佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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第六十話 二つのドリーム

〔MIGHTY CRITICAL STRIKE!〕

 

「ハァァッ!」

 

 突如龍我らの死角から、右足にゲームのようなエフェクトを纏った戦士が現れ、バグスターを一撃で蹴散らした。

 

 その戦士は腰の右側にあるホルダーから黒色のカセットのようなガジェットを抜き、正面の派手な配色のベルトに装填し、龍我らのほうを向いた

 

「何だ……?こいつは……」

 

「仮面ライダーゲンム……」

 

 立ちつくす一海、疑問を浮かべる惣一。

 

「お前らァァァァ!!見てないで加勢しろおおお!!」

 

 増殖を続けるバグスター。

 それに埋もれかかっている龍我が叫ぶ。

 

「倒すことはできなくてもこの場で抑えることはできるはずだ」

 

「そうだな。行くぞ」

 

 戦兎と一海、惣一はそれぞれドライバーを装着。

 

「――にしても、変わったよ。お前は」

 

「ど、どうしたんだよ急に」

 

「今のお前からは迷いが見えない。何かは知らんが、吹っ切れたか」

 

「……」

 

 戦兎は龍我たちに助けてもらったあの時から、ずっと『何かを払拭した』感じがするようになった。

 その『何か』の正体はわからない。

 

 ただ、()()()()()()()()彼に全く支障はない。

 

 戦兎は懐からまだ使用していないフルボトルを取り出した。

 

 ラビットムーンとウォーリアタンク。

 

 実戦どころか実験すら経験していないフルボトルである。

 

〔GREASE DISPENSER!〕

 

〔RABBIT!〕

〔TANK!〕

〔BEST MATCH!〕

 

〔COBRA!〕

〔RIDER SYSTEM!〕

〔EVOLUTION!〕

 

〔〔Are you ready?〕〕

 

「「「変身!」」」

 

 バグスターが群れで襲い掛かるものの、グリスディスペンサー変身時の破片飛ばしで問題なく三人の変身が完了した。

 

〔ROBOTS IN GREASE! ブルァァァアアアア!!〕

〔鋼のムーンサルト! ラビットタンク! YEAH!〕

〔COBRA! COBRA! EVOL COBRA! フッハッハッハッハハハハ!!〕

 

 ラビットとタンク、二つの強化版のフルボトルを使用して変身した戦兎だが、姿はラビットタンクフォームそのもの。

 

「ふっ!」

 

 戦兎がバグスターを左拳で殴る。

『MISS!』というエフェクトが出現しダメージが無効になってしまったが、バグスターは吹き飛ばされた。

 

「万丈!」

 

 龍我のもとへ駆ける戦兎。

 

「おりゃぁぁぁ!!」

 

 バグスター一体が吹き飛ばされた。

 

「結構使えんじゃねぇかこれ!」

 

 体制を立て直す龍我。その右手にはクローズマグマナックルが握られていた。

 

「いつの間に……」

 

「マスターから大体の事は聞いた。斬るのがダメなら―――」

 

 龍我はビートクローザーに装填していたゲームフルボトルをマグマナックルへ挿しなおす。

 

〔BOTTLE BARN!〕

 

「面で押す!」

 

 マグマナックル正面のボタンを左手のひらに押し付ける。

 

 これによりイグナイターが起動し、フルボトルの成分が熱せられる。

 

 そして

 

〔VOLCANIC KNUCKLE!! アチャァァァァッ!!〕

 

 

「樹海……?! もう戦いは終わったんじゃなかったの……?」

 

 突然の出来事に、風が動揺を見せる。

 

「……先輩、落ち着いて聞いてください。友奈ちゃん、樹ちゃんも」

 

「東郷さん……」

 

 美森の真剣な眼差しを前に三人は息を呑んだ。

 

「私たちが倒したバーテックスは全体の極一部に過ぎません」

 

「……何かおかしいとは思ってた」

 

 風が呟いた。

 

「あの時全てが終わっていたら、大赦は私たちの勇者システムを回収するはず。でも来なかった。お役目が終わったとも伝えられてなかった」

 

「でっ、でも、今までの戦いが無意味だったわけじゃないよね……?」

 

「…………それは」

 

「「……」」

 

 美森、そして彼女の動機である銀、園子も何も言えないでいた。

 

 何を言っても何も変わらないから。

 

 

 

「そうね。貴女達はよく頑張った。でも―――これが報われるかどうかは貴女達次第よ」

 

 

 

〔GASHAT!〕

〔キメワザ!〕

 

 ゲンムが黒いカセット――プロトマイティガシャットオリジンをガシャコンブレイカーに装填。

 

 刀身に黒いエネルギーが纏われ、バグスターを一刀両断した。

 

「ちゃんと止めをさせるのはあいつだけ……か」

 

「……分が悪くなってきたな」

 

 ゲンムがこう言い、もう一本の黒いガシャットを取り出す。

 

〔GEKITOTSU ROBOTS!〕

 

 黒いガシャット――プロトゲキトツロボッツガシャットが起動されると、黒い二頭身のロボットが出現し、ゲンムはドライバーのレバーを閉じてガシャットを装填。

 再度レバーを開く。

 

「グレード03」

 

〔ガッチャァーン!〕

〔LEVEL UP!〕

〔MIGHTY JUMP! MIGHTY KICK! MIGHTY MIGHTY ACTION X!

 アッガッチャ!

 ぶっ叩け! 突撃! モウレツパンチ! ゲ・キ・ト・ツ ロボッツ!〕

 

 ゲンムの上半身にロボットの腕以外がアーマーとして、腕はゲンムの左腕と一体化し、巨腕となった。

 

 仮面ライダーゲンム プロトロボットアクションゲーマーレベル0。

 

「撤退する」

 

 ゲンムはPゲキトツロボッツガシャットを抜き、横のスロットに挿す。

 

「待てよ!まだスマッシュにされた市民がいるんだぞ!見捨てろってか!?」

 

 龍我が激しく抗議する。

 

「だが策がない。そうだろう」

 

「っ……」

 

「万丈、今はこうするしかない」

 

「……」

 

 

「俺は……大丈夫、だ……」

 

 スマッシュに変異した市民が頭を抱えながら立ち上がる。

 

「あの夜からずっと……あんたを探してた。ビルド……」

 

 

 

『警察だ!動くな!』

 

 夜、突如出現したスマッシュを前に、その男は銃を構えていた。

 市民を守るため、効かなくても注意が自分に向けばいい。そう思い発砲した。

 

 銃弾が地面に落ち、転がる音がした。

 

『逃げろ!殺されるぞ!』

 

 彼は必死に叫んだ。

 

『っ……はっ……』

 

 首を掴まれた。

 銃を握っていた手から力が抜けていき、意識までもが無くなろうとしていた。

 

 

『―――――ちょっと待った』

 

 その時、スマッシュを彼から引き離し、スマッシュを撃破した者が現れた。

 

 仮面ライダービルド。今彼が目にしてる者だった。

 

 

「こんな体になっても……俺は警察官だ……。最期まで、職務を全うする……。

 あんたの……助けになるために!」

 

 その男は、遠くに見える大量のスマッシュにおぼつかない足取りで向かった。

 

「おい待てよ!」

 

 龍我が追いかけようとするが、戦兎がそれを止める。

 

「万丈、彼を助けるためにも一度戻るぞ」

 

「……分かった」

 

 

〔キメワザ!〕

 

 ゲンムが左腕にエネルギーをためる中、惣一はトランスチームガンを構える。

 

〔GEKITOTSU CRITICAL STRIKE!〕

 

 ゲンムが左腕を思い切り地面に叩きつけ、衝撃波でバグスターが消滅。

 惣一が得物から蒸気を発生させ、それに紛れて彼らは撤退した。

 

 

「……」

 

 樹海に現れた八人目の少女。

 

 彼女は勇者、特に友奈をじっと見て、呟いた。

 

「貴女、■■さんにそっくりね。……まぁ無理もないか」

 

 少女が、彼岸花の髪飾りをつけ腰まで伸びている白い髪を揺らし、視線を壁へ移した。

 

「それと、犬吠埼風さん。貴女の疑問に対する答えだけど、戦いそのものは終わりを迎える。そうね、春を迎える前位かしら」

 

 不敵な笑みを浮かべる彼女に、夏凜は痺れを切らした。

 

「あんたねぇ、何?新手のバーテックス?」

 

 すると、少女は生気のない顔で答えた。

 

「あんなモノと一緒にされては困るわ」

 

「じゃあ何なのよ」

 

「さぁ……」

 

「答えになって―――ないっ!」

 

 夏凜は勇者に変身し、刀を振るう。

 少女が鎌でこれを防ぐ。

 

 そして、夏凜の刀を持っている方の手首を掴み、刀を離すまで力を入れ続けた。

 

 これで終わる夏凜ではない。今度はこちらが手首を掴み、掴まれていた右手を振り払うが

 

「えっ……」

 

 一瞬、何かに気づき動揺を見せる。

 

 少女はそこを突き、足を払い夏凜の姿勢を崩した。

 

「貴女、本調子じゃないみたいね」

 

「そりゃそうよ……。あんた、脈が―――」

 

 少女は夏凜を無視し、友奈のもとへ歩み寄る。

 無論、周囲の人物から警戒されるも、彼女は鎌を捨て、白い彼岸花を取り出した。

 

「じゃあね。結城友奈さん」

 

 友奈が彼岸花を受け取ると、もうそこには少女の姿はなかった。

 

「……あいつ、人間じゃない」

 

「え?」

 

「変に冷たかった。それに、脈が無かっ――――」

 

 ここで、勇者達の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……ん?」

 

 夏凜が目を覚ます。

 日が射した朝。旅館だった。

 

 そして、胸と腹の間に風の頭が乗っかっていた。

 

「東郷と園子ぐらいじゃない?寝相いいの……

 ほら、起きなさいよ」

 

 風の長い髪をある程度束ね、それで顔を叩いた。

 

「―――え?何?何?」

 

「もう朝よ」

 

「あっ、ごめんね~。いい高さの枕があったと思ってつい」

 

「…………それは皮肉か!皮肉なのか!?自分がふくよかだからって!」

 

「何、怒ってるの?」

 

 夏凜は夢だとあの出来事を流そうとした。

 だが、できなかった。

 

 あの冷たい手首を掴んだ記憶がある。何より―――

 

 

 

 

 

 

 

 まだ寝ている友奈の手に、白い彼岸花が握られていたから

 

 

 

 

 

 




・グレード03(ゼロスリー)
ゲンムがレベル3用ガシャットの試作型を使用する際の掛け声。

・白い彼岸花
花言葉は「また会う日を楽しみに」

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