佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第二十八話 狂うナックル

「おい一海!ホントにここにあんのかよ!外れてたら俺たちただの変人だぞ!」

 

「まぁ落ち着けよ。どこかにある…………はずだ」

 

「何だよ今の間」

 

 龍我と一海は今、讃州中学の体育館に訪れている。

 先日起きた大赦での事件。それで大赦製のフルボトルが数本、奪われてしまった。

 大赦製は全部で20本。

 大赦は奪取されることを想定してか、その20本を分散させていた。

 一部は猿渡一海・桐生戦兎に、一部は大赦に、そして……

 

「大の大人が何やってるんですか」

 

「悪い。探しもんなんだよ。大赦に関わる―――」

 

 ここ、讃州中学の体育館の床下にそのボトルの一部が隠されているらしい。

 

 

「あった!」

 

 龍我が二本のボトルを発見する。一本はレリーフが銀色、一本は青のものだ。

 

「こっちは無かった。ってことは――――」

 

 

「既に残りは我々が回収させてもらった」

 

 

「―――へぇ。親玉が直々に計画を実行するとは」

 

 ナイトローグが姿を表す。

 

「てめぇ一人か?」

 

 しかし、ガーディアンの姿はなく、一人だった。

 

「貴様らなど私一人で十分だ」

 

「ハザードレベルの上がらないシステム、それに加えて同じシステム使った葛城に負けたお前が?」

 

 一海が対峙する中、龍我は生徒の避難誘導を行う。

 

〔ROBOT JELLY!〕

〔BAT〕

 

 その時、世界の時間が止まった。

 

「変身」

「蒸血」

 

 

「総動員……か。でも――」

 

 夏澟が端末でバーテックスを確認する。

 画面には獅子座、水瓶座、天秤座、牡牛座、双子座、牡羊座、魚座と表示される。

 

「やるしかないか」

 

「夏澟ちゃーん!」

 

「ひゃぁ!」

 

 友奈が彼女の両肩を後ろからたたく。

 

「そんなに緊張しちゃダメだよ?」

 

「わ、わかってるわよ。あ、サプリいる?」

 

 友奈が首を横に振る。

 

「東郷は―――」

 

「……」

 

「銀は―――」

 

「もらっちゃおっかな~」

 

 銀がもらった錠剤を口に入れかみ砕く。

 

「苦ぁい……」

 

「ラムネじゃないっての!……樹はどうする?キメる?」

 

「その言い方はちょっと……」

 

 風と園子にも遠慮される。

 ここでふと思い出す。

 

「あいつはどこ行ったのよ……」

 

 

〔DRAGON!〕

〔LOCK!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変身ッ!」

 

〔封印のファンタジスタ!キードラゴン!Yeah!〕

 

 龍我は戦兎から借りたドライバーでビルド キードラゴンフォームに変身。

 仮面ライダーの変身条件は全てハザードレベル3以上。

 そのため、条件をクリアしている彼はビルドにも変身が可能。

 

 ただ、ビルドはクローズと違い性質の違うフルボトルを二本使って変身する。

 このため、腕や足の左右で出せる力、重さが異なる。

 

 自分のドライバーとクローズドラゴンが修理され、スクラッシュドライバーを使いこなせるまでしばらく借りることになるだろう。

 

 

 龍我が前衛、一海が後衛になる。

 体のバランスに振り回されながらも何とか立ち向かえているといったところだ。

 

「戦兎は何やってんだよ!」

 

 後ろでは多数の大型バーテックスと7人の勇者が見える。

 

「人の心配より自分の心配をしたらどうだ」

 

〔ICE STEAM!〕

 

 幻徳は冷気が混じった蒸気をスチームブレードから噴射しながら龍我の装甲に傷をつける。

 

〔STEAM SHOT! BAT!〕

 

 さらにブレードをスチームガンと合体させ、至近距離で追撃。

 

「うわああ!! ――――――なんてな」

 

 右拳でスチームガンを殴り飛ばす。

 本来なら変身解除まで陥るはずの先ほどの攻撃は、ロックフルボトルの成分から生成したハーフボディの『致命的な攻撃を二回まで防ぐ』という能力のおかげで持ちこたえられた。

 

 だが、本調子が出せない。クローズじゃないからもあるが、何よりロックフルボトルの力でドラゴンボトルの力が制御されているからだ。

 戦兎はこの状態でも使いこなせなかったが、龍我は違った。

 

 ロックフルボトルを抜き、戦兎がやっていたことを真似する。

 

〔GATLING!〕

〔Are you ready?〕

 

「ビルドアップ!」

 

 無機物側のハーフボディがガトリングのものに入れ替えられ、ドラゴンガトリングフォームに姿を変える。

 ロックボトルの制御を離れたドラゴンのハーフボディは力を増す。

 

〔READY GO!〕

〔VOLTEC ATTACK!〕

 

 両腕に力を集中させ、拳を連続で叩きこむ。

 ドラゴンの炎とガトリングの火薬仕込みの拳が文字通り爆発的な火力を生んだ。

 

「そうだ……!もっとだ!怒り、憎しみ、悲しみ……全てをぶつけろ!

 貴様の女を殺した人間がここにいるぞ!!」

 

「うるせぇぇぇええええ!!」

 

 

「ん?」

 

 この様子に一海は違和感を覚える。

 幻徳はあきらかに手を抜いている。そして龍我を煽り、殴られている。

 

「まさか……」

 

 今のこいつの目的は勇者暗殺ではない――――

 

「龍我!」

 

「てめぇを今ここで――――」

 

 龍我はビルドドライバーを外し、スクラッシュドライバーに装着し直す。

 

〔DRAGON JELLY!〕

〔ツブレル!ナガレル!アフレデル!〕

〔DRAGON IN CROSS-Z CHARGE! ブルァアアア!!〕

 

「―――潰してやるよ!」

 

「龍我……龍我ァ!」

 

「退けよ!」

 

 立ちふさがる一海を肘打ちで視界から外し、幻徳に馬乗りになる。

 

「てめぇがいなければ!てめぇがこんなことしなければ!

 香澄は死ななかった!香澄以外もたくさん殺してきたんだろ!この人でなしがァ!

 消え失せろ!!ァァァァァァアアアアアアア!!」

 

「人でなし……?何を今更……」

 

 あざ笑う幻徳。

 

「そうやって笑っていればいいさ! 今すぐにバーテックスの餌にしてや――――」

 

「ハハハハハ…………!殺人?人でなし?結構!でも、人でなしは―――」

 

 龍我たちの前に一体の大型バーテックスが出現する。

 

「――――君たちも同じだろう?」

 

 そのバーテックスは火球を作り出し、標準を定める。

 

「これが目的か……」

 

「最新のライダーシステムといえどこれをまともに食らいでもすれば―――」

 

 しかし、火球が放たれることはなかった。

 火球を生み出していたレオ・バーテックスを黒い光が貫通する。

 光の道筋には御霊が存在し、御霊が破壊されていた。

 

 御霊が消滅し、レオの胴体が崩れる中、こちらに黒……正確には黒に近い紺の装束を身に纏った人間が歩いてくる。

 

 幻徳が二発発砲するも、その弾はバリアによって無効化されていた。

 

「誰だ?」

 

「……おいおい……!冗談だろ?」

 

 顔が視認出来た。右目が完全に開いていない上に少し笑っているように見える。

 歩く姿もまるで疲弊しているよう。

 

 そんな彼に星屑が数体接近する。

 

「いいねぇ……」

 

 彼は背中から畳まれた武器を取り出す。

 展開すると鎌になり、それを星屑の方をゆっくり振り向き、振るう。

 

 

「「「満開!!」」」

 

 銀、夏澟、風が勇者の切り札を発動させる。

 装束が白を中心にしたものに変わり、武装が強化される。

 銀、風は大幅な追加装備はないものの、基礎能力が底上げされ、夏澟は巨大な四本の腕とそれに握られた刀が装備された。

 

「銀、行くわよーー!!」

 

 風が神樹を目指す双子座の前に立ち剣を巨大化させ、双子座を斬るのではなく叩くようにして銀の元へ飛ばす。

 

「根性ぉぉぉー!!」

 

 銀は炎を纏った斧を握り、双子座を切刻んだ。

 封印の儀をやるまでもなく、双子座は消滅した。

 

 

 夏澟はリブラ・バーテックスの天秤を模した箇所に左右二本ずつ巨大な刀を突き刺し、回転を止める。

 その後、その状態のまま自身を満開の追加武装から切り離し、

 

「そこ!」

 

 御霊の位置を胴体ごと貫く。

 

「あー!それ前まであたし使ってたのに!」

 

 夏澟の追加武装を指さす銀。

 

「斧使いのあんたより私のほうが合ってるのよ」

 

「う~ん、そういうものかな?」

 

「そういうものよ」

 

 風、銀と合流した夏澟。

 一瞬力が抜け、満開が解除される。

 

「あー、あー」

 

 銀が発声する。問題はない。

 

「……」

 

 夏澟が肩を回したり脚を動かしてみる。問題はない。

 

「夏澟、あんたの好きなものは?」

 

「にぼし」

 

「あだ名は?」

 

「……」

 

「っ……」

 

『にぼっしー』と答えてほしかった風が絶句する。

 

「大丈夫!?もしかして記憶が―――」

 

「にぼっしー!言いたくなかっただけよ!」

 

「なぁんだ。脅かさないでよー」

 

「それより、残りのバーテックスは?」

 

 端末を開く。残りは水瓶座、牡羊座、牡牛座

 

「あれ?獅子座って倒したっけ……」

 

「友奈たちがやったんじゃない?」

 

 友奈に連絡を入れる。

 

『夏澟ちゃん?そっちの方は大丈夫?』

 

「ええ、今からそっちに―――」

 

 突如、耳が痛くなる音量の鐘が鳴る……が、それはすぐに止んだ。

 

 

 爆音の鐘を鳴らした牡牛座のバーテックス。

 そこに黒く巨大な拳が突き刺さった。

 その拳を操る人物は獅子座を葬った者と同一。

 

「え……?」

 

 園子が見覚えのある姿に驚愕する。

 

 紺から黒に変わった装束を纏った人物の外見は色以外結城友奈のそれと酷似していた。

 それも当然。彼女の勇者システムはこの人物のものの改良型だから―――

 

「さっとん?何で……」

 

「これだよ。これこそ、俺が望んだ戦いなんだよォォォォォ!!」

 

 勇者の端末に『桐生戦兎』と表示されている黒い勇者は、確かに笑っている。

 


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