佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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カズミンとマスターがヤベーイお話になります。



第五十三話 日常のバック

(――――――もう朝か。早いもんだな)

 

 寝床であるnascitaの床で一海が目を覚ました。

 彼は今、出入り口に密着した形で横になっている。

 

 カイザーが消えた今、全60本のフルボトルの大半がここに保管されている。

 

 無機物を中心に一海が。

 有機物を中心に龍我が。

 この二種をバランスよく二人よりも多く戦兎が所持している。

 

 ありえないとは思うが念には念を入れ、泥棒対策をしている。

 これの一環として、一海は就寝時に出入口側の壁に密着して就寝しているのだ。

 

(―――ん?)

 

 一海がこちらに向かってくる足音を耳にした。

 現在時刻は7:00

 スクラッシュドライバーⅡは下の階に置いてきてしまったのでフルボトルを一本取り出し握る。

 

 すると、一海の真上、出入り口のドアに丸い体のカラスが現れる。

 

(クソッ、ファウストめ……まだいやがったのか!)

 

 カラスに蹴りを入れる一海だが、そのカラスは風船のような軽い動きで蹴りを回避。鍵を開けた。

 

 そしてドアが開かれる。

 

「ふぁ~、さっとん起きてる~?」

 

「こらこら園子さんや、あんたが寝てどうするよ」

 

「――――ぐぇっ」

 

 外開きのドアを開けたのは園子だった。

 まだ寝ぼけている彼女を支える銀。

 

 そんな園子は、nascitaに足を踏み入れた瞬間に何かを踏んでしまった。

 

(俺を踏んだ……?ざけんな。俺を踏んでいいのはそのたんだけだ!

 スクラッシュゼリーを潰すのと同じ強さで……って)

 

 ―――――そのたんじゃねぇかぁぁあああああ!!!

 

 案の定、一海だった。

 

(落ち着け、まず今起こっている状況を確認しろ。俺は何をされている?そのたんに踏まれている。……何で?)

 

「わっ、かずみん、大丈夫~?」

 

(ローファー!?靴!?クソッ!だから俺は戦兎に頼んだんだ!『ナシタを土足禁止にしろ』って!靴の汚れが無くなることで掃除もしやすくなるうえ、俺の悲願も…………

 とにかく、ローファーなんて滅んでしまえ。あれ履きやすいけど走りにくいじゃん。もし災害が起こったらどうするよ。……やっぱり存在意義なんてないじゃないか)

 

「か~ずみ~ん」

 

(それと一瞬何かが見えたような見えなかったような気がしたが気のせいだろう!

 俺はそんな事望んでない!俺にそんな資格はない!てかもっと自分から迫っていけよ戦兎ぉ!龍我からも言われただろうがぁ!……いや、こういうのはそのたんのほうが詳しそうだな。うん)

 

「何か、一海さんの顔が凄い事になってますけど……」

 

「あのー、入り口で寝られても困るんですけどぉ」

 

「ていうか何で入り口で寝てるのよ……」

 

 nascitaに一歩も入れない状態で立ち往生する勇者部一同。

 そこへある人物がやってきた。

 

「園子、お前は下がってろ」

 

 一方、一海は目を閉じて心を落ち着かせようとしていた。

 

(色々考えたいがとりあえず落ち着け。ひっひっふー。……これ違うわ。

 とにかく俺が口にすべき言葉は――――)

 

 一海は目をくわっと開けて叫んだ。

 

「そのたん! 靴脱いでもう一回踏んでくださ――――――」

 

 

「朝から何醜態晒してんだよ」

 

 

 彼の視界には園子が消え、代わりに自分を見下す龍我の姿があった。

 

「あっ……れ? 帰省したんじゃなかったの……?」

 

「今帰ってきたところだ。それより、恥ずかしくないのか?自分の行いについて」

 

「―――――ふっ、前にも言ったはずだ。俺はもう恥を捨てた!うじうじしていても何も始まらない!失敗のないやつに成功はない!

 あの宮本武蔵は言った!」

 

「誰だよ」

 

「『我事において後悔をせず』と!いちいち失敗しない未来を考えて動くより今を見ろ!今を生きろ!――――と俺は解釈している!」

 

「……とりあえず退こうか」

 

「はい」

 

「――――今を生きろ……か」

 

 龍我がある者を思い浮かべてそう呟いた。

 

 

 ◇

 

 

「―――――風邪かな」

 

 同時刻、何処かでくしゃみをした男がいた。

 

 石動惣一だ。

 

 プロジェクトビルドの基、プロジェクトエボル。

 葛城が進めていた計画。

 これについて、彼は昔のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

〔COBRA!〕

 

〔Are you ready?〕

 

『変身』

 

 この時のエボルドライバーは形状こそ変わりないものの、ライダーエボルボトルが装填される外側のスロットに、反対側に装填したエボルボトルの力を二倍にする外部動力装置が付けられていた。

 ボトル二本という発想はまだ無かったのだ。

 

 スナップライドビルダーが展開され、コブラエボルボトルの成分で生成されたハーフボディが変身者に迫る――――

 

 

 

 

 

 

 ところまでは順調だったものの、

 

『ぐぁぁぁぁぁ!!』

 

 ハーフボディが完全に形成されないまま変身者である葛城に重なってしまい、変身は失敗。彼の体が悲鳴を上げた。

 

『葛城さん!』

 

 周りにいた部下が葛城の元へ駆け寄る。

 

『こんなの最初から無理だったんですよ。葛城さんの言う事も分かります。でも……』

 

『分かってくれるんだったら俺の言う事を聞け!この実験で傷つくのは俺だけだろうが!』

 

『……』

 

『――――! ……すまない』

 

 この時の彼はパンドラボックスの光の影響でかなり荒くなっていた。

 その上、完全に好戦的になった訳ではないので『自分はおかしい』という自覚がある。

 

『さぁ、実験を再開するぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果、プロジェクトエボルは技術不足、葛城の疲弊によって凍結した。

 この間に氷室幻徳が離反。フルボトルの試作型やドライバーの設計データも奪われてしまった。

 残ったのは未完成のエボルドライバー、赤と紺の二本のエボルボトル。

 そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 接続位置を変更した外部動力装置―――――エボルトリガー。

 

 

「こんな事態になってもまだ()()は人間の味方をするか?」

 

 惣一が現実に戻される。すると目の前には

 

「……幻徳……何故……?」

 

 生気の無くなった氷室幻徳の姿。

 

「俺は天神に魂を売った。そして果たして見せる。―――――復讐を。大赦(奴ら)だけじゃない―――――人間そのものに」

 

 幻徳はバットフルボトル、エンジンフルボトルを取り出し、腰に装着されたエボルドライバーへ装填した。

 

〔コウモリ!〕

〔発動機!〕

〔EVOL MATCH!〕

 

 レバーのグリップに手を添え回す。

 

 スナップライドビルダーが展開されるが、様子がおかしい。

 

 各所に亀裂や破損している箇所が存在した。

 

 

〔Are you ready?〕

 

 

 母が一時しのぎのための生贄として死んだ――――殺された事を知らされた彼の心のように。

 

「変……身」

 

〔バットエンジン! フハハハハハハ……!〕

 

 黒と銀のナイトローグ、紫のローグ。

 どれとも似つかない白地に紫のカラーリング。それが、仮面ライダーマッドローグ。

 その上、この装甲には赤とも茶とも認識できる色の液体の付着した跡が付いていた。

 

〔COBRA!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔EVOLUTION!〕

 

 マッドローグとなった幻徳のただならぬ殺気を感じた惣一も変身。

 

〔EVOL COBRA! フッハッハッハッハハハハハハ!!〕

 

 

「人間は力が少なかったが故にここまで進化できた」

 

 幻徳がスチームブレードを振りかぶる。

 

「力では他に負ける。だから知性を使って交渉という手段を生み出した」

 

 惣一も同じ得物で対抗する。

 

「しかし時代が進むにつれ、力――――技術が発展するたびに人類は、衰えていった」

 

「何だと!」

 

「科学者だったお前には分かるだろう。技術とは人間を退化させる」

 

「全員がそうって訳じゃねぇだろ!」

 

 惣一がドライバーのコブラエボルボトルをユニコーンフルボトルに交換。

 

〔一角獣!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔CREATION!〕

 

〔READY GO!〕

〔一角獣 FINISH!!!〕

 

 右拳にエネルギーが集中し、それが鋭利化。

 幻徳に向けて振るうが――――当たる直前で霧のように姿を消した。

 

 この直後、惣一が膝から崩れ落ちた。

 

「まだ……慣れねぇか……!」

 

エボルボトルにはフルボトルのように浄化がされていない。さらに、ビルドドライバーに搭載されていたリミッターも非搭載。その分攻撃性を高めている。

つまり、ハザードレベルが1だろうが2だろうが変身自体は可能である。

 

 そんな彼の頭に幻徳の声が響いた。

 

 

「俺は誰の味方でもない。だが、今のお前では俺には勝てない―――――」

 

「……」

 

 ――――自分は何がしたいんだろう。

 

 戦兎たちの前から姿を消して―――――

 

 戦兎にエボルのことを話せばもっと安全なシステムになったかもしれない。

 それとも、開発を拒否するだろうか。

 

「……」

 

 今の惣一にも、仲間はいなかった。

 


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