佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第四十八話 創造主のエボリューション

「朝だよ~」

 

「……」

 

「起きて~」

 

「……」

 

 朝、今までと違って中々目覚めない戦兎。

 

「起きろ~!」

 

 頬をつねられる感触がした。

 痛いわけではなかったが、寝たままだとずっとやられそうだったので起きる。

 

「――――おはよう」

 

 最近、やけに疲れのたまりやすい体を起こし、自分を起こしてくれた者の名前を口に出す。

 

「園子」

 

「……うん、おはよう」

 

 彼女の特徴の一つといえる間延びした口調が聞こえなかった。

 

 

「何? 今日お前ら学校無いの?」

 

「そうよ」

 

 一階で龍我がカップラーメンをすすりながら、来店した勇者部に声をかける。

 最初に反応したのは夏凜だった。

 讃州中学には職員室以外、エアコンは存在しない。部室には古びた扇風機が一つだけ。

 そのため、彼女らは猛暑・厳寒の日はnascitaを臨時の部室として利用することがある。

 

「なるほど……祝日かぁ」

 

 

「おはようございま~……す」

 

「……俺も次から寝坊しようかな……」

 

 戦兎がノートパソコンを持って一階に上がってくる。

 パンドラボックスを破壊してから数日、彼はこうやって頭を抱えていた。

 

 グリスとビルドの強化。

 

 グリスの方のシステムは大方完成しているが、ビルドはどうしても完成しない。

 ビルドを強化するにはハザードトリガーを使うしかない。

 そして、その中で強化の可能なものはラビットタンクとブレイブスナイパーだけ。

 

 だが、ラビットタンクの強化版であるスパークリングを使ったハザードフォームは自我を一秒たりとも維持できなかった。

 

「ん~……」

 

「戦兎、パソコン使ってんのか? 使ってないなら借りるぞ」

 

「えっ」

 

 戦兎の返事を待たずに一海がパソコンを取り上げ、愛読している小説のあるサイトへとアクセスする。

 

 彼が愛読する『スペース・サンチョ』と『マスクドウォーリアー』。

 その中で、更新されたマスクドウォーリアーを開く。

 

 最新話のタイトルは『赤きスピーディージャンパー/鋼鉄の青き戦士』。

 主人公が変身する二つの姿に関する話のようだ。

 それぞれ、赤の戦士はウサギ、青の戦士は戦車をモチーフにしている。

 

「ラビット……タンク……?」

 

 後ろから小説を覗き見る戦兎が呟く。

 アイデアが浮かんだ。

 

「園子」

 

「?」

 

「ありがとう」

 

 戦兎は地下室へ戻った。

 

「二度寝はダメだよ~」

 

「おい戦兎! マスターのアイスいらねぇのかよ!」

 

 

 ようやく開発に取り組めるほどのアイデアを得た戦兎。

 

「こんな暑い時に開発か?」

 

「あぁ。一先ず、これを見てくれ」

 

 パソコンの『GREASE-DISPENSER-』というファイルを閉じ、ブラッドスタークの視覚データを表示する。

 

「……両目がラビットのハザード?」

 

「さっとん……」

 

「この時だけ、自我が戻ったんだ。つまり―――」

 

「さっとん?」

 

「……はい」

 

 いつもと違う雰囲気の園子につい敬語になる。

 

「また、使ったんだね」

 

「これは……仕方がなかったんだよ。何か最近疲れやすくてさ――」

 

 自分が動けないと相手は惣一を狙う。だが彼は相手と分が悪い。

 だからいっそ、ハザードで暴走したほうが戦える。

 暴走すれば動きが『相手を潰すためだけを考えたもの』になる。悪い言い方をすれば単調になる。

 そのため、遠方の視覚外からハザードトリガーを撃つなりして強引に外せばハザードフォームは解除される。

 こう説明した。

 

「そう、だったんだ……

 ……ねぇ、手伝えることってあるかな」

 

「戦兎は一人でやりたがる節があるからなぁ。無いって言われても手伝ってやれ」

 

「は~い!」

 

「お前俺の事をそんな風に…………、そうだな。あの時の俺はどうかしちまってたな」

 

「正直、一番どうかしてたのは天才を自称してた頃―――」

 

「黙らっしゃい。ってか、さっきから何漁ってんだよ」

 

「俺の第六感がここに何かあるって言ってんだよ。……あ、あった」

 

 龍我が、廃材の入った箱からフルボトルと同じくらいの物を見つける。

 

 形状はフルボトルと酷似しているが、中が完全に視認できない黒色の上、キャップの色が金。

 そして、中央にビルド並びにライダーシステムを表す紋章が描かれていた。

 

「いつの間にこんなの作ってたのか」

 

「……いや、初めて見るな」

 

「え?」

 

 龍我からこの黒いボトルを受け取り、間近で確認する戦兎。

 意外とずっしりとした重みがある。

 

「細かい傷が多々……。作られてからだいぶ時間が経っているか、そこに入れてたせいなのか……」

 

 試しに振ってみる。

 反応がない。

 フルボトルのようにシャカシャカと音を立てる様子も無い。

 

 それほど成分が隙間なく入っているのだろうか。

 

〔――――〕

 

 ビルドドライバーに装填しても反応がない。

『装填ができる』、『ボトルに描かれた紋章』から考えて、少なくともビルドに関係するものであることは確かである。

 

 それ以上の事は分からなかったため、ボトルを退屈そうにしている龍我に返した。

 

「園子、お前はこれを頼―――」

 

〔RIDER SYSTEM!〕

 

「……何かできた」

 

 龍我が黒いボトルを装填したドライバーを見せる。

 

「ライダーシステム……」

 

「さーて、ベストマッチは……これかぁ?」

 

〔COBRA!〕

〔EVOLUTION!〕

 

「お~」

 

 見事、黒いボトルと最も相性の良いボトルを当てた龍我。

 

 その時、焦りの表情を浮かべた惣一が駆けてきて黒いボトルを没収した。

 

「何すんだよ!」

 

「ダメダメダメ! これ使っちゃダメなやつ!」

 

「何で」

 

「何ででも!」

 

 退出する惣一。

 

「…………こんなこと言いたくないんだけどさ、マスター最近怪しくね?」

 

「そのセリフ二回目だぞ」

 

「だってよ、あれ取り上げたし、夜な夜なパソコンいじる時あるし……」

 

「気にしすぎじゃないの?」

 

「だと良いけどな」

 

 ようやく一息つける状況になったので、ビルドとグリスの強化アイテムの開発を始める戦兎。

 

 ビルドは『ハザード(オーバーフロー)の制御』

 グリスは『防御力強化』

 

 これをコンセプトにする。

 

 パンドラボックスやそれを基にしたハザードの強化剤と最も相性の良いラビットタンク。

 相性が良いがために制御プログラムを入れても力の増幅が抑えきれず、自我喪失に至る。

 

 パンドラボックスを破壊した時の戦いで、ドライバーからタンクボトルが抜けラビット単体で短時間ではあったが変身が保たれていた。

 オーバーフローによる強化剤噴出によるものだが、この時戦兎は自我を取り戻していた。

 

 これと、園子の小説に登場する戦士を参考に新たな可能性を見出す。

 

前の戦いで、タンクボトルが抜けた瞬間から自我が復活した。つまり、有機物×無機物ではなく、同成分での強化なら、自我を失わずに済むのではないか。

 

 そうなると、ビルドの特徴である『違う特性のボトルを二本使った戦法』が死んでしまうため、これを補う武器の開発も行う。

 なお、プロジェクトビルド上、ハザードはビルドの最終形態にあたるためこれ以上の発展は予想されていない。

 

 ここからは、葛城巧としてではなく、桐生戦兎としての記憶・経験が試される。

 

 

「出来た……!」

 

 二週間という時間をかけ、ビルドとグリスの強化アイテムが完成した。

 

 ビルドのフルフルラビットタンクボトルと、四本までボトルを装填でき、その力を組み合わせ、剣のバスターブレードモード、射撃のバスターキャノンモードに変形する武器 フルボトルバスター。

 

 グリスの方は、基調となる色が青から黒と橙になったスクラッシュドライバーⅡと、ロボットの力と最も相性の良いフェニックスを組み合わせたロボットネオスクラッシュゼリー。

 そして、フルボトルバスターの派生である無機物系フルボトルを三本、ネオスクラッシュゼリーを一つ装填可能なスクラッシュバスター。

 こちらもバスターブレード・バスターキャノンに変形するが、スクラッシュの方はキャノンに重点を置いた設計になっている。

 

「ここまで付き合わせてごめんな」

 

 戦兎は園子の頭を優しく撫でた。

 




この小説は最低でも週一投稿をモットーにしてきましたが、そうでなくなる可能性も出てきました。ご了承ください。

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