キノの旅 ―the Infinite World―   作:ウレリックス

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第37話 尽くす話 ―Leave to Others―

「何と言うか、こういうのもいいもんだな。同じ放浪仲間と語り合うってのも悪くない」

「そうですね。お誘いありがとうございます」

『どうもねー』

 

キノとヘルメスは今、旅の途中で出会った男の勧めで、とある部屋の中で腰を下ろしている。いや、バイクであるヘルメスはスタンドを下ろしていると言ったほうが正確か。

彼女らと向き合うようにして椅子に座っているのはキノを誘った<マスター>である。キノが座っているのが背もたれのある木製の椅子なのに対して、男が座っている椅子は「玉座」という言葉が正しいくらいには豪華なものだった。

 

「ローアークさんは、どちらから来られたんです?」

「俺か? 出身がまずアルター王国なんだが……カルディナを通ってこの黄河に来た。なんだかんだ砂漠越えも大変だったが、さすがに海は渡れる気がしねぇよ」

『まぁそうだろうねー。リソース的にも手段ある方がびっくり』

 

ヘルメスの言葉に、まったくだと頷く<マスター>、ローアーク。

方向性は違うが、彼の<エンブリオ>もキノと同じく旅や移動に適した能力を持っている。もっとも、キノ程それに特化した能力ではない。どちらかというと副産物に近く、本質はまた別にある。

移動に特化した分短時間なら空中でも水面でも移動できるキノの<エンブリオ>に対し、ローアークの<エンブリオ>は陸路の移動が限界だ。

 

「だが、それでいいんだ。アンタは世界中を旅したい。俺はとりあえずあちこちいければそれでいい。移動に関してはこうも考え方に違いがあるんだ。そりゃぁパーソナルを参考にした<エンブリオ>なんだから、そういった変化がでてもおかしくないさ」

『なるほど。どこに行きたいかに違いがあるなら、その手段にも違いが出る。当然か』

「あぁ。当然さ」

 

理解が得られて嬉しそうな顔をしたローアークは机の上に置いていたカップを手に取るとおいしそうに一杯を飲んだ。

カップはすぐ空になってしまったため、彼は腰かけていた玉座の肘掛けを拳で軽くコンコンと叩く。

それが合図になっているのか、数分もしないうちにドアがノックされ、お盆の上にティーカップとポットを乗せた黒髪のメイドが部屋の中へと入って来た。

一礼すると、メイドはローアークのティーカップを取り換え、ポットを持ってキノの方を向いた。

 

「あ……ボクもおかわりいただいていいですか」

 

コクリと頷いたメイドは、丁寧な所作で差し出されたキノのカップへとお茶を注ぐ。

注ぎ終えると、メイドはポットだけを机の上に残してまた一礼すると部屋を後にした。

 

「別の部屋には【料理人】のスキルが使えるメイドがいてね。お茶をとりあえず用意したが、もし要望があるなら簡単な食事くらいなら作らせる。気兼ねしなくていい」

「そう、ですか。もしお腹がすいたらお願いします」

「あぁわかった。言ってくれればすぐにメイドに伝えるから教えてくれ」

 

外からはズズン……と地響きのような音が聞こえる。

だが、そんな音にも二人は一切気にした様子はない。そのままお茶を口に運んでいた。

 

「先ほどのメイドさんは……ずっとここに?」

「ずっと? ……あぁ、まーずっとと言えばずっとか?」

『ねぇキノ。気づかなかったの?』

 

何でもないことのように尋ねてきたヘルメスにえ? と疑問を漏らしたキノ。一方で最初から知っているローアークはこっちが気づいたかと愉快そうに笑う。

 

『あのメイドさん、()()()()()()()?』

「……え」

 

見た目はどう見ても普通の人間だった。せいぜい一言も口にしなかったのが気になったくらいか。

ならば一体何なのか。その答えは、この部屋の主であるローアークが教えてくれた。

 

「その<エンブリオ>の言う通りだ。さっきのメイドも、【料理人】のスキルがあるメイドも。皆俺がスキルで作り出した存在だ。人間じゃないのさ」

「でも、今【料理人】のスキルが使える、と」

 

<マスター>やティアン、すなわち人間範疇生物とそうでない生物を分ける基準の一つが「ジョブにつけるか」、である。だからこそ、【料理人】ならば人間ではないのかと思ったのだが……

ローアークは「【料理人】のメイド」とは一言も口にしていない。彼はあくまで、「【料理人】のスキルがあるメイド」という言い方をしている。

 

「俺のサブジョブの一つが【料理人】だ。つまりスキルでメイドを作り出した際、任意で一つサブジョブを選び、そのジョブのスキルが使えるようになるのさ。ま、ステータスはそれこそ上級職一つ分くらいと大したことないから、<マスター>やティアンと比べたらできることはどうしても限られちゃうけどな」

「へぇ……ちなみに、その召喚コストはどうなってるんです?」

「【悪魔騎士】……だったか? どうも悪魔を召喚するジョブと同じ仕組みみたいだな。あらかじめ素材とかをコストとして捧げておいて、それをリソースに使うんだ。あとは召喚中のMP消費だな」

 

なるほど、とキノは頷いた。

便利なスキルだが、彼の<エンブリオ>を考えるとこの召喚スキルはいささか便利すぎる。だからこそ、召喚の際の外部コストや召喚維持のためのMP消費があるのだろう。

そのためかローアークの装備をよく見てみれば、つけているアクセサリーの全てがMPを継続的に回復させるものばかりだ。MPを上昇させるアクセサリーもこの世界には存在するが、彼のスタイルを鑑みるに継続回復の方が重要だろう。

無理もない、とキノは思う。

 

何度目かわからない振動と爆音を感じて視線を窓の外へ向けると、その視線に気づいたのかローアークも苦笑を浮かべた。

 

「悪いな、さすがに部屋に防音機能とかまではついてないんだ。この振動もそういうもんだと諦めてくれ」

「いえ、こちらこそ気にさせたようならすみません」

『ご自慢のお部屋でもさすがにそこまではないかー。完璧な理想の部屋! ってわけにはいかないよね』

 

まぁな、とヘルメスの言葉に頷くローアークだったが、一方で全てを肯定したわけではなかった。一つだけ訂正するなら、と指を一本立てる。

 

「俺はこの状態でも、十分理想の部屋だって胸を張って言えるぜ? 俺はただのんびり座っているだけでいい。腹が減ったらメイドを呼べばいい。掃除も不要だ。暇なら寝てもいいし、適当に本でも読んでいい。十分理想的だろう? 外の音なんて慣れりゃ気にならないよ」

『うわー自堕落な部屋。キノがそんな部屋を手に入れてしまったらどうなることやら』

「余計なお世話だよ、ヘルメス」

 

アハハハ、と部屋の中に笑い声が満ちる。

一通り笑った後で、メイドに持ってこさせたサンドイッチを片手にローアークがキノへ問いかけた。

 

「なぁ。アンタ、RPGはしたことあるか? 楽しかったか?」

「え? えぇ、まぁ、少しはしたことがありますが……」

 

RPG、ロールプレイングゲーム。

あるいは勇者に、あるいは狩人に。レベルを上げて仲間たちと戦うのがRPGの王道だ。

ゲーマーなら一つはプレイしたことがあるだろうジャンル。ローアークが急に何の話を始めたのかよくわからなかったが……続く言葉で合点がいった。

 

「俺はRPGが好きじゃなかった。特に、()()()()()()()()()とにかく嫌いだった」

 

レベル上げ。ゲーム、特にRPGではよく出てくる概念だし、何よりこのデンドロでも存在する言葉だ。

それがキャラのレベルかジョブのレベルかはゲーム次第だが……多くのゲームは、レベルを上げることで強くなる。

ローアークは、そのレベル上げがとにかく嫌いだったのだという。

 

「倒す必要のない敵をとにかく倒しまくって、レベルのためだけに戦い続ける……何度時間の無駄だと思ったか数えきれねぇ。デンドロにもジョブが、そしてレベルがあるって事前情報で聞いたとき俺は迷ったよ。またあのめんどくせぇレベル上げをするくらいならプレイするのやめようかってな。だが一方でデンドロに対する数々の評判からはどうしても目を背けられなかった」

 

俺はレベル上げという”作業”が嫌いなのであって、ゲームは大好きだったから……と。

 

迷った末に、彼はデンドロを始めた。そして、自分の判断は正しかったのだと知った。

理由はいくつかあるが、一番大きかったのが、やはり<エンブリオ>だろう。

ずっとレベル上げをしたくないと、可能ならば”何もせずに楽しみたい”と思っていたローアークの願いにこたえるように……彼の<エンブリオ>は孵化した。

 

「でも、結局ジョブにはついて、レベルは上げたのですね」

『それも<エンブリオ>で楽になったの?』

「まあな。お金を稼ぐために戦闘したから、ってのもあるが……。気づいてるだろうが、俺の<エンブリオ>はMPあってのものだ。だからこそステータスは上げなきゃいけなかった。戦闘は全部<エンブリオ>任せにできそうだったから、俺はいかにジョブ構成でそれが実現できるか、そしていかに楽に過ごせるか考えたよ。レベル上げの作業と違って、自分のジョブ構成を探るのはこのゲームの醍醐味だ。わかるだろ?」

 

その言葉にキノは頷く。

”キノ”というキャラクターに近づくために、そしてヘルメスで旅をするためにどんなジョブに就いた方がいいのか。ジョブについての情報を片っ端から見たり探ったりしたのはいい思い出だ。かつては【冒険家】などにも就いてみたことはあるし、天地では師匠に上級職についての助言をもらったこともある。

 

「最初はもちろん<エンブリオ>一つで、今みたいにメイドなんて呼べなかった。今みたいに部屋でダラダラするだけ、とまではいかなかった。けれど俺の<エンブリオ>は一歩一歩、だが確実に、俺の理想へと近づいてくれたよ。俺もジョブを探った末に、今のジョブ構成に落ち着いた。サブジョブはメイドが持って便利そうなものやステータスのために。そしてメインジョブは戦闘しなくていいうえにMPが上がるものに」

「それでそのジョブ、なんですね」

 

《看破》のスキルを持つキノには、すでにローアークのメインジョブが見えている。特に隠蔽するつもりもないようだし、アクセサリー枠が埋まっている以上隠す理由もないのだろう。

 

「おっと、そろそろ目的地か? 話に付き合ってもらって楽しかったよ、ありがとな」

「えぇ。……こちらこそ、お話、ありがとうございました。いい<エンブリオ>ですね」

「礼を言われるようなことじゃねぇよ。言ったろ? 理想の部屋だと胸を張って言える、と」

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、キノ』

「なんだい? ヘルメス」

 

キノとヘルメスは、遠ざかっていく大きな影を見送りながら話す。

キノの視線の先にあるのは……巨大な小屋のような、それでいて生物のような物体だった。4本足でズンズンと歩いており、二つの側面にはそれぞれ顔のようなものがあり、その目や口からは光線が放たれて辺りのモンスターを攻撃している。壁からは大砲のようなものが飛び出ている箇所もあり、そこからも砲撃が行われている。MPで魔力が充填され、【砲兵】あたりのジョブを持ったメイドが撃っているのだろう。

 

その物体こそ、今までキノたちがいた”部屋”であり、ローアークの<エンブリオ>。

 

『どっちだと思う?』

「それだけじゃわかんないよ、ヘルメス。なんとなく聞きたいことはわかるけどさ」

 

最後にキノが地上へと降りるとき、ローアークはメイドたちと一緒に見送りをしてくれた。

その彼の頭上には”【生贄】ローアーク”と、彼のメインジョブと名前が浮かんでいたこと、そして彼の後ろにいたメイドの姿をした()()たちのことをキノは思い出す。

にこやかな彼とは対照的に、無表情で並んでいた眷属たちのことを。

 

『メイド悪魔も含め、あの<エンブリオ>は<マスター>のために働き続けている。そして<マスター>は、ずっと<エンブリオ>にMPを供給し続けている。MP継続回復のアクセサリーまでつけてさ』

「まるで悪魔に捧げられた……生贄みたいに」

『そうそう』

 

一拍間をあけた後、ヘルメスはキノに再度問いかけた。

 

『相手に尽くし続けているのは……どっちだと思う?』




【相互利廻 ベリアル】
<マスター>:ローアーク
TYPE:ガーディアン・フォートレス 到達形態:Ⅴ
能力特性:代行
スキル:《魔力砲》《眷属生成》《自動回収》
必殺スキル:《ただ玉座に座するのみ(ベリアル)
モチーフ:助力や使い魔を与えるとされる悪魔”ベリアル”
備考:
《魔力砲》
アクティブスキル。
MPを消費して魔力の砲撃を放つ。目や口から出る巨大サイズのものや大砲サイズのものなど様々な種類があり、消費MPもそれぞれ異なる。
なお、このスキルはローアークだけでなくベリアルや眷属の任意でも発動可能。もちろんMPはローアークが消費。
《眷属生成》
アクティブスキル。
あらかじめ素材などをコストとして捧げておき、任意で眷属の悪魔モンスターを召喚する。眷属はローアークのサブジョブから召喚時任意で選んだジョブのスキルを使用可能。
召喚を維持するためには一定時間ごとにMPの消費を必要とする。最大召喚数は10体。
《自動回収》
パッシブスキル。
【ベリアル】及びその眷属が倒したモンスターの素材を自動で回収する。
なお、回収した素材の1割はベリアルに還元される。
ただ玉座に座するのみ(ベリアル)
【ベリアル】の必殺スキル。パッシブスキル。
<マスター>であるローアークがベリアル内にある玉座に座っている間、【ベリアル】の固有スキルや眷属の召喚維持に消費されるMPの量を大きく軽減する。
このスキルが発動している間、ジョブスキルは使用不可。



最近なかなか原作キャラが出せない。次も出ない予定です。

次回予定「幻の話」
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