佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第三十二話 ハザードへの入り口

「―――?」

 

 最近、龍我は気になることができた。

 戦兎が自分を避けるようになったのだ。

 

「何かしたっけ……」

 

 呟きながらパンドラボックスを持ち上げる。スタークから取り返した時より軽い。

 

「ん?」

 

 彼は戦兎の使うパソコンが起動していることに気づく。

 

「全く、こんな暑ぃ時期につけっぱなしかよ」

 

 シャットダウンを試みたが、彼はそうすることはなかった。

 

 

「何だよ、話って」

 

「葛城の最後の研究データ、これがわかった」

 

 一海によって大赦に呼ばれた戦兎。

 一海はある赤いガジェットを手にしていた。中央にメータが存在し、上部には透明なカバーのついたボタンが一つ。

 

「"ハザードトリガー"。こいつだ」

 

 一海がハザードトリガーと呼ぶこれには、下部に銀色のジョイントも存在した。

 一方、ビルドドライバーにはそれと径が合う凹ジョイントが存在している。

 

「葛城巧が残した禁断の力……ビルドドライバーの強化アイテムだ」

 

「これが……」

 

「こいつはビルドを最凶の姿に変える。ドライバーに最初からジョイントがあったことから考えるに、葛城は最初から想定してたらしい。

 

 が、作ってやっと気づいたんだ。これの代償が大きすぎることに」

 

「代……償……」

 

「死ぬよりももっとタチの悪い……な。葛城はこれを無くして制御するシステムを組み込む予定だったんだが、殺された。ナイトローグに。

 

『大きな力を手に入れることと代償が付き纏うことはイコールじゃない』

 

 こんなこと言ってた。そして言いたくもないんだが、ハザードトリガーはもう一つある」

 

 一海は戦兎の手を持ち上げ、ハザードトリガーを握らせる。

 

「大赦ではもうこれ以上解析はできない。技術開発部の連中は全員殺されちまったからなぁ」

 

 

 

「……」

 

 そんな二人の会話を盗み聞きする男が一人。

 

 

 

 その後、一海は三人のハザードレベルについて話し始めた。

 戦兎が4.9、龍我が5.8、一海が5.2である。

 

「気にすんな。お前は弱くねぇよ。ビルドはパワーより様々なフォームを使い分ける。クローズはそれができない代わりにパワーが強く、グリスは両者の短所の埋め合わせ。

 しっかり役割分担できてんだから。技のビルドに力のクローズ。五分五分のグリス…………五分五分?」

 

「誰も落ち込んでないんだけど―――」

 

「そんなことよりさ」

 

「そんな事ってお前……」

 

「暗い話ばっかしてても仕方無いだろ。

 N.Sって名前聞いたことないか?」

 

「磁石?」

 

「そうじゃない。小説投稿サイトに現れた人物の名前だ」

 

「へー」

 

「298年末から299年末まで投稿がストップしてたけど再開したんだ」

 

「へ~」

 

「書いてる小説は二つあって一つは――――――」

 

 一海の話は続く。二人の会話を盗み聞きしていた人物も呆れて帰ってしまった。

 

「――――っていうことなんだよ」

 

「へー」

 

「風の便りで聞いたんだが、その人物は令嬢らしい」

 

「ふーん」

 

「讃州中学の二年生らしい」

 

「ふー…………んん!?」

 

「どうした?」

 

「いや、何でも……とりあえず、乗り込むことだけはするなよ」

 

「わかっ………………てるに決まってんだろ」

 

 

「……お姉ちゃん」

 

「ん?」

 

「いつも、ありがとう」

 

「どうしたのよ急に」

 

「夏澟さんもありがとうございます」

 

「……私、何かした?」

 

 夕方、部活を終え、犬吠埼姉妹と夏澟が下校していた。

 

「朝起こしてもらったりご飯作ってくれたり……でも、このままじゃお姉ちゃんに依存したままの人間に……うぅ」

 

「……風、あんたオカンか何か?」

 

「女子力が高いといいなさい!」

 

「せめて朝ぐらいは自力で起きられるようにしたら?本人もそういってるし」

 

「うるさいやい!アタシは樹起こすことから始めないと一日が始まったって感じしないんだい!」

 

「やっぱりオカンじゃない!」

 

 横断歩道の赤信号で騒ぐ。しかし、信号が青になったことを確認するとそれをやめわたり始める。

 

 と、その時、車両側の信号が赤になっているにもかかわらず、トラックが猛スピードで突っ込んできたからだ。

 

 端末から精霊の義輝、犬神、木霊が飛び出し主の前に出るが、遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。ついに勇者を殺りにきたか。ファウストには困っちゃうねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 だが、彼女らが轢かれることはなかった。突如トラックの前に男が現れ、車体を止めた。

 その男は煙突のような角を持ち、全体が深紅、パイプがマフラーのように首元に巻き付いていた。

 

「怪我はないか?お嬢さん達」

 

「「「……」」」

 

 突然起きた二つの出来事に開いた口が塞がらない三人。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 こう言って男はトラックのドアを開ける。

 

 運転手は不在だった。

 

「自動運転……?それとも――――」

 

 ドアを閉め、車体に一発蹴りを入れた後、男は風達の方を向き、

 

「世の中変な奴って多いからな。気をつけろよ」

 

「あっ、あの!」

 

 樹が呼び止める。

 

「ありがとうございました!」

 

「なぁに、当然のことをしたまでよ。愛と平和のために、な。

 

 俺はブラッドスターク。もう一度言うが、お前らみたいなお嬢さんは狙われやすい。気をつけろよ。じゃあな」

 

 自らをブラッドスタークと名乗った男は去った。

 

「何だったんだろう……」

 

「……い」

 

「というよりこのトラックはどうするのよ」

 

「樹が……!初対面の人相手に……!しっかり喋ることが出来た…………!!」

 

「そこかい!」

 

 

「俺が、ハザードレベル5.8……」

 

 戦兎が寝静まった後、龍我はこっそりパソコンを起動させ、葛城の研究データを閲覧した。

 

 やっぱりだ。彼は確信した。もう少しで、もう少しで自分はあの力を使うことが出来る。

 チャンスは一度だけ。そして、これをやれるのは自分だけ。

 

「負ける気がしねぇ」

 

 


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