佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである 作:鮭愊毘
時間。それは評価が綺麗に分かれるものの一つではないだろうか。
過ぎるのが早いと思う人もいれば、遅いと思う人もいる。
神世紀は寒い季節を超え、ついに春になった。
ファウストやスマッシュの活動は無く、彼らも静かに冬を越すことができた。
◇
「戦兎~、何か炭酸無いか?」
起床と同時に冷蔵庫を漁ろうとする龍我。
すると、彼の目に銀色の炭酸飲料の缶のような物体が入る。
それには仮面ライダービルドの紋章と『RABBITTANK SPARKLING!!』という文字が刻まれていた。
裏を見るとビルドドライバーに刺せそうな形状をしていた。
以前戦兎は強化アイテムを作ると言っていた。これがそうなのか。
と納得すると同時に飲み物じゃないのかとがっかりする龍我。
「炭酸モチーフなのか……」
これを作るときに随分痛い目遭ったなぁと思う。
以前の彼なら「ふざけやがって!」と戦兎に殴りかかっていたかもしれない。
しかし今の彼は報酬を貰ったこともあるかもしれないが、パンドラボックスと相性のいいベストマッチが判明した時、彼は戦兎と一緒に喜んでいた。負の感情は一切なかった。
これで、いいのかもしれない。
「……起きるの遅いな」
現在時刻は9:30。世間は仕事をしない日とはいえ、生活リズムを崩すことは体に悪い。
格闘家であった彼はそれを痛感している。
「おじゃましまーす!!」
そこに元気な少女の声が響く。
それに5人の少女も続く。勇者部だ。
「いや~、暖まるわ~」
「お姉ちゃん……」
来て早々ぐてーっとする風とそれを直そうとする妹の樹。
「あれ?佐藤は?佐藤はどこ行ったんですか?」
龍我に戦兎の居場所を尋ねる銀。
「あいつは寝てる。起こしに行ってやんな」
銀は園子の背中を押し、地下室への入口へ行かせる。
「…………銀、恋って何か知ってるか?」
「え?……したことないからな~……お互い仲良くして心の支えになるとか?」
「園子もそう思ってるのか?」
「っぽいです」
「そうか。……それ、恋とは違うな」
「え~?でも愛してるって言ったらしいですよ?」
「ほほ~」
この話に口角が上がりっぱなしの風。
「まだ恋をわかってないな。その愛、配偶者というより親へのそれと混ざってる」
「へ~!恋って奥が深いんですねー!」
「おはよ~ござい……」
そこにようやく起きた戦兎が現れる。まだ意識がはっきりしていない。
「さっとんは朝弱いんだね~。今度から毎日来ようかな」
「頼む……」
最近徹夜ばかりとはいえだらしない。
"新しいライダーシステム"の開発に専念しすぎだと思う龍我。
◇
『EXCELLENT!!ついにプロジェクトビルドの集大成にアクセスしたね。
これは、ボトルの成分をゲル状にして出力を上げた、スクラッシュゼリーだ。
しかし、このシステムはまだ完成していない。……後は君に任せるよ』
ひと月前、葛城の研究データに「スクラッシュ」と入力した戦兎。
葛城の映る映像と設計データが表示され、それの欠けた部分を埋めるべく作業を始める。しかし
『なんだよこの部屋!?』
龍我がいない間に部屋の壁には数式が書かれていた。書かれていない範囲を探すのが困難なほどに。
『あー!これじゃない!これでもない!』
数式をあいているスペースに書いては悩み書いては悩み……を繰り返す戦兎。
龍我はその日から一階の床で眠ることにしたのだった―――
◇
「―――あ、風ちゃん、これ」
戦兎が厚い冊子を風の前に置く。以前彼女に頼まれた数学に関する事が書かれたものだ。
「あ、ありがとうございます……」
粒子学やベクトル解析など中学生には早すぎる公式の書かれた冊子を見ながら苦笑いする風。
彼女は端末を取り出し、それについて調べだす。それを終え、端末をテーブルに置こうとした時、くしゃみをしてしまい手から落ちてしまう。
戦兎はそれを見逃さず、地面に着く前にキャッチする。
重さに異常はなかった。勇者を排除したがっているファウストのことだ。スパイを使って端末に細工をしていたかもしれない。こう思っていたが、ただの考えすぎだったようで安心する戦兎。
◇
勇者部がnascitaを去った後、龍我は一階でくつろぎ、戦兎は自室である地下室へ戻る。
◇
「できた……!やったぞー!!」
戦兎が歓声を上げる。システムが完成したのだ。
そしてベッドにダイブし眠りにつく。
―――彼が就寝している間、何故かパソコンはひとりでに動き、
KAMENRIDER CROSS-Z NEXT-GENERATION という項目が追加された。