佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第五十四話 兎のムーン(後編)

「……遅いな」

 

 nascitaに戻っていた一海は不振に思った。

 戦兎がいない。

 

「クソッ、俺が戦えれば……!」

 

「もう帰ってこないみたいに言わないでよ……」

 

「……悪い」

 

 その時、龍我の端末に着信が入る。戦兎からだ。

 これに出ようとした瞬間

 

 

 

「相変わらずのようで何よりだ」

 

 

 

 仮面ライダーエボルが姿を現す。

 

 天球儀と宇宙をモチーフにしたスーツと装甲は彼らに『異質』という印象を与えた。

 さらに、薄暗いnascitaの中、各所に散りばめられた惑星を模した丸い装飾が光っている。

 

 龍我はエボルの声とドライバーを見て即座に判断した。

 

「マスター!あんた自分が何やってんのか分かってんのか!勝手に出てって勝手にそんなもん完成させてェ!」

 

「エボルトリガーを出せ。ここにあるはずだ」

 

「……」

 

「出したくないのか?……エニグマが失敗に終わった今、天神を完全に葬るにはアレが必要だ。ネビュラガス、エボルシステムの真の力。時空すら歪め、どんな質量のものでも吸い込み消し去る……ブラックホールの力が」

 

「―――ざけんな……」

 

 龍我がドラゴンフルボトル片手に惣一を睨みつける。

 

「研究所の時みたいにやり合うつもりか?やめとけ」

 

 次の瞬間、惣一が姿を消した。

 

「ッ!」

 

 と思った矢先、アタッシュケース片手に戻ってくる。

 

「どうだ?これがエボルの力だ。

 …………まぁ、これでも6割程度なんだけどな」

 

 惣一がアタッシュケースを開ける。

 

 中には黒曜石のようなフルボトル、ドラゴンマグマフルボトル。

 中央にクローズの紋章が描かれたボタンが付けられた武器、クローズマグマナックル。

 

 

 そして、エボルドライバーの試験の際の外部動力装置を改造したガジェット、エボルトリガー。

 

「……やっぱり壁の外か」

 

 ドラゴンマグマフルボトルを見て呟く。

 

「こいつは正確にはフルボトルじゃない。壁の外に広がっているマグマの一部だ」

 

「どういう意味だよ」

 

「今、壁の外の温度が急激に上がっているらしい。そのせいで内側のここも気温が上がっている。その上、神樹の衰えも激しい。

 つまり、バーテックスが結界に侵入する前=神樹に樹海化させる前にバーテックスを撃破する必要がある」

 

「温度の上昇……ってまさか……」

 

 一海が過去の記憶から似た情報を引き出した。

 

 かつて同僚が、『防人が火傷を負った』と言っていたことを。

 

 そして防人は力は勇者に及ばないものの、耐熱性なら優っている。

 

「勇者で迎撃はできない……?」

 

 一海の呟きに、勇者たちは焦りと不安が混ざった表情をする。

 

 これを見た惣一は疑問を抱く。

 

 勇者は『なりたい奴がなる』ものではなく、『適合があるからやりなさい』という強制。嫌といっても拒否できない。拒否した場合は世界の心臓部といってもいい神樹が眼前で化け物に蝕まれ、世界が消える。

 

 今の言葉は『もう勇者にならなくていい』ともとれる。なのに何故そんな顔をする……?

 

「じゃあ……私たちはどうすればいいんですか?」

 

 勇者を代表して友奈が口を開いた。

 

「普段通り生活すればいい」

 

 惣一が即答する。

 

「私たちは世界がどうなっているか、全部知ってるんですよ!?なのに指をくわえて生活しろって言ってるんですか!?」

 

「―――――そんなに死にたいか」

 

 惣一がネビュラスチームガンを構える。

 

「―――――そんなに友達との時間を無くしてでも戦いたいのか」

 

「違う!友達……みんなとの時間、この世界を守るために私は戦いたい!」

 

「…………エニグマ。それさえ完成できていれば……こんなことには……」

 

 惣一はエボルトリガーを触る。

 スイッチ押しても反応なし。接続しようとしても弾かれる。

 

 しかし、これが手に入っただけでもいい収穫だと呟いて、ドライバーのコブラエボルボトルをバットフルボトル(トランスチームシステム用)を装填。

 

〔コウモリ!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔CREATION!〕

 

「――――――何で」

 

「……そのっち?」

 

「何で……なんでそこまで自分の身を投げ出せるの……?貴方も自由と平和のために戦ってるんでしょ……?」

 

「いや、俺は贖罪の為……自分で植えた芽を摘みに行くだけだ」

 

「石動、今のあんたは自分で自分を苦しめてるだけだ」

 

「……」

 

〔READY GO!〕

 

「―――――本当に仮面ライダーを創ったことを罪として認識して償おうとしてるなら、俺たちと戦いを終わらせる、そして生き抜く。違うかよ」

 

〔コウモリ FINISH!!! CIAO!〕

 

「……考える時間をくれ」

 

 惣一が霧に紛れnascitaから消えた。

 

 そして、これと入れ替わりで戦兎が帰ってきた。

 

 

 

 

「――――で、何作ってんだよ」

 

 戦兎の周りには、以前龍我が回収した二つ目(ファウスト製)のハザードトリガーの部品が散乱し、赤かった外装はメタリックネイビーになり、メーターがビートクローザーと同様の赤と緑に、形状も竜の横顔の意匠がこらされているものに変更された。

 

「まぁまぁ」

 

 すると戦兎はあっ、と呟いて立ち上がり、手一杯に器具をもって一階に向かった。

 

「おい!実験ならここでやればいいだろ!」

 

「平らなスペースがもうねぇんだよ!」

 

 手が塞がってしまったので顎で机を指す戦兎。

 

「片付けろ!」

 

 

 結局、実験は一階でやる事に。

 

 平らなテーブルの上に器具を乗せ、その下側にドラゴンフルボトル、上側にはドラゴンスクラッシュゼリーが付けられた。

 

 今から行う実験と言うのは『ドラゴンフルボトルにドラゴンスクラッシュゼリーの成分を移植し、ドラゴンフルボトルの強化を行う』というもの。

 

 ゼリーのキャップが外され、細いチューブを通して徐々に成分がボトルに溜まっていく。

 

「ただ、これだけだとなぁ……何だかなぁ……」

 

「まだ何か足りねぇのか」

 

 戦兎はこれに頷いた。

 

「あれをお前用に調整しなくちゃいけない。お前と出会ってもう少しで一年経つけど、俺はまだお前の事(戦い方)を具体的にわかってない」

 

「俺の事……」

 

「俺は自分から誰かを引っ張ることが出来ない。けど、後ろから支えることはできる筈。だから教えてくれ。お前の事(戦い方)!」

 

「戦兎…………」

 

 肩をがしっと掴まれ戦兎の必死さが伝わってくる。

 

「お前――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺に告白してる?」

 

 

「ビュオオオオオ~ウ!」

 

「してねぇわ!」

 

「でもお前には……」

 

「話聞いて」

 

「いいよいいよ~!普段見せない積極的さを前に出すさっとんとそれに呆然としつつ応えるジョーさん!

 あ~……でもその積極さは私に向けてほしいなぁ~。なんて

 

 二人から何かを感じた園子。彼女は携行するメモ(ネタ)帳に二人の現状・言動を書き上げる。

 

 

「わぁ!園ちゃんって光景を文字にしてまとめるの上手なんだね!感心しちゃうな~!」

 

「そのっちは相変わらずね……」

 

「ワオ、男同士でもいけるのね―――って違うか」

 

「あはは……」

 

「ほんと、飽きないわねぇ」

 

「むしろヒートアップしてるように見えるなぁ。園子らしいや」

 

 この園子の様子に勇者部の面々は様々な表情を見せる。

 

 一方

 

「そういう手も……ありなのか。今度やってみようかな」

 

 

「その気持ち悪い発想をやめなさい」

 

 小説のネタになりたいがために戦兎と龍我の真似をしようとする者もいた。

 

「それじゃあ――――」

 

 

「格闘家時代の映像を―――」

「俺のこれまでの人生の第1章を―――」

 

 

「「ん?」」

 

 

 二人の誤解が解けた頃にはドラゴンスクラッシュゼリーの成分がすべてドラゴンフルボトルに戻された。

 

「ついでにこれも」

 

 戦兎が、パンドラボックスの力の入ったボトルを取り出す。

 ドラゴンフルボトルのように成分を別に移したボトルが後二本存在する。

 

 ラビットとタンク。

 

 この二本にそれぞれボトル二本分のパンドラボックスの力と、戦兎が使用しているハザードトリガー内の強化剤を少量入れる。

 

 そして、浄化装置に三本のフルボトルの入れる。

 

 

 数日後、三本のボトルの浄化が完了した。

 

 早速龍我が手に取ってみた。

 

「―――!」

 

 色がない。成分の色は変わらずネイビーだが、龍の顔のレリーフの入った外装の色が抜けて透明になっていたのだ。

 

 一方、ラビットとタンクは浄化に成功した。

 ラビットフルボトルはキャップのラベルが月とビルドの紋章を組み合わせたマークに変わり、ボトル外装には月の意匠が追加された"ラビットムーンフルボトル"へ、

 

 タンクフルボトルはキャップのラベルの文字が『RM/WT』に変わり、外装の色・造形は変わらないものの、戦車のレリーフの部分に青の塗装が追加された"ウォーリアタンクフルボトル"へ変化した。

 

「何で……」

 

 龍我は脱色したドラゴンフルボトルに疑問視しながら振り、柱を殴る。

 

 小爆発のような衝撃を引き起こし、柱が『く』の字に曲がった。

 

 出力そのものは変わらないどころか上昇しているようだ。

 

 

「何だぁ!」

 

 

 一海が駆けつける。

 

「万丈が屁こいただけだ!」

 

「あっそ。食物繊維もっととれ!」

 

 一海が引き返した。

 

 

「悪いな。龍我がケツからネビュラガスをドラゴニックフィニッシュしただけだった」

 

「……今なんて?」

 

 

《桐生戦兎……これが奴のナマエというものか》

 

「あぁ。人間にはそれぞれ、個の主張・区別として名前が存在する。だが、人類は多すぎるため、重複が発生する」

 

《成程……。だが今は『多すぎる』わけではないだろう?》

 

「っ。迂闊だった」

 

 パンドラボックスが破壊された場所。

 ここで幻徳が一人瓦礫の上に座っていた。

 

 彼と対話しているのは彼の体を一時的に乗っ取って人間の言葉を話す天神。

 

《ハハハハハ!人間というモノはいつも我の予想を覆す!これが笑いと驚きか!》

 

「俺だって驚いてるさ。神が実在していたなんて」

 

《奴を誘い出せ》

 

「―――何をする気だ」

 

《直に分かる》

 

「……」

 

 幻徳の表情が曇る。

 

《我が本当に神なのか信用できないか》

 

「……」

 

 すると天神は幻徳の右腕を操り、手のひらから針を発射。前にあった瓦礫に風穴が開く。

 

「!」

 

 天神の操作から解き放たれた右手を見るが、針を出した跡や傷などはない。

 

「蠍の針……。力は本物か。―――――なら、創って、いや、複製してほしいものがある」

 

《我と貴様は既にそれぞれ対価を払っている。言え》

 

 

 

 

 

 

「エボルトリガーだ」

 

 

〔FLAME UP!〕

〔NEO CROSS-Z DRAGON!〕

 

 龍我が脱色したドラゴンフルボトルを装填したクローズドラゴンマックスをビルドドライバーにセット。

 

〔Are you ready?〕

 

「変身!」

 

 〔――――――〕

 

 しかし、スナップライドビルダーすら展開することなく変身失敗に終わった。

 

「何でだよ……!戦兎、お前なら分かるだろ!?理由は何だよ―――!」

 

「もう一度だ。今度はクローズじゃなくてビルドに変身しろ」

 

 原因が龍我のハザードレベルにあるのかそれとも別にあるのか。

 

〔TAKA!〕

〔GATLING!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「……そういう事か」

 

 龍我の顔を見た戦兎がボトルを引き抜き、中断する。

 

「お前、何でドライバーが『覚悟はいいか?』って聞いてくるか分かってる?」

 

「そりゃあ、変身するときって身体に負担がかかるから……」

 

「――――――――今のお前は『覚悟』をそういう風にとらえてるのか」

 

「何が言いてぇんだよ」

 

「初めてクローズに変身した時の覚悟と、今のお前の覚悟は意味が違う。

 

 お前、戦えることが普通って考えてるんじゃないの?」

 

「……」

 

 龍我は立ち尽くすしかなかった。

 これには反論できないから―――

 

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