キノの旅 ―the Infinite World―   作:ウレリックス

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そっと投稿。


第40話 使い方の話②

移動には馬が使われる……予定だったが、雫は馬ではなく、【リンドウイン】で作り出した霊獣の背に乗っていた。

 

『雫様、揺れは大丈夫ですか?』

「うん、大丈夫だよ。いつもありがとう、タマ。ところで、一つ聞いていいかな? ホワイトキャップさん」

「えぇ。なんでしょうか?」

 

移動している間、雫は一つ気になっていたことがあり、ホワイトキャップに質問を向けた。

 

「噂だと、王国の<超級>を殴り飛ばしたって聞いたんだけど……何があったの? 同じクランだったんでしょ?」

 

クエストまでの間、少しホワイトキャップという<マスター>について雫は調べていた。

リリアーナというティアンが自分に接触したことで、王国が<超級>である自分に注意を向けているのではないかとは思っていた。なにせフランクリンという<超級>が事件を起こしたばかりである。

同じ国外の<超級>に注意を向けるのは自然だと思った。

 

そこで、当然自分と一緒にクエストを受けるという<マスター>についても興味が出る。

自分が警戒されている以上、それなりの<マスター>が選ばれるものと雫は考えた。だからこそ、ホワイトキャップという<マスター>も知られた実力者ではないかと思い<DIN>で情報を集めてみた。どれだけの実力者か、ということがそのまま雫に対する警戒度にもつながる。

 

その結果出てきたのが、「”月世界”扶桑月夜を殴り飛ばしてクランを脱退した」という逸話だった。

 

「私も……気にはなっていました。ホワイトキャップさんらしくない気もしましたし」

「いえ、何と言うか……そこまで大したことではないのですが」

 

二人から向けられた視線に、ホワイトキャップは少し困ったような表情を見せたが、興味津々でどこか輝いているような目を向ける雫を見ると、ハァと小さくため息をついた。

 

「扶桑月夜……彼女がどういう人間かは、ご存知ですか?」

「え? えぇ少しは」

「まずは彼女のこと、そして私が所属していた月世の会に関して、説明する必要があります」

 

クラン”月世の会”のオーナー、”月世界”の扶桑月夜。

そもそも月世の会というクランは現実に存在する宗教団体がデンドロにおいて構成した宗教クラン。扶桑月夜はクランオーナーであると同時に、宗教団体の教主でもある。

 

「この月世の会は戦後、医者であった扶桑月世によって作られたものです。<月世の会>を誕生させた扶桑家は現在でも病院を経営しています」

「……なるほど」

 

ホワイトキャップは知る由もなかったが……その病院のことを、雫はとてもよく知っていた。ホワイトキャップよりも、ずっと。

 

「ここからは他者のリアルの話になりますのであまり他言してほしくないのですが…‥当然、教主である扶桑月夜も医者への道を志しています」

 

ホワイトキャップと扶桑月夜が揉めることとなった原因の一つが、扶桑月夜が「医者を志している」こと。もちろんそれだけではホワイトキャップが激怒して口論まで発展することはなかった。発端となったのは扶桑月夜の立場に加え彼女の性格、そして……第一次騎鋼戦争。

 

「そういえば、あなたが抜けたのは戦争の後の話でした……」

「リリアーナさんの前では言い難いのですが……月世の会が王国と交渉の末、戦争に参加しなかった。それ自体に思うことはないのです。クランの人たちは皆王国に所属する人々であっても、王国が所持する戦力ではない」

 

だから、ホワイトキャップとしては皇国と違い王国が報酬を用意しなかった以上、彼女が<月世の会>を動かさなかったことはむしろ自然なことだととらえていた。

 

「もちろん、彼女はクランを動かさず自身も参加しませんでしたが、クランメンバーに参戦を禁じたわけではありませんでした。だからこそ、当初は私も思うところはなかったのです」

 

それが翻ったのは……戦争後である。

その時ホワイトキャップは、戦争に参加したために甚大な被害を受けた王国のティアンたちを目の当たりにしていた。皇国の<超級>達による被害も多かったが、それ以外でも多くの被害を受けていた。具体的に言うとそのままでは命が危うく、生き残ったものの重度の障害を抱えて生きる重傷者ばかり。

だからこそ……戦争が終わった後なら、月夜も重い腰を上げるだろうとホワイトキャップは考えたが……。

 

「リリアーナさんはご存知ですよね。その後の話を」

「えぇ……」

 

扶桑月夜はここぞとばかりに、「<月世の会>のメンバーが希望したら騎士系職業の推薦状を書くならば治療を行う」という条件をつきつけた。元々彼女は、最初から無茶な要求を掲げ、相手が飲まざるを得ない状況を待つというスタンスだった。さらに実現されはしなかったが、「王国が所有する宗教施設の一部を<月世の会>のものにする」という条件を当初は掲げていたらしい。

 

この足元を見るような提案に激怒したのが……ホワイトキャップ。

 

「仮にも医者を……人の命を救う職業に就こうとするものが、しかもメイデンの<マスター>である彼女が。人の命を天秤にかけた要求をしたことは、どうしても許せませんでした。私も医療系の職業に就いていますので、余計に」

 

扶桑月夜の要求を知ったホワイトキャップは、怒りのままに月夜へと詰め寄った。

リリアーナ(ティアン)の前である以上言葉を濁したが、メイデンの<マスター>はデンドロ内の命を現実の命と同じ重さと見なしている、と言われている。つまり、ゲームだからと軽視することもなく、命の重みを理解して尚、その命を医者志望の月夜が天秤にかけるような要求を王国に行った。戦争が終わった後でもそのような態度を見せる月夜に納得などできるわけがなかったのである。

 

そして、言及はやがて口論となり、最後には月夜を殴り飛ばしてクランを脱退することになった。

 

「……と、いうわけです」

「なるほど、そんなことがあったのですか」

「さて皆さん、そろそろ目的地ですよ」

 

話をしているうちに、ついに目的地へと到着した一行。

三人の目の前にあるのは崩れた砦跡。また、辺りにはところどころに何か巨大なものが暴れたかのような跡が残っている。おそらくこれが、リリアーナの話に出てきたUBMのことだろうな、と雫は思った。

 

到着するとすぐに、周囲の調査から始めていく。戦闘跡はところどころに見られるものの、今回の目的はあくまでUBMの影響が残っていないか、モンスターの活性化していないかの調査が目的である。

見たところ、アンデッドのモンスターが闊歩しているような光景は見られない。モンスター自体、周辺にはいないようであった。

 

「うーん……特に問題はなさそうですね」

「ならば、砦の中へ行くべきでしょう」

「一番アンデッドがいてもおかしくない場所ですからね、無視はできません」

 

アイテムボックスから手提げ型のランプを出すと、暗がりとなっている中を照らしながら足を進める。リリアーナもいつアンデッドのモンスターが出ても問題ないように、アンデッド特攻の効果がある《聖別の銀光》を発動させている。

 

警戒しながら歩いてはいるが……外同様、モンスターがいる気配はしない。実際のところ、UBMが発生した際に発動した術式、《グラッジ・アンデッド・クリエイション》は辺りの怨念を根こそぎ吸収していた。そのため、砦内の怨念もほとんとが吸収されて残っていなかったのである。

中にいたアンデッドも、戦闘の中である【聖騎士】が《聖別の銀光》を使って倒したため、怨念は浄化されている。

 

三人が奥へと進んでいってもUBMの影響が残っているようには見られない。リリアーナの頭の中で、今回は問題なしとみていいか……そう思ったとき。

 

「あ、あれ!」

 

奥に、ふらふらと揺れるように佇む黒い影が見えた。そのシルエットは猿のようなもので、シルエットでも全身が毛に覆われていることがわかる。

 

「リリアーナさん!」

「はい! 攻撃は私と雫さんで、ホワイトキャップさんは回復に専念を!」

「わかりました!」

 

何か相手が仕掛けてくる前に、そう考えた雫は腰にさした刀を構え、間合いに入った時点で《居合い》を用いてAGI強化からの抜刀攻撃を放とうとする。

だが……強化されたAGIにより振るわれた素早い抜刀は、驚くほどにあっさりとシルエットを両断した。手ごたえがなかったわけではない。

だがまるで、「避けようとしなかった」ような……?

 

「つっ!?」

 

次の瞬間、雫は肩に何かで斬られたような感触を受ける。

いや、何かとはそう、まるで刀のような……!

 

「リリアーナさんまずい! この黒い影、受けたダメージを返す能力がある、いうなれば囮だ!」

「そのよう、ですね……!」

 

雫がたじろいだ様子を見て、慌てて剣を止めたリリアーナ。しかしその隙に影は鋭い爪をもった手を振り上げてリリアーナへと攻撃しようとしたので、攻撃する代わりに剣で受けとめる。

 

「実体はある……ならば放置するわけにも……」

「返されたダメージは回復します、お二人はペースを見て攻撃を!」

「わっかりましたぁ!」

 

ホワイトキャップの支援を受け、ダメージに構わず雫は次から次へと湧き出してくる黒い影を切り捨てていく。確かにダメージが自分にもある程度返ってくるのは厄介だが……実のところ、雫にとっては都合がいい。

このまま少しずつ()()()()()()、本体を見つけ出して叩く。それができれば雫たちの勝ちだ。

そう思って声をかけようと振り返った雫の目に……離れた位置に立つホワイトキャップの、その後ろに立つ黒い影が映りこんだ。

 

それは今まで自分たちが戦っていたぼんやりとした影のように見えたが、爪を振り下ろそうとしたとき、黒い毛に覆われた獣の姿がはっきりと見えた。

 

「ホワイトキャップさん! 後ろ――」

 

間に合わない。

本体は隠れて自分たちの戦闘を見ていたのだろう。そしてそれぞれの動きを見定め、ホワイトキャップを……回復役を的確に狙って攻撃を仕掛けてきたのだ。本体は《気配遮断》のスキルも持っていたのか、接近に誰も気が付かなかった。

 

そのまま、爪がホワイトキャップへと振り下ろされ

 

 

「ハァッ!!」

 

 

……る、前に獣の方が大きく後ろへと()()()()()()()

回復役であるはずの彼女はステータス的には雫たちには劣っていたはず。獣の目にはそう見えていた。

だがホワイトキャップの動きは、ステータスでは説明しきれない。ステータスによる速さによるのではなく。的確な体さばきと技術に裏打ちされた殴打が、避けさせぬままに獣の腹へと突き刺さっていたのだから。

雫の脳裏には、天地での修行の日々と常人離れした戦闘能力を見せつけた女性の姿が浮かんでいた。

 

「あれは……間違いない、()()()()()()()()()()()()……!?」

 

一歩下がった猿のような獣の前には、フゥーと大きく息を吐いて構えをとる女。

 

 

 

 

 

彼女の名前は、ホワイトキャップ。

 

扶桑月夜を殴り飛ばした女。

 

ステータスで劣るはずの《超級職》……【女教皇】を、回復型のジョブ構成にもかかわらず、()()()()()()女。

 

彼女のジョブ構成は、ゲーム界隈でも珍しい……「殴りヒーラー」と呼ばれるジョブ構成である。

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