佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第十九話 偽りのブレイバー

 神世紀300年初のバーテックス戦から一週間後、戦兎は

 

『葛城さんとの決着をつけに行く』

 

 と言い残し姿を消した。

 

 

「……」

 

 桐生戦兎と石動惣一が初めて出会った場所。戦兎はそこにいた。雨の中一人で。

 しかし、葛城の姿は見えない。

 

「―――随分早いんだな」

 

 葛城が石動の姿で現れる。

 

「あんた、いつまで自分を偽っているつもりだ」

 

「この格好の方がお前とタメ口で話せると思ったからな」

 

「……」

 

「正直、こんなことになったことを申し訳なく思ってる。満開の代償である散華も、元々実装される予定はなかった。しかし、実装を許し乃木園子をあんな目に遭わせてしまったことも許されることではない」

 

「……ふざけるな……!」

 

〔RABBIT〕

〔TANK〕

 

〔COBRA……〕

 

 

 

 

 

「蒸血」

 

「変身」

 

 

 

 

 

 ビルドとスタークがお互い地面を蹴り、迫る。

 ビルドの戦法はスタークに読まれている。だからといって負けるわけにはいかない。

 

 

『雨の中倒れてるお前をここに運んだんだよ。寒くないか?』

 

 

「どうした?動きが止まっているぞ」

 

 戦いの最中なのに思い出してしまう。惣一に拾われ、優しくしてもらったことを。

 全て嘘というわけではない。彼の言葉を信じるなら、自分を拾った行為は仕組んだことなのか優しさなのか―――

 

『おかえり』

 

 惣一が得物を自分の首筋に刺そうとするが、ドリルクラッシャーを召喚しそれを何とか止める。

 

 思うように武器を振れない。拳をぶつけられない。

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC BREAK!〕

 

〔STEAM BREAK! COBRA……!〕

 

 惣一がトランスチームガンを構え、戦兎はドリルクラッシャーを構える。

 

「ぐぁああああ!!」

 

 しかし、心に迷いが生じてしまった戦兎は思うように攻撃を与えられず、銃撃をまともに食らってしまった。

 

「……もう終わりか」

 

 変身解除の衝撃で吹き飛んだラビットとタンクのフルボトルを拾う惣一。

 

「お前は、今も自分が勇者だったと思っているか?」

 

「……」

 

「男なのに勇者の適性があったと思っているか?」

 

「……」

 

「無垢でもない、女でも無い、そんなお前が勇者になれるとでも?」

 

「……」

 

「満開を25回行った勇者と畏れられる佐藤太郎。

 正義のヒーローだと敬われる仮面ライダービルド・桐生戦兎。

 しかし実際のお前は、そんなんじゃない。ただの勇者ごっこをしていたガキだ。

 

 ……さっき、散華は元々実装される予定はなかったと言ったな。これは事実。

 神世紀の勇者は、最初から満開をした状態と同じスペックを発揮するよう設定されていた。だがそれでは使用者への負担が大きすぎる。そのため、あのようなものに落ち着いた。

 要するに満開ってのはパワーアップじゃなくて制限解除ってことだ」

 

「じゃあ何で……」

 

「満開の出力をさらに上げるためだ。今のままでも十分だという意見が多数出たが、結果、出力を上げることで決定。上がった分代償がついてきた。それが散華。

 この裏にはファウストがいた。こいつらは結構前からある組織でな、さっき言った『出力を上げろ』と言ったのはその一人だ」

 

「……」

 

「その場にいた俺は一人でそれの解決策を開発しようとしていた。それがプロジェクトビルド。お前の勇者システムはBUILD αという勇者システムの模造品。神の力は授かっていない。そして満開の模造であるオーバーフロー。お前はそれで俺の予想以上に戦ってくれた。

 この戦闘データを元にしたのが今お前が使っているそれだ」

 

「……」

 

「ざっくり言うとこんな感じだ。お前は勇者ではない。モルモットだ。

 俺はこれから、勇者全員にネビュラガスを投与する」

 

「!」

 

「そうすればもう戦える体ではなくなる。お前も見ただろ?バーテックスは無限に湧いてくる。そんな奴を相手して世界を守るぐらいなら、短い時間を友達や家族と一緒に費やすほうが幸せだ」

 

「……」

 

「さあ、わかったのならさっさと帰れ。ドライバーを置いてな」

 

「……」

 

「あの時、断ってくれてもよかったのによ」

 

 昔の思い出に浸って帰れと言う惣一。しかし戦兎は帰ろうとはしなかった。

 

「最ッ悪だ。あんたに言われた通り昔を思い出してみたけどよ――――」

 

 

『ぜぇ……はぁ……』

 

『こら!その程度でへこたれない!』

 

 

『やった……!』

 

『中々やるようになったじゃない。ほら、にぼし』

 

『え?』

 

『ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、EPAにDHAが入ってるわ。食べなさい』

 

 

『夏澟、誕生日おめでとう』

 

『……ありがと。でも、それは受け取れないわ』

 

『どうして』

 

『あんたと同じよ。忙しいの』

 

『……といってもこれ傷みやすいんだよなー。俺腹壊してるから食えないわー』

 

『…………しょうがないわね!受け取ってあげる』

 

 

『勇者に選ばれたんだって?おめでとう』

 

『ありがとう』

 

『……最初の頃のアレが嘘みたい……成長したわね……!』

 

『お前はおかんか』

 

 

『……頑張ってね。アンタの、太郎の遺志は、私が継ぐから』

 

『……勝手に殺さないでくれる?』

 

 

「―――親のことが思い出せないや。これもアンタの仕業なのか?」

 

「ネビュラガスでの記憶の損失は一時的なものだ」

 

「……そうか」

 

 戦兎はビルドドライバーを手に立ち上がる。

 

「俺はあんたのことを『薄情者でクズだ』って言おうとしたけど、俺にもその節があるみたいだ」

 

「……」

 

「家より大赦にいた時間が多かったとはいえ、生みの親との思い出を忘れてる」

 

「それでいいんだよ。あいつらは本当のクズだ。ファウストの幹部なんだ」

 

「こんな俺でも、やれることはある。勇者でなくたって、正義のヒーローでもなくたって、やれることが。それに約束したからな。守ってやるって」

 

「戦兎……いや、佐藤太郎、お前は何故戦う?痛いだろう、苦しいだろう、誰も理解してくれないだろう。

 バーテックスと戦って、こんな世界を長引かせるよりも、残された短い時間を大切な人と一緒に過ごすほうが―――」

 

「だったら、あんたが自分の記憶の一部を俺に入れた理由はなんだよ」

 

「パンドラボックスの光のせいで俺は攻撃的な性格になりつつある―――」

 

「光を浴びてない俺に継いでほしいってことか。だったらなおさらじゃねぇか。

 俺は戦う。自分の信じる正義と未来のために……あんたを倒す」

 

「……ん?」

 

 覚悟を決めた戦兎。そんな彼の手には銀色のガジェット ラビットタンクスパークリングが握られていた。

 

 

〔RABBITTANK SPARKLING!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変身!」

 

 

〔シュワっと弾ける!ラビットタンクスパークリング! YEAH!YEAHHH!!〕

 

 

 戦兎はラビットタンクの強化フォームにあたるラビットタンクスパークリングフォームに変身。その装甲には気泡を思わせる白の斑点とラインが刻まれていた。

 

 RTから強化された左足のバネでスタークに瞬間移動とも見える速さで前方にジャンプし接近。そのまま右足でスタークの装甲の薄いところに蹴りを入れる。

 

 さらにドリルクラッシャーと4コマ忍法刀を召喚し斬りかかる。

 

「バカな!こんなビルド……俺の想定に無い!」

 

 戦兎は忍法刀と投げ捨て、ドリルクラッシャーを左手に持ち帰る。

 そして得物の先端を外し上へ放り投げる。

 

 ドリル先端が宙を舞っている間、腕の外側につけられたブレードでスタークの得物を捕まえ、払う。その直後、ドリルが武器本体に先ほどとは別の場所に接続され、ガンモードに変形。銃口をスタークの右腕に押し付け射撃。

 

「チッ!……やるじゃないか。なら、これはどうだァ!」

 

 スタークは水色の巨大なコブラを二匹召喚。

 戦兎は迫るコブラを回避し、得物を投げ捨て一匹の尻尾を掴む。

 

 それを上空に振り上げ、もう一匹もスタークを巻き込みながら振り上げる。

 

 

〔READY GO!〕

 

 戦兎自身も上空に飛び、空中でボルテックレバーを回す。すると、赤と青の二色が混じり合うワームホールが出現し、コブラとスタークを拘束する。

 

〔SPARKLING FINISH!〕

 

 それに戦兎がキックを叩き込む。

 今までで一番の出力のキックをエネルギーの逃げ場のないワームホール内で行う。

 

 ワームホールが消滅し、スタークが落下。戦兎は着地する。

 

 

「この……俺が……」

 

 スタークの変身が解除され、姿が元に戻った葛城が姿を現す。

 

「―――――俺の中で葛城巧は死んだ」

 

「……言ってくれるじゃないか。お前なら、"アレ"を完成させられるかもな……この世界を救う……最後の砦を……」

 

 葛城はコブラフルボトルが装填されたトランスチームガンを見せ、

ボトルを抜いてそれを"あるもの"と一緒に戦兎に渡す。

 

「俺からの最後のプレゼントだ。そして一つ忠告しておこう。人間の生存区域をこれ以上広げるな」

 

「何でだよ」

 

「この四国という狭い空間では神樹の教えが行きわたっている。そのため、治安はかなり安定している。だがこれ以上広げると下手をしなくても戦争が起こる。人間が人間を殺す時代がやってくる。

 こういうものなんだよ。人間ってのは。勇者へのガス投与はチャラにする。そして、お前にもう会うこともないだろう」

 

「それはどういう―――」

 

「じゃあな。

……あ、友奈ちゃんに言っておいてくれ。

『あんなコーヒー飲んでくれてありがとう。そしてごめんね』って。

後の事を考えるのもいいが、今を大切にな」

 

 雨の中葛城は傘もささずにラビットとタンクのボトルを置いて立ち去った。戦兎もボトルを拾って傘を差さずにnascitaへ帰る。

 

 

―――――銃声が響いたことを知らずに

 

 

 

 


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