佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第三十一話 プロジェクトビルド最終段階

「……」

 

 戦兎はノートパソコンの前で黙り込んでいた。

 トランスチームガンを使ったあのシステム……

 外見は二年前の勇者装束とほぼ同じ。ただ、使っている間は好戦的な性格になりやすい。慣れてきたとはいえ予断を許さない。

 そして、装束が黒くなっていたこと。通常時は黒と間違われるほど暗い紺、オーバーフロー時は黒。二年前とは違う。

 

 黒で狂暴といえば、スマッシュにも同じことが言える。最近出現するスマッシュは体の色が黒く、能力が強化されている。

 

 何か関係はあるのだろうか。

 

 この疑似勇者システムのスペックはスクラッシュドライバーを使用したライダーシステムと同等。つまり、現段階のビルドより強力な代物。

 ただ、弱点もある。このシステムは勇者でいう満開ゲージが右手に、制限時間を表すゲージが左手に無骨な棒状で存在する。右手のゲージは自分の攻撃が敵に当たると増えるが、致命傷になりかねない攻撃を受けたときはゲージの五分の一を消費してバリアを発生させる。

 

 戦兎がプログラムを見てみると、最後の欄に『HAZARD CS89%』と表示されていた。前に見た時には無かった。葛城はまだ何か隠しているようだ。

 

「考えるのやーめた」

 

 

 朝。龍我が手にあるものを持って頭を悩ませていた。

 彼の手にはゲンムに盗られたはずのゲーマドライバーが。

 

「あの黒い奴がさ、渡してきたんだよ」

 

「……」

 

 ゲンムとの接触後、戦兎はゲンムの情報を洗っていた。彼はあのハイパームテキの開発者であることが判明した。

 

「待てよ、万丈ってハザードレベルどれ位だ?」

 

「…………わかんねぇ。いつもはスタークが教えてくれたからな」

 

 今手元にあるガシャットはマキシマムマイティXとハイパームテキ。使用条件はそれぞれハザードレベル4.7以上、6.0以上である。

 

 スクラッシュドライバーを扱える彼は今どうなのか。

 

「ほら、新作のコーヒーだぞ――――うぉああっ!!」

 

 コーヒーを入れた龍我が戦兎に近づき、コケる。

 

「あっちぃぃいい!!」

 

 服にかかると同時に口に入る。

 

「まずい!腐ってんじゃねぇのこれ!」

 

「失礼な!実が青いうちに収穫したとれたてピッチピチの豆使っとるわ!」

 

「バカ野郎!それ早すぎるから!赤く熟してから収穫だから!」

 

「……これマスターもやってたぞ」

 

「……」

 

 

「ゲムデウス……」

 

 同時刻、結界の外ではゲンムがあるモノを見上げていた。

 名はゲムデウス。今や根絶しているバグスターの頂点に立つ存在。

 それが今、復活しようとしていた。

 

 それだけではない。本来ゲムデウスというモノは龍の首のような腕と大剣のような下半身から構成されるバグスター。しかし今ゲンムの前にあるそれは左腕が剣に、装飾として勾玉が付けられていた。この二つの形状はまるで、草薙剣(くさなぎのつるぎ)八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)のようだった。

 

 

 葛城巧が最後に託したデータを含めてもプロジェクトビルドにはまだ謎がある。

 

 四国防衛の要と書いておきながら『軍事兵器』と認めていた。そのせいなのか、彼が最後に託したデータは所々が欠けている書きかけの状態だった。ビルドドライバーの強化に関するアイテムらしく、『最強のビルドにして本プロジェクトの最終段階』と最後に書いてあった。

 

 

 が、このデータは一海に没収された。彼には思い当たる節があるらしく、それと照らし合わせてみるとのこと。

 

 

 

「ゴールドタワーの改装中止……か」

 

 一方、大赦に戻った一海は同僚からゴールドタワーの迎撃装置としての改装の中止と防人が火傷をしたことで大騒ぎになっていると同僚から報告を受けた。

 

 防人の火傷。これは些細なことに見えて由々しき事態である。

 防人の装束は勇者のそれよりも耐熱性に優れているため、結界の外の炎や溶岩をものともしない。そんな彼女たちが火傷を負ったということは、炎が勢いを増しているということになる。

 さらに、結界外で形状の違う獅子座のバーテックスと正体不明の何かを発見したと防人から報告があった。

 

「ファウストに動きはない。……叩くなら今だ」

 

「でもどうやって」

 

「俺達には、アレがあるだろ?それに、扱える奴も見つかった」

 

 

 部屋の隅で龍我はゲンムからドライバーを受け取るときに言われたことを思い出す。

 

『それを使えばゲムデウスに対抗できる。しかし、変身は一回だけ』

 

「……」

 

『失敗すれば、世界は炎に包まれる。二度と生物が繁栄することはない』

 

「…………いいぜ、やってやるよ」

 


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