佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第五十四話 兎のムーン(前編)

「はぁ……はぁ……」

 

 スマッシュ出現の一報を受けた戦兎らは現場へかけていた。

 ビルドドライバーが無い上、スクラッシュドライバーの不調子により龍我は待機。

 戦兎と一海が別々の場所へ向かう。

 

「スマッシュはどこだ……?」

 

 現場に到着した戦兎。しかし、スマッシュの姿はない。

 代わりに

 

「少し遅かったなぁ」

 

 仮面ライダーがそこにいた。

 

「その声……マスターなのか?」

 

「あぁ。お前に最初に渡したビルドドライバー。それに溜まったビルドのデータと、クローズのデータによってこれを完成させられたよ。ありがとう」

 

「……それがどんな代物なのか分かって使ってるのか!」

 

「勿論」

 

「……」

 

「何か言いたそうな目だな」

 

「――――マスター、俺たちはあんたを憎んでなんかいない」

 

「……だから?」

 

「戻ってきてくれ……!あんたが全部抱え込まなくてもいいんだよ……!」

 

「抱え込むだぁ?何か勘違いしてねぇか?

 俺がお前をビルドにした理由。それはお前が俺と偶然出会ったハザードレベル3.0に達した子供だったからだ。ビルドの特徴である、二本のボトルの数百種類以上の組み合わせによる戦略の多さ。これを生かすには使用者の柔軟な発想が必要だ。

 

 お前はネビュラガスの過剰投与によって大人の体になった。そしてビルドへ……。

 俺はお前を利用しようとしたんだ」

 

「じゃあ、俺に優しくしてくれた石動惣一は何なんだよ!全部嘘だって言うのか!」

 

「…………いや、あれに嘘は微塵も無かった」

 

「だったら――――」

 

「幻徳を止められたら……な。そうなる頃、俺の体はどうなっているか……」

 

「……」

 

 戦兎がエボルに変身した惣一の腕をつかみ、叫ぶ。

 

「あんたを死なせたりはしない!今の俺……桐生戦兎にとって、あんたは父親なんだ!家族なんだ!家族を見捨てる奴がどこにいるんだよ!!」

 

「―――――――離せよ」

 

 惣一が戦兎を振り払う。

 

「そんなに俺を止めたいなら、俺を倒してみろよ。お前の言う愛、正義ってやつを、もう一度ぶつけてみろ」

 

「……」

 

 戦兎はビルドドライバーを装着し、ハザードトリガーを起動した。

 

〔HAZARD ON!〕

 

 続いて、ラビットとタンクのフルボトルを装填する。

 

〔RABBIT!〕

〔TANK!〕

〔SUPER BEST MATCH!!〕

 

 この二つのフルボトルの成分はスパークリング、フルフルラビットタンクボトルに移植され、今は三分の一しか残っていない。

 そのため、あまり活性化させない状態で変身に使えば、自我を少しでも長く保てると思ったのだ。

 

 その上、エボルは基本性能が高く、ハザードを使わざるを得ないと判断した。

 

〔Are you ready?〕

 

「変身」

 

〔UNCONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!!〕

 

「ハザード……よりによってそれを選んでくるか……!」

 

 惣一がトランスチームガンを発砲するが、戦兎はそれを回避しながら惣一に接近。

 

「はぁ!」

 

 戦兎の繰り出した拳を惣一が受け止める。

 

「ハザードレベル6.0……。俺に対する怒りのせいかぁ?」

 

 戦兎はラビットの高速移動とタンクの戦車砲に値するパンチ力を駆使し、惣一の背後に回る形で拳を叩き込む。

 惣一はこれを避けようとはせず、その場に留まっていた。

 

「やめておけ」

 

 惣一がエボルドライバーにオクトパスフルボトルを装填。

 

〔タコ!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔CREATION!〕

 

〔READY GO!〕

〔タコ FINISH!!!〕

 

 惣一が腕を前に出すと、そこからタコの触手が出現。

 戦兎を突き刺すように攻撃しつつ、彼の所持するフルボトルを奪っていく。

 

 奪われたのは、ウォッチ、タカ、ガトリング、忍者、コミック。

 

 そして、オクトパスフルボトルをコミックフルボトルに交換。

 

〔漫画!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔CREATION!〕

 

〔漫画 FINISH!〕

 

 惣一の手に4コマ忍法刀が召喚される。

 エボルには物体を生成する能力が存在する。そのため、今召喚した武器は本物ではない。

 

〔忍者!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔CREATION!〕

 

〔忍者 FINISH!!!〕

 

 さらに、今召喚した得物に忍者の能力を付与された。

 

 〔分身の術!〕

 

 実質ビルドのニンニンコミックフォームの力を得た惣一が三体に分身。

 

「マジかよ―――――――がぁっ!?」

 

 戦兎の頭、神経に痛みが走る。

 あの時よりは長かったものの、これ以上は限界だった。

 

〔MAX HAZARD ON!〕

 

〔RABBIT&RABBIT!〕

〔BUILD UP!〕

 

〔Are you ready?〕

 

 ラビットを選択したフルフルラビットタンクボトルを装填。

 戦兎の周囲に赤い装甲、ラビットラビットアーマー付きのアームが出現し、アーマーが外れる。

 

 そのまま装甲はウサギの形を成し、惣一の分身に飛びかかる。

 

「うぉっと」

 

 思わず分身を消してしまった惣一。

 

「スーパービルドアップ!」

 

〔OVERFLOW!〕

〔ラビットラビット! ヤベェェェイ! ハェーイ!〕

 

「まだまだ、これからだ……」

 

 ラビットラビットフォームになった。

 今はスピードよりパワーが優先されるが、今の戦兎の身体の負担を考えてこちらが選ばれた。かといって、ラビットラビットのパワーが弱いというわけではない。

 

 ラビットタンクハザードを超える速さで惣一の死角に回り込み、蹴りを一発。

 

「っ……はぁ。この力……成程。葛城にできなかったハザードの完全制御を可能にしたか。

 だが、お前には大きい弱点がある」

 

「……」

 

「月が太陽の光でしか輝けないように、お前も誰かの力があって強くなれる」

 

「人は一人では成長できない!俺だって――――」

 

「お前はそれに頼りすぎている。お前だって分かってるはずだ」

 

「…………」

 

 スパークリングを始めとした強化アイテムも、自分一人の力で完成させたわけじゃない。

 精神的な意味でも、周りに散々助けられた。

 

 自分が助けた時もあったけど、それはほんの僅か。

 

「ハザードレベル5.6。勝負はついたな」

 

 惣一がレバーを回転させる。

 

「……」

 

 戦兎も続く。

 

〔〔READY GO!〕〕

 

〔HAZARD FINISH!!〕

 

 強化剤を限界まで噴出させ、蹴りを入れる。

 

 ラビットラビット・タンクタンクの必殺技は他と違い、二つの技を同時・連続で発動する。まずはハザードフォームの必殺技。

 

〔RABBIT RABBIT FINISH!!!〕

 

 硬直する惣一を目でとらえながら後ろに跳び、右足を伸長。

 元に戻る勢いで生じる力で一直線に蹴りが入った。

 

 

 

「――――――今度はこっちの番だ」

 

 だが、あまり効果はなかった。

 高気温により調整剤が完全に生成されなかった事、ハザードレベルが低下したことが重なってしまったのだ。

 

 

 惣一の右足にエネルギーが集中し、一気にそれを突き出す。

 

 

〔EVOLTECH FINISH!!! CIAO!〕

 

 

 戦兎に当たる瞬間、圧縮されたエネルギーが崩壊・爆発した。

 

 ダメージの過剰蓄積によって戦兎の変身が解除。

 惣一が飛び散った彼のガジェットを漁るも、特に何も取らずに立ち上がった。

 

「―――――――アレはナシタか」

 

「アレ……って」

 

 エボルドライバーの、ビルドドライバーでいうハザードトリガーの接続ジョイントを触りながらこう呟く惣一。

 

 戦兎には心当たりがあった。

 大赦からもらったアタッシュケース。その中の三つのアイテム。これの一つが―――

 

「っ! 本当にやめてくれ!」

 

 戦兎が惣一の足にしがみつく。

 

「……そんな事しなくても分かってるさ。

 この世界の未来を繋ぐ為に俺は戦う。お前たちの分までな」

 

 惣一は戦兎の腕を優しく退かし、ドライバーにウォッチフルボトルを装填。

 

〔READY GO!〕

〔時計 FINISH!!! CIAO!〕

 

 一瞬時が止まったと思った。

 こう思った頃にはもう惣一の姿は無かった。

 

 急いで龍我に連絡を入れるが、遅かった。

 

 


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