佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第五十七話 プロジェクトビルドの終局

「あ˝~……最っ悪だ……」

 

 戦兎が虚ろな目で呟いた。

 

 いま彼がいる場所はnascitaではない。病院である。

 

 天神に身体を長時間使われたのだ。

 

 それでも、体内に何か仕込まれたり()()()()()()()といったことは無くて良かった。

 

「――って程でもないか」

 

 別に点滴をやっているわけではないので今すぐ医者を呼んで帰ろう。

 こう思ったその時、

 

 

 病室のドアが開かれた。

 

 

 

「「「……」」」

 

 一方、nascitaではライダー(無職)三人が視界に広がる光景に絶句していた。

 

「これ、どうするんだよ」

 

 彼らの前にあるものは大量のフルボトル。

 

 元から所持していたフェニックス、ロボット、バット、エンジン以外の56本、

 そして天神が複製した60本。

 

「欲しい人ー」

 

「「はーい!」」

 

「欲しいのかよ!」

 

 友奈と銀が挙手するも、惣一がそれを下げさせ、話を切り出した。

 

「まずこいつを見てほしい」

 

 惣一がエボルドライバーの外装の側面の一部を外し、そこへコードを接続。このコードの反対側にはパソコンが接続されていた。

 

 次に、天神が撤退時に落としたパンドラボックスと同じ模様が刻まれた小箱をエボルドライバーのスロットに挿す。

 

 すると、パソコンの画面の中央に赤字でDANGERと表示され、警告音が鳴り響いた。

 

「何だよこれ」

 

「パンドラボックスの残留物質。天神がかき集めたんだろう」

 

 惣一がドライバーから小箱を抜き、裏側を見せる。

 そこには、フルボトルの裏にもあるドライバー装填用のレーンが二つ存在した。

 

「……これには戦兎の力も必要だ」

 

 力だけを求め、我が身を犠牲にしようとした自分だけでは完成しないと言った。

 

「で、何すんだよ」

 

「60本のボトルの成分を注入し、究極のフルボトルを創り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルドαから始まったライダーシステム。

 これに終止符を打つ"ビルドΩ"を開発する」

 

 

 

「君は……」

 

 戦兎は病室に入ってきた少年に見覚えがあった。

 

 ヴァーテックスとの戦闘に巻き込まれかけた少年。

 

 しかし、それ以前にも彼とは遭遇していた。

 

「葛城さんの……」

 

「うん。あの時はありがとう」

 

 葛城巧の情報を得るため、彼の母親のもとへ訪れた時にスタークの手によってスマッシュにされたあの少年だった。

 

「久しぶり。体は大丈夫か?」

 

「それはこっちのセリフだよおじさん」

 

「おじっ……」

 

「先生に聞いたよ、あの赤いのについて。兄ちゃんが作ってたんだよね」

 

「……怖くないのか」

 

「人は見た目じゃないよ」

 

「……嬉しいこと言ってくれるねぇ」

 

「ねぇ、おじさん」

 

「……何だ」

 

「おじさんは何のために戦ってるの?誰と戦ってたの?」

 

「……俺の、戦う理由……」

 

 戦兎はそこから先を言えなかった。思いつかなかった。

 

「なんか、暗い話になっちゃったね」

 

「君みたいな子供がそんな暗い顔しちゃだめだよ」

 

 戦兎は手を伸ばし、少年の頭をなでる。

 邪気が一切ない笑顔で。

 

「―――うん!」

 

「葛城さんは元気?」

 

「うん。でも――」

 

「でも?」

 

「巧お兄ちゃんがいた頃よりは……」

 

「……そっか。今もあそこに住んでるの?」

 

「うん」

 

「近いうちに話がしたい。君の方からも言っておいてほしいな」

 

 少年は一番大きい声で返事し、ここを後にする支度を始めた。

 

「僕は信じてるよ。今も、これからも、おじさんがヒーローだって」

 

 この言葉に対し、戦兎はベッドから起きてこう返した。

 

「いいか?俺はおじさんじゃない。戦う兎と書いて、戦兎だ」

 

「せん、と……分かった!」

 

 少年は病室を後にした。

 ただ、走っているため通路にいた人物の注意を惹いてしまっている。

 

 

「よぉ~し、今のうちに脱出を……」

 

 少年が走っていった方向とは逆の方向から戦兎は病院から抜けようとする。

 

 病室に置いてあった私服に着替え退室―――

 

 

 

「さっとん、もう大丈夫なの?」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、nascitaでは惣一がビルドΩの詳細を話した。

 

 

「長々と話したわけだが、今は戦兎の見舞いを優先だ」

 

「あぁ。もちろん持っていくのは……」

 

「アレしかねぇよなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「うどん!!」」」」」」」

 

「蕎麦」

 

 

 

 

 

 

「やっぱりこうなるか……」

 

 勇者と龍我、一海で意見が分かれてしまった。

 惣一はこの結果に頭を抱えている。

 

「あ?何でお前ら揃いに揃ってうどんなんだよ」

 

「何でって当たり前だろ」

 

「うんうん」

 

 龍我の言葉を勇者達が肯定する。

 ただ、蕎麦を否定しているわけではないことは確か。

 

「まっ、そういう地で育ったからしょうがねぇか」

 

「……ん?」

 

「俺の先祖は諏訪出身。そこにいた奴に感化されて、今も続いてるってことだ」

 

「へぇ」

 

「でも、うどん派が多数ということで申し訳ないですが……」

 

「待った!!」

 

「落ちつけバ一海」

 

「多数決より重要なものを忘れてないか。愛だ」

 

「何でそこで愛?」

 

「悪いが、これだけは譲れない。自分で作るから、なっ?なっ?なっ?」

 

「えっ、あ、はい……」

 

 やけに威圧的な一海を前に静かになる勇者たち。

 

 

 

(待ってろ戦兎……。今すぐお前をこちら側へ引き込んでやっからよぉ……!)

 

 

 

「―――ってことがあったんよ~」

 

「園子らしいな」

 

 帰ろうとする戦兎を止め、二人きりの状況を作った園子。

 

 学校でもよく居眠りをする園子だが、最近その頻度が高いということでついに美森から直々に怒られた話をした。

 

 以前は、気をつけようねと言うレベルだったが今回は流石に……という事らしい。

 

 後、書道でまともな熟語を書かない点も。

 

「どういう語を書いたんだ……」

 

「え~っと、内角高めとか、23センチとか、円周率とかかな~」

 

「えぇ……? そういう美森は?」

 

「常在戦場」

 

「分かった」

 

「それから、我愛友奈とか」

 

「いいのかそれで……」

 

「まぁ、愛って一口で言っても色々あるからね~」

 

「流石、恋愛もの書いてる園子が言うと説得力があるよ」

 

「読んでくれてるんだ~。ありがと~」

 

 彼女の書く小説のうち、マスクドウォーリア―はつい最近完結した。

 そのため、今はもう一つの小説 スペース・サンチョに集中している。

 

「……感想欄に変な奴いるけどな」

 

「あの人は読んでて飽きない感想くれるから嬉しいんよ~。小説にチャレンジしてみてもいいって位にね~」

 

「書き込みが必ず更新から半日以内とか怖くないか?」

 

「きっと、時間に律儀な人なんだよ~」

 

「お、おぅ」

 

 

 

 

「ぶぇっくしょぉぉおおおおおいッ!」

 

「唾を出すな!」

 

「誰かが俺を呼んでいる」

 

「気持ち悪っ」

 

「んだとゴラ」

 

「やんのかオラ」

 

「そのっちに報告しますよ」

 

「すいません」

 

「……」

 

「万丈、お前もだ」

 

「……すまん」

 

 

「それにしても、居眠りは擁護できないな」

 

「ふぇ~、そこは流そうよ~」

 

「いや、ダメだ」

 

 二人の会話は続いた。

 

 

「待たせたな!見舞いで蕎麦作ってやったぞ―――あれ?」

 

「入れ違いになったんじゃねぇの?」

 

「……」

 

 蕎麦片手に呆然とする一海と、肩を叩いて同情する龍我。

 

 すると、後ろから老人が歩いてきた。

 

「ここ、今から私が入る部屋ですが」

 

「あ、邪魔でしたか」

 

「……ん?これは……蕎麦?」

 

 老人の目を見て、龍我は蕎麦を取って話を切り出した。

 

「なぁ爺さん、良かったらこれ食わねぇか?」

 

「おい龍我―――」

 

「いいんですか?では――」

 

 一海が止めようとしたが、老人は蕎麦を受け取って病室に入っていった。

 

「……せめてそのたんだろぉぉ?!」

 

「そこかよ!」

 

 後日、老人の親族から『蕎麦派になった(意訳)』と伝言を受け取った一海であった。

 

 


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