佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

34 / 75
第二十七話 5分のリミッター

 戦兎から受け取ったスクラッシュドライバーとスクラッシュゼリー。

 レンチと何かを溜めるタンクがついたこれを装着。そして中央のスロットにスクラッシュゼリーを装填する。

 

〔DRAGON JELLY!〕

 

「……変身ッ!」

 

 レンチ型のレバー(アクティベイトレンチ)を下げる。これと連動してスクラッシュゼリーがプレスされ、アクティベイトレンチ反対側の装填したゼリーやボトルの成分を溜めるゼリータンクにドラゴンスクラッシュゼリーの成分が送り込まれる。

 

〔ツブレル!ナガレル!―――〕

 

「ウァァアアアア!!」

 

 龍我の身体に液体状になったゼリーの成分が被さり、銀色の素体を形成。

 

〔―――アフレデル!〕

 

 その上からさらに成分が重なり、シルバーとクリアブルーの装甲を形成する。

 

〔DRAGON IN CROSS-Z CHARGE! ブルァアアア!!〕

 

 これまでの仮面ライダーとは違い、対スマッシュ・ライダーシステムの力を極限まで高め、クローズとは似て非なる戦士。仮面ライダークローズチャージがここに誕生した。

 

 

 nascitaを破壊して中に入ろうとするスマッシュに拳を叩き込む。

 

「うぉおおお!!――――――抜けねぇ!」

 

 思うように腕が動かず、目標から外れ、nascitaの壁に腕がめり込む。

 

「あぁクッソ!」

 

 必死に抜こうとするが、抜けない。左腕と脚だけでスマッシュに抵抗する。

 

「そういえば、武器あるって言ってたような……」

 

 こう呟くと、クローズチャージの左腕に二つの砲撃装置の付いた武器(ツインブレイカー)が召喚される。

 

〔TWIN BREAKER!〕

 

「おお!」

 

 龍我はツインブレイカーの銃口をnascitaの壁に向け射撃。

 壁が崩壊すると同時に腕が抜ける。

 

「……やっべぇ」

 

 nascitaの正面の壁が半分ほど消し飛んだ。内装にも被害が加わっているが、今はそれどころではない。

 

 スマッシュが砲撃を行った。それをツインブレイカーで防御し、殴る。

 するとツインブレイカーの二つの砲撃装置が外側に可動。

 さらに外側に動かすと、

 

〔ATTACK MODE!〕

 

 中央から金色の打撃装置(レイジングパイル)が出現。近接戦用の形態に変形した。

 

「フンッ!オラオラァ!」

 

 先端のとがったレイジングパイルをスマッシュに何度も突き刺し、nascitaから離す。

 そしてツインブレイカーの砲身を二本が平行になるように稼働させ、

 

〔BEAM MODE!〕

 

 ドラゴンフルボトルを装填。

 

〔SINGLE!〕

〔SINGLE FINISH!〕

 

 真上に砲撃を行い、スマッシュを宙に浮かせる。

 さらに得物を再度アタックモードに変形させ、スクラッシュゼリーを装填。

 

〔TWIN!〕

 

 レイジングパイルがボトルとゼリーから作られたエネルギーを纏って高速で回転。

 

〔TWIN BREAK!〕

 

「オラァアアアア!!」

 

 自由落下するスマッシュを貫く。成分を抜こうとした龍我だったが―――

 

「っ……がっ……!ァァアアア!」

 

 膝から崩れ落ち悶える。

 クローズチャージはその戦闘力と引き換えに濃いネビュラガスの影響を受けやすいうえ、長時間の活動は変身者や力の源となる成分を溜めこんでいるゼリータンクの崩壊の危険性のあるライダー。

 戦兎の『5分で決着をつけろ』という言葉の意味を今初めて理解した。

 

「俺は……こんなところ…………で……くたばるわけ……に、は―――」

 

 薄れゆく意識の中、スクラッシュゼリーを外し、変身を解除する。

 気を失う直前に彼が見たのは、それは先ほどのスマッシュが爆散し、跡形も残らなかった光景だった。

 

「……おい」

 

 龍我が目を覚ます。その近くには、戦兎と一海、それと勇者部の姿があった。

 

「あっ!気がついたんですね!」

 

 眩しい笑顔の友奈が視界に移る。

 そして頭の下の何かを引っ張り出す。

 

「何だこれ」

 

 薄い桃色の牛の顔をつねる。

 

「牛鬼っていうんですよ!」

 

「……へぇー」

 

 

「相当無茶したみたいだな」

 

「……ああ」

 

 彼は半壊したビルドドライバーと完全に破壊されたクローズドラゴンに目を向ける。

 

「…………悪いが、今修理することはできない。資材が底を尽きた」

 

「おまけに、資材の搬入元である大赦もこの前色々あってな……」

 

「修理が終わるまでこれで我慢しろ」

 

 戦兎は自分のビルドドライバーとボトルを数本渡す。

 

「お前はどうすんだよ」

 

「ちゃんと考えてある」

 

「……」

 

 戦兎は自身のパソコンの前に座り、端末7つを接続する。

 既に一人アップデートは完了しているが、それにビルド、クローズ、グリスの戦闘データを加える。例を挙げると、接近戦主体の友奈、風、銀、夏澟にはクローズのデータを加えることになる。

 これで自分の、葛城の理想に近づけると確信した。

 

「佐藤、何やってんの?」

 

 銀と園子がウインドウを覗く。

 

「うげぇ……知らない単語がいっぱい……あたしらの勇者システムってこんな風になってたのか……」

 

「そうみたいだよ~」

 

「あたしの精霊も義輝じゃなくなってるし」

 

 銀の今の精霊は鈴鹿御前。はるか昔の日本の物語に登場する女性と同名である。

 そして現在義輝は夏澟の精霊となっている。

 勇者システムはその構造上、新造・量産が難しい。それでも勇者の数を増やすべく大赦は『既存のシステムのコピー』の制作を行った。

 このコピー元が銀のシステムであり、その後の夏澟の要望により武器が斧から刀へ変更となった。

 

 なお、2年前に満開を2回した銀・美森は精霊が3体存在する。銀の精霊は全て武士をモチーフにしたものだが、名前は判明していない。

 美森の精霊は青坊主に加え、刑部狸、不知火で、この二体のおかげで彼女は狙撃銃だけでなく、銃身がグリップの下にある特殊な形状の二丁拳銃(中距離)、短銃を扱うことが可能になった。

 

「なんか……ごめんなさい」

 

「ゲドウメ」

 

「……」

 

 アップデートに夢中で戦兎は忘れていたが、龍我と一海はこう思った。

 

 店、どうしよう

 

 と。

 夕方、龍我の騒ぎ声をBGMに一人でブルーシートを張る一海であった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。