佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第四十一話 勇者の成れの果てのデッドリー

 7月の下旬―――

 学校の殆どが夏休みに入っているこの頃―――

 

 桐生戦兎が豹変した。

 

 

「まさか、生き残りがいたなんてね……」

 

 勇者部の部長である風が嘆く。

 

「あの時12体全部倒したはずだよね……?」

 

 妹の樹が続く。

 

「まっ、俺たちにかかればバーテックスの一体や二体どうってことない……」

 

「……」

 

「ん?」

 

 今、彼らの前に広がっているのは樹海。

 バーテックスが結界を越えてきたことを意味している。

 

 風や樹、友奈は『まだ生き残りがいた』と推測しているが、実際は違う。

 真実を知っているのは5人。

 

「…………銀」

 

「……わかってる。

 あ、あの、先ぱ―――」

 

 銀が重い口を開く。

 

「双子座?これって銀が切り刻んだ変態じゃない」

 

 風が端末のレーダーに写っている名前を口に出す。

 

「双子だから二体で1セットなのかな?」

 

 友奈の言葉に、美森はどう返していいかわからなかった。

 

 そうなのかもね。

 足が速いから突破されないようにしなきゃね。

 本当は……

 

 どれも違う。

 

 そして、もう一つ悩みというより疑問がある。

 彼女は以前、巫女の神託のようにバーテックスの襲来を予知できた。

 だが、ある日を境にこれが出来なくなってしまったのだ。

 何故?

 

「東郷さん?」

 

「……いえ、何でもないわ」

 

 

〔YUUSHA!〕

〔RIFLE!〕

 

「頑張ろうね~さっとん」

 

「……」

 

〔SUPER BEST MATCH!!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「さっ―――」

 

「変身」

 

 話しかける園子をよそに、戦兎はハザードライドビルダーに挟まれ、数秒後にそれを内側から叩き割る形で変身を完了させる。

 

〔UNCONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!!〕

 

 ブレイブスナイパーフォームに装備されていた両腕のガントレット、背中の鷲の翼を模したパーツも全て、汚染されたかのように黒色になっていた。

 

 そんな戦兎は、独りバーテックスの元へ駆けだした。

 

 これをクローズチャージに変身した龍我が追いかけ、戦兎の前に出る。

 

「どうしたんだよ!」

 

「俺が戦いを終わらせる!!」

 

 戦兎は龍我を自分の視界から外し、槍を召喚する。

 蓮をモチーフにした槍は彼が握った瞬間、枯れたかのように変色した。

 

〔MAX HAZARD ON!〕

 

「俺の邪魔をするヤツは誰であろうと……容赦はしない」

 

 戦兎は得物を足元に刺し、レバーに手をかける。

 

〔READY GO!〕

〔OVERFLOW! ヤベェェェェイ!!〕

 

 自分の進路を妨害する龍我を左腕で持ち上げ、そのままオーバーフローモードに突入。

 右拳でアッパーし、

 

「かはっ……!?」

 

 踵落としで思い切り地面に叩き付け、右足で龍我の得物を払う。

 

〔READY GO!〕

〔HAZARD FINISH!!〕

 

 槍を手に取り、向かってきたジェミニ・バーテックスを貫く。

 さらに得物越しに強化剤を流し込む。

 

「何があったんだよ……戦兎……!」

 

 黒いガスにもオーラにも見える強化剤によって醜く消滅していくバーテックス。

 これを背景に、龍我は戦兎の足を掴んで抵抗する。

 

 戦兎は彼の胸倉を掴み、反対の手で拳を作る。

 だがその時、一人の少女の介入によってこの事態は収まった。

 

「止めてよ。さっとんが人を傷つけるなんて間違ってる」

 

「……」

 

 自分と同じ形状の槍、正確にはそれのオリジナルを握り、自分と龍我を遮るように突き出している少女、園子を前に戦兎は龍我を離し、変身を解除する。

 

「……俺は強くならきゃいけないんだよ」

 

「何で?さっとんは十分―――」

 

「強くないから今こうやって……やってるんだよ……」

 

 彼は懐から薄紫のボトルを取り出す。これを園子の手に握らせ、

 

「――――――ありがとう」

 

 顔を近づけた。

 その直後、世界の樹海化が終わる。

 

 

 戦兎はまだnascitaに帰って来ていない。

 

 龍我が独り寂しく地下室をふらついている。

 と、その時、机の上に置かれていたガジェットが動き出し、龍我の周りをぐるぐると飛び出した。

 

「ッ!」

 

 思わず彼はファイティングポーズをとるが、そのガジェットのシルエットを視認した途端、これを解く。

 

「クローズドラゴン……?」

 

 ネイビーブルーを基調とし、黒の差し色。クローズドラゴンのメインとサブの色が逆になっているカラーリング。

 しかし、クローズドラゴンはAIを抜いた形で自分が今所持している。

 

 龍我はガジェットの元あった場所に置いてある紙を手に取り、このガジェットの名前を口に出す。

 

「クローズドラゴンマックス……」

 

 下には、戦兎の字で『独りだと何をするかわからないお前の新しい相棒だ』と書かれていた。

 

「…………何が『独りだと何をするかわからない』だよ……。お前じゃねぇか。一番わからねぇのは」

 

 彼はnascitaを後にした。

 

 

「……」

 

 戦兎は空を見つめていた。

 思い返せば、ライダーシステムというものが作られたのも、ビルドという存在が生まれたのも全て、過去の自分がいたから。

 

 佐藤太郎の戦闘データがなければ、プロジェクトビルドは凍結し、ファウストが生まれることも、ハザードトリガーを使って自我を失い、これを見た少女たちの心を傷つけることも無かった。

 

「なに黄昏てんだよ」

 

「……万丈?」

 

「マスターから聞いたぞ。代表戦とかいうのに参加するみたいだな」

 

「…………」

 

 龍我は、自分と園子、二人だけに話した事を確認させるために語った。

 

 

 

『代表戦?』

 

『大赦とファウスト、正確には俺たちとファウストの戦いを終わらせる戦いだと』

 

『それであんなに……』

 

『それもあるが、一番大きかったのは、スクラッシュドライバーのデータが奴らに流れていたこと。あいつは、俺が途中まで作ったデータを基にあれを完成させた。平和を取り戻すためにな。だがそれが平和を乱す者に渡ってしまったとなると……』

 

『……何で…………なんで何も言ってくれなかったの……?

 せめて、せめて……! 心の支えにはなりたかったのに……!』

 

 

 

「なぁ、そんなに俺が信用できねぇか? マスターにだけ話して」

 

「そんなことは……」

 

「その上、園子まで泣かせやがって……『あれが最初の口づけなんてちっとも嬉しくない』とか言ってたぞ」

 

「……」

 

「黙ってても何もできねぇぞ。お前は何がしたいんだよ」

 

「……代表戦に勝って、戦いを終わらせる」

 

「もしそれがファウストの罠だとしたら?」

 

「……そうだとしても、奴らの戦力を削るチャンスになる」

 

「………………わかった。もう止めねぇよ。その代わり」

 

 龍我がドラゴンとロックのボトルを戦兎に渡す。

 

「絶対に勝て」

 

 

 8月29日 正午

 

「やはりお前が出ることになったか」

 

 廃墟と化した讃州中学の体育館を再築し、一対一の戦いができる場へと姿を変えた場所で、幻徳が立っていた。そして、彼の腰にはスクラッシュドライバーが装着されていた。

 

〔CROCODILE!〕

 

「変身」

 

 ドライバーにクロコダイルクラックフルボトルを装填。

 レンチを下げることで、側面が圧迫され、ボトルに亀裂が走る。

 

〔割れる!食われる!砕け散る!〕

〔CROCODILE IN ROGIE!! オォォォォラァ!!!〕

 

 仮面ライダーローグ。

 ワニを模した紫色の装甲が、日の光で怪しく光っている。

 

 対する戦兎も、ビルドドライバーを装着し、ボトルを装填する。

 

〔DRAGON!〕

〔LOCK!〕

〔BESTMATCH!〕

 

 

Are you ready?

 

 

 彼の脳裏には、ハザードトリガーを使った黒い悪魔の姿が浮かんでいた。

 

「………………変身!!」

 

〔封印のファンタジスタ! キードラゴン! Yeah!〕

 

 

「これより、大赦とファウストの代表戦を行う。敗北条件は、ライダーシステムの解除・破壊―――」

 

 ビルドとローグがお互いを睨む。

 

「始め!!」

 

 審判の一声で、代表戦が開始された。

 


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