佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである 作:鮭愊毘
ゆゆゆいで晴れ着そのっち実装ヤッター!
神世紀300年六月の休日。
梅雨が酷い中、桐生戦兎が姿を消した。
彼は改良した勇者システムを持ち乃木家へ向かう。nascitaからゲーマドライバーとガシャット二本が消えたことを不思議がりながら。
◇
「猿渡から聞いているよ。今の君は『桐生戦兎』こう呼べばいいんだね?」
「はい」
到着した彼は当主の案内の元、一つの部屋にたどり着く。この部屋の主の名を呼ぼうとした瞬間、当主に肩をたたかれる。
「その端末……例のシステムか」
「はい。これを使えとは言いません。ただ、精霊の加護が必要なだけです」
精霊は勇者を致命傷から保護する存在。悪く言えば、お役目や世界がどんな過酷なものになっても自殺という手段を許してくれない悪魔。
そしてこれは勇者にしか与えられないもの。つまり、勇者システムを扱えると判断された人間にのみ加護を受けさせる。
「ファウストが勇者を狙っています」
「何……?まさか奴ら……」
「天神の味方ではないみたいです」
「どういうことだ」
「自分も何が何だか……。確実なのは、俺の両親がファウストの……」
「クソッ!……わかった。二人の事はこちらで対処する。後は任せてくれ」
こう言って当主、園子の父が彼女に客が来たことを知らせる。すると、
「わかってるよ~」
と、声が返ってくる。
そして彼はこう呟く。
「乃木戦兎……悪くないじゃないか」
「~ッ!?」
ファウストについての話からいきなり切り替わって困惑する戦兎。飲み物を口に入れていたら噴き出していただろう。
「い、いきなりどうしたんですか!」
「暗い話ばかりしてもどうかと思って。それと、大赦には既に桐生家が存在してね。
彼らから批判はされてないんだけど紛らわしいかなって」
「……」
「それに、君は園子を捨てるような人間ではないだろう」
「勿論」
「ここまで言えば……わかるよな?」
「……あー、はい。もう籍入れることも視野に入れてると…………はい?」
「わかってるじゃないか」
「いやいやいやいや!」
「嫌?」
「その『いや』じゃないですよ!早すぎません?」
恋、そして配偶者への愛をいうものをもう少し理解してからの方が……
再び困惑する戦兎。
彼は目の前の戸をほんの少し開ける。すると、戸の向こうの目と自分の目が合う。
「続けて続けて~」
「……」
「まぁ、突然のことで驚いてると思うけど、こちらが一番言いたいのは……
いつでも待ってるよってことで」
「何か途中から段々砕けてきましたね」
「長々と悪かった。ごゆっくり」
こう言って父は立ち去った。ごゆっくりといっても戦兎がここまで来るのにかなりの時間がかかっている。
もう日没である。
◇
「お前との時間、作れなくて……ごめん」
部屋に入って早々謝罪をする戦兎。
「名前で呼んでほしいな~」
「園子」
「は~い」
◇
「戦兎のやつ、今何やってんだろうな」
「さぁな。月曜まで顔出さない可能性が高い」
「彼女からのメール覗いたけど、ありゃ苦労するぞ」
「軽いよりはいいだろ」
「確かに。メールを打つのが早くなるっていう利点はある」
「それ利点か?」
◇
結局、戦兎は乃木家に泊まることになった。自分が夜間走行に不安を感じていたこととそれ以前に帰してくれなかった。
入浴後の着替えは持参した浴衣。
当主に案内された部屋が数時間前と同じだったことをもう気にしないことにした。
部屋には布団一つに枕が二つ。これも気にしないことにした。
それよりも気になっていることが一つ。
「紫……か」
「どうかな~」
「似合ってるよ」
園子が紫色の浴衣を着ていたことだ。似合っていることに変わりはないが、どうも自分だけだろうか。彼女が祀られていた時を思い出してしまう。
そんな中、戦兎の携帯にメールが入る。園子も後ろから覗く。
『もっと行けや意気地なし』龍我
「……」
経験者は違うなーと感心に似た感情を覚える。
すぐに今のメールを削除し布団に入る。
照明を消すと、外側に寄せた自分の枕が精霊の烏天狗により園子の方に寄せられ、離してもすぐに直しにきたので諦めて寝ることに。
彼はここで園子の送ってきたメールを思い出す。
桐生戦兎は乃木園子が好きだ。
ただ、それをどう表現するかわからない。
そんな自分でも、わかることが一つ。
後へは戻れない。前へ進むだけ。
――――――彼は寝苦しかったのか朝起きた頃には烏天狗をその腕に抱いていた。
その日から園子は精霊を端末からほとんど出さないようになった事を戦兎は知らない。
◇
数日後、スクラッシュドライバーのデータが盗まれたことが明らかになった。