もいない、荒れ果てた寂しい情景が見えるだけ。

 

「…………」

 

女性は、賑やかな声が聞こえないことを寂しく思った。

この気持ちを抱いたのは、もう何回目のことだろうか。全てが変わってしまったあの日から、女性は何度も繰り返している。

女性の視界の中で、ひときわ目立つぼろぼろになった建物。女性にとってはここでの日々は何よりも大事なものだったし、あの明るく平和な日々がずっと続くと信じていた。

 

「そろそろ、行きましょうか」

 

 

 

 

目指すは――講和会議。




前話の続き来るかも、と思った人にはすみません。
今回は続きではなく、前話のいわば前日譚。原作「キノの旅」でも、「英雄たちの国」という倒置構成の話があったので、それをイメージして書きました。

次回予定「予測できない話」
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