佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第五十六話 太陽のドラゴン(前編)

 仮面ライダーヴァーテックスが姿を消し、nascitaに戻った龍我ら。

 

「まさか……あれを使われるとは……!」

 

「一瞬エボルみてぇな色だった。マスター、何なんだよアレ」

 

「…………あれは本来、フェーズⅣとして想定していたものだ」

 

 惣一が話し始める。

 

 仮面ライダーエボルにはフェーズが存在し、コブラフォームがⅠ、ドラゴンフォームがⅡ。Ⅲ用のエボルボトルも彼が所有している。

 フェーズが上がるごとにエボルドライバーの制限が解除され、基本スペックが上昇していく。

 

 そして何より、天神が戦兎を器としたことが問題である。

 

 彼は多くのフルボトルを所有しているだけでなく、ライダーシステムについての情報も葛城から受け継いでいる。

 

「―――つまり、今までの戦法が通じないってか」

 

「その上、戦兎の安否も天神の掌の上。この状態が長続きすれば―――」

 

「じゃあ―――」

 

 園子の言葉を遮るように龍我が口を開いた。

 

「―――ぉい」

 

 彼は脱力した表情をしていた。

 

「死ぬのかよ。なぁ」

 

「最悪の場合、そのような事もあり得る」

 

「……」

 

 龍我は脱色したドラゴンフルボトルを握りしめた。

 自分だけ変身できない。そんな疎外感と、いつの間にか書き替えられた『覚悟』の意味に悩みながら。

 

「とにかく、戦法を変える」

 

 惣一が地下室へ移動し、龍我と一海が続く。

 

 

 

 

 

「クローズチャージ用のツインブレイカーが余ってるだろ?それを使う」

 

 一海が地下室の端に安置されているツインブレイカーに目を向ける。

 そこには、ホークガトリンガー等のベストマッチウェポンも置かれていた。

 

 惣一が早速龍我がかつて使用していたツインブレイカーの転送先をクローズチャージからグリスディスペンサーに変更しようとするが

 

「何だ―――?」

 

「あ?問題でもあったか」

 

 既に転送先が変更されていた。

 

「―――『CROSS-Z MAXIMUM』……」

 

 "クローズマキシマム"こう書かれていた。

 それだけではない。まだ下に続いていた。

 

 

「ここは……何処だ……」

 

《以前貴様がパンドラボックスを破壊した場所だ》

 

 一方、戦兎は一時的に天神から解き放たれ、意識を取り戻した。

 そこには、パンドラボックスの残骸と二人の仮面ライダー。

 

「っ、その声は―――」

 

「持っているボトルをすべて出せ」

 

 マッドローグが戦兎の体を持ち上げ、彼の持つフルボトルを地面に落とす。

 

《……使用済みのものばかりか》

 

 ヴァーテックスがラビットムーンフルボトルを手に取る。

 

「そのボトルはパンドラボックスに対応していない……。残念だったな……」

 

《―――ケッ。まぁいい》

 

 ヴァーテックスがラビットムーンフルボトルを投げ捨て、小箱のようなものを取り出した。それにはパンドラボックスのような紋様が刻まれており、裏にはビルドドライバーのスロットに対応した形状になっている。

 

《貴様らが持つフルボトル。これの基は人間が神樹と呼ぶ離反者の集まりが創りだしたパンドラボックスの力……。奴らに出来て我に出来ない筈がない》

 

 ヴァーテックスが手のひらから数種のフルボトルを形成。中にはフェニックスやロボットも混ざっており、それはどれも戦兎の使用したことのないものだ。

 

「……」

 

《ゲントク、貴様もだ》

 

「……今の力で複製すればいいだろう」

 

《この体は不完全だ。こんな所で力を浪費したくはない》

 

「……」

 

 マッドローグがドライバーに装填されているフルボトルを抜き、戦兎に投げる。

 

「―――!」

 

「お前たちの創ってきた技術が、これを生み出した」

 

「ローグ……!」

 

 戦兎の前に姿を現した幻徳。

 

「……」

 

 《戦え。桐生戦兎―――》

 

「……そうするしかないみたいだな」

 

 戦兎はバットとエンジンのフルボトルを拾い、ビルドドライバーに装填する。

 

〔BAT!〕

〔ENGINE!〕

〔BESTMATCH!〕

 

〔Are you ready?〕

 

「変身」

 

 戦兎の体が紫と赤のハーフボディに挟まれ、一つの装甲が形成される。

 

〔暗黒の起動王! バットエンジン! YEAH〕

 

 

「クローズマキシマム?何だそれ」

 

 知らない単語に頭を抱える二人だったが、龍我だけ心当たりがあった。

 

「もしかして……」

 

 戦兎の机の引き出しを開けてみる。

 

 青いガジェットが出てきた。

 

「クローズ……トリガー」

 

 龍我がつぶやいた。

 

「これを使えば……変身できるようになるのか?」

 

 彼の心の中で、それでもダメという声がした気がした。

 

「俺……ちょっと風に当たってくる」

 

 

〔VOLTECH FINISH! YEAH!〕

 

 戦兎の変身したビルド バットエンジンフォーム。

 

 彼はその力を使い、発動機の力で蒸気を噴出させそれに紛れるように姿を消す。

 次にコウモリの鳥類にも匹敵する飛行能力で素早く死角に回り込み、体当たりを仕掛ける。

 

 ヴァーテックスはこれに対し縁に刃の付いた盾、旋刃盤を召喚し防御。

 開いている左手でドライバーのレバーを回転させる。

 

〔READY GO!〕

 

 戦兎を旋刃盤で跳ね返し、それを捨ててかつて『生太刀』と呼ばれていた武器を召還し、地面を蹴って戦兎に急接近。同時に抜刀した。

 

「一閃――――――緋那汰」

 

〔EVOLTECH FINISH!!!〕

 

 これを真正面から受けた戦兎は、装甲の一部が切断され、地面に叩きつけられる。

 

《貴様のような不十分な人間が我に勝てるとでも思ったか》

 

「なっ……何……、ッ!」

 

 戦兎は一瞬動揺しながらも、ドライバーのボトルを変更する。

 

〔OBAKE!〕

〔MAGNET!〕

〔BESTMATCH!〕

 

 《貴様は葛城巧の記憶を継いだ佐藤太郎などではない。佐藤太郎を否定し、葛城巧の記憶をモノ創りの説明書としか見ていない何でもない存在だ!》

 

「ビルドアップ!」

 

〔彷徨える超引力! マグゴースト! YEAH……〕

 

 戦兎は幽霊と磁石の力を持つ形態になり、生太刀が当たる寸前体を半透明化させ、一時的に物理的ダメージを無効にした。

 

「お前に俺の何がわかる!」

 

 戦兎は左腕に装備されたU字磁石型の武装の力で磁力を発生させ、生太刀をこちらへ引き付けようとする。

 

 ヴァーテックスは抵抗せずに生太刀を離す。

 

 そして、かつて『大葉狩』と呼ばれた大鎌を召喚。

 

《それだけではない。お前は大きな勘違いをしている》

 

 ヴァーテックスがレバーに手をかける。

 

《正義のヒーローなど、存在しない》

 

「―――そんな訳ない!」

 

〔HAZARD ON!〕

 

 戦兎はハザードトリガーを起動し、接続と同時に紫と白のフルボトルを装填。

 

〔CROCODILE!〕

〔REMOCON!〕

〔SUPER BEST MATCH!!〕

 

 

〔READY GO!〕

〔Are you ready?〕

 

 

 ヴァーテックスがかつての大葉狩の使用者が宿した精霊 七人御先の力で自身を7体に増やし、7方向から戦兎を襲撃する。

 

「――ビルドアップ」

 

 その瞬間、戦兎がハザードライドビルダーに挟まれる形で完全に姿を隠した。

 

 流石のハザードライドビルダーもこの攻撃には耐えられず、砕け散ってしまう。だが、彼のフォームチェンジは止められなかった。

 

 

〔UNCONTROL SWITCH! BLACK HAZARD! ヤベェェェェイ!!〕

 

 

《……そう来るか》

 

 

「……」

 

 龍我は一人、昔を思い出していた。

 こういう事を思い出すのは未練があったみたいで嫌だとは思ったが、何かヒントがあると彼は信じていた。

 

『ねぇ龍我』

 

『ん?』

 

『いつもありがとね。こんな私の傍にいてくれて』

 

 このころの香澄は体調を崩していた。

 ―――これが心臓病に繋がっていたとは龍我はこの時、思ってもいなかった。

 

『惚れた女の傍に男はいるもんだろ』

 

『……』

 

『香澄?』

 

『龍我って、太陽みたいだなって』

 

『俺そんなに暑いのか……』

 

『確かに熱いね。でも、私にとっては暖かい』

 

 香澄は龍我に体を預けるように寄り添った。

 そして、彼女は自分の体の事を理解していた。

 

 

 ―――私がいなくなっても、誰かを照らせる人になってね

 

 

「…………太陽……」

 

 顔を上げる龍我。

 

「覚悟……」

 

 その時、惣一からの連絡が入る。

 

「――お前の遺してくれたこれで、あいつを救ってみせる」

 

 

 ヴァーテックスがドライバーからブレイバーエボルボトルを抜き、フルボトルを装填。

 

〔狙撃銃!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔CREATION!〕

 

〔READY GO!〕

〔狙撃銃 FINISH!〕

 

 ヴァーテックスの背に大剣、左手にワイヤーの発射機構の付いたガントレット、右手に狙撃銃が装備される。

 

 ヴァーテックスが戦兎とは違う方向に狙撃銃の銃口を向けた。

 

「まずい……っ!」

 

 戦兎は地面を蹴って先回りした。

 ヴァーテックスが狙撃を中断し、銃を放り捨てて大剣を振るう。

 

 戦兎がそれを受け止める。彼の後ろには、先ほど狙撃されそうになった子供。

 

 一瞬見えたその顔に既視感を覚えたものの、戦いに意識を戻しレバーを回す。

 

〔READY GO!〕

〔HAZARD ATTACK!!〕

 

 両足をワニの顎に見立て、得物を食いちぎるかのようにヴァーテックスを吹き飛ばした。

 

 だがヴァーテックスはその瞬間姿を消し、再び戦兎の体の主導権を握る。

 

「もう少し……いや、ほど遠いか。残念だったな。桐生戦兎―――」

 

 白髪の戦兎は幻徳を連れこの場を後にした。

 


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