佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである 作:鮭愊毘
仮面ライダービルドこと桐生戦兎。
彼は本名を佐藤太郎という。男で無垢でも無いのに勇者になった者。
彼は瀬戸大橋跡地の合戦直後にブラッドスターク(=葛城巧)にネビュラガスを使用した実験を受け、散華で失った身体能力が回復したと同時に体が成人になってしまった。
さらに葛城の記憶の一部を移植され、天才物理学者としての頭脳を手に入れた。
今、戦兎が戦兎と名乗っている理由、それは戸籍上すでに『佐藤太郎』は死んでいるため。そして、カッコいいため。
そんなナルシストで子供っぽい彼は――――――
◇
「ヒャッホホホホヒャッホイ!!ヒョ~!ウヘヘヘヘ……」
これまでにないほどはしゃいでいた。傍から見ればただの異常者である。
「ど、どうした……?」
龍我が引いている。
「ついに完成したぞ!」
戦兎は手に持っている物体を見せる。
名前は"スクラッシュドライバー"といい、仮面ライダーの新しい変身道具であるとのこと。
装着者から見て右側にはスパナを模したレバーが付いており、中央に同じく開発したスクラッシュゼリーを装填するスペースがある。
「お、おう。良かった、な……」
「ほれ。やるよ」
龍我にドライバーとドラゴンスクラッシュゼリーを渡す。
このスクラッシュゼリーはドラゴンフルボトルの成分を半分移植したものだ。
フルボトルは振って内部の物質に刺激を与えれば活性化し力が増す。中身を半分移植しても振る時間を長くすればこれまで通り使用が可能だ。
「……今のままじゃローグには勝てない。スタークにこう言われた」
「でもそれなら、お前の役に立つ。もっと強くなれる」
「これ以上……被害者を増やさないために」
「これからもよろしく頼むよ?"仮面ライダークローズチャージ"」
クローズチャージ。これが龍我が新しく変身する仮面ライダーの名。
「クローズチャージ…………いいぜ!やってやる!」
武器の開発も完了したと付け足す戦兎。
彼は色々な機材が転がっている机に戻る。
そこには、パソコンと接続された乃木園子の端末が置かれていた―――
◇
「風先輩、ちょっといいですか」
「何?」
「……ここが、お役目に選ばれるんですよね」
「なんで……そんなことを……」
ここは讃州中学勇者部。美森が風と二人きりで話をしている。
「二年前もこうだったんです。銀とそのっちも」
「そう、だったのね」
「佐藤さんの話によると、選ばれたのは先輩、私、友奈ちゃん、銀、そのっち、三好さん、そして……」
「―――樹……?」
「はい」
「そんな……!アタシは聞いてない!」
「私と銀、そのっちは覚悟を決めました。先輩はどうしますか?」
「決まってる。アタシも戦う。親の命を奪いかけたあいつらを……!」
風の両親は瀬戸大橋の決戦の時、大橋に出向いていた。決戦の後、現実世界では大橋の崩落という大災害が発生した。しかし、崩落したのは半分であり、巻き込まれはしたものの、風の両親は命を取り留めた。
だが、二人は二年たった今でも入院している。かなりの重傷を負った。
「友奈ちゃんと樹ちゃんは……」
「巻き込むわけにはいかないわ」
すると、突然彼女たちの携帯が鳴り始める。画面には《樹海化警報》と表示され、周りの時間が停止する。
「……来た」
風にとっては初めて、美森にとっては二度目のお役目が始まる。
◇
「ついに、奴らが攻めてきたか」
「"猿渡"、君の出番だ。勇者を、バーテックスごと排除しろ」
「……」
ファウストのアジト。ここで幻徳に猿渡と呼ばれた男はスクラッシュドライバーを手にしていた。
「聞こえなかったか?勇者を殺せ」
「断る」
「何故だ。君のライダーシステムは勇者のバリアを貫通できる。やれるはずだ」
「断る」
「素直に従え!!」
「断る。……やはり貴様は、生かしてはおけない人間だ。俺が排除する」
猿渡はスクラッシュドライバーを装着し、中央のスペースにロボットスクラッシュゼリーを装填。
〔ROBOT JELLY!〕
「変身」