キノの旅 ―the Infinite World―   作:ウレリックス

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戦争編が進む前に・・・いやちょっと手遅れだけど「PK殺しの森」編、いくぞぉ!


第45話 庇われた話① ―Survivor's Guilt―

「わからない……」

 

一人の男から、そのような言葉が漏れた。

 

「教えてくれ。何が、楽しいんだ。何が面白い……」

 

切り株の上に腰を下ろした男の顔は晴れない。

彼は今、<Infinite Dendrogram>をプレイしている。ゲームをしているはずだ。

なのに彼は、全く楽しそうではない。

 

メガネをかけた、神経質そうな男だ。

スーツと作業着の間のような服装をして、うなだれるように座っている。

どこか遠くを見るような目を空にむけたあと、ゆっくりと目を閉じて顔を落とす。組んだ手がひたいにトン、とあたるように。

 

()()とかいったか? それの何が楽しいって言うんだ?」

 

男は広い森の中に、一人で座っていた。

残っているのは、たった一人。

 

 

()()()()()()が、光の塵となって今まさに消えようとしているところだった。

 

 

「わからない。教えてくれ、教えてくれ……」

 

10人以上のPK達を退けた男は、全く達成感のようなそぶりも見せず。

ただ彼の嘆きだけが。その場に響いていた。

 

 

 

 

 

黄河にあるとある都市。国の中でも発展している都市であるそこで、先ほど都市に入ったばかりである一人の<マスター>がゆっくりと歩いていた。

自分の<エンブリオ>であるバイクをゆっくりと押しながら、彼女は自分の<エンブリオ>に話しかける。

 

「やっと一息つけるね、ヘルメス」

『ずーーっと走りっぱなしだったからね」

 

ずっと旅をしている彼女ではあるが、さすがに移動し続けていれば疲労はたまる。

ようやく訪れた都市で、彼女はゆっくりと休もうかと考えていた。

だが、それはできないようだ。

 

「……”旅人”だな?」

 

通りを歩いている途中。建物の間からかけられた言葉が彼女の足を止めた。

ゆっくりと立ち止まり、視線を向けると建物の陰に潜むように男が腕を組んでこちらを見ていた。

 

「……えぇ、そうですが」

 

キノはこの黄河に来るまで、ドライフ、アルター、レジェンダリア、天地、グランバロア……様々な国で活動しており、それが積み重なったことで彼女のことを知る者も増えてきている。

彼女の活動方針、そして”キノ”を知っている者はやがて彼女をそう呼ぶようになった。

 

”旅人”。それがキノの二つ名だ。

 

「お前に依頼したいこと(クエスト)がある。奥で話そう」

「……ええ、わかりました」

 

今のキノは、二つ名を持つまでに成長した<マスター>。

超級職こそ持ってはいないが、特典武具を複数持ち実力的には準<超級>に匹敵すると目されている。

そんな今の彼女には、もはや彼女へ直接クエストを持ち込む者が現れるまでになっていた。

 

万が一何かがあればすぐに必殺スキルを用いて戦闘状態に移行できるよう、ヘルメスを紋章に戻すことはせず男についていく。

歩いている間にそっと視線を手にむけたところ、男の左手に紋章はない。つまり彼はティアンだということだ。

しかし身のこなしには隙がない。それなりの手練れだとキノは判断する。

通りの奥にある寂れた扉を男が開くと、中は小さな部屋になっていた。

座るようにうながされ、ヘルメスを横に固定してキノは座る。男もまた、彼女の対面に来るように腰を下ろした。

 

「さて、改めて言うがお前に依頼がある。一言で言えば、調査だ」

 

男は名乗ることもせずに、手短に依頼を説明していく。

 

「最近、俺たちが組織の資金源にしているある作物の近くで陣取る奴が現れた。そいつがいたままじゃあ俺たちのシノギに悪影響が出る。そいつの調査、可能なら討伐をしてほしい」

「討伐……モンスターですか?」

「いいや違う。<マスター>だ。<エンブリオ>が使われたことを確認しているし紋章も確認済みだ、間違いはない」

 

対象の<マスター>について書かれた紙を男は机に置いた。眼鏡をかけた神経質そうな男の絵に、いくつかの情報が合わせて記載されている。

だが……

 

「肝心の戦闘力についての情報が全然ないですね。<エンブリオ>が使われたことを確認したとはいいますが、見た目含めあやふやな点が多いと」

「だからこその調査依頼だ。あんたと相性が悪いってんならその情報をもとに相性がいい奴を探す。もちろん、討伐までしてくれるならその分報酬は上乗せする」

 

その言葉を受け、キノは詳細を男と詰めていく。

ティアンに被害が出るような場合はその時点で撤退すること。また、依頼を進める中で犯罪行為になるとキノが判断した場合もその時点で撤退すること。

 

納得ができた時点でキノは依頼を受けることを承諾し、それと同時にアナウンスが流れる。

 

【クエスト【調査又は討伐――ブランク・フランツ 難易度:三】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご覧ください】

 

「難易度:三・・・ですか」

 

一人でクリアを目指すのには十分可能なレベルだ。調査でも達成可能であることからこの難易度なのだろうとキノは考える。

一つ懸念があるとすれば、相手の能力がはっきりしていないこと。

男から提供された情報によると複数人の<マスター>を相手に完勝していることから一筋縄ではいかないだろうことは想像がつく。

能力の情報がないのは倒された<マスター>から情報が得られなかったからか。

 

だが、今回はクエストの内容がキノにとっては目くらましとなっていた。

 

 

 

 

 

街を出たキノは、そのままヘルメスに乗り森へと向かった。

最近では「PK殺しの森」と呼ばれるその森へは、<マスター>が行くことはめっきり減ったという。

トラブルを避けたがる<マスター>はもちろん、PK達は当初力試しのように向かっていたようだが何度も返り討ちにあっているうちに手を出さなくなったようだ。

 

そんな森に、キノは向かっている。

 

『ねぇキノ。勝算はあるの?』

「どうだろうね。多くのPK<マスター>を退けているから簡単には行かないだろうけど……」

 

森からの移動は比較的迷わずに進んだ。クエストを依頼した男から目的地への道順はあらかじめ聞いていたし、それまでの<マスター>が通ったであろう道がしっかり残っていたからだ。

山である以上悪路ではあるのだが、ヘルメスに《行路適応》のスキルがある。

空中ですら進めるバイクに、多少でこぼこした悪路などなんてことはなかった。

 

蔦らしき植物が木に巻き付いているのが目立ってきたり、それまでは見ないような花が増えてきたり……森の奥へとだいぶ進んできたなとキノが感じてきた頃。

ようやく目的地らしい場所に到着した。

 

簡易キャンプらしいテントやたき火、そういったいかにもな拠点の中心に彼はいた。

スーツと作業着の間のような服装で、眼鏡をかけたその顔は思い詰めているかのように険しい。

ゲームをしているはずなのに、まったく楽しくなさそうなその男は黙々と椅子に腰をおろしたまま風景の絵を描いていた。

 

キノはその男にすぐ《看破》を使い、男が今回のクエストの目的であるブランク・フランツであると確信を得る。

男の方もまたキノの来訪が分かったのだろう、ため息をつきながら描いていた絵やイーゼルをすぐにアイテムボックスへと収納してキノの方を見た。

 

「……また人が来たのか。勘弁してくれ」

 

忌々しそうな目を向けるが、攻撃を仕掛けてくる様子はない。

キノはとりあえず距離を保ったまま、静かに彼へと話しかけることにした。

いつでも愛用の銃を《瞬間装備》できるように構えたまま。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。面白い演算結果が出たな」

「今回のクエスト~、目的の下限と上限に差があるからそりゃ難易度は下限で出すよね~」

 

某所。

クエストの難易度を演算し導き出すのが担当である管理AI11号、双子の姿をしたトゥイードルダムとトゥイードルディーは今しがた演算し終えたクエストについて評していた。

 

「彼の<エンブリオ>の能力自体はそこまで複雑ではない。能力の調査だけなら大した難易度ではない」

「でも~、能力がわかる事と、それをかいくぐって倒す事はまったく別なわけで~」

「ましてや能力が能力だ」

()()()()()()()、彼女に勝ち目はないの~」

 

少年の姿であるトゥイードルダムは堅苦しい言葉遣いのとおり、堅い表情のままでつぶやく。その言葉に続くように、トゥイードルディーはのんびりした表情で話す。

それはまるで、二人で分割して文章を話しているような。

 

「もしもクエストの内容が”討伐”に限ったものであったなら」

「きっと難易度は~」

 

 

 

 

 

 

 

「「最低でも”七”は間違いない」」

 




ちょっと短いけど次回に続く。

クエストの難易度、基準が難しくて悩みましたね……。
ブランク・フランツの<エンブリオ>については次回。
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