「この件、あなたの考え通りにやってみせなさい。
失敗した時は、わたしが処罰するから」
「お嬢さまぁ、いきなり打ち叩きの刑は」
「あら、あなた、覚悟もなしに献策しようと思ったのかしら?」
「それでしたら、お嬢さまが話を聞きたいとおっしゃっただけで、俺は」
「春蘭、開の頸を刎ねなさい」
「は、はい」
やりとりを眺めていた春蘭は驚いたが華琳に逆らわなかった。
「ちょ、華琳様、なんでいきなり処刑されるんですか!?
そんな無茶、おじさんが許しませんよ」
「プっ、冗談よ。
春蘭もごめんなさい。
開の打ち首は冗談よ」
華琳は上機嫌になっていた。
「開、処罰はしないから、考えを聞きたいわ」
= = = = =
≪キャッ、キャッ≫
男の子たちが、バッタを追いかけはしゃいでいた。
それを眺める華琳と卓。
「これで、蝗害は回避できるの?」
「正直に言えば、わかりません」
華琳は大鎌の刃を卓の頸に掛けた。
「あら、わたしがなにもしないと思っているのかしら」
落ち着き払っている卓に華琳は話しかけた。
「いえ、お嬢さまの近くに居て良いのは有能でなければいけません。
俺は、いつでも死ぬつもり。
操お嬢さまの鎌の汚れになれるなら、かなりいい人生だったと思っています」
卓ははしゃぐ男の子たちを眺めながら言った。
「春蘭!」
「はっ」
華琳は控えていた春蘭に声を掛けた。
「春蘭、今から、この男をボコボコにしなさい!」
「へっ? あのー、華琳様、開は何かしましたか?」
春蘭は華琳が不機嫌になったことが理解できないでいた。
= = = = =
男の子を協力を得て、数日でバッタを捕獲できた。
華琳が領内に子供だけでバッタ捕獲の触れを出した。
報酬はバッタと粟。
子供は労働力してはまだ使えない。
安全に収入を得られるとなるとほぼ領民全員が参加させた。
城内から出発し、各邑から合流するとかなりの子供が集まった。
ただし、バッタ集めということで女の子の参加はかなり少なかった。
華琳はそれを見越していた。
女の子には勉学の場を設けた。
英傑はほとんど女であるこの世界。
華琳の人材コレクションの青田刈りの条件は整った。
捕獲の対象地域は卓のいたところだけに限らなかった。
領内全域を検分し、黒くなりかけたバッタのいる地域が選ばれた。
捕獲されたバッタは三日三晩かかって炒られ、食料となった。
成果は予想以上だった。
子供にとって、作業自体が遊びのようなものだった。
それだから、しっかり遊んで、きちんと食事ができて、褒められる。
成果が上がらないわけがなかった。
人材発掘のほうも上々だった。
十数人ほど書生として華琳に仕えないかと親に相談をした。
華琳が他の土地を治めることになれば、それに同行することになるため、強制はしなかった。
華琳は母親を大切にすることを隠さなかった。
肉親の絆は彼女にとって生きる意味の一つだったから。
= = = = =
「開、希望する報酬を言いなさい」
「はい?
報酬って、報酬のことですよね」
「あなた、わたしを揶揄うなら、頸を刎ねるわよ」
今一つ意味が判らない卓に冗談半分に怖いことをいう華琳だった。
「有望な人材が集まったから」
「それって、俺の働きじゃないです。
華琳様ご自身の」
「きっかけはあなたの献策よ」
「それは蝗害の予防だったわけでして、成果は解りませんし」
華琳は会話を楽しみながら続けるも卓は頑なに否定した。
「わかったわ。
開、身の回りの世話をして欲しい女を言いなさい」
「ちょ、なんですかそれ。
俺、一言も言ってませんよね」
「男の考えなんかそれくらいじゃないこと」
「まあ、否定しきれませんけど。
でも、俺は身近にいて欲しい
「あら、その幸せを約束されたような幸運の持ち主は誰なのかしら」
卓は華琳の冷え切った視線に曝されていることを実感した。
「その方に俺なんかが想いを寄せること自体、既に処罰ものです。
お似合いの素敵な男性が将来、いえ既にいらっしゃると思います」
「開、あなたはその相手を見たことあるのかしら?」
「いえ、ございません。
しばらくはお屋敷を離れておりますので」
「だったら、どうしてその結論になったのかしら?」
「なぜでしょうか。
その方はいつの間にか母のような優しさまでお持ちになっていて。
うまく言葉にできません」
卓は、言葉に悩んでいた。
憶えている限り初恋であり、身分の違いを克服できようもなかったからだった。