佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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遅れてしまい申し訳ありません。


第三十六話 漆黒のドラゴンファイター

「葛城の奴、何が『これの最後のデータ完成させて☆ 後で俺も行くから』だよ……」

 

 勇者の満開に対抗して合体能力を備えたレオ・バーテックスと、ゲムデウスの身体を器にして君臨した天神を撃破した後日、猿渡一海は戦兎に渡したはずのハザードトリガーを前にしながら唸っていた。

 

 戦兎がトランスチームガンと勇者フルボトルで変身するあの姿は、ハザードトリガーの制御に必要なデータを集める試験プログラムだった。

 現在、89%。

 だが、これ以上彼に戦わせるためにもいかない。それ以前に、相手がいない。

 そのため、葛城巧改め石動惣一は残り11%を大赦で完成させることにした。

 

「よぉ、進んでるか?」

 

 一海の元に惣一が現れる。

 

「これからだ。しっかしまぁ……とんでもないもん作ってくれたな。あんたは」

 

 葛城がハザードトリガーを完成させた時期は戦兎との決着がつく一日前。戦闘が続いてより好戦的になっていた頃だった。

 

「スクラッシュといいこれといい……戦兎を見習ったどうだ」

 

「ぐうの音も出ないなぁ」

 

 桐生戦兎と葛城巧。

 二人の作るガジェットは試験なしで想定通りの性能を発揮できる完成度など、共通点が多い。しかし、違うところが一つだけ。

 

 葛城の設計したスクラッシュドライバーは使用している間、変身者のアドレナリンを過剰分泌し、冷静な判断をする前に体が動いてしまう副作用がある。

 

 戦兎の開発したラビットタンクスパークリングはラビット、タンク、パンドラボックスの成分を使用して作られた。

 土着神の力の断片であるパンドラボックス。そんなものの力を混ぜているにも関わらず、副作用や代償は一切ない。

 他にも、4コマ忍法刀やカイゾクハッシャーなどの武装も、非戦闘時にはセーフティがかかるようになっている。

 

 つまり、使用中の副作用・代償の有無だ。

 

「それと、"エニグマ"の設計図、幻徳に盗られたんだって?」

 

「正確にはその部下だ」

 

「ふーん……まぁいいや。猿渡、一つ聞かせてくれ。自分の目の前に凄い力を秘めた物体があるとする。それはとても壊れやすく、外から壊したりこじ開けようとすると中身が消滅。そして、これを敵が狙ってると。敵は目の前。自分は武器しかもっていない。どうする?」

 

「…………あんた、まさか……」

 

「そのためにも、そいつが必要なんだよ」

 

 

「……」

 

 同時刻、『本日は休校』というメールが讃州中学生の端末に送られた。

 今日は祝日でも台風でもない。疑問を抱いた勇者部が学校へ向かう。

 

 彼女らが見たもの、それは、敷地が抉られた学校だった。

 

「……東郷」

 

「…………やっぱり、そう……ですよね」

 

 この二人が思ったこと、それはあの戦いのことだった。

 樹海化した世界でバーテックスの攻撃が当たったり、同じ場所に留まられたりすると、地面が枯れた植物のように変色する。これは現実の世界に影響し、自然災害や事故として爪痕を残す。

 

 目の前のこれは、それの影響なのだろうか

 

「これに巻き込まれた人がいたら……」

 

 友奈の顔が曇る。

 その時、男が一人現れ、彼女にこう言った。

 

「予め避難させておいた。死傷者は0だ」

 

 人をあまり信用していない表情をしている男はこう言い残し、彼女たちの横を通り過ぎていった。

 

 

「あああああああ!!」

 

「どうした」

 

 パソコンとにらめっこをしていた一海が声を上げる。

 

「休憩だ休憩」

 

「勝手にしてな」

 

 惣一のこの言葉を、自分が今からしようとする行動を容認したと解釈し、彼は小説投稿サイトを開いた。

 

「ん?お前が小説読むなんて珍しいな」

 

「これは俺の一部といってもいい」

 

 一海のパソコンには、『マスクドウォーリアー』という小説が表示されていた。

 これは、N.Sという人物が執筆している小説で、彼女のもう一つの作品である『スペース・サンチョ』と並んで高い評価を貰っている。

 

 ストーリーは、突如現れた怪人 クラッシャー。これと立ち向かう戦士を描いた物語。

 この戦士は二つの形態を持っており、一つはウサギのような機動力で敵をかく乱する赤い装甲の形態、一つは戦車のような頑丈さで敵と真正面からぶつかり合う青い装甲の形態となっている。

 他にも、彼には二人の戦友が存在し、主人公を合わせて三人は名前に動物をあらわす文字が入っている。

 

「へぇ~。結構面白いじゃん」

 

 

「だろ?だろ?だろ? さすがはN.S!」

 

 

「気力も回復したみたいだし、作業を再開――――」

 

 突然一海は立ち上がり、叫ぶ。

 

「N.S!N.S!N.S!エブリバディセイ!」

 

「……はぁ?」

 

「はぁじゃねぇよ!N.Sたんへの愛はそんなものか?!」

 

「ついに『たん』が付きやがった……あ、そのさ、N.Sって、名前のイニシャル?」

 

「そうみてぇだ」

 

「……ふーーーん」

 

「な、なんだよ」

 

「先、越されちまったな」

 

「………………はああああああああああ!?」

 

 惣一の言葉を理解した一海はスクラッシュドライバーを手に部屋を出ようとする。

 

「心火を燃やしてぶっ潰す!」

 

「そいつを使うのは止せ!」

 

「放せ!葛城!」

 

「俺はもう葛城じゃない!」

 

「放せ!石動!!」

 

「やめろって!!」

 

()めるなああああ!!」

 

 

〔SAME!〕

〔BIKE!〕

〔BESTMATCH!〕

 

「どうよ!俺の、第・六・感!」

 

 暇を持て余す戦兎と龍我。

 二人は惣一がファウストのアジトから奪って来たボトルのベストマッチを探していた。

 パネルにはボトルがバラバラにセットされており、一からベストマッチを探すことになった。

 

 フルボトルのキャップには『(有機物系)/(無機物系)』のようないい相性を示すラベルがあるのだが、これを見て探すと三分もかからない。

 彼らは他にやることがないので、このラベルを極力見ずにベストマッチを探す。

 

「後は―――」

 

「これで終わりだ」

 

 龍我が戦兎のビルドドライバーにボトルを二本装填する。

 

〔ROSE!〕

〔HELICOPTER!〕

〔BESTMATCH!〕

 

「うそーん……」

 

「ヘリコプターって何?」

 

 現在所有しているボトルの最後のベストマッチを当てられてしょげた戦兎だったが、すぐ立ち直り龍我の疑問に答える。

 

「この世界がバーテックスの襲撃を受ける前、西暦の時代まで運用されていた航空機だ。メインローターという回転する翼で空を飛び、空中で静止したり、垂直離陸や複雑な運動が可能だ」

 

「へ……へぇ~。あ、自分でこんなこと聞いといて何だけどさ、今しか無いんじゃないか?」

 

「何が」

 

「これ」

 

 龍我が拳から小指だけを出す。『彼女』を意味するハンドサインだ。

 

「部活の邪魔しちゃいけないからなぁ……。メールで色々話してるよ。重い。携帯の容量的な意味とそれ以外の意味で。でもそれがいい」

 

「ああそうですか。じゃねぇよ!」

 

「!!」

 

「お前には護ると誓った女がいるんだろ!行ってやれよ!前に俺が言った事を思い出せ!」

 

「……『悔いを残すことだけはするんじゃねぇぞ』」

 

「ああ。何かあったら、パンドラボックスは俺が守る。ほら」

 

「…………いつもいつも、悪い」

 

 戦兎が部屋を出る。

 

 

「……言い過ぎちまったか……?」

 

 

「ここにいてもしょうがないし、私は帰る」

 

「待ってよにぼっしー。せっかく揃ったんだからどこか行こうよ~」

 

「そうだよ夏澟ちゃん!」

 

「そうよ夏澟ちゃん。……断ったら縛るからね

 

「三人の言う通り。奢るわよ」

 

「みんなで一緒にいると楽しいですよ」

 

「そうそう!どうせ帰ったら煮干し食べて煮干し飲んで煮干しと寝るんでしょ?」

 

「しょ、しょうがないわね。私も付き合おうかしら。それと銀!にぼしを飲んでにぼしと寝るってどういう意味だ!」

 

 夏澟を留まらせたその時、一台のバイクが彼女らの前で停車する。

 運転手がヘルメットを外すと、彼女らが見慣れた三人の男のうち一人の顔が露わになる。

 

「よっ」

 

「さっとん!」

 

「……状況は大体わかった」

 

 園子にニックネームで呼ばれた男、戦兎は愛車のマシンビルダーを携帯に戻し、懐に入れながら学校の状態を確認する。

 

「こりゃあ授業はできそうにないな。出かけるのか?」

 

「そんな感じかな~」

 

「そうか……」

 

 

「あ、やっぱ私用事あるからパスで」

 

「ちょっと夏澟!?何でアタシを押すわけ!?」

 

「はいはい、私たちはあっちに行ってましょうね」

 

「東郷さん?」

 

「チャンスは作ってやったぞ、佐藤!」

 

 

「それで、さっとんは私たちに……って、あれ~?」

 

 園子が辺りを見回すが、先ほどまでいた勇者部の面子がいない。

 

 彼女が戦兎の方に向き直った瞬間、銀が顔を出して『いけ』と口を動かす。

 戦兎はそれにサムズアップで返す。

 

「?」

 

「園子、俺はお前に用があってここに来た」

 

 

「え、やっぱりこの二人って―――」

 

「黙ってなさい!」

 

 

「俺は……俺は……

 

 

 お前とデートしたい」

 

 全く顔を赤らめずに、ストレートに放たれた言葉を陰から聞いていた銀と夏澟が心で叫び、風がショックを受ける。

 

((い、言ったぁぁぁ!!))

 

「やっぱり先を越されてたぁぁぁぁ!!!」

 

「シャラップ!」

 

 

「喜んで~」

 

「あ、ありがとう。…………」

 

 

((その先考えてなかったんかーい!!))

 

 

「何だ?今日は休業だ。帰れ」

 

 店番をしていた龍我。

 そんな彼の前に、城のような上半身の黒いスマッシュと、青い歯車を模した装甲が体の左半分につけられた戦士が現れる。

 

「パンドラボックスをこちらへ」

 

「その声……女か」

 

「……」

 

 龍我はスクラッシュドライバーを取り出そうとしたが、無い。

 あの部屋に置いてきてしまったからだ。

 

「仕方ねぇ……」

 

〔WAKE UP!〕

〔CROSS-Z DRAGON!〕

 

 所持していたビルドドライバーを装着し、クローズに変身する。

 

「変身ッ!」

 

〔WAKE UP BURNING! GET CROSS-Z DRAGON! YEAH!〕

 

〔BEAT CLOSER!〕

 

 龍我の手に、修理されたビートクローザーが召喚される。

 

「ふん!」

 

 斬撃がスマッシュに当たる。

 

「堅い……!」

 

 それでも、以前は刃こぼれしていたビートクローザーが全く刃こぼれしていない。

 龍我はそれにフェニックスボトルを装填。

 

〔SPECIAL TUNE!〕

〔ヒッパレェー!〕

〔SMASH SLASH!〕

 

 炎を帯びた刃がスマッシュと戦士に向かって振られる。

 

 戦士は少し後ずさったが、スマッシュは無傷だった。

 

「マジ……かよ」

 

 黒いスマッシュこと、キャッスルハザードスマッシュは、『ハザード』の名の通り、ハザードトリガーの力で強化されたスマッシュ。今までのそれとは格段に能力が上がっている。

 

「自分であんなこと言っておいて、情けねぇな……」

 

 龍我に戦士とスマッシュがじりじりと迫る。

 まずは自分を始末するつもりなのかと得物を構え直す。

 

 と、その時、戦士とスマッシュの背後から銃撃が浴びせられる。

 この銃声は嫌でも聞いた覚えがある。

 

「そんな格好のやつを俺の店に入れるわけにはいかないなぁ」

 

 ブラッドスタークだった。

 

「マスター!」

 

「葛城巧……」

 

「おっと、今の俺はもう葛城じゃない。仮面ライダー始まりの地、nascita店長・石動惣一さ」

 

 疑似的な家族と店の危機に現れた惣一は、赤いガジェットを龍我に向かって投げる。

 

「これって」

 

「お前たちの戦闘データを基に構築したシステムを組み込んだ、完成形のハザードトリガーだ。使え」

 

 残り11%のデータを自分や仮面ライダーの戦闘データでカバーし、制御システムを組み上げた。

 今の災厄の引き金(ハザードトリガー)に、代償や副作用は無い。

 

 龍我はハザードトリガーの上部のカバーを外し、起動スイッチを押す。

 

〔HAZARD ON!〕

 

 さらに、下部のジョイントとビルドドライバーの受けのジョイントを接続する。

 

〔CROSS-Z DRAGON!〕

〔BUILD UP!〕

 

 龍我の周辺に、縁が警告色のスナップライドビルダーが出現。

 それが今までとは違う速さで彼の身体に装着される。

 

 

〔UNCONTROL FIGHTER! DRAGON HAZARD! DANGERRRRR!!!〕

 

 

 龍の横顔を模した青い複眼と肩の追加パーツ以外が黒く染まり、肩のパーツが赤、さらに腕や足には血のような赤い線が入っている……

 

 仮面ライダークローズ ドラゴンハザードフォームへと強化された。

 

「うおぉぉぉぉおおおおおおお!!!」

 

 全身の力を奮い立たせるように叫ぶ。

 




nascita:発端・始まり(イタリア語)

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