キノの旅 ―the Infinite World―   作:ウレリックス

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久しぶりの、中編開始です。


第39話 使い方の話① ―Fear―

「……どうしたものかしら」

 

フランクリンによるギデオンでのテロ事件から数日後。

<流行病>からようやく回復したアルター王国第一王女、アルティミア・A・アルターはテロ事件に関する膨大な量の報告書に早くも頭痛を覚えていた。

対処しなければならないことが、あまりにも多い。幸いにも、民間人に死者は出なかったが、衛兵や騎士などには死者も出たと聞いている。まずは彼らや遺族への対応が急務だと考え、報告書を読み進める。

 

「…………」

 

報告書において、どうしても出てくるのが<マスター>の存在。

事件を起こしたのが<マスター>である一方で、その事件を解決へと導く立役者となったのもまた<マスター>。

正直、アルティミアは<マスター>に対して良い感情は抱いていない。王国と皇国との戦争において、彼女は父をはじめ、あまりにも多くを失っている。あくまでも戦争の結果ということは理性ではわかってはいるが、それでも<マスター>への不信が彼女の中には根強く存在している。

 

特に、<超級>という存在には。

尊敬する師を殺したのは皇国に所属していた<超級>であり、父を殺した<マスター>も今では<超級>の一人だ。

また、自国では常日頃から無理難題を吹っ掛ける<超級>が何度もアルティミアの頭を悩ませている。

正直<マスター>の中でも、一番強力だが一番信じられない者たちだ。

 

「……無所属と思われる<超級>の目撃証言。目撃されたときには離反者の<マスター>達と戦っていたそうだけど…‥…厄介ね」

 

その中でも、今回アルティミアの頭を悩ませる一人の<超級>は少々特殊だ。

今は国家に所属していないフリーの<超級>らしく、各地で目撃情報があるため姿は情報に通じたものならティアンでも把握している。しかし、知られている<超級>こそ今回のような事件では姿を隠したり陰で静観していそうなものなのに、なぜか中途半端に騒動へと介入している。

姿が確認されただけでなくそれが余計に疑念を掻き立てるため、アルティミアへと報告されたのだろう。

 

「さすがに放置はできないわ。昔は天地に所属していたようだけれど、今は無所属というのなら皇国とつながりがあってもおかしくない。内側にいる危険な<超級>はあの寄生虫だけでも十分なのに」

 

頭の中によぎる女性の顔を無理やり追い払って、彼女は紙に書いてある名前を睨みつけた。

<マスター>に調査を依頼するのはナシだ。本来なら自分が調査に出向きたい。しかし病み上がりなうえにテロが起こったばかりのこの状況で自分が出るのはまずい。仕事が溜まっているし、万が一相手が皇国の手先であり、自分に何かが起こったら目も当てられない。

しばらく考えた後に……仕方がないと決心をした。

 

「忙しいでしょうが、彼女にお願いしましょう……」

 

 

 

 

 

「ふあ~~あ……」

 

ログインしてから大きくあくびをしたこの少女、<マスター>としての名前は雫。

デンドロにおいて100人といない<超級>の一人であり、先日起こった事件の中ではキノとの再戦予定が見事に潰れた八つ当たりで大勢のPKを相手に暴れまわり、最後は【獣王】とその<超級エンブリオ>と遭遇した結果デスペナルティとなっていた。

 

『雫様、おはようございます』

「おはよう、タマ。もう昼だけどね」

 

ポン、と小さな音を立てて姿を見せたのは雫の<エンブリオ>であるタマズサ。彼女は普段からメイデン態としての姿をあまり表にしたがらず、今回も白い犬の姿になって現れている。

 

「どうやら、王国は無事事件を乗り越えられたみたいだね。一応リアルの方でも情報集めたんだけど、【破壊王】が正体を明らかにしたうえで大活躍だったみたいだよ」

『確かに、町中に活気がありますね。もしフランクリンの企みが成功していたのならとてもこんな活気はないでしょう』

 

街を歩いてみれば、あちこちに破壊の跡が見られるものの、人々の多くは笑顔を浮かべている。もちろん、死者が出たほどの事件なのだから全ての人間が、とまではいかないが……それでも、街の中には「危機を乗り切った」という雰囲気が感じられていた。

あの事件の中で雫が行ったことは大したことではない。正直、<超級>でない誰かでも複数人いれば十分同じことは可能だっただろう。

 

「さて、何をしたものかな」

 

デンドロにはこれといった目的は存在しない。何をするもしないも個人の自由。

しかしこれをゲームとして考えるのであれば、「このクエストを進めなければならない」などの指標がない分何をしようかと手持ち無沙汰になってしまうことも多々ある。

冒険者ギルドにでも行って何かクエストでも探そうと思ったが……

 

「失礼します。雫さん、で合っていますか?」

 

声をかけられて振り向くと、金髪の騎士が立っていた。

手に持った写真と雫の顔とで視線を行ったり来たりさせていたことから、どうやら雫個人に用があって来たらしい。

近くを歩く<マスター>が何人か騎士の顔を見てえっ、と立ち止まることもあったことから、この騎士は知ってる人多いのかな? と疑問に思う。王国に来たばかりの雫は目の前にいるティアンの顔は知らなかった。

それこそ、彼女はファンクラブもできるほど王国では有名だというのに。

 

「はじめまして。私は近衛騎士団副団長、【聖騎士】リリアーナ・グランドリアです。少しお話したいことがありますので、よろしければ場所を変えませんか?」

『いかがいたしますか、雫様?』

「……そうだね、いいですよ」

 

特にこれからすることが決まっていたわけでもない。雫はリリアーナの提案を飲み、そのまま騎士団の詰め所へと移動することになった。

 

 

 

 

 

「すみません、こんなところまで」

「いえ、お気になさらず」

 

にこやかに応対するリリアーナだったが、内心では割と緊張していた。

第二王女の警護の任に当たっていた彼女へと急に与えられた任務、それが雫への接触だった。<流行病>のためギデオンへは来なかった第一王女からの指令には「フリーの<超級>がギデオンに滞在している。可能ならば目的や背景などを探ってほしい」というものだった。

 

先日はフランクリンの事件があったが、そもそもそれ以前に<超級激突>というイベントが開催されていた。それを見に来ただけという可能性もある。アルティミアもそれはわかっていたから、もし国外へ出るようだったら深追いは不要だと伝えている。しかし、姿を隠すようなこともなく堂々とギデオンに滞在する姿が確認されていたため、アルティミアまで報告があがってきたのも事実。

イベントだけならもう移動を始めてもおかしくない。それがないからこそ、雫の動きはいやでも注目されていた。

 

「雫さんはどうして王国に? やはり<超級激突>ですか?」

「いえ、確かに<超級激突>は見ましたけど、それは本題ではなかったというか、ついでというか」

 

実に穏やかに話す雫であったが、リリアーナの心境まで穏やかになることはない。

彼女から見れば仕方がなかった。つい最近他国の<超級>(フランクリン)によって事件を起こされたばかりだというのに、目の前にいる<超級>()は<超級激突>以外に目的があってここにいるという。だからこそ、その目的が何か、と問うのは自然なことだった。

 

「そうですか……では何か他に目的が?」

「ええ。実は天地にいた時からずっと会いたかった人がいて。いや、その! こっちがライバルに思ってるだけなのかもしれないですけど! その人は各国を旅している<マスター>なので、いつかまた再戦できたらって追いかけたらここまで……」

 

少しワタワタしながら話す雫を見て、リリアーナは一気に緊張がほどけていくような気持ちになった。

もちろん、まだ皇国とかかわりがないと確定したわけではないが……今の話に《真偽判定》は反応しなかった。何より、恥ずかしいのか少し顔を赤くして手を振る彼女が王国に悪意があるようにも到底思えなかった。

彼女が王国に訪れた主目的がわかったところで、これならばとリリアーナはさらに雫へと話を持ち掛けることに決めた。

 

「ところで雫さん。今夜、お時間ありますか?」

 

一通り話をしたうえで、リリアーナは雫へと話を切り出した。

 

「え? えぇ、まぁ……」

「よかった。実は、天地にいたという雫さんの腕を見込んで、お願いがあるのです」

 

リリアーナの話はこうだ。

先日、ギデオンから離れた場所でアンデッドのUBMが発生した。そのUBM自体はある<マスター>に討伐されたので問題はないのだが、発生した経緯が問題であった。

なんでも、盗賊団が怪しげな呪術によった結果生まれたアンデッドがそのUBMであり、その特典武具が怨念に関わる能力を有していたことから、その場所で怨念が残っている可能性があり、モンスターが活性化していないか調査する必要があるという。

 

「アンデッドが相手ならば、我々【聖騎士】は相性的に有利です。本来ならば我々だけで動きたいところですが何分先ほどの事件があって人手が足りているわけではないので……」

 

忙しいだけではなく、犠牲者も出ていることから人員が減ってしまっている。そのため手を借りたいというのがリリアーナの話だった。

 

「なるほど、そういうことですか」

「もちろんお願いするだけではありません。今回、私も同行させていただきます。また、回復役としてもう一人、<マスター>の方に協力をお願いしています」

「……わかりました。その依頼引き受けましょう」

 

リリアーナの頼みに、任せてくださいと雫は笑顔で胸をたたいた。

それと同時に、クエストを受領したと認定されたためか雫へアナウンスによる通知と表示が現れる。

 

【クエスト【ゴゥズメイズ山賊団アジト跡地の調査――難易度:七】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

(難易度……七か。そこそこ高いな……)

 

冒険者ギルドのクエストとは違い、イベントクエストの難易度は管理AIによってクエストの内容だけでなく周囲の環境などからその難易度が算出される仕組みになっている。

今回のクエストの主目的が「調査」であることを考えると……難易度が高いように感じられた。

 

「あ、そうだ。ご紹介しておきましょう」

 

思考していた雫は、リリアーナが急に話しかけてきたことで我に返る。

どうやらもともと詰め所にいたらしい人物がリリアーナに呼ばれたらしく部屋に入って来た。その女性はパッと見た感じは軍服のような服装をしており、短い銀髪と紫色の鋭い目つきが雫の目に映る。

しかし一方で、頭の上にはナース帽とよばれるものをつけているのが妙に違和感に感じられた。

 

「この方が、本日協力していただけることになった雫さんです。雫さん、こちらは」

「はじめまして、雫殿。私は……」

 

背筋の伸びた姿勢から自然に、それでいてきっちりと礼をする女性からはだらしなさの欠片もない、整然とした印象が強く感じられる。

この女性こそ、かつての戦争においては戦闘もさることながら傷ついたティアンの手当て、回復に全力を尽くし、多くの犠牲が出たとはいえ、彼女がいなければもっと犠牲が増えていたとまで言わしめた人物。

属していたクランの意向に逆らって戦争に協力したことからクランのオーナーであり<超級>……”月世界”扶桑月夜と大口論の末、彼女を()()()()()()クランを脱退したという逸話を持つ<マスター>。

 

「ホワイトキャップ、と申します。よろしくお願いいたします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのモンスターは、恐れていた。

 

そのモンスターは、恐れているが故に何かの跡地らしき、怨念渦巻くその場所まで逃げてきた。

 

そのモンスターは、恐れているが故に”力”を得てなお、その恐怖心と警戒心を捨てることはなかった。

 

そのモンスターは、恐れているが故に……近づいてきた<マスター>を、誰彼構わず襲うつもりでいた。




ちらちら名前が出ていたホワイトキャップさん、ついに登場。


えー、この拙作を読んでいただいてる皆様は、デンドロwikiなども見られることが多いでしょうからお気づきになったかもしれません。
先日、11巻発売記念ツイッターキャンペーンの書下ろしの中にて、とある情報が明かされました。

役者系統の原作での言及!
そしてその超級職、【千両役者】!
そしてその読み方こそ、「グレイト・アクター」!

……はい。準メンバー「ノーフェイス」のメインジョブ、読み方が見事にだだ被りしてしまいました。
当然のことながら原作を第一としたいので……暫定的に読み方を「ギガ・アクター」と変えることにしました。
「ギガ・プロフェッサー」からの苦肉の策です。

上級職の情報が明らかになったらそちらに合わせるつもりでいます。
役者系統が原作で言及されたのは嬉しいですが……ただ、原作がこの小説と同じスキル「役作り」があるのかと言われたらまあ怖いところで。
さすがにノーフェイスのバトルスタイルまで作り変えたくはないので……今後の原作の展開次第ですが、場合によってはノーフェイスのメインジョブを変更する場合があります。

これも二次小説を書かせてもらっている以上、原作優先のためと、ご理解いただけると幸いです
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