佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

47 / 75
第三十九話 災厄のブラックウェポン

「あらら、えらいことになっちゃったねぇ」

 

 敷地が抉られ、体育館が意味をなさなくなった讃州中学を眺めた惣一が呟く。

 

「『えらいことになっちゃったねぇ』じゃないですよ。こっちは色々困ってるんですから」

 

 これのせいで雨天時の体育やバスケットボールが出来なくなったため、生徒は『運動苦手だから嬉しい派』と『部活が出来ないしそれ以前に運動が出来なくて辛い派』に分かれてしまっただとか。

 

「ごめんごめん。あ、コーヒー一杯―――」

 

「「「いらないです」」」

 

 風、樹、美森が拒否。

 

「マスターのコーヒーは……なんだかなぁ、寝ぼけてる朝に飲むのはいいんだけどなぁ」

 

 銀がオブラートに包んだ表現で拒否する。

 

「私は用事があるのでご遠慮しますね~」

 

 笑顔で園子が拒否する。

 戦兎(アイツ)、いつもこの笑顔見てるの? ケッ!!(嫉妬)

 と思う惣一。

 

「ゆ、友奈ちゃ~ん!みんな酷いと思わな―――」

 

 君が最後の希望なんだと言わんばかりに友奈に視線を向ける。

 だが、彼女から返ってきた言葉は惣一の心に刺さるものだった。

 

 

「えっ………………い、いいですね!行きましょう!」

 

 

 最初の一瞬だけ絶望した表情を浮かべ、すぐにいつもの笑顔に戻った。

 心は受け入れようとしているのだが、体は拒否していた。

 

「ぁ……」

 

 惣一が膝から崩れ落ちる。

 

「あれ、石動さん?」

 

 

「たでーまー」

 

「あいつらはいないのか」

 

 nascitaに独り悲しく帰ってきた惣一。

 

「コーヒー―――――」

 

「あぁ、納得だわ」

 

「俺まだ『コーヒー』しか言ってないよね!?」

 

「もう一回土下座するか?」

 

「……」

 

 その時、惣一の端末に着信が入る。相手は猿渡一海。

 ハード及びハザードスマッシュの出現とのこと。

 

「万丈、出動だ。先に行ってろ」

 

「わかった」

 

 勢いよくドアを開けて飛び出す龍我を見送り、惣一は地下室へと足を運んだ。

 

 

〔ROSE!〕

〔SMAPHO!〕

 

「変身!」

 

 いち早く現場に駆け付けた―――というよりはスマッシュとばったり会ってしまった戦兎が変身する。

 

 スマッシュは合計三体。城、クワガタ、フクロウをモチーフにしたもので、

 城はキャッスルハザードスマッシュ

 クワガタはスタッグハザードスマッシュ

 フクロウはオウルハザードスマッシュ

 という名称。

 

 戦兎は初見のスマッシュを前に緊張し、左腕の盾を構え、右腕から鞭を具現化させる。

 そして何より彼を緊張させていたのは、勇者部の視線だった。

 

「何やってんだ!早く逃げ―――」

 

「さっとん!後ろ後ろ!」

 

 戦兎が後ろを振り向くと、新たなスマッシュ―――ではなく、仮面ライダーグリスが立っていた。

 

「なんだ、脅かすんじゃないよ。あいつは味方―――」

 

 彼の足元に二連のビームが放たれた。

 

「えっ」

 

「桐生戦兎……貴様ァァァアアアアアア!!!」

 

〔ATTACK MODE!〕

 

 ツインブレイカーを変形させ、バンカーを突き刺そうとするところを盾でガードする。

 

「おい猿渡!戦うのあっち!あっち!」

 

「うるせぇ!俺は全てを知った!」

 

「全て?」

 

 

「N.Sとはどういう関係だァァア!!」

 

 

「知らな―――」

 

 知らないよと口に出しかけた戦兎だったが、園子の表情が視界に入り、口をふさいだ。

 

「……これだよ」

 

 拳を作り、小指だけ出す。

 

「そう……か」

 

 一海は攻撃を止め、スマッシュへ歩いていく。

 

「激怒!」

 

〔SINGLE!〕

〔SCRAP FINISH!〕

 

 ツインブレイカーにユニコーンフルボトルを装填。

 これと同時にドライバーのレンチを下げる。

 

「嫉妬!」

 

〔TWIN!〕

 

 さらに、ロボットスクラッシュゼリーを装填。

 

「祝意!これが俺の魂だァァァァ!!」

 

〔TWIN BREAK!〕

 

 一角獣の角のように鋭利化したエネルギーがバンカーを包むように発生し、ロボットの力で勢いよくキャッスルハザードスマッシュに激突するが、当のスマッシュは後ろへのけぞっただけで、ダメージは期待できるものではなかった。

 

「ちぃ……!」

 

 スクラップフィニッシュとツインブレイクの二つを同時に使用したせいでスーツに過度な負担がかかり、変身が解除されてしまう。

 

「ビルドアップ!」

 

〔ニンニンコミック! Yeah!〕

〔分身の術!〕

 

 戦兎は形態を変え二体の分身を召喚し、一対一の状況を作り出すが、

 相手はスクラッシュですらほとんど対抗できなかった存在。そう長く保てるはずがなかった。

 

 彼の周囲を三体が取り囲み、キャッスルが姿勢を前のめりにし、スタッグがクワガタの顎を模した剣を構え、オウルが腕と一体化した羽を広げる。

 そして、同時に地面を蹴ってタックル。

 

 装甲の代わりに機動力を得ている今のビルドには、これに耐えるすべを持っていない。

 

「ぐっ…………はぁ……」

 

 変身が解除され、その拍子で懐にしまっていたハザードトリガーが落下する。

 

「さっとん!」

 

 園子が端末を取り出す。

 

「乃木!」

 

 勇者に変身させまいと風が彼女の腕をつかむ。

 

「でも……!」

 

「……わかってる。でも……」

 

 勇者という存在は極秘にしなければならない。

 それ以前に、スマッシュに通用するものなのかもわからない。でも放っておけば戦兎と一海が危険だという葛藤があった。

 

「……やっぱり、これを使うしかない、か」

 

 戦兎はハザードトリガーの上部スイッチの保護カバーを外し、再びスマッシュの前に立つ。

 

〔HAZARD ON!〕

 

 ハザードトリガーをドライバー右上部に接続。

 そして、ラビットとタンクのフルボトルを装填する。

 

〔RABBIT!〕

〔TANK!〕

〔SUPER BEST MATCH!!〕

 

 レバーを回転させることで、ハザードトリガーによって強化された二つのボトルの成分が"ハザードライドビルダー"という金型として具現化。戦兎はその間に立つ形になった。

 

 

〔Are you ready?〕

 

 

「――――――変身」

 

 一瞬で彼はハザードライドビルダーに挟まれる。

 隙間から黒い煙が漏れるこれが開くとそこには、漆黒の戦士が立っていた。

 

 

UNCONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!!〕

 

 

 葛城巧の(・・・・)創った仮面ライダービルドの最終形態であるハザードフォームに戦兎は変身した。

 

 スマッシュはそんな彼を一番の脅威だと認識し、スタッグが先手を仕掛ける。

 

「ハァ!」

 

 それを左腕で払いトリガーのスイッチを再び押す。

 

〔MAX HAZARD ON!〕

〔READY GO!〕

OVERFLOW! ヤベェェェェイ!!〕

 

 かつて、佐藤太郎が使用していた疑似満開と同じ名称の"オーバーフローモード"に突入。

 この状態では、トリガーのハザードレベル上昇機能と制御プログラムの比率を6:4から8:2にすることでさらなる強化がされる。

 

 飛び込んできたオウルを左手で捕まえ、自身の装甲から漏れる強化剤をオウルにも流し込む。

 

〔READY GO!〕

〔HAZARD FINISH!!〕

 

 明らかに心臓を狙った蹴りが炸裂し、オウルは消滅。

 同時にオーバーフローモードが解除され、戦兎の頭がガクッと下がり、腕も力を抜いたように垂れ下がる。

 

 

 

 その数秒後、顔を上げスタッグへ駆ける。

 

 

 

〔DRAGON IN CROSS-Z CHARGE!〕

 

「戦兎!!」

 

 現場に到着した龍我。彼の前には足がすくんでみえる勇者部の面々と、倒れている一海。そして、赤と青の複眼で、それ以外が真っ黒の戦士がスマッシュの首を折ろうとしているところだった。

 

〔MAX HAZARD ON!〕

〔READY GO!〕

〔OVERFLOW! ヤベェェェェイ!!〕

 

 

「ッ! まずい!」

 

 残ったキャッスルが一海と勇者部へ迫る。

 

「嫌われても……知らねぇぞ!!」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。