佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第十話 仮面ライダーの戦う意味

ドラゴン、ロック、勇者以外の全てのフルボトルを奪われてしまった戦兎。

 

「こうなったら―――」

 

「俺の出番……と言いたいところだけど、いかんせん戦う理由がな」

 

「難しいな……」

 

でも、一応作っとくかと言い立ち上がる戦兎。

何をだよと尋ねる龍我。

 

「お前が変身する予定の"仮面ライダークローズ"はビルドドライバーにクローズドラゴンを通じてドラゴンボトル一本で変身するライダーだ。フォームチェンジができない分、格闘戦では現時点のビルドをはるかに凌駕する」

 

「俺タイプってか」

 

「だからと言って素手で戦えってのも酷だろう」

 

「そうか?」

 

使うにしろ使わないにしろ一応専用武器を作る。

だからボトルを貸せという戦兎。

 

「早めにな」

 

「わかってる」

 

「……ちょっと、風当たってくるわ」

 

「ちゃんと変装して、夕飯までには帰ってきなさいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かのために戦う……か」

 

道をぶらぶら歩く万丈。

すると彼の耳に、自らを讃州中学勇者部と名乗る六人組が子猫を預かってくれる人を探している声が入る。

 

「猫?それより、あいつって……」

 

万丈の目に入ったのは猫ではなく、その近くのロングの金髪の少女。

去年まであんな部屋にいたのにもう出れるまで回復したんだな。すげぇな

と口に出す。

 

「あれ~?ジョーさんだ~!」

 

金髪の少女 乃木園子が万丈を指さしてこう言う。

 

「なになに?乃木の知り合い?」

 

「佐藤……ではないな」

 

他の勇者部の面子が彼女の発言に飛びつく。

 

「……え?俺?」

 

「そうですよ~、万丈龍我さ……あっ」

 

「万丈龍我!?」

 

「その人って、あの……!?」

 

園子が口を滑らし、それを聞いた一同が動揺する。

 

「俺は誰も殺してねぇ!それにあの事件は誰も死んでねぇ!」

 

ほら、自分から『殺す』って単語出してきた

やっぱり脱獄犯だ

 

ひそひそしだす勇者部。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦兎、万丈外に出して大丈夫なのか?」

 

「マスター、俺が何もしていないとお思いで?はいパスタ」

 

「やっぱお前はすごいけどそのパスタはパスタ嫌いの俺に対する嫌がらせかな?」

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、ほら、これ見ろよ!」

 

万丈は一枚のカードを勇者部に見せる。

これは大赦の関係者しか持てない代物で、

自分は犯罪者じゃないことを示そうとする。

 

 

もちろんこれは自分の顔写真を切り抜いて貼り付けた戦兎のものである

 

「あ、ホントだ」

 

「ということは、あの事件は……」

 

「そうだ!葛城巧は生きてる!」

 

「「「「「……」」」」」

 

「最近のマスコミは情報かく乱が大好きだからね~。仕方ないよ。さっとんもこの人が冤罪だって信じてるし」

 

「おい園子、今さっとんって言ったか!?

やっぱり須美の言うことは正しかったんだ!」

 

「そうよ。万丈さん、あの人の居場所、わかりますか?」

 

「……」

 

答えるか、答えまいか。どうするか

うるうるした瞳をした少女が教えてと訴えてくる。

 

 

 

「nascita」

 

 

 

「ありがとうございます!さあ銀!行くわよ!」

 

「お、おい!子猫どうするんだよ!」

 

「あ、それはアタシのほうでやっとくからー」

 

龍我の良心が働いてしまい、あっさり吐いてしまった。

これのせいで部員の東郷美森・三ノ輪銀(と結城友奈)が走ってnascitaへ向かう。

 

「戦兎…………許せ!

 

 

 

ところで、ジョーさんってのは……」

 

「前に考えとくって言ってたあだ名ですよ~

他にもバンバンとかドラドラとかジョードラとか

ジョーリュー拳とかありますけど~」

 

「ジョーさんで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじゃましまーす!!」

 

「うぉああ!!」

 

一方nascitaでは、

本店の扉を思いきり開けた少女に惣一が驚き尻もちをつく。

 

「いらっしゃ~い!どうぞ、お座りくださ―――」

 

「佐藤太郎って人、知りませんか?」

 

「シ、シラナイ。シラナイヨ」

 

「本当に?」

 

「ホントダヨ。オジサンウソツカナイ」

 

「nascita、売り上げ、閉店……」

 

「嘘つきましたごめんなさい佐藤太郎もとい桐生戦兎はこの地下にいますだからどうか閉店の話はチャラにしてお願いします」

 

美森のだした単語に恐れて戦兎の居場所をばらす惣一。

 

 

 

 

 

 

 

「――――藤太郎もとい桐生戦兎はこの地下にいますだからどうか閉店の話はチャラにしてお願いします」

 

「マスターァァァァァァ!!」

 

地下への入り口で聞き耳を立てていた戦兎。

惣一があっさりばらした怒りとショックで叫んでしまう。

 

 

「あっ!ホントにいた!」

 

「……」

 

もう逃げ場はない。腹をくくろう。

こうつぶやき彼は入り口のロックを外し、

仮面ライダークローズ専用の武器の開発を再開した。

 

 

「お邪魔しまーす!」

 

「落ち着いて。友奈ちゃん」

 

「だってだって!仮面ライダーさんの秘密基地だよ!」

 

「あはは……友奈は相変わらずだなぁ」

 

三人が地下室へ入ってくる。

戦兎はどういう顔をして彼女たちのほうを向けばいいかわからない。

 

「……」

 

戦兎のはんだごてを持つ手が震える。

 

これでは作業どころの話ではない。

といってもはんだづけはもう終わるし

後はあいつのドリルクラッシャーを用いた戦闘データを入れれば完成だし

 

こう思い続けた。

 

「あの、顔白くなってますけどどうかしましたか?」

 

一番乗りの友奈が戦兎の顔をのぞく。

 

「大丈夫……うん」

 

こうしている間にもクローズ専用武器 ビートクローザー が完成した。

そして彼は美森と銀のほうを向き、今までの事を砕いて説明した。

 

『讃州中学で会いましょう』と聞いた時はてっきり説教でもされるのかと思っていたがそんなことは全くなく、二人は口をそろえて「約束したもんね。あとずいぶん大きくなったね(なりましたね)」と言った。

 

「それと……その、パソコンの事なんだけどさ、ホントは冗談だったんだよ。でも―――」

 

「私がやりました」

 

やっぱりお前か須美ぃぃぃ!!

 

心の中で叫ぶ戦兎

 

「それにしてもつまらないですね。いかがわしい画像が一枚も入ってなかったなんて」

 

「お前は何を言っているんだ……?!」

 

と、そこに龍我が到着する

 

「俺は悪くねぇ」

 

「園子もいるんだぜ~!」

 

さっきからヘラヘラしながら謝る龍我と相変わらずの園子。

 

ずいぶん賑やかになってきたな

とその時

 

「ちょっと乃木に万丈さん!歩くの早……あーー!!」

 

「お姉ちゃん、人の家なんだから落ち着いて……」

 

勇者部の部長である犬吠埼風とその妹の樹が顔を出す。

風が転びそうな勢いで螺旋階段を下り、ビルドドライバーに触れる。

 

「これって、仮面ライダーの……!」

 

「それ人のものだよお姉ちゃん」

 

 

「……万丈、こっち」

 

戦兎が万丈だけを自分に引き寄せる。

 

「お前が連れてきたの?」

 

「違う。ついてきたんだ。別にいいだろ」

 

その後、勇者部から質問攻めを受ける。

数々くる質問を答えていると同時に、彼は初めてビルドになった頃の自分を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここは……』

 

『お、目が覚めたか』

 

『あんたは』

 

『俺は石動惣一。雨の中倒れてるお前をここに運んだんだよ。

寒くないか?』

 

 

~数日後

 

 

『おはよう!それと今日からお前は桐生戦兎だ!』

 

『え?俺は佐藤太―――』

 

『その名前はしばらく捨てろ。訳があるんだ』

 

『はぁ』

 

『それと、体術に自身は?』

 

『まあまあ』

 

『なら、決まりだな』

 

『これは?』

 

『ビルドドライバー。これを使って怪人を倒してほしい』

 

 

 

 

 

 

 

桐生戦兎という名前とビルドドライバーをもらった佐藤太郎。

彼は後にスマッシュと呼ばれる怪人と対峙していた。

 

『……こうか?』

 

ビルドドライバーを腰につけ、赤と青のフルボトルを振る。

すると彼は何かを思い出したかのように立ち上がり、

 

『さあ……実験を始めようか』

 

〔RABBIT!〕

〔TANK!〕

 

ドライバーに二本のボトルをセット。

そしてレバーを回すと自分の前後に赤と青の半身が成形され

 

〔Are you ready?〕

 

『えっ? へ、変身』

 

ドライバーのシステムボイスに応えると、成形された二つの半身が自分に迫り

変身が完了する。

 

〔RABBITTANK!〕

 

『いってぇ……

すごい……ホントに変身しちゃったよ……!』

 

迫りくる怪人にパンチしてみる。

力の入っていないパンチだったものの、スマッシュはよろめく。

 

これならいける

こう思った彼は、前にも変身したことがあるようなないような……

と悩む部分もあったものの、勝利をつかんだ。

 

 

 

 

 

 

『ただいま』

 

『おかえり』

 

これが、神世紀で最初の仮面ライダーの始まり。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――?さっと~ん?」

 

「―――――――はっ!?……あれ」

 

「途中から寝てましたよ」

 

「マジか……」

 

過去を思い出しているうちに寝てしまった戦兎。

彼が寝ていた間も

 

小さくて可愛いもの(クローズドラゴン)を観察する者

辺りの写真を撮る者

写真を撮る者を落ち着かせようとする者

戦兎の寝顔を初めて見る者

それを撮ろうとする者

一緒に寝ようとしたけど起こした者

戦う理由に悩む者

 

がいたため、戦兎の自室はいつも以上に賑やかだった。

 

 

「う~ん、どの写真使おうかな……あ、もうこんな時間!

勇者部、帰るわよー」

 

「し、失礼しました」

 

「近いうちにまた来るから!じゃあね!」

 

「次来る時はぼた餅持ってくるので、食べてくださいね。有無は言わせない」

 

「さっとんまたね~」

 

「おう。気をつけろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者部が帰り、部屋は再び静寂に包まれた。

 

戦兎は現存しているドラゴン以外のボトルをドライバーに挿す。

 

〔YUUSYA!〕

〔LOCK!〕

〔BESTMATCH!〕

 

「やっぱりね」

 

戦兎が先ほど採取した成分の入ったボトルを手の中で転がせながら呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦兎と万丈のやつ、俺に見せたことのない顔しやがって。

 

…………いいんだよ。それで」

 

 

 

 

 

 


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