佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第四十四話 ペアレンツを信じるな

『何をしているんだ!』

 

『黙れ葛城! これは人類の―――いや、大赦に復讐するために必要なんだよ!!』

 

『そんなことのために、大勢の人にネビュラガスを―――』

 

『奴らは全て更生のしようのない刑務所の人間だ! たとえ死んだとしても誰も傷つかない!誰も悲しまない!』

 

『そういう問題じゃないだろ!』

 

『黙れ!! そういう貴様こそ、エボルシステムという兵器を設計しているじゃないか!』

 

『あれは防衛用の力だ。侵略や破壊に使うものじゃない』

 

『だとしても、兵器は兵器だ! それに俺は……貴様ら大赦のせいで両親はひどいバッシングを受け、父は自殺、母は天神というモノの意味のない生贄になった!俺にはもう復讐という道しか残されていない!』

 

『……』

 

『それでも俺に楯突こうものなら、まずは貴様から始末する!!』

 

 

 

 

 

 

 

「俺は…………バーテックス(ヤツら)の力を借りてでも……必ず……!」

 

 

 

 

 

「―――で、何しに来たんだよ」

 

「だから、大赦クビになったから今日からここで―――」

 

「ふざけんじゃねぇよ! 俺の畑や豆の費用はどうするんだよ!」

 

「知らねぇよ」

 

 nascitaに一海が遊びに来た。

 荷物をまとめて。

 

「とりあえず、寝るとこだけ用意してくれねぇか?」

 

「そこら辺」

 

「……うん?」

 

「ここの椅子退かして横になるんだよ」

 

「…………そうか。わかっ―――ん˝ん˝ん˝ん˝!?」

 

 一海の視界にある人物が移る。

 いつものように本店に訪れている7人。

 その中の一人の、腰まで伸びた金髪に、おっとりとした雰囲気。

 

「やっぱりそうだ。金髪・讃州中学生……そのたん!」

 

「「その……たん?!」」

 

 惣一と龍我が唖然とする。

 

「こうしちゃいられない……」

 

 一海は荷物を放り投げ、そのたんこと、園子の前に立つ。

 

「さっ猿渡一海29歳独身! ネットで小説を読んで、貴女のファンになりました!

 あっああああ握手してください!」

 

 いい年の男が中学生に握手を求めている。

 スクラッシュドライバーの副作用なのか、彼の素なのか。

 どちらかはわからないが、今の一海は堂々としていた。

 

「去年ぐらいから熱心に感想くれる人がいると思ったら、あなただったんだね~」

 

 園子が一海の握手に応じる。

 

「はい! カズミンって呼んでください!」

 

 

「「うわぁ……」」

 

 龍我と惣一が引く。

 一方の勇者部6人は、今の状況に混乱して引くことすらできなくなっている。

 

 

「あはは~、面白い人だね~」

 

「あっそうだ、写真!写真撮らせてください!特性の枕作りた―――」

 

 その時、これ以上はまずいと判断した龍我が動き、一海を園子から引き離す。

 

「待て待て、落ち着け。な? ひっひっふー」

 

「何で止めたんだよ。俺はそのたんを寝取ろうとしたわけでもないし、一線を越えるつもりもない。約束しよう」

 

「それとこれとは話が違うんだよ。お前恥ずかしくないの?」

 

「こんなので恥ずかしがってたら社会で生きていけねぇだろうが目玉焼きの白身みたいな肌しやがって」

 

「あ?目玉焼きのどこが悪いんだよ」

 

「別に目玉焼きが悪いとは言ってないだろ塩かけるぞ」

 

「俺は米派なんだよ。米と一緒に食う目玉焼きうまいからな」

 

「そうかそうか。今からでも遅くない。塩派になるんだ」

 

「塩を否定するわけではないけど俺は米派を貫く」

 

「「……」」

 

 二人が盛り上がる中、戦兎が地下室からようやく顔を出した。

 

「やっと来たか。仲直りしたってのにどうしたんだよ」

 

「……園子の親から連絡があった。今すぐ来いだって」

 

「今からぁ!?」

 

 代表戦の後、戦兎は園子の元へ向かい、自らの行動を謝罪した。

 後の事ばかりを考えて今を見ていなかった事、約束を破った事。

 

 すると彼女は、『二度とこんな真似しないで』と言って泣きながら抱擁してきた。

 そして、新たな約束を立てた。

 

 悩んだら相談。

 

 勇者部のメンバーが一人一人考案した『勇者部7箇条』の一つ。

 

 一、挨拶はきちんと

 一、なるべく諦めない

 一、よく寝て、よく食べる

 一、悩んだら相談!

 一、気合と根性!

 一、何でも怠ることなかれ

 一、なせば大抵なんとかなる

 

 

 

 …………尚、戦兎は本当に針を千本(細かく砕いて)飲み込もうとしたが止められている。

 

 

「それより戦兎! 米と塩、どっち派何だ!」

 

「は?」

 

「目玉焼きに合うものだ。……同じそのたん好きなら分かるはず。塩派だろ?」

 

「米!」

 

「塩!」

 

「無しって選択肢も悪くないんよ~」

 

 戦兎が出した答え。それは

 

 

 

「卵掛けご飯用醤油」

 

 

 

「……なぁ」

 

「何だよ」

 

「あんなこと言って悪かった」

 

「気にしてねぇよ。……今度買ってこよう。卵掛けご飯用醤油」

 

 龍我と一海が顔を合わせ、さっきまでの言い争いは何だったんだと悔やみ始める。

 

 塩分を含み、米や卵(目玉焼き)と相性の良い調味料を見つけ、二人は和解した。

 

「じゃあ俺、行ってくるから」

 

「うん。またね~」

 

「あぁ……あっ」

 

 戦兎が忘れていたことを思い出し、皆の方を振り向く。

 

 

「大赦を信じるな」

 

 

 こう言って、nascitaを後にした。

 

「俺がクビになった訳はやっぱりそういう事だったのか」

 

「? どういうことだよ」

 

 

「あの……マスター?」

 

 園子が恐る恐る惣一を呼ぶ。

 

「なになに?そんな真剣な顔して」

 

「……さっとんが動けるようになったのって、ネビュラガスっていうもののおかげなんですよね……?」

 

「おかげ……ね。あぁそうだ。体についても……それのせいだ」

 

 惣一の表情が暗くなる。

 そして園子はもう一つ質問をする。

 

 彼の散華で失った身体機能は返ってくるんですか?

 

 ネビュラガスで動けるとはいえ、元々の身体機能が返ってきた方がいいはずだと思って彼女はこう言ったのだろう。

 

「それは…………」

 

 惣一は絶句した。これは言っていいものなのかどうか。

 

「本当の事を教えてください」

 

「そのっち……」

 

「乃木……あんた……」

 

 頭を下げる園子を前に、惣一は重い口を開いた。

 

「怖くないのか? 知りたくも無い真実かもしれないぞ」

 

「一番怖いのは、何も知らない自分ですから」

 

「………………そうか。なら、話すよ。

 戦兎の、太郎の身体機能は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――返ってこない」

 

 

「やあ、よく来てくれたね」

 

「何かあったんですか?」

 

 一方、戦兎は乃木家に到着した。

 太郎の時に一回、戦兎になって一回。

 これで三回目になるが、今回は何かがおかしい。

 

 まず、当主である園子の父の表情が硬い。

 前回来たときはかなり柔らかかったはずなのに。

 

 二つ目。殺気が漏れている。

 ただし、当主ではない。

 

「戦兎……頼みがある」

 

「はい……」

 

「君の持っているビルドドライバー及びフルボトルをこちらに渡していただきたい」

 

「……何ですって?」

 

「君の持っているそれは危険なものだ。我々大赦のほうで預からせてもらう」

 

 当主が急かしてくる。

 

「頼む……! このままじゃ、娘や……友達が……!」

 

「……」

 

 当主は第三者に脅されている。

 戦兎は察した。

 

「はい。ドライバーにボトルです」

 

 戦兎はフルボトル数本と、ドライバーを渡す。

 

「……ん?ビルドドライバーというのは、こんなに軽いものだったのか?」

 

「技術の発達は思っているより早いものですよ」

 

「……ありがとう。こんな時間に、すまなかった」

 

「困ったときはお互い様、でしょ?」

 

「そう……だな」

 

 帰る戦兎の背中を見つめ、玄関を閉めた。

 

 

 

 

 

 

「ご苦労。大赦もたまには役に立つじゃないか」

 

 当主の背後に、ライトカイザーが現れる。

 

「これで勇者の件は後回しにしよう」

 

「後回し……!? 話が違―――」

 

 当主がライトカイザーの襟を掴もうとするが、逆に自分が掴まれる破目に陥った。

 

「どちらにしろ、神婚は行ってもらう。

 だが、これに勇者は反対し騒ぎを起こすだろう。

 

 その前に勇者を消すか、神婚後に勇者を消すか……それは俺たち次第だ」

 


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