佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第四十六話 トゥルースは明かせない

「はっ!?」

 

 早朝、龍我が勢いよく目覚める。額からは汗が垂れ、息も荒かった。

 

「何なんだよ……あの夢……」

 

 彼は夢を見ていた。

 

 倒したはずの天神が巨大な鏡のような姿で現れ、世界を見下している様を。

 だがそれは分身に過ぎず、本体は等身大の人型で、ゆっくり迫っていく―――

 

 そんな夢を見た彼の手には、あるものが握られていた。

 

 それは、彼と勇者が初めて出会ったとき、戦兎が彼女らから採取した力を浄化したものの片割れ。

 一つはライフルフルボトル。

 もう一つはこれである。

 見た目は浄化前のボトルだが、これで浄化済らしい。

 

 これの力は悪夢を見せるものなのか。彼はもう一度ボトルを振って目を瞑る。

 

 

やったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

 

「ッ!?」

 

 一海が狂喜乱舞する様子が夢として視認できた。

 ある意味これも悪夢である。

 

「すっかり目覚めちまったじゃねぇか…………」

 

 悪夢を連続で見させられた彼は、5時半で完全に目が覚めることになった。

 

「プロテインプロテイン……あっ、あたりめもいいな……。最近の戦兎ケチだからなぁ………また何か作るの―――――」

 

 基本、彼の食事はインスタント食品や惣一が作る食事だ。

 惣一と先程の悪夢は一階でまだ就寝している。

 

 そのため今いる地下室の冷蔵庫を漁っていたところ、あり得ない光景を目撃する。

 

 ベッドで戦兎と園子が添い寝をしている。

 

「あぁ、やっと進展しやがった…………じゃねぇよ」

 

 こいつ何時入ってきたんだ。

 

「まぁいいか。どうせ泥棒が入ってきてもレジ空っぽだし」

 

 

「おはよう、マスター」

 

「万丈!今日は随分早いんだな!」

 

「……流石にこのままじゃ不味いなと思って」

 

 6時半。

 自分から一階に上がってきた龍我に惣一は、普段朝に弱い子供が自分から起きたかのように驚いた。

 

「俺はガキじゃないっての」

 

「悪い悪い。戦兎はどうした?」

 

「あいつは……」

 

 床に転がっている一海を眺めながらどう言うべきか考える。

 と、その時、戦兎とその連れが一階に現れる。

 

「…………あれっ、何で園子ちゃんいるの?」

 

「おはようございます~」

 

「マスターが鍵してなかったんでしょ」

 

「俺鍵閉めたよ!?……閉めたっけ…………」

 

「超低収入の店の店長でも流石に施錠ぐらいするでしょ」

 

「さらっと毒吐きやがったなお前……」

 

「……で、園子が入ってこれた訳は?」

 

 龍我の言葉に、戦兎と園子は口をそろえてこう言った。

 

「「愛……かな」」

 

「そっか。これからも仲良くしてけよ」

 

 龍我は戦兎の肩に手を置いて言った。

 

 結局、園子が入ってこれた理由は『精霊に開けてもらった』からであった。

 

「それじゃあさっとん、私部活あるから行くね」

 

 戦兎が返事をしようとした次の瞬間、就寝中の一海の体がピクリと動いた。

 

「いってらっ―――」

 

「そのたん!?」

 

 一海が飛び起きる。

 

「いってらっしゃい!」

 

「い、いってらっしゃい……」

 

「そっちも頑張ってね。さっとん♪」

 

 すると、一海が『俺!俺!』と自分を指さす。

 

「え~っと……」

 

 一海が期待を胸に秘め、園子を見つめる。

 

「………………かずみん?」

 

「っ……」

 

 ようやくあだ名で呼んでもらえた彼は、言われた瞬間何かを言おうとしたのを我慢し、園子が外に出るまでその状態を保ち続けた。

 

「じゃあこっちも頑張るとしますか――――」

 

 

やったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

 

 一海が我慢していたものを全て出し切って叫ぶ。

 

「うるせぇ……ん?」

 

 この光景、あのボトルの力で見た夢と似ている。いや、まったく同じだ。

 龍我は顔をしかめる。

 

「龍我、どうしたんだよそんな顔して……。目玉焼きの件に不満でもあったのか?」

 

「違う。というか、お前の方こそ何だよそれ」

 

「あだ名で呼んでもらえたから喜んでるに決まってんだろ」

 

「お前さぁ……」

 

「俺にとってそのたんは希望だったんだよ!石動のしごきという絶望に陥った俺の心を癒してくれた!」

 

 一海は大赦で葛城の元働いていた頃を思い出す。

 

「……そんな事したの?」

 

 戦兎がマスターに視線を向ける。

 

「そんな目しない!あれはグリスに慣れるための戦闘訓練だろ!?お前が志願したじゃねぇか!」

 

「ん~……」

 

 グリスという単語を聞いて、戦兎は龍我に声をかける。

 

「万丈、お前スクラッシュドライバー使う機会あるか?」

 

「スクラッシュ……無いと思うけどな」

 

 クローズチャージの『有機物系フルボトルの力を引き出す』力を継承し、基本性能もこれより上のクローズネオに変身できる以上、スクラッシュはもう必要ない。

 

 なので、龍我は自分のスクラッシュドライバーを差し出した。

 

 戦兎はそれを受け取り、一海に渡そうとする。

 

「猿渡。これと交換だ」

 

「……何考えてるかはわからねぇが……ほら」

 

 一海もドライバーを差し出し、戦兎の持っているものと交換する。

 

「なるほどねぇ……でもそれは後にしてくれないか」

 

 唯一、惣一は彼がやろうとしていることに気づき、呼び止める。

 これはビルドドライバーにも言える事だが、スクラッシュドライバーにはライダーの戦闘データが集積されるようになっている。

 龍我のものにはクローズチャージのデータが、一海のものにはグリスのデータが入っている。

 

 逆に、これ以外は一緒なので交換しても変身に支障はない。

 

「パンドラボックスについてだ」

 

「あー……そんなのあったな」

 

「そんなことよりそのたんの小説読みたいから早くしてくれない?」

 

「ぶっ壊せよそんな箱。こんな箱のために戦ってたんだろ?くだらねぇ―――」

 

「万丈、それだ」

 

「えっ」

 

 惣一は彼らに『パンドラボックスは移動させた』『9月の第二日曜日、訓練の為勇者を大赦の訓練場に連れて行く』この二つの情報を大赦に流すよう指示した。

 

「壊すって……そんな事……」

 

「出来るさ」

 

 惣一が断言する。

 

「ラビットタンクスパークリングを作った時、ボックスの成分使ったんだって?」

 

「ああ」

 

「どうやって?」

 

「空のボトルで倒したスマッシュみたいに―――」

 

「それ、一本だけじゃないだろ?」

 

「…………あっ!」

 

 戦兎は思い出した。

 パンドラボックスの力を成分として回収できた事、そしてそれを数十本作成していたことを。

 

「お前たちには『開けたらすごいことが~』とか言ってたけどな、あれは開くものじゃないんだよ。開くものだとしても開ける事は危険を伴う。パンドラの箱ってのはそういうもんなんだよ」

 

 

『猿渡、一つ聞かせてくれ。自分の目の前に凄い力を秘めた物体があるとする。それはとても壊れやすく、外から壊したりこじ開けようとすると中身が消滅。そして、これを敵が狙ってると。敵は目の前。自分は武器しかもっていない。どうする?』

 

『…………あんた、まさか……』

 

『そのためにも、そいつが必要なんだよ』

 

 

「……」

 

 一海も、以前惣一に言われたことを思い出した。

 あれは比喩でも何でも無かったのかと思う一方、破壊した際、浴びると交戦的になるあの光の放出についての不安が募る。

 

 

「戦兎」

 

 乃木家当主にメールで惣一の言った事を送信する戦兎。

 龍我と一海は先に現地へ向かった。

 

「お前は怖くないのか?」

 

「……何が」

 

「自分の体についてと両親について」

 

「……」

 

「……」

 

「俺があの時勇者に選ばれる前から、二人は『仕事だ』といってよく家を空けていた。家にいるのが珍しいぐらいに。それも全部ファウストだったから……なのか?」

 

「……そうだ。でも、あの時の俺はまだ気づけていなかった。……体の方はどうだ?」

 

「何だよ急に……」

 

「特に何もなければそれでいいんだよ。それで……」

 

 ライトとレフト、二体のカイザーの正体である戦兎の両親。

 

 彼と葛城だった頃の惣一の決着の際、戦兎は言っていた。

 

 

 

『家より大赦にいた時間が多かったとはいえ、生みの親との思い出を忘れてる』

 

 

 

 桐生戦兎となった彼からは、もう両親の顔や思い出が消えている。

『こんな感じの親がいた』程度にしか残っていない。

 

罪人ってのは、俺みたいな奴を指すのかもな

 

「マスター、何か言った?」

 

「いや。俺たちも行くか」

 


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