佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第四十九話 ローグを止めるために

 フルフルラビットタンクボトルを始めとした強化アイテムを開発した翌日。

 日が昇り始めた4時半過ぎ―――

 

 音をたてないようにゆっくりと地下室に侵入する物が一人。

 惣一だ。

 

 日光が全く射さない部屋のため、懐中電灯片手に進む。

 

 もし光が寝ている戦兎や龍我に当たっても起きはしないだろう。

 龍我は基本寝起き悪いし、戦兎も最近になって寝起きが悪くなってきた。

 ただ、クローズドラゴンマックスには気をつけよう。こう思っていた。

 

「!」

 

 懐中電灯の光がクローズドラゴンマックスに当たってしまった。

 しかし、反応はない。

 よく見るとクローズドラゴンマックスは首と尾をたたんでおり、フルボトルが挿しこまれていた。

 挿さっていたのはウォッチフルボトル。

 

 以前、二人が自分――――葛城の母に会いに行きその時交戦、クローズドラゴンはガトリングボトルを装填して炎を弾のように連射された。

 これをマックスが受け継いでいるとしたら、今のこれは目覚まし時計のつもりなのだろう。

 

 惣一はさらに進み、パソコンを起動する。

 そして、戦兎が開発したアイテムのデータを閲覧した。

 

「俺とは技術の使い方が違う」

 

 戦兎と自分の"ビルド"は正反対だ。こう確信する。

 

 葛城(自分)はスクラッシュやハザードから分かるように、変身者へのデメリットよりも強さを求めていた。

 戦兎はこれとは違い、変身者へのデメリットが無い、もしくは今あるデメリットを無くすものを創ってきた。

 

 ビルドを生み出したのは自分だが、創ってきたのは戦兎や龍我だと。

 

 一通り閲覧した後、彼は龍我の使用しているビルドドライバーに手を伸ばす。

 

「悪く思うなよ。俺だって目的は同じなんだから」

 

 

 午前7:00

 

「そのたん……もっと踏ん―――――夢か……」

 

 一海が目を覚ます。

 

 そしてカーテンを束ねていると、勇者部の面々と目が合った。

 

「待ってろ、今開けてやる。

 石動! 起きろ! もう朝……」

 

 鍵を開け、惣一がいつも就寝に使うカウンターと食器等が仕舞ってある棚の間を覗く。

 

「いない……?」

 

「あれ? 戦兎と万丈さんはまだ寝てるんですか?」

 

 一番乗りした銀が聞く。

 

「あぁ。龍我はともかく……あいつは……な。

 それと、呼び方変えたんだな」

 

「……あの話聞いてから、佐藤呼びだと何か過去を引きずってる気分になるというか……『今より昔のお前のほうが好きだった』って気持ちがするんです」

 

「…………そうか。そのことはくれぐれも言うんじゃねぇぞ」

 

 釘を刺す一海。

 

 園子が口を開く。

 

「いつまでも隠しておくっていうのも辛いと思うよ」

 

「そうかもな」

 

「―――あっ、あの――」

 

 友奈が戦兎らが来る前にこの雰囲気をどうにかしようとしたとき、地下室から生物の咆哮のような爆音が轟いた。

 

 

「うるせぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 龍我が目を覚ました。

 

「お前か! お前なのか! あぁん?」

 

 自分の周りで浮遊するクローズドラゴンマックスを捕まえ、挿さっていたボトルを抜いた。これと同時に咆哮が止んだ。

 

「―――んだよ……朝っぱらから元気だなお前……」

 

「……あれっ、どこだ……?」

 

 

 何やら自分の就寝スペースを漁る龍我より先に一階に顔を出した戦兎。

 一海に新しいドライバーを渡したその時

 

「せっ、戦兎!―――痛っ」

 

 頭を入り口の縁にぶつけながら一階に上がってくる。

 

「俺のビルドドライバーが消えた!」

 

「……はぁ!?」

 

 

 

 

 

 

「マスターが万丈のドライバーを持ってどこかへ行った――――って事か」

 

 龍我と一海の情報を戦兎が整理。

 

「何で俺のなんだ?」

 

「うーん……」

 

 

〔RIDER SYSTEM!〕

 

〔COBRA!〕

〔EVOLUTION!〕

 

 昨晩の事を思い出す。

 あの黒いボトルは龍我の使っているドライバーでのみ反応した。

 

 今彼が使用しているビルドドライバーは元は戦兎が使っていたもの。

 キャッスルハードスマッシュとの戦いでその時龍我が使っていた二台目が破損。

 それから龍我は戦兎の使っていた一台目を受け継ぎ、戦兎は修理した二代目を使っていた。

 

 そして、『一台目』ということは惣一が持って行ったドライバーは彼自身が開発したもの。

 

「ライダーシステム……エボリューション…………"エボル"?」

 

 戦兎の脳裏に一つの単語が浮かび上がる。

 エボリューションの略、エボル(EVOL)

 

 さらに、埋め込まれた葛城の記憶が警鐘を鳴らす。

 

『これを開発してはならない』

『これから創るもので対応できない状況になったら――――――』

 

「……須美……いや、美森って呼んだ方がいいか」

 

「私はどちらでも構いませんよ?」

 

「……じゃあ須美」

 

 戦兎は端末を取り出し、ある人物の電話番号を見せる。

 

 

「暑い!」

 

「叫ぶな余計暑く感じるだろ」

 

「まぁ、そうだな。心臓冷却すれば火もまた涼しって言うし、耐えるか」

 

「そんなことわざあるわけねぇだろ死ぬぞゴラ」

 

「ゴラって何だよゴラってあぁん?」

 

「あ? お前エビフライに醤油かけんの? ソースだろ」

 

「あぁん? 俺はタルタル派だっつーの!」

 

「あ?」

 

「あぁん?」

 

 

 

「あの……止めなくていいんですか?」

 

「大丈夫大丈夫。暑さで一時的にやられてるだけだから。

 それにしてもこの暑さは異常だな……。やっぱ壁の外に関係が――――」

 

「「「壁の外?」」」

 

 口を滑らせた、と顔をそらす戦兎。

 

「……いつか話す時が来るとは思っていたけど」

 

「東郷さん? 何か知ってるの?」

 

「えぇ、バーテックスが何処から来るのかというのもね」

 

 

「バーテックス……どういう意味だっけか」

 

「バーってなるテックスだろ」

 

「お前らは静かにしてて」

 

 美森が壁の外について話そうとした矢先、勇者全員の端末に連絡が入った。

 

「『勇者システムの改修の為、一度招集されたし』……」

 

 一気にその場の空気が重くなる。

 

「皆」

 

 勇者達が戦兎の方を向く。

 

「俺に考えがある」

 

 

『お前の言い分は聞きたくない。即刻そのシステムを廃棄しろ』

 

『科学を軍事利用するのは周囲や使用者の思惑だ! 俺は人を傷つけはしない!』

 

『何故言い切れる? 人を傷つける可能性が少しでもあるものを手にした時点で、そいつは悪魔になる』

 

『……俺は、自分の信じる正義のために、この力を使う』

 

『ふざけるな! まだ猶予はある! 話し合う道を選べ!』

 

『…………猶予が無いからこういう判断をしているんだ』

 

『相手が人間だろうが神だろうが関係ない!』

 

『もし失敗したら、300年積み重なってきた想いが一瞬で無駄になる。お前は真実を知らないだけなんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

『――――――あぁぁ……あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

『幻徳……』

 

『ふざけるな! ふざけるなぁぁぁぁ!!!

 大赦もお前も、同じだったんだな……!』

 

『何?』

 

『権力……武力……力で全てを解決しようとする……』

 

『違う!』

 

『どこが違うって言うんだ! エボルシステムを開発しかけたお前と、勇者システムとやらを研究してきた大赦……』

 

『……お前の言いたいことも分かる。でも、今はそういうことを言ってられる状況じゃ―――』

 

『元はと言えば奴らが勇者システムの開発を続けていたことが天神に見つかったからだろう!

 それが無ければ……俺の……俺の母さんは……』

 

『………………お前の母親には巫女の血が流れていたんだよ。神の怒りを鎮めるには生贄しかない』

 

『嘘だ!』

 

『嘘じゃない』

 

『……そうか。もう、対話で平和が維持できる時代じゃ無くなったんだな』

 

『誰もそんな事は―――』

 

『俺は大赦を抜ける。そして……奴らと対抗できる組織を創る』

 

『ならず者にでもなるつもりか?』

 

 

 

 

 

 

 

「俺があいつを止める。この身を賭けても」

 




次回で二章完結です。

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