佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第四十話 ブラックウェポンは止められない

〔READY GO!〕

〔HAZARD FINISH!!〕

 

 戦兎がスタッグハザードスマッシュの首へ数十トンもの威力を秘めた蹴りを放つ。

 オーバーフローモード時の彼からあふれ出る強化剤によってスマッシュの装甲を霧散・無力化され、彼の蹴り自体も強化されている。

 

 まさしく、必殺技だ。

 

「戦……兎?」

 

 幸い、彼がスタッグを葬った方角は勇者部とは逆の方角。

 

 首がおかしな方向へ曲がって倒れ、消滅していくスマッシュを見て一海が戦慄する。

 

 制御プログラムはどうした?

 

 まるで今の戦兎は……機械。いや、目に映る全てを壊す兵器のようだと。

 

「…………」

 

 消滅するスマッシュを見向きもせず、戦兎は機械のように体をキャッスルハザードスマッシュの方に向け、歩き出す。

 

「まずい……」

 

 制御プログラムを組み込む前のハザードトリガーは、脳が負担に耐え切れずに自我を失うというもの。

 ただ、これは『暴走』ではない。視界に映ったモノを的確に、最短の時間で排除する行動をする。その上、ボトルの交換や必殺技の発動も行える。

 

 何故かは不明だが、今、これが起こっている。

 

「龍我!使え!」

 

 このままでは龍我らにも被害が及ぶ。

 一海は龍我にクジラフルボトルを投げる。

 

〔CHARGE BOTTLE!〕

 

 龍我はそれを受け取り、スクラッシュドライバーに装填。レンチを下げる。

 

〔ツブレナァァァイ!〕

〔CHARGE CLASH!〕

 

 彼のツインブレイカーの銃口から水のようなものが発生し、前方で壁が創られる。

 

 だが、戦兎は龍我ではなく、キャッスルハザードスマッシュに目を付けた。

 

 スマッシュが砲撃を行う。

 

 これが直撃し、姿勢を崩す戦兎。

 ラビットタンクは不向きと判断してか、ドライバーからボトルを抜き、別のものと交換する。

 

〔HARINEZUMI!〕

〔SHOUBOUSHA!〕

〔SUPER BEST MATCH!!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「…………」

 

 再び体がハザードライドビルダーに包まれ、赤熱しながらそれから解放される。

 これと同時に、右肩・右腕の外側に黒いハリネズミの針、左腕に梯子を模した火炎放射器が形成される。

 

 

CONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!〕

 

 

「ッ?!」

 

 ファイアーヘッジホッグハザードフォームになった途端、戦兎の意識が覚醒し、よろめく。

 

「…………俺は……」

 

「それは後だ!ヤツを倒せ!」

 

「……わかった」

 

 必殺技発動のため、右手をドライバーのレバーにかける(FHハザードはFHと違い、手がしっかりと出ている)。

 

 すると、あることに気づく。

 

 手が黒い。

 

 それだけじゃない。肩も、左腕も、胸も足も……

 

 やってしまった。

 彼の視界には城のような上半身を持つスマッシュと、慄然としている勇者部の姿。

 

〔READY GO!〕

〔HAZARD ATTACK!〕

 

 ハリネズミの針がスマッシュめがけて飛び、スマッシュを地面と固定。

 その後、左腕の火炎放射器が伸長し、スマッシュの上半身と下半身の境、装甲の一番薄い箇所に刺さって先端が体内に埋め込まれる。

 

 さらにこのままスマッシュの体内へ発火性の高い液体を注入。

 注入後、火炎放射器を収縮し―――

 

 ――――炎を放射。

 先ほど入れられた液体と火炎放射。中と外から浴びせられる炎に耐え切れず、スマッシュはそのまま灰のように消滅。

 

 

 これを見させられた彼らは今の戦兎をなんて思っただろうか。

 

 鬼、悪魔―――――

 

 それとも――――――

 

「…………」

 

 自分が使った時とは違う。明らかに……。

 龍我の足まですくむ。

 

「ぁあ…………」

 

 これがハザードトリガーの真価。

 変身を解除した戦兎の、トリガーを握る手が震える。

 RTハザードへの変身から数分後、そしてFHハザードに変更直後までの間、自分が何をやったかを彼は覚えていない。

 つまり、その間は自我を失っていた。

 

 今回は味方への損害は無かったが、次もこうとは限らない。

 使わなければいい。こう思いたかったが、ハザードレベルが最低なうえ成長しにくい自分には、これでしか今のスマッシュには対抗できない。

 

 戦兎は、震える手をおさえて立ち去った。

 

「戦兎……」

 

 

「……」

 

「おかえり。スマッシュは倒せたみたいだな」

 

「……俺にはまだ、こいつは使えない」

 

「……そうか」

 

 龍我を見送った後、惣一は地下室のパソコンで自分がまだ葛城だったころに書いた研究データを調べていた。

 

 そこには、仮面ライダービルドを始め、トランスチームシステムとライダーシステムの起源である佐藤太郎の勇者システムの事からベストマッチ31種類の事まで、至れり尽くせり。

 

 余談だが、ここに書かれているベストマッチフォームの情報はあくまで推測。

 太郎を回収と同時に葛城がシステムを完成・運用し、ブラッドスタークとしてファウストに配属するまでの短時間で書き上げたもののため、実際のものは多少違っている。

 

 この中から、目当ての情報を発見した。

 

 要約すると、『ラビットタンクは二・三番目に開発されたフルボトルであり、最初に発見されたベストマッチであり、パンドラボックスと一番相性が良い(二番目はブレイブスナイパー)』。

 

 今、戦兎から聞いた話と組み合わせると、

 

『ハザードトリガーには既存のフルボトルの成分を強化するパンドラボックス由来の強化剤が内蔵されている。

 戦兎が制御できなかったRTハザードはこれが原因なのでは』

 

 このようになる。

 

「……戦兎、こんな時に言い辛いんだけどさ、……幻徳がお前をご指名だ」

 

「………………行ってくる」

 

「『話がしたい』とか言ってたが、用心しろよ」

 

「わかってる」

 

 暗い表情の戦兎を見送り、彼の愛車のエンジン音が聞こえなくなった後、惣一は壁に向かって拳を叩きつけていた。

 

「クソッ!クソッ!」

 

 悔やんでも悔やみきれない思いが煮えたぎる。

 桐生戦兎。

 惣一が彼に付けた名前。

 

 戦車の『戦』に『兎』で戦兎。

 ビルドの初期ベストマッチフォームが由来。

 

 しかし、彼は気づいた。自分はなんてものを名前にしたのだろう。

 

 桐生は、桐→きり→霧 と変換して『霧(ネビュラガス)から生まれた』となることが由来。

 

 戦車はその名や見た目の通り、兵器。

 兎は今や可愛いペットだが、昔は実験動物として使われていた。

 

 

 

 

 つまり、科学の負の面のベストマッチだと。

 

 

 人気のない地下駐車場。

 ここで一人の男と、二人の戦士が立っていた。

 戦士の一人は、右上半身に赤い歯車を模した装甲が、もう一人はその逆に青い歯車を模した装甲が備えられている。

 

 そこへ、戦兎が現れる。

 

「……何の用だ」

 

「そう慌てるな。私はお前に話をしたいだけだ。危害は加えない」

 

「……」

 

「この戦いを終息させたい。お前もこう思っているだろう。

 一か月後の8月29日、大赦とファウストの代表戦を行う」

 

「代表戦……?」

 

「大赦・ファウストから一名ずつ仮面ライダー、もしくは、それと同等の力を持つ者を選出し戦わせる」

 

「……」

 

「話は以上だ。一か月後、戦場で会おう……」

 


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