佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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十年前発見されたガスには人の身体能力向上や死んだ部位の蘇生が可能である。
実際、俺がそうだ。●●で失われた体の機能が回復している。
ただ、リスクが大きすぎる。
体の弱いものがこのガスを注入されると怪物になってしまう。

そしてこれの元凶である●●●●ボックス。
これの出土は――――――





あなたに微笑む

あの戦いの後、三人には精霊が実装された。それに伴い、武器の強化・変更もあったらしい。

 

俺がいつものように大赦の技術開発部に行くと、そこはいつも以上に殺風景であった。

誰もいなかった。

そして、

 

『君たち勇者には"満開"と"オーバーフロー"が精霊とともに実装された。

このことは俺も知らされていない。何か知られたくないことがあるのだろう。

満開はその名の通り花が咲き誇った状態の事、オーバーフローは「容器から液体があふれること」という意味。"限界突破"という解釈をしてくれ。

先日の戦いで君に起きた変化はこれだ。オーバーフローという名前は俺がつけた名。花の意匠のない君の満開を表す言葉だ――――

 

「続きがある。前の文よりも新しい……」

 

 

『PROJECTBUILDが完成した。君のおかげだよ。ありがとう

君の端末からデータ収集機能を削除しておいた。

これで君は本当の意味で勇者だ。意匠となっている花は"ヤマザクラ"

花言葉は「高尚」「あなたに微笑む」

君にはこういう人間になってほしくてね。

 

最後に、佐藤太郎

君にはこのことを伝えておかなければいけない。

満開には"散華"と呼ばれる代償が存在する

 

 

「なんだよ、それ……」

 

 

満開が解除された後、体の機能が一つ奪われる。いや、供物にされるって言い方が正しい。

ただ、最初の二回までは大丈夫だ。二回までは……

 

このことを三人に伝えて一人で戦うか、秘密にして全員で戦うか。それは君に任せるよ。

ここまで付き合ってくれてありがとう。今を大切にね。

 

葛城巧

 

 

 

―――――――また、"俺"に会えるといいね

 

 

 

 

「……」

 

言葉が出なかった。まるで、もう二度と会えないと言っているみたいじゃないか

 

 

 

「太郎?」

 

散華、体の機能を供物に……

 

「太郎!」

 

「!…………夏凜」

 

「どうしたのよ」

 

「ちょっとな……そうだ、鍛錬しないか?二刀流で」

 

「いいわよ!受けて立つ!」

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「ハッ……ハハハ…………」

 

自分からふっかけた勝負だったが、負けてしまった。

 

「利き手とその反対の手の握力の差が大きすぎるわ。もうすこし落ち着いて」

 

「そっか。昔っから上手だよな。二刀流」

 

「そうかしら。だったら勇者になっても私は二刀流を使い続けるわ!」

 

「勇者……か。お前は、お前は、勇者になることで何かを失くしてしまうことがあったらどうする?」

 

「愚問ね。私は……アンタたちがここまで守ってきてくれたこの国を守るため勇者になる。……その言い方だと、まるで勇者に代償があるみたいじゃない」

 

「………………何で分かった?」

 

「アンタと出会って三年。顔で分かる」

 

「マジか。……といっても、勇者になるだけでは何も失わないさ」

 

「満開ね。大赦からは単なる強化・レベルアップとしか教えられてないわ」

 

「本当のことを言うとビビッて戦わなくなるかもしれない。こう考えてるのかもな」

 

「確かに、言ったら怖いと思って戦わなくなる勇者が出てくるかもしれない。

でも私は―――」

 

「私は違う。だろ?」

 

「よくわかってるじゃない。

 

……頑張ってね。アンタの、太郎の遺志は、私が継ぐから」

 

「……勝手に殺さないでくれる?」

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

「かぼちゃだかぼちゃだー!外国のお祭りだー!」

 

「我が国の懐が広いからこそなせる業よね」

 

「そんな固いことは言わずに、楽しもうぜ!」

 

今日はハロウィン。町の各所に出店やかぼちゃが置かれている。

俺はそこに来ている三人に声をかける

 

「よ、よう。元気にしてるか?」

 

「さっとん!」

 

「佐藤!そっちこそ元気か?」

 

「佐藤さん……お体のほうは大丈夫ですか?」

 

そうだった。あの戦い以降、俺はほとんどこいつらに顔出してなかったけな。

 

「俺は大丈夫だよ。にしてもハロウィンか。時間がたつのは早いな」

 

「今年は色々忙しかったからなー。来年こそは静かに暮らしていきたいよ」

 

「わっ!勝手に出てきちゃダメだよセバスチャン!」

 

園子が烏天狗をしまおうとする

 

「セバスチャン?」

 

「ミドルネームつけてみたんよ~」

 

セバスチャンは主の言うことを聞かずにかぼちゃを被って浮遊している。

 

と、その時、セバスチャンが遠くの親子に見つかってしまう。

 

「ママー!かぼちゃがお空飛んでるよ!」

 

「あら!」

 

 

「ど、どうする……?」

 

「あ、α波で浮かんでいます……」

 

須美が機転を利かせ親子が立ち去るまでずっと手でαをつくっていた。

 

「わっしーすげー!」

 

「わっしーすげー!じゃない!気をつけてよね!」

 

 

「ところで佐藤~、……散華って本当?」

 

「は?お前なんで」

 

銀が園子と須美から離れ俺にこっそり話す。

 

「夏凜から教えてもらったんだよ。須美と園子もな」

 

「……二回までだ。いいな」

 

「わかってるって。……でも」

 

「なんだ?」

 

「園子は、事によってはそれ以上使っちゃうかも」

 

「……代償を受けるのは俺だけで十分だ」

 

「それだよ。『さっとん一人に背負わせたくない』って」

 

「何だよそれ。一緒に背負えば怖くないってか?これは遊びじゃ――」

 

「初めてできた異性の友達に、全部背負わせたくないんだよ」

 

確かに園子も満開をすれば、一人当たりの散華は少なくなる。でもそれは何の解決にもなっていない。

 

 

――――端末に『樹海化警報』の文字が現れアラームが鳴る。

 

 

「全く、頑固だな。俺が一人で背負おうって言ってんのに」

 

「頑固なさっとんに言われたくないかな~」

 

 

 

世界が樹海と化し、俺たちは勇者になる。

 

アップデートに当たって、三人の装束が変化していたり、須美は狙撃銃、園子はリーチが長くできる槍、銀は取り回し重視の中型の斧で握り手の外側にはグリップガードがついている。

 

 

「まーた三体か」

 

「油断は禁物よ。銀」

 

「わかってますよって」

 

バーテックスが接近したと同時に三回。

須美が狙撃でバーテックスの動きを一時的に止め、

 

「てやーっ!!」

 

園子が槍でそのバーテックスを仕留める。

 

「やるじゃねぇか隊長!俺も負けてられねぇな!」

 

俺は電撃を放とうとしていたヤツに接近し、拳を叩き込む。

 

「あぁ……?効いてんのか?これ」

 

自分がまだ格闘戦に慣れていないせいで手ごたえがほとんどない。

 

 

「佐藤!いったん退いて!ここはあたしが!」

 

まずは銀が1回目……か

 

 

「満開!」

 

 

これが銀の満開。背部から四つの刀を持った腕が現れる。これは銀の腕の動きに追従しているようだ

 

 

「おらおらおらー!!」

 

あっという間に一体を倒してしまう。と同時に満開が解除され、地面に着地する

 

「あと一体……」

 

すると、最後の一体が火球をこちらに雨のように降らせてくる

 

 

「これは……かなり厄介ね……」

 

最後の一体の後ろからは大量に白い小さなバーテックスが迫る。

 

「ここはタフなこの三ノ輪銀が相手をしてやるよ!」

 

「強化されたといっても一人では流石に対処しきれないでしょ?後ろは任せて」

 

「わっしー、ミノさん、ここは頼むね。さっとん!行くよ~!」

 

「了解!」

 

 

「「満開!!」」

 

 

俺と園子は満開をし、最後の一体との距離を詰める。

 

この一体はかなり上を浮遊しているため、飛行能力を持つ園子の満開時に現れる箱舟に乗せてもらう。

 

ある程度まで接近すると俺は箱舟から飛び降り、バーテックスの背後へ回る。

 

試しに殴ってみるが、あまり効いていない。力以前の問題だとすぐに悟った。

 

前の戦いで使ったせいで学習でもされたか……?

 

「だったら……」

 

手を手刀の形にしてみると大きい方の腕も手刀になる。

 

これでバーテックスの胴体を突き、園子も箱舟のオールのような役割をしていた刃を正面から突きさす。

 

 

「終わった……か?」

 

その直後、俺たちの満開が解除される。俺は崖のような高い場所に着地。園子もそれに続こうとするが間に合わず、転落しかけるが腕をつかみそれを阻止した。

 

「ずいぶん高いね~」

 

「……つーか、バーテックスってここら辺から出てきてるよな」

 

「カチコミってやつをやるんだね!」

 

「そんな言葉いつ覚えたんだよ……園子は下がってろよ?俺が守ってやっから」

 

崖……というより壁だな。俺たちはこれの奥へ向かう。

 

「今のはプロポーズと受け取っていいのかな?でも……」

 

「……ああ」

 

「守るとかそういう状況じゃないよね……」

 

俺たちの前に広がっていたのは赤。どこを見ても溶岩のような赤。

 

それに奥にバーテックスがうじゃうじゃいるのがわかる。

 

……これが、葛城さんの言っていたこと

 

 

 

『バーテックスは12"体"じゃない。12"種類"だ』

 

 

 

「それによ、こっちにきてないか?」

 

さっき倒したものと同型のものを含め、たくさんのバーテックスがこちらを認識し向かってくる。

 

「これも人類の未来のため……か。怖いなら逃げていいんだぞ?後は俺がやる」

 

「いや~、こんな時にプロポーズされたもんだから緊張がどっか飛んじゃったよ~」

 

「それは…………そうだな。そういう受け取り方でいいよ」

 

園子は端末を取り出し、須美たちに連絡を取る。

 

「わっしー、ミノさん、私たち、行ってくるから」

 

『……そう。もう、そうするしかないのね……』

 

『園子!佐藤も一緒か!? こっちは片付いた!でも……』

 

「精神的に参ったか?」

 

『ごめん……』

 

「いいってことよ。装備はいくらでも強くできても、心には限界があるからな」

 

『そのっち、佐藤さん、絶対……帰ってきてね。約束』

 

「うん!約束!」

 

『あ、もし帰ってこなかったら佐藤のパソコンのデータ全部消すからな』

 

「おいおいおいおい待てや」

 

『またね。二人とも』

 

「またね~」

 

「またな」

 

 

 

 

「「満開!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――大橋の半壊という被害を出し、この戦いは終わった。

 

鷲尾須美は役目を終え、東郷美森として平穏な生活を取り戻した。

三ノ輪銀も同じく、役目を果たした。

 

 

一方、乃木園子は10回もの満開をしたことによる散華で四肢や心臓の機能が停止し、大赦に回収され祀られた。

 

 

前代未聞の勇者 佐藤太郎は

 

 

 

 

 

大赦が全力を挙げて捜索したが発見できず。

 

死亡と判断された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~佐藤太郎は勇者である

 

 




何とかわすゆ編が終わりました。次回から主人公が桐生戦兎に変わります。

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