佐藤太郎は勇者である/桐生戦兎は仮面ライダーである   作:鮭愊毘

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長い間投稿が出来なくて申し訳ありません。
今回から味方勢最後の最終フォーム編になります。


第六十二話 ネガティブレガシーと向き合うために

GENIUS(ジーニアァァス) FINISH(フィニィィィィッシュ)!!!〕

 

 現在の自分の立ち位置、味方の位置、攻撃後の反動による周囲の被害の軽減等から算出されたグラフがスマッシュを拘束し、六十本のフルボトルの成分が虹色の翼として放出されているビルドがそのグラフに沿って加速。

 

『ネビュラガスの浄化の力』としてフルボトルの力がスマッシュに流し込まれ、スマッシュが霧散した。

 

「っと」

 

 着地したビルドが周囲を見渡し被害が無いことを確認した。

 

 

「たでぇまー」

 

「「ぅーっす」」

 

「お疲れさん」

 

「さっとん、ジョーさん、かずみんおかえり~」

 

 疲れ切った状態で戦兎、龍我、一海がnascitaに戻った。

 

「戦兎、今日もジーニアス使ったんだろ?」

 

「あぁ。だから―――」

 

 戦兎の心を読んだかのように惣一が後ろの棚からインスタントのココアを取り出した。

 

 この光景に龍我と一海は、「自分で(コーヒーを)淹れるのはやめたのか?」と疑問と安堵が混ざった表情をした。

 

「ん?ココア……?―――って戦兎お前!」

 

「えっ何カッカしてんの、あ、飲みたいの?」

 

「お前の飲みかけなんていらねぇ。せめてそのたんのを出せ―――じゃなくて」

 

 一海はゴミ箱を開け、一つのゴミを出してきた。

 

「朝、これ食っただろ」

 

「あー……砂糖菓子……」

 

「朝っぱらから甘いもん食ったらどうなるか分かってんのか?おい」

 

 戦兎は園子を手招きで呼び、一海の前にスッと立たせ、地下室に逃げようとするが、

 

「ンンンンンンンンンン!!そのたんの三十センチ手前ッ!」

 

「かずみん落ち着いて~」

 

「あれ絶対唾かかったよな」

 

「どちらにしろ神官の前でやってたら打ち首だったな」

 

「んんん――――はっ!おいゴラまて戦兎ォ!!」

 

「ジーニアスはボトルの能力調整にサポートが無いから脳疲れるんだよ!!」

 

「戦兎、ジーニアス使ったのか」

 

 惣一がエボルトリガー片手に地下室から出てきた。

 

「これだとスマッシュを爆散させることなく倒せる。周囲への被害も少なくできるし、あの時みたいに意識のある人が変化させられたスマッシュにも安全に対処―――」

 

 惣一は待ったと戦兎の言葉を遮った。

 

「確かにそうだが、まずこれを見てほしい」

 

 彼はタブレット端末を取り出し、映像を再生した。

 グリスのヘッドギアに搭載されたカメラのものだった。

 

「俺だな」

 

「やっぱクローズマックスかっけぇな」

 

「龍我お前黙ってろや」

 

 映像のビルド ジーニアスフォームがフルボトルの力を使う。

 

「ん、……何だこれ」

 

「装甲が浮いた?」

 

「いや、隙間を開けたんだ」

 

 ビルドの肩や腕の装甲が少し開き隙間が空く。

 そこから蒸気のように何かが排出されていた。

 

「内側にため込んだエネルギーを放出。戦兎への負担を軽減させた」

 

「じゃあ」

 

「一応、装甲の表面でそれを再吸収できるようにしたんだが……全部はさすがに無理だった」

 

「マスター、何が言いたいんだよ」

 

「ジーニアスフォームは使用者への負担軽減のため、エネルギーを放出しながら動いている。その上、ジーニアスボトルは僅かな振動で活性化する」

 

「下手すりゃ腹式呼吸の腹の動きですら活性化するのか」

 

「そう。で、空気を入れ続けた風船はいずれどうなると思う?」

 

「破裂……あぁ!」

 

「戦兎、天神との戦いは続く。奴は単純な力では勝てない。技も必要になってくる。そういう時に十二分に使えるように温存するんだ」

 

「分かった。そうするよ」

 

「ジョーさんジョーさん」

 

「あ?」

 

 話についていけず周囲をきょろきょろしていた園子。

 

「腕の傷……あっ、さっとんも!」

 

「まぁ、最近いろんな事が立て続けにあったからな……」

 

「すぐに治ると思う。それより万丈、園子の父さんから聞いたぞ。警察から謝罪文貰ったんだってな」

 

「不確定な情報で指名手配・逮捕――に関する、な。そういう意味でもあの警官を助けられてよかった」

 

「……」

 

 龍我の話を聞いて園子が呆気にとられていた。

 

「園子?」

 

「偉い人って、こういう事を無くすために努力していかなきゃなって。大赦も今、問題抱えてるって」

 

「あぁ。ファウストが介入していたおかげで互いが互いを信じられなくなってる。いつはち切れて崩壊してもおかしくない」

 

「……がんばろうね、さっとん!私もできる限りサポートするから!」

 

「いや、乃木の血が入ってるお前が前に出るんだぞ?サポートは俺」

 

 これを聞いた途端、園子は力が抜けたようにテーブルにへばり付いた。

 

「……」

 

「一海お前やっぱ園子関係になると気持ち悪い」

 

「まだ何も言ってねぇだろ!?」

 

「顔に出てるんだよ!」

 

「おう表出ろや」

 

「上等だ」

 

 

「妬けるなぁ」

 

「あいつは騒げる環境が今まで無かったからなぁ…万丈は分からないけど

 

 

 

 

 ん?妬けるってどういう―――」

 

 

 結界外の灼熱の空間。

 そこで白い髪をなびかせる女性が一人。

 

「やっぱり、アレは一部に過ぎなかったのね」

 

 彼女はかつて郡千景という名を持っていた。

 

 彼女が見上げる場所には、巨大な鏡のようなものが浮いていた。

 

 

「これだから過激な輩は困る」

 

 

 彼女はヴァーテックスは使用していたエボルドライバーの残骸を溶岩と化した大地へ投げ捨てた。

 

 

 

「龍我、お前が戦う理由は何だ」

 

「……そういう事か。俺は、正義だとかそういう難しい事はよく分かんねぇ。けど、誰も信じてくれない、誰も信じたくない状況で俺を信じてくれたあいつに何か返し―――ん?自分を信じてくれたあいつを信じたから?んー…………」

 

「っ、ははははははは!! 自分でも分からねぇのかよ!」

 

「ちげぇよ!どう口に出せばいいか分からねぇだけだ!」

 

「とにかく、保身のためだけじゃないってことだな」

 

「保身……ほっとんど考えたことなかったな。そういう一海はどうなんだよ」

 

「…………無い」

 

「――はぁ?」

 

「猿渡家は元々、300年前から続く農家だったらしい。だが、白鳥という家の人間と干渉したことで大赦の一部に組み込まれた。今思えば情報漏洩防止のためだったのかもな。

 

 で、そんな家の人間が大赦で役立てる機会はただ一つ、警備だ。だから俺は葛城って奴がライダーシステムなるものを作っていると聞いてグリスになった。

 

 大切な人が殺されたとかそういう過去は一切ない。『戦い力の無い猿渡の人間は役立たずの他ない』から戦っているに過ぎない」

 

「……悪い。嫌なこと思い出させちまって」

 

「いつか話そうとしてたことだ。気にすんな。大赦から蹴られて始めて見たものもある」

 

「園子か」

 

「そのたんの小説は信念を持たず力を振り回す俺にとって心の支えだった。大赦のためといいより、小説の続きを読むために生きるんだって思ってた頃もあった」

 

「マジか」

 

「でも今はそんな過去に引きずられてる時間は無い。俺は俺の戦う意味を見つける」

 

 

 

「よいしょっと」

 

 惣一は荷物をまとめたリュックを背負い、nacscitaのドア付近に『しばらく休業します』と看板を立てかけた。

 

「ちょちょ、マスター!どこ行くんだよ!」

 

「戦兎、お前の過去を否定しない姿勢でようやく決心したよ。俺も俺の過去を受け入れる。葛城巧の全てを」

 

「マスター……」

 

「いい年した大人が今更何言ってんだってなるけどな。じゃ、戸締りよろしく」

 

 最後にチャオと言って惣一はnascitaを後にした―――

 

 

 

 

「こんな看板無くても客来ないと思うけど」

 

 

 

 

「だっ、だよねぇ~!さっすが戦兎!」

 

「冗談だよ。あんたがいない間も、あんたが帰ってくる家は俺たちが守ってみせる

 

 

 それで、結局どこいくの」

 

 

 

 

 

 

 

「帰省する」

 


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