佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第五十九話 朽ちた蝙蝠のナイトメア

「――――――酷ぇ夢だ」

 

 惣一が目覚める。彼の眼前には、完成間近のビルドドライバー。

 寝落ちをしていたのだ。

 

『復讐の先に何がある?お前は一度落ち着くべきだ』

 

『黙れ!奴等は母さんを……人を殺したんだぞ!俺達はそんな奴等の手足になるためにここにいる訳ではないだろう!』

 

 

『……』

 

『フルボトルとエボルシステム……だったか。これは俺が使う』

 

『待て!幻徳!幻徳ッ!!』

 

 

「あーあー。何でこんなタイミングで思い出しちまうんだ……」

 

 彼の傍では、パソコンの本体が唸り、戦兎と一海が力尽きたかのように寝ている。

 そろそろ掃除しなくちゃな、と思いつつ作業を再開する。

 

 量が少し減っているハザードトリガーの強化剤を小箱に注入。

 

「ここからは後にしよう。……」

 

 皆(主に龍我)を起こすにはまだ時間があるため二度寝しよう、と思ったその瞬間

 

 

〔CROSS-Z FLAME!〕

 

 

「ん?」

 

 ドラゴンサンフルボトルが装填されたクローズドラゴンマックスが、自らが吐いた炎を纏い、龍我の上を旋回する。

 

「何やってんだあいつ……」

 

「―――ん˝っ、あ˝ぁー……いい朝だ」

 

「いい朝だ、じゃないよ何やってんの万丈!」

 

「いやだって、日光に当たって目覚めたほうが健康的って言うじゃん」

 

「確かにそうだけれども!それ光じゃないから!炎だから!」

 

「まぁ……火事とかになったらまずいもんな」

 

「それ以前の問題なんだけどね」

 

「でもよ、人工的な光しかない地下でこれ以上どうするよ」

 

「うーん……」

 

 惣一は龍我の寝ていたベッドを見てあることを思い出す。

 

「このベッド、一つしかないから4人で使いまわしてる訳だけど」

 

「おう」

 

「他三人はそこらへんの適当な床で寝てるんだよね?」

 

「あぁ。あんたがいなくなった後も、もちろんその前も。どうしたんだよいきなり」

 

「そっちの方が不健康じゃない……?」

 

「いや、寝違い治せるぞ。あと猫背も」

 

「えっ」

 

「と言ってもそのままじゃ固いから、薄いマット敷いたり固い枕使ったり色々工夫すんだよ。最初は痛いかもしれねぇけど、慣れれば楽だ」

 

「へぇ……じゃあ二人も?」

 

「おぅ、特に一海はマット代わりに風呂入る前まで着てた服使ってた」

 

「何か最近汚れた服多いなって思ったらこいつかよ!」

 

 洗濯物が増加した原因に対する不満を表に出す惣一。

 龍我はそれを宥め、話を切り出した。

 

「それはどんな感じだ?」

 

「あー……やっぱ60本の力を一まとめにするのは無理があったかな……」

 

 ビルドΩは現在、外装に調整用の穴を開け、蓋が近くに転がっている形になっていた。

 龍我がそれを手に取る。

 

「……おい、何か光ってんぞ」

 

 穴からフルボトルの成分の光が漏れていた。

 活性化しているようだが、持っている龍我の身体能力に変化は無かった。

 

「活性化したんだ。振動増幅装置の導入で振動を60倍にしたからね。でも、身体能力を強化することはできない」

 

「おぉー」

 

「そして、戦兎の提案でラビットタンクスパークリング、フルフルラビットタンクボトルに搭載されてた発砲増強装置、調整剤を搭載した。俺の、ハザードトリガーの強化剤を搭載するって案に追加する形でこの案を出してきたんだ」

 

「スゲー」

 

 寝起きという事もあり、情報が頭に入らなくなり片言になる龍我。

 

「これに適応したドライバーも少しで完成する。こいつが完成した暁には―――」

 

 龍我が『あっ……』と呟き思考を停止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――という訳だ。天才でしょ、ジーニアスでしょ?」

 

「そのセリフあんたが由来だったのか……」

 

「って、あれ?この時間帯だと園子ちゃんが来るか、モーニングコールならぬモーニングメール送ってくるはずじゃ?」

 

 時計は6時過ぎを指していた。

 

「部活で出張だってよ。にしてもメール寄越さないのは変だよなぁ……。おい、おい戦兎起きろ」

 

 転がっている戦兎の頬を軽く叩く。

 

 戦兎が目を覚ました。

 

「…………俺の恋人は万丈だった……!?」

 

「畑見てくるわ」

 

「俺が悪かった!冗談だったんだ!万丈ぉぉぉ…………園子今日まで部活だった……」

 

 戦兎が端末で連絡しようとした。

 

「あれ、繋がらないぞ」

 

 

 龍我は惣一の話でパンクした頭を落ち着かせるため、外へ出た。

 そして自身のコーヒー豆畑へ行くと、そこには複数の人影。

 

「おいお前ら!そこで何やってんだ!ここは万じょ―――」

 

 人影が龍我の方を向いた。

 

 しかしそれは、人ではなかった。

 

「スマッシュ……!」

 

 色は黒。形状も今まで散々見てきたものだ。

 

 

〔FLAME UP! DRAGON!〕

 

 龍我はビルドドライバーを装着。

 クローズドラゴンマックスにドラゴンサンフルボトルを装填し、

 

〔NEO CROSS-Z DRAGON!〕

 

 

〔Are you ready?〕

 

 

「変身ッ!」

 

〔BURN UP DRAGON FIGHTER! CROSS-Z NEO! YEAH!!〕

 

 クローズネオへ変身した龍我。

 

「……あ?」

 

 龍我が近づいてもスマッシュは彼に対して敵対行動をとらなかった。

 むしろ、声のような音を出して逃げ腰だ。

 

「何?たす……聞こえねぇよ!」

 

 

 同時刻、讃州市の住宅街。ここに幻徳がネビュラスチームガンを構え、立っていた。

 

〔FULL BOTTLE!〕

〔FUNKY ATTACK!! FULL BOTTLE!〕

 

 銃口から、霧と化した装填されたフルボトルの成分が放たれ、住宅街に流れ込む。

 

 使われたフルボトルは、完成直前で彼が強奪し、ファウストで完成させたフルボトルの一本。これの中を空にする代わりに高濃度のネビュラガスを放ったのだ。

 

「あぁぁぁあああっ!?」

 

「だ……れか…………助――――――」

 

 住民達は苦しみ、体が異質なものになっていく恐怖に苛まれながら、スマッシュに変貌してしまった―――

 

 

 

 だけだったら、まだ従来の方法で助けられたはず。

 

 

 

 

 

 

「頼む……!助けてくれ……!」

 

「――――マジかよ」

 

 このスマッシュには、自我が残っていた。

 

「体が痛い……!何故か、目の前にいる人に殴りかかりたくもなるんだ……!

 あんた、仮面ライダーなんだろ……?」

 

「……」

 

 龍我は絶句し、何もできなかった。

 

 体が痛い。自我だけでなく、痛覚までそのまま。

 もし従来通り、体内のエネルギーが爆発するまで攻撃し、成分を採る方法を取ったら――

 

「――――――最悪だ」

 

 どうすることもできない彼の背後から、新たな人影が襲い掛かる。

 

 

「……え?」

 

 勇者にも、異変が現れた。

 

 先程まで彼女たちがいた旅館はそこに無く、代わりに辺り一面の木々。

 

 樹海だった。

 

 

「何かがおかしい……」

 

 一海を叩き起こし、惣一は戦兎、一海と共に龍我を追いかける。

 

「話が全く読めねぇよ。いったい何が―――」

 

 三人の足が止まった。

 

 震え、立っているのもやっとなスマッシュ、そして、スマッシュとは違う存在が龍我に襲われていた。

 

 

 龍我を無視し、スマッシュに襲い掛かろうとする怪人を制止し、拳をぶつける。

 

「効いてる気がしねぇ……でも、確かこいつって」

 

 彼はこの怪人を以前見ている。だが思い出すのに時間がかかる。

 

 そんなことをしている矢先、怪人は一瞬オレンジ色の粒子になり、分裂した。

 

 得物を振りかざそうとする怪人。だが、それはすぐに手から離れることになった。

 

 

「万丈!」

 

 ドリルクラッシャーを手にした戦兎。彼が怪人の腕を撃ったのだ。

 

「そいつはバグスターだ!これを使え!」

 

 戦兎がゲームフルボトルを投げ、龍我が受け取った。

 

 ビートクローザーを召喚し、ゲームフルボトルを装填。

 続いてグリップエンドを二回引っ張った。

 

〔SPECIAL TUNE!〕

〔HITPARE! HITPARE!〕

 

 さらに、ドライバーのレバーを回転させ、そのエネルギーをビートクローザーへ集中させる。

 

〔READY GO!〕

〔DRAGONIC BREAK!!〕

〔MILLION SLASH!〕

 

「ハァァァッ!!」

 

 得物を薙ぎ払うとバグスターが両断され、爆発。

 

「っしゃあ!」

 

 だがそこへ、もう一体のバグスターが襲い掛かる。

 

 龍我もそれに気づき、グリップエンドに手をかけるが、

 

 現行のライダーシステムのものではない音声が一帯に響いた。

 

 

 

 

MIGHTY CRITICAL STRIKE!

 

 

 

 


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